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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 本件は,被告(One-Blue,LLC。ブルーレイディスク製品(BD)に関する標準必須特許のパテントプールを管理・運営するアメリカ合衆国の法人)が,原告(イメーション株式会社。米国法人3M社から分離独立して設立されたImation Corporationを中心とするグループ(イメーショングループ)に属する日本法人。「TDK Life on Record」ブランドのBDを販売。)の取引先の小売店3社(エディオン,ヤマダ電機,上新電機)に対し,平成25年6月4日付けで,被告の管理する特許権に係るライセンスを受けていないBDの販売は特許権侵害を構成し,特許権者は差止請求権を有する旨の通知書を送付した(本件通知書,本件告知)したことから,原告が,被告に対し,(1)本件告知は,不正競争防止法2条1項14号の虚偽の事実の告知又は私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律19条の不公正な取引方法に該当すると主張して,不競法3条1項又は独禁法24条に基づき,告知・流布行為の差止めを求める(本件請求(1))とともに,(2)本件告知は,不競法2条1項14号の虚偽の事実の告知に該当し,又は原告の法律上保護されるべき営業上の利益を違法に侵害するものであると主張して,不競法4条又は民法709条に基づき,損害賠償金1億1000万円(本件告知による損害1億円と弁護士費用1000万円の合計)及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成25年10月17日から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める(本件請求(2))事案です。

 これに対して,東京地裁民事29部(嶋末さんの合議体ですね。)は,原告の請求の一部(特に本件請求(1)の方)を認容しました。要するに,虚偽の事実の告知はあったということですね。

 まあよくある,特許権侵害での告知が,不競法2条1項14号にあたるパターンのやつではあるのですが,注目すべきは,いかなる理由で,特許権侵害が否定などされた場合に,信用毀損行為に当たるかという点です。

2 問題点
 特許権侵害の場合,相手方の取引先に訴訟提起や権利侵害の事実を告知することってあります。でも,それが,「虚偽の事実」告知ならば,不正競争行為に当たるというわけです。

 ついこの間も,大阪地裁の事例を取り上げました。この事例の場合,そもそもイ号に当たるものの取引がなかったわけで,要件事実的に行くと,構成要件充足性の話の前の「実施」の部分で切られたってやつです。

 ま,兎も角も,客観的には特許権侵害ではなかったということになり,「虚偽の事実」になったわけです。

 これ以外で,客観的には特許権侵害にはならない場合としては,構成要件充足性がなかった場合,さらに,抗弁のうち,無効の抗弁が認められて特許権侵害にならなかった場合なども考えられます。

 で,それ以外には何かありますの?っていうのは問題です。
 特許権侵害の抗弁ってそんなに多くないです。でも,最近何か加わりませんでしたか?そう,あれです。
 FRAND宣言による権利濫用の抗弁ってやつがありましたね。知財高裁の大合議まで行って,日本版アミカスブリーフだとか何とかで,裁判所のおぼえめでたくしたい弁護士連中がわんさか集ったっていうしょうもない事件です。

 で,この事件によると,FRAND宣言による特許に関して,差止請求をした場合,権利行使できない場合もあるということになったわけです(「FRAND宣言の目的,趣旨に照らし,同宣言をした特許権者は,FRAND条件によるライセンス契約を締結する意思のある者に対しては,差止請求権を行使することができないという制約を受けると解すべきである」という判示あり。)。

 ただ,とは言え,この大合議の事件,本案については,あくまでも損害賠償請求権の不存在であることに注意すべきですね。つまり,上記の判示はあくまでも傍論です。聞いていないことにに答えただけであって,先例性のあるレイシオ・デシデンダイにはならないものです。

 で,本件に戻りますが,特許権者というかその委任等を受けたパテントプール側が,BDの必須特許に基づいて,小売業者に権利行使というか警告書を打ったのですね(「被告は,被告プール特許権者からの委託に基づき,原告の取引先であるエディオン,ヤマダ電機及び上新電機の小売店3社に対し,平成25年6月4日付けで,被告の管理する特許権に係るライセンスを受けていないBDの販売は特許侵害を構成し,特許権者は差止請求権及び損害賠償請求権を有する旨の本件通知書を送付した。」)。
 他方,原告は,パテントプール側に,「公正で合理的」な実施料を支払う意思はあると言い続けていたようです。
 この原告とパテントプール側との交渉過程は重要なのですが,ポイントしては,パテントプール側は,うちはFRANDでやってまっせ,大丈夫でっせ,と言うだけで,何故そう言えるかという資料的なものを出さなかったようなのですね。そして,FRAND条件ならもっと低い料率のはずだという原告と,これで契約しろというパテントプール側とでの,よくあるデッドロックに乗り上げたあげく,パテントプール側が小売業者に警告書を発してしまったと思われます。

