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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,被告(IBEX)が商標権者である5件の商標について,原告(双日ジーエムシー)が,商標法53条1項に基づき,各商標登録の取消審判請求をしたところ,特許庁がいずれについても審判請求は成り立たないとの審決をしたことから,原告が各審決の取消しを求める事案です。

 これに対して,知財高裁1部(設樂さんの合議体ですね。)は,原告の請求を認め,審決を取消しました。つまり,被告のライセンシーに登録商標の濫用があったということですね。

 商標法53条の取消審判ですので,結構珍しいです。ただ,事案の経緯も結構珍しいですね。
 商標権は,ADMIRALという商標をめぐる紛争です。この標準文字の商標もあります。

 まあ私はよく知らなかったのですが,スポーツブランド,特にサッカー系で有名なイギリスのブランドらしいです。

 ですので,元々,商標権者はこの原被告とは別に居たのですね。
 最初は,スイスの法人「アドミラル スポーツウエア ライセンス アーゲー」が商標権を有し,その後→IBL社→IPGI社と移転されました。
 そして,ここからが重要なのですが,原告は,IPGI社から,5つの商標権について,「履物(「サンダル靴,サンダルげた,スリッパ」を除く)」を指定商品として,分割移転を受けました。

 他方,被告も,IPGI社から,上記のとおりの分割した残りの商標権の移転を受けたのです。

 つまり,原告も被告もADMIRAL商標の商標権者~ただ,一方は,指定商品が,「履物(「サンダル靴,サンダルげた,スリッパ」を除く)」で,他方は,「サンダル靴,サンダルげた,スリッパ」という凸と凹みたいな感じの商標権者なのですね。

 で,このような状況で,原告は,スニーカーに原告商標を付して,販売していたわけです。
 他方,被告は,株式会社チヨダ(靴の量販で有名なあのチヨダです。)に対し,指定商品であるサンダルについて本件商標の独占的通常使用許諾をし,チヨダはその商標を付して販売していたわけです。

 
 その原告商品が左で,右がチヨダの商品です。

 どうですか~結構似ていますよね。ちなみに,チヨダの商品は,これスニーカーっぽいですけど,スニーカーではなくサンダルとのことです。「クロッグサンダル」というタイプのサンダル(つま先側の部分は通常の運動靴と同様に覆われているが,踵側の立ち上がり部分が靴と異なって低くえぐれており,簡単につっかけて履くことができるような形状のもの。)というらしいです。

2 問題点
 以上のような状況の元,53条1項にいう「商品と混同を生ずるものをした」かどうかが問題となったわけです。

 まずは53条1項です。
専用使用権者又は通常使用権者が指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務についての登録商標又はこれに類似する商標の使用であつて商品の品質若しくは役務の質の誤認又は他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるものをしたときは、何人も、当該商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる。ただし、当該商標権者がその事実を知らなかつた場合において、相当の注意をしていたときは、この限りでない。

 ですので,ポイントが,「通常使用権者が・・・他人の業務に係る商品・・・と混同を生ずるものをした」かどうかなわけです。

 その前に条文上,重要なことがあります。53条は不正使用による商標取消の制度です。この不正使用による商標取消の類型は他に2つあります。
 まずは,51条の不正使用です。これは商標権者そのものの不正使用です。しかし,この51条は,所謂専用権(同一の範囲)は除外され,禁止権(類似の範囲)での使用のみがペナルティを課されます。当たり前ですよね。
 商標権者が自分の同一の権利範囲で使用していて,誰かに文句言われる筋合いはねえってわけです。

 つぎに,52条の2です。これは,1つの商標権が今回のように分割された場合です。これは,同一の範囲の使用でも請求されうるのですが,その代わり,「不正競争の目的」という要件が加重されております。
 これもそうじゃないと,分割当事者がお互いに請求しうることになり,いずれが○✕かがわからなくなりますので。

 最後に,本件のやつです。これは使用権者の不正使用ですので,禁止権での使用だけでなく,専用権での使用もペナルティを課されます。使用権者を監督できない商標権者が悪い!ってわけです。

 とは言え,通常は,不正使用された側っていうのは,不正使用したという側とは何の関係のない第三者であることが多いと思います。

 例えば,ンニ―という商標を取った人が,どこか胡散臭い業者に使用権を設定した所,その業者が,商標はンニ―であるにも関わらず,「ソニー」という書体を使っちゃった場合なんかが典型です。この場合,商標権者とソニーは普通は縁もゆかりもないですよね。

 他方,今回は,分割した商標権が,凸凹的に帰属し,他方から使用権を得た者が色々やったという所がポイントです。

 つまり,不正使用とは言え,分割した商標権に基づくものなのだから,52条の2のように,要件を加重する必要はないのだろうか?ということが問題になってくるわけです(53条は,条文上,不正競争の目的とか故意とかの要件はありません。客観的な混同のみが要件なのです。)。

