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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,原告(ベストライセンス株式会社)が,登録第5753538号商標(本件商標)について特許庁長官に登録異議申立て(本件登録異議事件)をしたのに対し,特許庁審判官が本件商標の商標登録を維持するとの決定(本件維持決定)をしたことから,被告に対し,①本件維持決定の取消し,②本件登録異議事件についての商標登録取消決定の義務付け,③商標登録出願の全部を分割しても出願分割の効果が認められず出願日の遡及効が認められない旨の解釈が,憲法13条後段及び73条1号前段に反し違憲無効であることの確認,④本件登録異議事件の審理において商標登録異議申立人に反論の機会を全く与えず商標登録の維持決定をすることが,憲法13条後段,31条及び14条1項に反し違憲無効であることの確認,⑤商標登録維持決定に対する不服申立てができない旨規定する商標法43条の3第5項が,憲法13条後段,76条2項後段,32条及び14条1項に反し違憲無効であることの確認,⑥本件登録異議事件の審理において口頭審理をしなかったことが,商標法43条の6第1項ただし書に反し違法であるとともに憲法13条後段及び73条1項前段に反し違憲無効であることの確認,⑦本件登録異議事件の審理において原告が上申した引用出願を審理しなかったことが,商標法43条の9第1項の趣旨に反し違法であるとともに憲法13条後段及び73条1項前段に反し違憲無効であることの確認をそれぞれ求める事案です。

 要するに,異議申立てをしたものの,維持決定が出てしまったため,それに不服の異議申し立て人が,上訴したというものです。

 まず,本件商標ですが,以下のような商標です。


【商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務】  
第12類  陸上の乗物用の動力機械(その部品を除く。),動力伝導装置,制動装置,陸上の乗物用の交流電動機又は直流電動機(その部品を除く。),自動車並びにその部品及び附属品,二輪自動車・三輪自動車・自転車並びにそれらの部品及び附属品
【出願日】平成26年11月18日(2014.11.18)
【商標権者】 トヨタ自動車株式会社

 例の燃料電池車!の商標なわけです。

 で,これに異議申し立てをしたのが,ベストライセンスだったので~す。あれ?,この会社の名前どこかで聞いたことがあるぞ。

 結論的には,「本件訴えを却下する。」という,珍しい却下判決ですね(合議体は,知財高裁1部の設楽さんの所です。)。

2 問題点
 問題点は,色々あります。
 とは言え,そもそも,維持決定に不服申立てができるかどうかという問題があります。

 条文から行きましょうね。
(決定)
第四十三条の三  
4  審判官は、登録異議の申立てに係る商標登録が前条各号の一に該当すると認めないときは、その商標登録を維持すべき旨の決定をしなければならない。
5  前項の決定に対しては、不服を申し立てることができない。

 ま,ということなので,もうこの時点でアウト!という気がします。

 登録異議の申立てって要するに再審査みたいなものだから,権利者に不利にグニャグニャにするのではなく,早期に確定させる必要があるわけですね。
 それに,不服があるなら,無効審判っていう手もありますから。

 ということで,本質的にはこれでおしまいです。

 原告の代表者は元弁理士でしょうから,この条文は当然知っているはずです。ですので,このままだと,却下判決は必至ということもわかっていたでしょうから,②から⑦の請求をくっつけたわけです。