 さて,そんなこんなで判決を見てみましょうかね。

3 判示
「(4) 「虚偽の事実」について
ア 本件告知は,「上記特許権の各特許権者は,貴社に対し,上記特許権侵害行為の差止めを請求する権利及び上記特許権侵害行為によって生じた損害の賠償をする請求する権利を有しております。」と記載しているところ(甲4),原告は,FRAND宣言を行った被告プール特許権者による差止請求権の行使は権利濫用となり,被告プール特許権者が即時の差止請求権を有しているとはいえないのに,これを有しているかのように記載したことは虚偽の事実の告知に該当する,と主張する。
イ そこで,まず,FRAND宣言と差止請求権の行使の関係について検討するに,FRAND宣言された必須特許(以下「必須宣言特許」という。)に基づく差止請求権の行使を無限定に許すことは,次に見るとおり,当該規格に準拠しようとする者の信頼を害するとともに特許発明に対する過度の保護となり,特許発明に係る技術の社会における幅広い利用をためらわせるなどの弊害を招き,特許法の目的である「産業の発達」(同法1条)を阻害するおそれがあり合理性を欠くものといえる。
 すなわち,ある者が,標準規格へ準拠した製品の製造,販売等を試みる場合,当該規格を定めた標準化団体の知的財産権の取扱基準を参酌して,当該取扱基準が,必須特許についてFRAND宣言する義務を会員に課している等,将来,必須特許についてFRAND条件によるライセンスが受けられる条件が整っていることを確認した上で,投資をし,標準規格に準拠した製品等の製造・販売を行う。仮に,後に必須宣言特許に基づく差止請求を許容することがあれば,FRAND条件によるライセンスが受けられるものと信頼して当該標準規格に準拠した製品の製造・販売を企図し,投資等をした者の合理的な信頼を損なうことになる。必須宣言特許の保有者は,当該標準規格の利用者に当該必須宣言特許が利用されることを前提として,自らの意思で,FRAND条件でのライセンスを行う旨の宣言をしていること,標準規格の一部となることで幅広い潜在的なライセンシーを獲得できることからすると,必須宣言特許の保有者がFRAND条件での対価を得られる限り,差止請求権行使を通じた独占状態の維持を保護する必要性は高くない。そうすると,このような状況の下で,FRAND条件によるライセンスを受ける意思を有する者に対し,必須宣言特許による差止請求権の行使を許すことは,必須宣言特許の保有者に過度の保護を与えることになり,特許発明に係る技術の幅広い利用を抑制させ,特許法の目的である「産業の発達」(同法1条)を阻害することになる。
そうすると,必須宣言特許についてFRAND条件によるライセンスを受ける意思を有する者に対し,FRAND宣言をしている者による特許権に基づく差止請求権の行使を許すことは,相当ではない。
 他面において,標準規格に準拠した製品を製造,販売する者が,FRAND条件によるライセンスを受ける意思を有しない場合には,かかる者に対する差止めは許されると解すべきである。FRAND条件でのライセンスを受ける意思を有しない者は,FRAND宣言を信頼して当該標準規格への準拠を行っているわけではないし,このような者に対してまで差止請求権を制限する場合には,特許権者の保護に欠けることになるからである。もっとも,差止請求を許容することには,前記のとおりの弊害が存することに照らすならば,FRAND条件によるライセンスを受ける意思を有しないとの認定は厳格にされるべきである。
 以上を総合すれば,FRAND宣言をしている特許権者による差止請求権の行使については,相手方において,特許権者が本件FRAND宣言をしたことに加えて,相手方がFRAND条件によるライセンスを受ける意思を有する者であることの主張立証に成功した場合には,権利の濫用(民法1条3項)に当たり許されないと解される(以上につき,知財高裁平成26年5月16日決定・判時2224号89頁[乙21大合議決定])。
ウ これを本件についてみると,被告プール特許権者は,被告パテントプールに属する本件特許権につきFRAND宣言をしているのであるから,FRAND条件によるライセンスを受ける意思のある者に対して差止請求権を行使することは権利の濫用として許されない。