3 判旨
「(1) 法53条1項は,商標権者から専用使用権又は通常使用権の設定を受けた者が,登録商標又はこれに類似する商標を,指定商品・役務又は類似商品・役務について使用した場合であって,その使用が,「他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるもの」であるときには,当該商標権者が,その事実を知らず,かつ,相当な注意をしていたときを除いて,当該商標登録を取り消すことができると規定している。同規定の趣旨は,専用使用権者又は通常使用権者といえども,登録商標の正当使用義務に違反して登録商標を使用した結果,他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるものをしたときは,そのような行為は,当該他人の権利を侵害し,一般公衆の利益を害するばかりでなく,商標権者の監督義務に違反するものであるから,何人もその商標登録を審判により取り消し得ることとしたものである。
 ところで,現行の商標法は,指定商品又は指定役務ごとに商標権の分割及び移転を認めており(法24条1項,24条の2第1項),分割に係る商標権の指定商品又は指定役務が,当該指定商品又は指定役務以外の他の指定商品又は指定役務と類似している場合であっても,商標権の分割・移転を制限していない(平成8年法律第68号による改正前の法24条1項ただし書は,同一商標について,類似関係にある商品・役務に係る商標権の分割移転を禁止していた。)。したがって,同一の商標について,類似する商品・役務を指定商品・役務とする商標権に分割され,それぞれが異なる商標権者に帰属することもあり得る。法52条の2は,このような商標権の分割・移転の場合において,商標権者について,「不正競争の目的で」他の商標権者,使用権者等の商品又は役務と混同を生ずるものをしたときは,何人もこのような商標登録の取消しの審判を請求することができる旨を定めたものである。そして,このような商標権の分割・移転の場合における使用権者による使用については,従来から存在している法53条1項の規定の適用に委ねられている。したがって,法53条1項は,このような商標権の分割・移転に係る商標の使用についても適用され得るが,このような場合には,各商標がもともと同一であるため,商標の同一性又は類似性及び商品・役務の類似性のみに起因して,一方の登録商標の使用によって,他方の商標権者と業務上の混同が生じる場合も予想される。
 しかし,商標法がこのような同一商標の類似商品・役務間での商標権の分割及び別々の商標権者への移転を許容するものである以上,使用された商標と他人の商標の同一性又は類似性及び商標に係る商品・役務の類似性のみをもって,法53条1項の「混同を生ずるものをした」に該当すると解することは相当ではない。また,このように解すると,類似関係にある商品・役務について分割された商標権の譲渡を別々に受け,それぞれの登録商標又はその類似商標を別々の使用権者に使用させた各商標権者は,法53条1項に基づき当然に相互に相手方の有する商標登録の取消しを請求することができることとなり,不当である(立法としては,上記のような商標権の分割・移転に関する法52条の2を法53条の特則としても位置づけ,商標権者だけでなく,使用権者にも,「不正競争の目的」を要求した方がより明確であったと解されるが,現行法の解釈としても,できる限り,これと同様の結果となるように解釈すべきである。)。
以上によれば,分割された同一の商標に係る二以上の商標権が別々の商標権者に帰属する場合に,一方の専用使用権者又は通常使用権者が,法53条1項における,「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるものをしたとき」に該当するというためには,法52条の2の規定の趣旨を類推し,使用商標と他人の商標の同一性又は類似性及び使用商品・役務と他人の業務に係る商品・役務の類似性をいうだけでは足りず,専用使用権者又は通常使用権者が,登録商標又はその類似商標の具体的な使用態様において,他人の商標との商標自体の同一性又は類似性及び指定商品・役務自体の類似性により通常生じ得る混同の範囲を超えて,社会通念上,登録商標の正当使用義務に反する行為と評価されるような態様,すなわち,不正競争の目的で他の商標権者等の業務に係る商品ないし役務と混同を生じさせる行為と評価されるような態様により,客観的に,他人の業務に係る商品・役務と具体的な混同のおそれを生じさせるものをしたことを要するというべきである。
(2) そこで,チヨダによる使用権者商標の具体的な使用態様が,引用商標と本件商標自体の同一性や,「サンダル等を除く履物」(具体的には,スニーカー)と,「サンダル」という原告商品と使用権者商品の種類自体の類似性により通常生じ得る混同の範囲を超えて,社会通念上,本件商標の正当使用義務に反する行為と評価されるような態様,すなわち,不正競争の目的で他の商標権者等の業務に係る商品ないし役務と混同を生じさせる行為と評価されるような態様により,客観的に,原告の業務に係る商品等と具体的な混同のおそれを生じさせるものといえるかどうかについて,検討する。・・・
ウ 上記イのとおり,使用権者商品は,原告商品と,商品の3箇所に商標を付しているという点で共通するのみならず,複数存在する本件ブランドに係る商標のうち,各箇所に使用された商標の種類も,商標を付す位置もほぼ同一の商標を,原告商品と酷似する形状・デザインの類似の種類の商品に付しているものである。このような使用権者商標の具体的な使用態様に加えて,使用権者商品(サンダル)の性質や使用権者商品が紹介されていた雑誌が原告の商品が紹介されていた雑誌と共通すること(前記1(3)ウ及び(4)ウ)からすれば,使用権者商品の需要者も原告商品と同じ20歳前後の若年層を含むと認められ,両商品は需要者及び取引者を共通にしていること,両商品は,大手靴量販店であるチヨダの店舗で同じ棚に並べられて販売されていたという取引の実情をも考慮すれば,チヨダによる使用権者商標の使用態様は,単に原告使用商標と同一又は類似する,及び「履物(サンダル等を除く。)」と「サンダル等」という商品の種類が類似すること自体により通常混同が生じうるという範囲を超えて,当時,需要者及び取引者の間において原告の販売する商品の表示として認識されていた原告使用商標の具体的な使用態様と酷似していたものというべきであり,そのような使用権者商標の使用により,取引者及び需要者に,使用権者商品も,「Admiral」商標に係るスニーカーを販売する者(原告)と同一の出所に係るものであるとの認識を生じさせる具体的な混同のおそれを生じさせたものといえる。
 以上によれば,チヨダによる使用権者商標の使用は,社会通念上,本件商標の正当使用義務に反する行為と評価されるような態様,すなわち,不正競争の目的で他の商標権者等の業務に係る商品ないし役務と混同を生じさせる行為と評価されるような態様により,客観的に,原告の業務に係る商品等と具体的な混同のおそれを生じさせたものということができ,法53条1項本文の「他人の業務に係る商品・・と混同を生ずるものをしたとき」に該当するというべきである。」