 だからと言ってね~??って所ですわな。

3 判旨
「第3 当裁判所の判断
1 請求の趣旨第1項に係る訴えの適法性について
 商標法43条の3第4項は,審判官は,登録異議の申立てに係る商標登録が同法43条の2各号所定の登録異議事由のいずれかに該当するものと認めないときは,その商標登録を維持すべき旨の決定(以下「維持決定」という。)をしなければならない旨を規定し,また,同条の3第5項は,維持決定に対しては不服を申し立てることができないと規定している。そうすると,同項の規定によれば,本件維持決定に対しては不服を申し立てることができないのであるから,請求の趣旨第1項に係る本件維持決定の取消しを求める訴えは,そもそも同項の規定に違反するものであって,不適法なものである。
2 請求の趣旨第2項に係る訴えの適法性について
 請求の趣旨第2項に係る訴えは,原告が,本件登録異議事件について商標登録取消決定をすべき旨を特許庁長官に命ずることを求めるものであり,行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)3条6項2号所定のいわゆる申請型の義務付けの訴えとして提起するものと解される。
 しかしながら,同号所定の義務付けの訴えは,当該法令に基づく申請又は審査請求を却下し又は棄却する旨の処分又は裁決に係る取消訴訟又は無効等確認の訴えと併合して提起しなければならないところ(行訴法37条の3第3項),上記取消訴訟又は無効等確認の訴えが不適法なものであれば,上記処分又は裁決はもとより取り消されるべきものとはいえないから,上記義務付けの訴えは,行訴法37条の3第1項2号所定の訴訟要件を欠くものであって,不適法なものとなる。 
 そうすると,本件維持決定が行訴法37条の3第1項2号所定の「当該法令に基づく申請又は審査請求を却下し又は棄却する旨の処分又は裁決」に該当するとしても,請求の趣旨第1項に係る本件維持決定の取消しを求める訴えが前記1のとおり不適法である以上,請求の趣旨第2項に係る義務付けの訴えは,行訴法37条の3第1項2号所定の訴訟要件を欠くものであって,不適法なものである。
3 その余の各訴えの適法性について
(1) 裁判所法3条1項の規定にいう「法律上の争訟」として裁判所の審判の対象
となるのは,当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争に限られるところ,このような具体的な紛争を離れて,裁判所に対し抽象的に法令等が憲法に適合するかしないかの判断を求めることはできないと解するのが相当である(最高裁昭和27年(マ)第23号同年10月8日大法廷判決・民集6巻9号783頁,最高裁平成2年(行ツ)第192号平成3年4月19日第二小法廷判決・民集45巻4号518頁参照)。
(2) 請求の趣旨第3項,第4項,第6項及び第7項について
 請求の趣旨第3項,第4項,第6項及び第7項に係る各訴えの適法性についてみるに,上記各訴えは,いずれも本件登録異議事件に係る審理経過における審判体の審理の違法をいうものであり,本件維持決定に対する不服の手段があれば,本来,その中で主張されるべきことである。しかし,上記1のとおり,そもそも本件維持決定に対しては不服を申し立てることはできないのであって,上記各訴えは,もとより本件維持決定を左右するものではなく,当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争を解決するものではない。すなわち,同第3項に係る訴えは本件維持決定における商標法10条1項を根拠として審判体がした法令解釈につき,同4項に係る訴えは本件登録異議事件において原告に反論の機会を全く与えず,審判体が本件維持決定をしたことにつき,同第6項に係る訴えは,審判体が本件登録異議事件の審理において口頭審理によらなかったことにつき,同第7項に係る訴えは本件登録異議事件の審理において,審判体が原告が上申した引用出願を審理しなかったことにつき,それぞれ違憲又は違法を主張するものであるが,その実質はいずれも本件維持決定の審理経過に対する不服をいうものであって,上記各訴えは,本件維持決定に関する具体的な紛争を解決するものではなく,結局,裁判所に対し本件登録異議事件における審判体の審理経過につき上記違憲又は違法に関する判断を抽象的に求めるものに帰する。
 そうすると,上記各訴えは,上記(1)にいう「法律上の争訟」として裁判所の審判の対象となるものとはいえず,いずれも不適法なものである。
(3) 請求の趣旨第5項に係る訴えの適法性について
 請求の趣旨第5項に係る訴えの適法性についてみるに,同第5項に係る訴えは,商標法43条の3第5項の規定が違憲無効であることの確認を抽象的に求めるものにすぎないものであるから,上記訴えは,上記(1)にいう「法律上の争訟」として裁判所の審判の対象となるものとはいえず,不適法なものである。」