 そして,原告がFRAND条件によりライセンスを受けた場合には,原告が適法に製造又は輸入した原告製品を小売店が販売することも適法となるのであるから,原告がFRAND条件によるライセンスを受ける意思があると認められる場合には,被告プール特許権者が,原告の製造又は輸入した原告製品を販売する小売店に対し差止請求権を行使することは,権利の濫用となるものと解するのが相当である。・・・・・
 上記に鑑みると,原告ないし米イメーション社は,被告ないしOne-Blue Japan株式会社に対し,FRAND条件によるライセンスを受ける意思があることを示してライセンス交渉を行っていたものと認められ,原告が米イメーション社を中心とするイメーショングループに属する日本法人であること(前記前提となる事実(1)),前記のとおり,FRAND条件によるライセンスを受ける意思を有しないとの認定は厳格にされるべきことにも照らすと,原告はFRAND条件によるライセンスを受ける意思を有する者であると認めるのが相当である。
 この点,原告ないし米イメーション社と被告との間には,妥当とする実施料について大きな意見の隔絶が存在する。
 しかし,ライセンサーとライセンシーとなろうとする者とは本来的に利害が対立する立場にあることや,何がFRAND条件での実施料であるかについて一義的な基準が存するものではなく,個々の特許の標準規格への必須性や重要性等については様々な評価が可能であって,それによって妥当と解される実施料も変わり得ることからすれば,原告ないし米イメーション社の交渉態度も一定程度の合理性を有するものと評価できる。加えて,被告の交渉態度も,必ずしも原告ないし米イメーション社との間でのライセンス契約の締結を促進するものではなかったと評価できることからすると,両社間に大きな意見の隔絶が長期間にわたって存在したとしても,原告においてFRAND条件でのライセンス契約を締結する意思を有するとの認定が直ちに妨げられるものではない。
オ 上記のとおり,本件告知の時点では,原告はFRAND条件によるライセンスを受ける意思を有していたと認められるから,被告提示実施料がFRAND条件に違反するものであったか否かにかかわらず,被告プール特許権者が原告やその顧客である小売店に対し差止請求権を行使することは,権利の濫用として許されない状況にあったと認められる。
 そして,上記のように,差止請求権の行使が権利の濫用として許されない場合に,差止請求権があるかのように告知することは,「虚偽の事実」を告知したものというべきである。
 このように解することは,平成16年法律第120号により特許法104条の3が追加される前は,無効事由を有する特許権の行使は権利の濫用とされていたところ(最高裁平成12年4月11日第三小法廷判決・民集54巻4号1368頁[キルビー事件]),そのような特許権に基づく特許権侵害警告は「虚偽の事実」の告知と解されていたこと(東京地裁平成16年3月31日判決・判時1860号119頁等参照)とも整合する。」

4 検討
 上記のことをまとめると以下のとおりになると思われます。

 「虚偽の事実」に当たる場合
→差止請求権の行使が権利の濫用として許されない場合
→特許権者が本件FRAND宣言をしたこと+相手方がFRAND条件によるライセンスを受ける意思を有する者であること

 ということでしょうかね。つまりは,「虚偽の事実」に当たる場合のパターンが,また1つ増えたということになるでしょう。

 ま,必須標準特許って,このBDとか,通信規格とか,基本そういうものに限られると思います。要するに,規格を統一した方が,多くの人の便利に資するような技術分野ですね。

 そういうような特許の場合,通常FRAND宣言しているでしょうから,「虚偽の事実」の告知になってしまうことも今後あり得ることになったわけです。でも,そうじゃない技術分野や,そうである技術分野でも必須標準特許になっていない特許では関係のない話です。

 ですので,この話~あんまり大きな展開を求めてもしょうがないと思いますけどね~どっかの誰かさんへ。ムフフフ。

 ま,兎も角も,本件,事例としては,結構面白いものですので,今後たくさん評釈等もされるのではないかと思います。
 あ,あそうそう,独禁法関係の判断はしていませんし,お金の請求は棄却されていますのでね(この判断も結構重要。)。
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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