4 検討
 スニーカーと「クロッグサンダル」とは違うとは言え,チヨダのクロッグサンダルは,ほぼスニーカーと言ってもよい位似ているし,商標を付する位置も似ているのでダメだ~ってわけですね。

 まあ,こりゃ仕方がないですね~。上の写真を見ると,こりゃスニーカーの方にフリーライドしたかなあって感じがしますね。

 とは言え,条文にはない要件を課したことで,そりゃそうなんだけど,これからいちいち分割の商標権的なものなのか,そうじゃないにせよ要件を加重すべきものなのか,いやいや通常とおり,書かれざる要件など課す必要はないなどの検討をせねばならない~ってわけですかね~。そりゃ面倒くさいですなあ。

 ちなみに,これ,原告の方が,チヨダに対して,侵害訴訟を提起してもいけるのではないでしょうかね。使用権の抗弁等は成り立たないでしょう。
 ですので,むしろ今回の審決取消訴訟は,侵害訴訟等への地ならしなのではないかと思います。恐らく,チヨダは,和解等せざるを得ないって感じですね。

5 追伸
 そうそう,昨日の大阪の住民投票の話もしておきましょう。なんつっても,このブログ,政治も宗教もどんと来い~,つまりは,人の心がざわつくような所も,射程内ってわけです。

 個人的には橋下っちゃんのファンなので,実に残念な結果でした。ま,男の批判の9割は嫉妬ですから,橋下っちゃんを批判する人が多いのはよくわかります。弁護士でも多いですから,びっくりですな。

 まあ橋下っちゃんはそれとして,今回の結果で実に気になることがネットで話題になっておりました。
 それは横と縦です。

 まずは,横です。
朝日新聞のデジタル版にこんな記事がありました。
 「年代別にみると、とくに賛成した人が多かったのは20代(61%)と30代(65%)。40代(59%)、50代(54%)、60代(52%)も賛成が過半数を占めた。一方、70歳以上は反対が61%で賛成を上回った。」

 つまり,60代までは全ての年代で,賛成が上回っていたのです。ところが70歳以上の反対で,全てはおジャンってことです。各世代の人数がわかりませんが,この結果を見ると,70歳以上で投票した人は無茶苦茶多いってことがわかります。
 結局,各世代の意向とは関係なく,70歳以上の人達の意向で決まったと言えます。

 もしかすると,上記の地図による横の分布にしても,単に若い人が多い地域と年寄りの多い地域の分布に過ぎないのかもしれませんね。

 いやあ,しかし,このようなことだと非常に頭が痛いです。今回の住民投票も,あと10年,いや5年後にやれば,相当に違った結果になったのではないでしょうかね。

 まあこのような結果は分かっている人には分かっていたのかもしれません。そう,日本の今イチバン大きな問題は,この老若問題じゃないでしょうか。

 イノベーションをイチバン阻害するのは何だと思いますか?それは過去の成功です。シャープもソニーもそれに囚われ,パナソニックは一から始める所で,漸く立て直したわけです。
 人間も同じですね。私ねえ,またはっきり言いますけど,年金をもらえる歳と選挙権の歳ってトレードオフにした方がいいと思いますよ。
 20歳未満の人に選挙権はないのですよ。70歳を超える人は選挙権なしにしてもいいんじゃなーいかなあと思います。

 私の業界,弁護士もそうですよ。70歳を超えたら,一律資格停止にしたらいいんじゃなーいですかね。強制定年ですわ。
 過去の成功体験なんぞクソ食らえ,果敢に失敗できるようにするためにも年寄り連中を早い所墓場に連れていくことが是非とも必要ですよ。

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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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