忍者ブログ
知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要等
 本件は,或る会社の統括事業部長を兼務する取締役の地位にある従業員であった方が,会社からの普通解雇が客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上是認し得ないもので違法であるとして,その会社に対し,不法行為に基づく損害賠償を求めた事案です。

 原審の仙台高裁は,「他の手段を講じることなくされた本件解雇は,社会通念上相当として是認することができず,被上告人に対する不法行為になる。」として,一定程度の損害賠償を認めました。

 そして,最高裁は,原判決を破棄し,結局損害賠償を認めませんでした。要は,従業員側の逆転敗訴ということになります。

 争点は,2つあるようですが,法律上の争点は1つのみですので,それのみということで。
 もう一つの争点は,飲酒癖が酷かったようですから,まあ最高裁の判断は妥当でしょうね。

2 問題点等
 判決文等によりますと,本件は,労働審判経由で訴訟となったもののようです。
 労働審判とは,個別的労働紛争を迅速・適切に処理すべく,2004.4.1から始まった新しい制度です。通常,裁判官の審判官が1人,使用者寄りの審判員1人,従業員寄りの審判員1人からなる審判委員会で審判等されることになります。相手に歩み寄る可能性があれば,訴訟よりも迅速に解決することができますので,近時,不況のあおりもあり,かなり広まってきています。

 さて,その労働審判ですが,審判に不服のある場合には,異議申立ができ,この場合,審判は効力を失い,訴訟に移行することになります。
 その場合,問題となるのが,東京や大阪のような大規模な地裁ですと,労働審判での審判官であった裁判官が,訴訟でも再度担当となることは少ないでしょうが,田舎の小規模な地裁だと,再度訴訟でも担当となってしまう可能性があるということです。
 そうすると,審判で負けた側の当事者としては,折角異議を出して訴訟にしたのにもかかわらず,また同じ人に判断されるのか~,かないませんなあ,という感じがしますね。
 普通の訴訟の場合ですと,例えば,地裁で担当の裁判官が高裁に異動し,偶然,その裁判官の担当だった事件も高裁に控訴されたときには,その裁判官は,前審関与ということで,除斥されます(民訴23条1項6号)。やはり,予断がありますからね。

 ということで,じゃあ労働審判→訴訟の場合,労働審判の審判官だった裁判官は,前審関与になるの?ならないの?という点が問題になったのが,本件です。

3 判旨
「民訴法23条1項6号にいう「前審の裁判」とは,当該事件の直接又は間接の下級審の裁判を指すと解すべきであるから(最高裁昭和28年(オ)第801号同30年3月29日第三小法廷判決・民集9巻3号395頁,最高裁昭和34年(オ)第59号同36年4月7日第二小法廷判決・民集15巻4号706頁参照),労働審判に対し適法な異議の申立てがあったため訴えの提起があったものとみなされて訴訟に移行した場合(労働審判法22条参照)において,当該労働審判が「前審の裁判」に当たるということはできない(なお,当該労働審判が同号にいう「仲裁判断」に当たらないことは明らかである。)。
 したがって,本件訴訟に先立って行われた労働審判手続において労働審判官として労働審判に関与した裁判官が本件の第1審判決をしたことに違法はない。」

4 検討
 判旨で引かれた判例は,模範六法にも載っている有名なものです。
前審が,下級審ということであれば,労働審判は,訴訟(裁判)ではありませんから,「前審の裁判」に含まれない!ということになりますね。
 もちろん,予断のおそれがあることは確かでしょうが,一審→控訴審→上告審という審級の利益は侵害されておりませんので,形式論を打ち破るほどの肯定的解釈の必要性は乏しかったというところだと思います。

 ただ,そうすると,私の得意分野である,特許等の審決取消訴訟だとどうなるのでしょうね。
 審決取消訴訟は,一審が既に知財高裁で,地裁にあたるものが,特許庁の審判とされております。
 特許庁の審判官は,国Ⅰ試験を経た審査官上がりの方がメインであり,高裁の裁判官は,司法試験を経た10年選手以上の方がメインであるので,実際上「前審関与」の可能性は全くありません。
 仮想的事例であることはもちろんなのですが,特許庁の審判が,裁判でないことは確かなのですけれど,審級の利益は侵害されそうなのは,悩ましいところですね。
PR
52  51  50  49  48  47  46  45  44  43  42 
カレンダー
10 2017/11 12
S M T W T F S
3 4
5 7 8 11
12 13 14 15 16 18
19 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30
ブログ内検索
プロフィール
HN:
iwanagalaw
HP:
性別:
男性
職業:
弁護士
趣味:
サーフィン&スノーボード
自己紹介:
理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
カウンター
アクセス解析
忍者アナライズ
Admin / Write
忍者ブログ [PR]