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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,原告(自然人)が,被告(アイリスオーヤマ)の本件商標(登録第4595453号,「エコルクス」で標準文字,第11類「電球類及び照明器具」が指定商品)に係る登録商標のうち,指定商品「LEDランプ」に係る商標登録について,不使用を理由とする当該登録の取消しを求める原告の本件審判請求が成り立たないとした特許庁の不成立審決(その理由は,被告が本件審判の請求の登録前3年以内に,日本国内において,本件商品の包装に本件商標を付する行為を行ったから)には,取消事由があると主張して,その取消しを求める事案です。

 これに対して,知財高裁4部(滝澤さんの部ですね。)は,審決を取り消しました。要するに,使用していなかった!というわけです。

 なお,同日で,英字の商標についても同じ理由で取消の判決がありましたが,今回は,日本語商標のこちらを取り上げました。

 よくある商標の不使用取消の審取訴訟のようですが,ここで取り上げたのは,事実認定上ぎりぎりアウトだったからです。

2 問題点
 商標は,知的財産権の一つではありますが,選択物であり創作物ではないと言われております。したがい,これを理解するには,特許や著作権とは違った頭の使い方が必要です。

 例えば,特許の場合,拒絶査定を受けたので,全く同じ発明をもう一度出願して,再トライしてみようということはできません。通常,既に出願公開され公知になっておりますので,再出願は新規性なし,ということになるわけです。他方,これが商標ならば,できます。特に識別性なしなどで拒絶査定を受けた場合,使用によって識別性が高まるのを待って再出願するなどはよくあります。また,類似の商標があるからという理由で,拒絶査定をくらっても,その類似の商標権を買い取って,再出願することまであります。

 これは,上記のとおり,商標が創作物ではなく,使用によって信用などが化体して財産的価値が発生したからこそ,保護しようという趣旨に基づくものです。もっとも,日本は使用自体を商標登録の要件とはしておりませんので,取りあえず使う予定~でも登録できるのですが,上記の趣旨を守るため,不使用商標を後々削除できるように,不使用取消審判(商標法50条)を用意しているわけです。

3 判旨
事実認定
「前記外部会社の担当者は,平成21年4月8日,被告の担当者に対し,電子メールの添付ファイルで本件商品の包装用容器のパッケージデザインの案を送付したが,そこには,本件商標と社会通念上同一と認められる標章が付されていた(甲15,16,29)。
上記外部会社の担当者は,その後,被告の担当者からの電話による要望を受けて,同月10日,被告の担当者に対し,改めて上記の案に修正を加えた本件商品の包装用容器のパッケージデザインを,やはり電子メールの添付ファイルにて送付したが,当該パッケージデザインにも,本件商標と社会通念上同一と認められる標章が付されていた(本件容器。甲17~19,29)。
(3) 原告は,平成21年4月14日,本件審判を請求し,当該請求は,同月30日(本件請求登録日)に登録された(乙2,3)。
(4) 他方,被告は,かねてより小売店に対して自社製品の広告や新商品の紹介等をする目的で,「アイリスインフォメーション」と題する情報誌を毎月2回刊行し,各地の小売店に送付していたが,平成21年4月2日,同年5月5日付けの「アイリスインフォメーション」371号(本件情報誌。甲22,乙12)の編集を開始し,同年4月30日,印刷業者から製本された本件情報誌の納品を受けた。本件情報誌の表紙の裏面には,「2009年夏の商談会のご案内」と題して同年5月26日ないし29日に被告の新商品等を小売店に説明する催しについての記載があり,その中には,被告が販売予定の家電用品として,本件容器のうちのある1面の前記パッケージデザインが2通り印刷されていた(甲22,乙12~16,19~21,37,38)。
そして,被告は,集荷店「仙台南」にて,同年4月30日午後9時27分,本件情報誌26部を,同日午後10時11分及び18分,本件情報誌合計155部を,それぞれ運送業者のトラックに積み込んで発送した。これらのうち,上記本件情報誌26部は,同年5月1日午後1時,宇都宮市内の小売店である株式会社カンセキに,上記本件情報誌合計155部は,同日午後3時41分,愛知県刈谷市所在の小売店である株式会社カーマに,それぞれ配達された(乙22~26,37,38)。」

