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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,原告が,双日ジーエムシー株式会社(双日GMC)の請求した本件各商標登録の取消審判に係る各審判手続(審判手続)及び同審判についてされた各不成立審決の取消訴訟に係る訴訟手続(審決取消訴訟手続)に関し,原告の有する商標権の独占的通常使用権者であった被告に対し,①被告は,本件ライセンス契約に基づき,被告の費用と責任において,必要に応じて原告から委任状を取得するなどして弁護士を選任し,審判手続及び審決取消訴訟手続において防御させるべき義務を負っていたが,同義務を怠ったために原告に弁護士費用相当額の損害を与えた,②被告は,本件ライセンス契約に基づき,原告が審判手続及び審決取消訴訟手続において支出した弁護士費用を補償する義務を負う,③被告は,本件ライセンス契約に基づき,審判手続に利害関係人として参加し,また,審決取消訴訟手続に補助参加人として参加すべき義務を負っていたが,同義務を怠ったために原告に弁護士費用相当額の損害を与えた,と主張して,債務不履行を原因とする損害賠償請求権(民法415条。上記①又は③)に基づき,又は本件ライセンス契約の定める補償義務履行請求権に基づき(上記②),損害賠償金又は求償金1962万8682円(原告が支払った弁護士費用相当額)及びうち1883万4725円に対する請求後の日(内容証明郵便到達の日の翌日)である平成27年8月25日から,うち79万3957円に対する請求後の日(訴状送達の日の翌日)である平成28年2月13日から,各支払済みまでの商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案です。

 これに対して,東京地裁民事29部(嶋末さんの合議体ですね。)は,請求をすべて棄却したものです(つまりは理由なし)。

 ま,このブログでは面白判決しか紹介しないのが原則なのですが,これはちょっと違います。
 強いて言えば,関連事件をここで書きましたので,その続きということでしょうか。
 さらに言えば,踏んだり蹴ったりだなあこりゃ~(その意味では面白判決かも)という所もあったからです。

2 問題点
 問題点は,このIBEXとチヨダ間の契約について,チヨダに債務不履行等が見られるか?ということになります。

 とは言え,関連事件の経緯が重要です。

 詳細には,私の前のブログの記事を見てもらうと良いのですが,掻い摘みます。

 IBEXとチヨダ間の契約では,IBEXに商標権のあるサンダルについてライセンスを付与されたと思われます(スニーカーの商標権はもっていません。)。それ故,チヨダの自社製品はサンダルだったのです。
 しかし,そのサンダルは,商標権のないスニーカーに似ていた!(そういうサンダルがが流行った時期がありましたよね。)

 そのため,スニーカーの商標権者である双日GMCが怒って,ライセンシーによる変な商標の使用だから取り消しじゃ!と取消審判を提起し,そこではIBEXは勝ったのですが,結局審決取消訴訟でIBEXは負けてしまいました。
 ほんで,結局IBEXの商標は取消の憂き目に遭ったわけです。