4 検討
 民訴法的論点もありそうですが,そういうのは学者連中にでも任せて,ちょっと異議申し立て(異議2015-900195)のときから振り返ってみます。

 異議申し立て人は,引用商標として,3つ提示しました。
(1)商願2015ー25192(以下「引用出願1」という。)は、「MIRAI」の文字を標準文字で表してなり、第9類、第12類、第35類、第39類及び第42類に属する別掲2のとおりの商品及び役務を指定商品及び指定役務として、平成26年9月8日に登録出願された商願2014-75417(以下「親出願」という。)を原出願とする、商標法第10条第1項の規定による商標登録出願である旨主張して、親出願と同一の商品及び役務を指定商品及び指定役務として、同27年3月20日に登録出願されたものである。  なお、親出願は、平成27年3月23日に、引用出願1は、同年10月5日に、それぞれ、出願却下の処分がされている。
(2)商願2015ー56246(以下「引用出願2」という。)は、「MIRAI」の文字を標準文字で表してなり、上記(1)に記載の引用出願1を原出願とする、商標法第10条第1項の規定による商標登録出願である旨主張して、別掲2に示す指定商品及び指定役務中の第12類と同一の商品を指定商品として、平成27年6月13日に登録出願されたものである。
(3)商願2015ー68401(以下「引用出願3」という。)は、「MIRAI」の文字を標準文字で表してなり、引用出願1を原出願とする、商標法第10条第1項の規定による商標登録出願である旨主張して、別掲2に示す指定商品及び指定役務中の第9類、第12類及び第35類の商品及び役務と同一の商品及び役務を指定商品及び指定役務として、平成27年7月18日に登録出願されたものである。

 現在のステータスですが,親出願の商願2014-75417(出願人は上田育弘となっております。),は却下となっております。
 (1)の商願2015-25192,これも却下です。

 とは言え,親出願の出願日は,平成26年9月8日ですから,トヨタのミライの商標の平成26年11月18日という出願日の前です。ある意味,結構ヤバい話です。

 さて,特許庁の合議体がどういう理由で,維持決定したかというと,
しかしながら、商標法第10条第1項は、商標登録出願の分割の要件を定めたものであり、その第1項で「商標登録出願人は、商標登録出願が審査、審判若しく は再審に係属している場合又は商標登録出願についての拒絶をすべき旨の審決に対する訴えが裁判所に係属している場合に限り、二以上の商品又は役務を指定商 品又は指定役務とする商標登録出願の一部を一又は二以上の新たな商標登録出願とすることができる。」と規定されており、同条第2項において、「前項の場合 は、新たな商標登録出願は、もとの商標登録出願の時にしたものとみなす。」とされているところ、引用出願1は、親出願の出願に係る指定商品及び指定役務のすべてを指定商品及び指定役務としており、「商標登録出願の一部を一又は二以上の新たな商標登録出願とすることができる(下線は、合議体による。)」としている商標法第10条第1項の要件を満たしていない。

 ということなのですね。つまり,子出願は親出願の全部そのままなので,分割じゃない!というわけです。
 
 しかし,これ,商標法8条3項を使った方が早くないでしょうか。
(先願)
第八条  同一又は類似の商品又は役務について使用をする同一又は類似の商標について異なつた日に二以上の商標登録出願があつたときは、最先の商標登録出願人のみがその商標について商標登録を受けることができる。
3  商標登録出願が放棄され取り下げられ若しくは却下されたとき、又は商標登録出願について査定若しくは審決が確定したときは、その商標登録出願は、前二項の規定の適用については、初めからなかつたものとみなす。

 特許庁での維持決定が出たのが,今年の3月10日のようです。その時点では,引用商標の一部に却下されていないのがあったのかもしれませんね。
 でも,分割要件違反でNGとすると,コスく一部の指定商品をわざと漏らして,分割要件をクリアする場合も有り得そうです。

 そうではなく,出願料を払わないなら却下で,先願でも何でもなく,無いものなんだから,維持決定!とした方が後々のトオリは良いかなあという気がしないでもありません。

 とは言え,これ,権利者にしてみると結構な負担です。
 トヨタの知財部の商標の担当者も,先願があるってことは知っていたでしょうね(拒絶理由通知が来ますので。)。
 その時は,ああ,ベストライセンス相手ならきっと大丈夫だろうと思いつつも,もしや出願料の後払いなどが認められた日には・・・ゲゲ!って思ったことは想像に難くない所です。

 良かったですねえ。トヨタの知財部の皆さん,でもちっと,出願するのがギリギリでしたね(車の発表と同時の出願日のようです。)。こういうのは,発表の数カ月前に,候補を全部出願しておくのがデフォーじゃありませんかね。

 ま,お利口さん達だから,これからは間違えないかな。でも,ちょっとまずったらどうなってたでしょうね。ムフフフ。

 あと,ちなみに,ベストライセンスが何故無効審判をやらないかというと,特許庁の費用が結構高いからでしょうね。

 ということで,おもしろ判決ですので,ここで取り上げました。まとまな判決は,後継ブログだけ!ですので。
 その後継ブログがどこかはいまだ内緒にしておきます。暇な人は探すといいかもしれませんが,まあ見つからないでしょうね。
 

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