判断1「商標法2条3項1号所定の「商品の包装に標章を付する行為」とは,同号に並列して掲げられている「商品に標章を付する行為」と同視できる態様のもの,すなわち,指定商品を現実に包装したものに標章を付し又は標章を付した包装用紙等で指定商品を現実に包装するなどの行為をいい,指定商品を包装していない単なる包装紙等に標章を付する行為又は単に標章の電子データを作成若しくは保持する行為は,商標法2条3項1号所定の「商品の包装に標章を付する行為」に当たらないものと解するのが相当である。

これを本件についてみると,前記認定のとおり,被告は,本件請求登録日以前から,本件容器に本件商標を付して販売するための準備を進めていたところ,被告が平成21年4月10日に外部会社から受領したものは,本件容器のパッケージデザインの電子データであるにすぎない。したがって,被告が上記電子データを受領し,これを保持することになったからといって,これをもって商標法2条3項1号所定の「商品の包装に標章を付する行為」ということはできない。」

判断2「商標法2条3項8号所定の標章を付した広告等の「頒布」とは,同号に並列して掲げられている「展示」及び「電磁的方法により提供する行為」と同視できる態様のもの,すなわち,標章を付した広告等が一般公衆による閲覧可能な状態に置かれることをいい,標章を付した広告等が一般公衆による閲覧可能な状態に置かれていない場合には,商標法2条3項8号所定の標章を付した広告の「頒布」に当たらないものと解するのが相当である。

 これを本件についてみると,前記認定のとおり,本件容器の写真が広告として掲載された本件情報誌が小売店に配達され,もって一般公衆による閲覧可能な状態に置かれたのは,平成21年5月1日である。したがって,被告が本件容器の広告写真が掲載された本件情報誌を頒布したのは,同日(平成21年5月1日)であるというべきであって,被告が前日(平成21年4月30日)に発送を行ったからといって,当該発送行為をもって本件商標を付した広告等の頒布に該当するとはいえない。そして,我が国において本件商標を付した広告等が本件請求登録日よりも前に,被告により頒布されたと認めるに足りる証拠は存在しない。したがって,被告は,本件商標について,本件請求登録日よりも前の3年以内に我が国において商標法2条3項8号所定の本件商品に関する広告の「頒布」がされた事実を証明していないというほかない。」

4 検討
 条文に注意です。
 商標法50条の場合,防御側の商標権者としては,使用の事実を証明しなければいけないのですが,それは,同法2項で「その審判の請求の登録前三年以内に」であれば足りるのです。

 本件では,審判請求の登録がH21.4.30でした。ですので,これ以前に使用していれば良かったのですが,特に後半の判断2の「頒布」は惜しかったですね。1日違いです。この条文の解釈が1日違いで大きな効果の違いですから,最高裁の上告でも良いかもしれませんね。

 ということで,法曹の方は,ピンと来ませんか?一般公衆に閲覧可能に置かれたときが頒布,ならば,一般国民の知りうべき状態に置かれたときが公布なのだという,憲法の論点がありましたね~。最高裁昭和33年10月14日の大法廷判決です。ということからすると,この知財高裁の判決は,伝統的な最高裁の射程範囲内であることがわかり,これを変えるには一苦労だということがわかりますね。

 もちろん国法の公布と広告の頒布は違う趣旨のものであるから・・・といって戦えなくもないとは思いますが,???ですね。

 さて,エコルクスをググったところ,今回の被告の名前しか上がりません。したがい,この取消が確定したとしても,被告以外商標法4条1項10号で登録できませんから,実害はないとも言えます。押っ取り刀で,上記のとおり,再出願をした方が最高裁よりも早いでしょうね。
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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