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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 本件は,原告が,被告のレンタルサーバに記録されたウェブページによって権利(商標権,第5048849号,標章「+PLUS」,指定役務第35類「広告,経営の診断又は経営に関する助言,市場調査,商品の販売に関する情報の提供,ホテルの事業の管理」,不競法2条1項2号,不競法2条1項2号)を侵害されたと主張して,被告に対し,プロバイダ責任制限法4条1項に基づき,被告のレンタルサーバに上記ウェブページの情報を記録した者について,被告が保有する発信者情報の開示を求める事案です。

 これに対して,東京地裁47部(高野さんの合議体です。と言ってもよく知りませんが。)は,原告の請求を認め,「被告は,原告に対し,別紙発信者情報目録記載の情報を開示せよ。」としました。

 おお,知財の事件にも関わらず,弁理士にはあまり縁のない事件の類型ですね。
 発信者情報開示請求の事件です。

2 発信者情報開示請求とは,上記のとおり,プロバイダ責任制限法に基づいてやるものです。
 プロバイダ責任制限法4条1項は,以下のとおりです。

特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は、次の各号のいずれにも該当するときに限り、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者(以下「開示関係役務提供者」という。)に対し、当該開示関係役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る発信者情報(氏名、住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるものをいう。以下同じ。)の開示を請求することができる。
一  侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき。
二  当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき。

 このブログでも何度か取り上げました。実際,どういう風にやるのかは,こちらを見てください。ポイントは,上記の1号のとおり,権利侵害の明白性です(本件でもそこが論点です。)。

 ところで,発信者情報開示請求というので,商標権が問題になるというのは非常に珍しいですね。
 私が知っているのは,東京地裁平成17年(ワ)第24370号です。これは,確か知財協発行の「知財管理」に論文が載っていたと思うなあ。

 いや,何故商標権が問題になるのが珍しいかというと,商標権侵害が問題になるというのは,ニセブランド品かパロディ品で,しかも商売としてやる場合が殆どだからですね。そうすると,それらの商品を売っている方としては,なかなか匿名等で売ることはできないというわけです(入金できない!)。
 匿名でやってもいいけれど,それじゃあ単なる愉快犯みたいなものですからね。ですので,普通は,誰が売ったか特定でき,さらに,その場を提供した通販サイトを幇助等でどうしようかが問題になるだけです。典型例がこちらです。

 にも関わらず,今回プロバイダ責任制限法を使って発信者情報の開示を求めないとわからないというのは,特殊な例です。
 本件では,「「会社概要」との見出しの下に,「株式会社インパクト」として,設立,資本金,業務内容,住所が記載され(なお,ここに記載されている会社は実在しない。)」というような事情もあり,匿名であっても商売の目的(人材派遣)を達成できるような態様だったようですね。
 この点について,先例の平成17年のものも,「パチンコに関する「打ち子募集・攻略情報提供」」の商売だったようで,何だか商売のやり方も似たような感じがします。物を売る商売と違って,あしがつきにくいのでしょうかね。

3 判旨
 「本件各標章の要部は,「PLUS」あるいは「Plus」の部分であって,本件各標章は周知の原告商品等表示に類似するから(このことは,被告も認めるところである。),本件ウェブページ上でその営業を表示するものとして本件各標章を使用する行為は,不競法2条1項1号に該当し,原告の営業と混同を生じさせるものということができる。そして,本件において,特段の事情があることは窺えないから,本件ウェブページ上で本件各標章を使用する行為によって原告の営業上の利益が侵害されたものと認められる。
(4) 被告のレンタルサーバは,インターネット上で不特定の者に対する送信をするのであるから,本件ウェブページに掲載された情報の流通によって原告の権利が侵害されたことは明らかである。」

4 検討
 権利侵害の明白性は,商標権ではなく,不競法2条1項1号の周知表示の方で,認められております。
 本件の結論は,これでよいとしても,私のように,発信者情報開示請求をよくやる弁護士からすると,何か足りないのではないか?と思うことがあります。

 というのは,立法者の条文解説「改訂版 プロバイダ責任制限法」の4条1項のコンメンタール部にはこう書かれております。
 「「明らか」とは,権利の侵害がなされたことが明白であるという趣旨であり,不法行為等の成立を阻却する事由の存在をうかがわせるような事情が存在しないことまでも意味する。」とあります。
 また,下級審ですが,東京地裁平成17年8月29日は,「権利侵害に係る客観的事実のほか,上記の①ないし③までの違法性阻却事由のうち,いずれかが欠けており,違法性阻却が成立しないことをも主張,立証する必要があると解するのが相当である。」と判示しました。
 つまり,通常,違法性阻却事由がないことの主張・立証まで含めて「明白性」なのです(そんなの悪魔の証明じゃないかと思うのですが,上記のとおりなのですね。バカバカしい。)。

 ですので,権利が名誉等の場合,刑法230条の2の要件を満たさないことの主張・立証までさせられますよね(名誉権の場合,違法性阻却事由は,民事も刑事もほぼ一緒ですので。),諸先生方~♫
 ところが,今回上記のとおり,不競法上の違法性阻却事由(例えば,今回の場合だと,不競法19条1項1号,2号,3号があります。)について,主張・立証させられたような形跡はありません!

 いやあ知的財産と表現の自由に関わる名誉権とは扱いが違うのだよ~と言われるかもしれません。
 確かに権利が商標の場合,その意見には理があります。
 というのは,工業所有権の場合,特許庁の審査を経ておりますので,事実上,権利に無効事由(違法性阻却事由と同じですね。)がないものとして扱われます。法上も,損害賠償に関するものですが(差し止めにはそもそも故意・過失不要。),過失の推定規定(特許法103条,商標法39条)があるくらいですからね。

 でも,今回不競法なのです。不競法には,過失の推定規定はありません!逆に,上記のとおり,適用除外という違法性阻却事由がたくさんあるのです。例えば,侵害者の方が実は周知になる前から標章を使っていたのかもしれないじゃないですか~。とすれば,名誉権と同様,違法性阻却事由がないことまでも,主張・立証させなければいけなかったのじゃないですかね。

 さらにさらに,プロバイダ責任制限法は,「自己の権利」「当該権利」「権利」とあり,「法律上保護される利益」を含んでおりません。
 他方,不競法の立て付けをご存知の方はわかるでしょうが,不競法は不法行為法の特別法で,権利を設定して保護するというものではありません。つまり,不競法で保護される利益が,プロバイダ責任制限法でいう「権利」かどうか明白ではないのです。むしろ,字面からは,不競法と不法行為の条文の違い等を鑑みると,プロバイダ責任制限法でいう「権利」に含まれない可能性が大きいとも思われるわけです。

 ですので,今回の判決は,原告からきちんと商標権の主張があるのに,裁判所は何故か不競法を選んでおり,そのため,ガタガタになっているという感じがします。
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