 つまり,ライセンシーが変なことをやって商標が取消されたので,その落とし前をどうつけんじゃ!というのが本件なわけです。

 普通に考えれば,ライセンサーたるIBEXは被害者と言えるわけです。

 ですが,上記のとおりの結論です~。なんでかなあ~。

3 判旨
「1 争点1(被告は,本件ライセンス契約に基づき,被告の費用と責任において,必要に応じて原告から委任状を取得するなどして弁護士を選任し,審判手続及び審決取消訴訟手続において防御させるべき義務を負っていたか)について
(1) 原告は,双日GMCによる本件各審判請求及びこれに引き続く本件審決取消訴訟の提起は,本件契約書7条2項にいう「甲(判決注:被告)の販売方法に起因してクレームを受けた」場合に当たるから,被告は,本件ライセンス契約に基づき,これらをすべて被告の責任と負担において解決すべき義務,具体的には,被告の費用と責任をもって弁護士を選任し,必要に応じて原告から同弁護士宛の委任状を取得して,審判手続及び審決取消訴訟手続において防御させる義務を負っていたと主張する。
(2) 双日GMCが行った本件各審判請求は,商標法53条1項に基づくものであるところ,同条項に基づく審判請求が可能となるのは,法文上,「専用使用権者又は通常使用権者が指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務についての登録商標又はこれに類似する商標の使用であって商品の品質若しくは役務の質の誤認又は他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるものをしたとき」(判決注:下線を付した。)である。
 しかるところ,本件契約書7条は,1項において,「本契約に基づく本件商標の使用に関し,第三者よりクレームまたは訴訟の提起を受けた場合,あるいは第三者による本件商標の侵害行為を発見した場合,甲乙丙は直ちにその旨をそれぞれに連絡し,当該クレームまたは訴訟に対する防御あるいは第三者による侵害行為の排除を共同して行うものとし,これに要した費用負担については,甲乙丙が協議の上定めるものとする。」(判決注:下線を付した。)と規定しているのであるから,双日GMCが行った本件各審判請求及びこれに引き続く本件審決取消訴訟については,「本契約に基づく本件商標の使用に関し,第三者よりクレームまたは訴訟の提起を受けた場合」に当たる(少なくともこれに準ずる)ものとして,本件契約書7条1項が適用されるものと解するのが相当である。
(3) これに対し,原告は,本件契約書7条2項の文言上,クレームをする者が一般消費者であるか,クレームを受けた者が被告であるかなどについて限定はないから,同クレームが被告の販売方法に起因したものであれば,本件契約書7条2項が適用されるべきであって,双日GMCによる本件各審判請求は,被告の販売方法に起因するクレームであるから,同条項が適用されるべき旨主張する。
 そこで検討するに,本件契約書7条は,まず1項において,「本契約に基づく本件商標の使用に関し,第三者よりクレームまたは訴訟の提起を受けた場合,あるいは第三者による本件商標の侵害行為を発見した場合,甲乙丙は直ちにその旨をそれぞれに連絡し,当該クレームまたは訴訟に対する防御あるいは第三者による侵害行為の排除を共同して行うものとし,これに要した費用負担については,甲乙丙が協議の上定めるものとする。」と規定し,商標の使用に関して生じた紛争については,原則として1項により規律されるべき旨を明らかにしている。ここで,本件ライセンス契約上,被告は,原告から許諾を受けて本件各商標を使用する(本件各商標の付された指定商品を販売する)立場にあるから,1項にいう「本契約に基づく商標の使用」の主体が被告となることは,本件ライセンス契約が当然に想定していることである。もっとも,商標の使用といっても,当該商標が使用された商品の品質に欠陥があり,又は商品を販売する際の販売方法に問題があって,このために顧客等に損害を及ぼすなどしたというような紛争が発生した場合には,かかる紛争は,形式的には商標の使用行為によって生じたものではあるが,実質的には商標に関する紛争とはいい難く,当然に,商品を実際に製造し,又は販売した者(被告)が責任を負担してしかるべき性質のものということができる。本件契約書7条2項に「本件商標を付した指定商品の品質上の欠陥及び甲の販売方法に起因してクレームを受けた場合は,全て甲の責任と負担において処理解決をすることとする。」とあるのは,このような認識に立って,被告が販売する商品の品質に欠陥があり,又は商品を販売する際の販売方法に問題があったために顧客等から苦情を受けた場合など,実質的にみて商標に関する紛争とはいえない場合には,被告がその責任において同紛争を処理解決すべき旨を規定したものと解するのが相当である。双日GMCによる本件各審判請求は,原告の主張によっても,①被告商品が,双日GMC商品と酷似していること,②両商品において付された商標の位置や種類がほぼ同じであること,③両商品とも,被告の店舗において紛らわしい売り方をされていたことなどを理由にしてされたというのであり,上記③のように,「被告の販売方法」に着目してされた主張も存在するものの,本件各商標を付した被告商品の販売が,双日GMCの業務に係る商品(双日GMC商品)と混同を生ずるものであるかが問題とされているのであり,実質的に見て商標に関する紛争でないとはいい難い。むしろ,前記前提事実及び証拠(甲1,4,6)によれば,双日GMCの保有する関連各商標権は,平成20年10月29日に(分割前の)本件各商標権から指定商品を「履物(「サンダル靴,サンダルげた,スリッパを除く」)」とする商標権が分割移転されたものであり,関連商標1ないし同5と本件商標1ないし同5とは,それぞれ同一の商標であって,関連各商標登録の指定商品である「履物・・・但し,履物(サンダル靴,サンダルげた,スリッパを除く)を除く」と本件各商標登録の指定商品である「履物(「サンダル靴,サンダルげた,スリッパを除く」)」とは,形式的には重複しないものの,相互に類似する関係にあると認められるから,本件各審判請求は,商標に関する紛争そのものというべきであって,本件契約書7条1項にいう「本契約に基づく本件商標の使用に関し,第三者よりクレームまたは訴訟の提起を受けた場合」として,同項により規律されるべき性質のものというべきである。
 また,前記前提事実及び証拠(甲3,7,乙9)によれば,原告は,本件各審判請求を受けた後,双日GMCの審判請求の理由を認識した上で,本件覚書に調印し,本件各商標登録を取り消す旨の審決が確定したときは,既払ミニマムロイヤリティの一部を被告に返還することや,被告が販売することができなくなった在庫商品につき一定の補償をすることを約したことが認められ,他方,原告が,上記調印当時,被告に対し,審判手続への参加その他の協力を求めたり,原告が同手続のために支出し又は支出することとなる弁護士費用の負担を求めたりした形跡がないことからすれば,原告は,本件覚書を調印した平成25年10月1日当時,被告ではなく,本件各商標権の商標権者であって,本件各審判請求における被請求人である原告こそが,本件各商標権を維持できるよう努め,本件ライセンス契約に基づく被告の利益を擁護すべき立場にあった旨認識していたことは,明らかである。
 したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(4) 以上によれば,双日GMCによる本件各審判請求及び本件審決取消訴訟の提起について本件契約書7条2項が適用されることを前提として被告の債務不履行をいう原告の主張は,その前提を欠くものであって,理由がない。」

