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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,特許第3134187号(以下「本件特許」といい,本件特許に係る特許権を「本件特許権」という。)の特許権者である被上告人が,本件特許権の存続期間の延長登録出願に係る拒絶査定不服審判の請求を不成立とした特許庁の審決(本件発明の実施に特許法67条2項の政令で定める処分を受けることが必要であったとは認められない)の取消しを求める事案です。

 まず,原審の知財高裁3部は,「特許法68条の2にいう「政令で定める処分の対象」となった「物」を「有効成分」であるとしてした審決の判断には,誤りがある」として,審決を取消しました。

 これに対して,被告である特許庁長官が上告したのが本件ですが,第一小法廷は,上告を棄却しました。要するに,特許庁の負けということですね。

2 問題点
 最高裁の特許事件!とは珍しいですね。少なくとも,このブログ開設からは初めてです。特許の論点というのは,無理くりの論点を除き,実は大して多くないのですね。これも特許訴訟の少ない理由なのかもしれませんが,今回は侵害訴訟ではありません。審決取消訴訟なのですね。

 さて,今回の論点は,薬の特許プロパーと言ってもよい論点です。薬の場合,市場に出回る前に,何相もある治験を経てようやく製造販売が承認されます。
 死なない薬は薬じゃない,という話もあるように,ある意味毒を薄めたのが薬とも言えるわけですから,承認が厳しいというのは理解できます。
 ですので,1つの薬が出来上がるまでには,お金はもちろん,時間も相当かかるわけです。ただ,そうすると,問題が生じます。
 特許の寿命は,最大出願から20年です。そして,特許の始期は,審査を経た登録後からになります。したがい,通常の技術分野だと,特許の化体した商品を登録後すぐに売り出すことも,それこそ登録前に売り出すことも可能ですが,薬はそうもいきません。
 最近の特許審査は,出願から早ければ2年くらいで終わることもあります。他方,その特許の薬の承認に5年かかったとすると,3年は実施における利益を享受できないわけです。

 この点,特許権の効力のうち,独占権(自分が独占して実施できる)の利益は享受できないとしても,排他権(他人に実施させない)の利益は登録により享受できるのだから,別にいいんじゃないの~という意見もあるかもしれません。
 しかし,特許権の効力を十全に享受できていないのは確かなのですから,その分延長させようというわけなのですね。

 そして,本件では,特許庁は,当該薬と有効成分並びに効能及び効果を同じくする薬について,既に,製造販売の承認がされているのだから,「特許法67条2項の政令で定める処分を受けることが必要であったとは認められない」としたのですね。

 他方,原告(武田薬品)は,いやいや,薬と有効成分並びに効能及び効果は同じといっても,特許自体は異なるのだから,「特許法67条2項の政令で定める処分を受けることが必要であった」のだ!と主張しました。

 それに関して,特許法68条の2にいう「政令で定める処分の対象」となった「物」の解釈が争われたのですね。

3 判旨
「 特許権の存続期間の延長登録出願の理由となった薬事法14条1項による製造販売の承認(以下「後行処分」という。)に先行して,後行処分の対象となった医薬品(以下「後行医薬品」という。)と有効成分並びに効能及び効果を同じくする医薬品(以下「先行医薬品」という。)について同項による製造販売の承認(以下「先行処分」という。)がされている場合であっても,先行医薬品が延長登録出願に係る特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属しないときは,先行処分がされていることを根拠として,当該特許権の特許発明の実施に後行処分を受けることが必要であったとは認められないということはできないというべきである。
  なぜならば,特許権の存続期間の延長制度は,特許法67条2項の政令で定める処分を受けるために特許発明を実施することができなかった期間を回復することを目的とするところ,後行医薬品と有効成分並びに効能及び効果を同じくする先行医薬品について先行処分がされていたからといって,先行医薬品が延長登録出願に係る特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属しない以上,上記延長登録出願に係る特許権のうち後行医薬品がその実施に当たる特許発明はもとより,上記特許権のいずれの請求項に係る特許発明も実施することができたとはいえないからである。そして,先行医薬品が,延長登録出願に係る特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属しないときは,先行処分により存続期間が延長され得た場合の特許権の効力の及ぶ範囲(特許法68条の2)をどのように解するかによって上記結論が左右されるものではない。 」

4 検討
 最高裁は,67条2項などの趣旨から,特許が違えば,違うんだよ!という考えです。まあそりゃそうですよね。それで,実際,特許権の期間が侵食され,実質的に短くなれば,その分,後発医薬品メーカが参入してしまいますからね。

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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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