4 検討
 この事件の訴訟物と請求原因を見て,いやいやいや,変な商標の使用をしたのが被告なんだから,そこを正面からストレートに債務不履行で問えばいいんじゃないの!という感想を皆様持つと思います。

 私も最初は何でこんな弁護士費用の補償とか,そういう回りくどいことをしているのかと思いました。

 しかし,契約上こういう条項もあったようです。
第2条(指定商品に対する指示)
1.甲は,本件商標を付そうとする指定商品についての試作品を作成し,丙に確認を受け納品時に丙の指定する数量(品目,色ごとに2点づつ)の現物商品を提供する。
2.丙は,試作品に付き検討し,本件商標を付する商品として妥当と判断したときは,本件商標を付して甲が販売することを了承するものとする。
3.甲は,丙の提供する証紙を指定商品の全てに貼付することとする。
4.甲は「指定商品」を契約締結の日より起算して180日以内に販売するもの
とする。」(なお,株式会社チヨダ(以下「甲」という)と株式会社IBEX(以下「乙」という)と株式会社ボーンズ(以下「丙」という)です。)
 丙と乙の関係がよくわかりませんが,チヨダに並べられたスニーカー風サンダルはチヨダが勝手にやったのではないようです。

 また,こんな条項もあります。
第10条(損失補償)
1.乙は,本件商標が無効となったときは,遅滞なく甲及び丙に通知するものとする。
2.本件商標が無効になったとき,または前条の規定により本契約が解除されたとき乙及び丙は,甲より支払済みのミニマムロイヤリティ,ロイヤリティ,証紙代金を速やかに返還するものとする。
3.前項の返還をもって,甲はその他の損失補償を乙及び丙に請求しないものとする。
 結構,ライセンサーがバーゲニングパワーで弱かったのかなあと思える条項です。

 ま,要するに,チヨダがバーゲニングパワーで強かったために,契約でライセンシーの方にリスクを課すような条項を設定出来無かった,ということでしょう。
 なので,IBEXとしては,ライセンシーのやったことにもかかわらず,商標権は無くなるわ,応訴に応じざるを得ず,弁護士費用の負担はあるわで踏んだり蹴ったりになったわけです。

 とは言え,これは商標権の管理をやっている所やそこでの契約書をレビューする弁護士には実に勉強になる事例ではないでしょうか。
 商標制度は私益保護だけではなく,公益保護の面があります。なので,古くから商標権侵害罪が親告罪ではなかったという面があります(TPPのときに勘違いされた自称専門家も多いと思いますけどね。)。

 そのため,取消審判も様々のものが用意されており,特許には無い類型が結構あります。そうすると,特許のライセンス契約とパラレルに作ってしまうと,そういう商標ならではの制度に穴が出来るわけですね。

 勿論,知ってはいるものの,立場の強弱でどうしてもそんな規程を盛り込むことが出来ない!って場合もあります。私もどちらかと言うとそんな立場で起案したりレビューしたりすることが多いです(何せ弱小弁護士ですからね。)。

 ですが,もし立場的にそういう条項を盛り込むことが出来るのにもかかわらず,知らずに適当に特許の雛形を流用したり,ネットで探してきた雛形を流用したりしたらどうなるんでしょ?

 餅は餅屋ですよ(ステルスマーケティングですよ。)。


 あと,気になったのが,原告のIBEXが被告のチヨダに被せようとした弁護士費用ですが,「原告は,前記(4)の取消審判請求事件の手続(審判手続)及び上記(5)の審決取消訴訟事件の手続(審決取消訴訟手続)の弁護士費用(弁護士報酬及び経費を含む。以下同じ。)として,平成27年8月20日までに,***事務所から合計1962万8682円の請求を受け,平成28年2月1日までに,その全額を同事務所に支払った。」とのことです。

 審判5件,訴訟5件とは言え,いやあ良い値段ですわ。私もいつかこれくらいの弁護士報酬を請求してみたいですわ~本当。
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