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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,新薬事法の施行に伴って平成21年厚生労働省令第10号により改正された薬事法施行規則(新施行規則)において,店舗以外の場所にいる者に対する郵便その他の方法による医薬品の販売又は授与(郵便等販売)は一定の医薬品に限って行うことができる旨の規定及びそれ以外の医薬品の販売若しくは授与又は情報提供はいずれも店舗において薬剤師等の専門家との対面により行わなければならない旨の規定が設けられたことについて,インターネットを通じた郵便等販売を行う事業者である被上告人らが,新施行規則の上記各規定は郵便等販売を広範に禁止するものであり,新薬事法の委任の範囲外の規制を定める違法なものであって無効であるなどと主張して,上告人(国)を相手に,新施行規則の規定にかかわらず郵便等販売をすることができる権利ないし地位を有することの確認等を求める事案です。

 と書きましたが,先週の土曜日の新聞にあるとおり,ケンコーコムの薬のネット販売の訴訟と言えば早いでしょう。昨日はケンコーコムの株がストップ高だったそうです。これぞ,ビジネス訴訟ですね。

2 問題点
 さて,最高裁の判旨は短いのですが,途中経過に若干複雑なところがあるので,一審から整理します。

(1)一審(東京地裁平成21年(行ウ)256号,平成22年03月30日判決)
その,一審ですが,請求から見てみましょう。
 一審の請求
 「1 原告らは,医薬品の店舗販売業の許可を受けた者とみなされる既存一般販売業者として,平成21年厚生労働省令第10号による改正後の薬事法施行規則の規定にかかわらず,第一類医薬品及び第二類医薬品につき店舗以外の場所にいる者に対する郵便その他の方法による販売をすることができる権利(地位)を有することを確認する。
  2 厚生労働大臣が平成21年2月6日に公布した薬事法施行規則等の一部を改正する省令(平成21年厚生労働省令第10号)のうち,薬事法施行規則に15条の4第1項1号,159条の14,159条の15第1項1号,159条の16第1号並びに159条の17第1号及び第2号の各規定を加える改正規定が無効であることを確認する。
 (予備的請求)
  3 前項の省令の改正規定を取り消す。

です。
 これに対して,一審の主文ですが,
 「1 本件訴えのうち,厚生労働大臣が平成21年2月6日に公布した薬事法施行規則等の一部を改正する省令(平成21年厚生労働省令第10号)のうち,薬事法施行規則に15条の4第1項1号,159条の14,159条の15第1項1号,159条の16第1号並びに159条の17第1号及び第2号の各規定を加える改正規定が無効であることの確認を求める訴え並びに上記省令の改正規定の取消しを求める訴えをいずれも却下する。
 2 原告らのその余の訴えに係る請求をいずれも棄却する。
」となっております。

 つまり,新施行規則の無効確認を求める訴えは不適法で却下,権利ないし地位確認の方は,理由がないとして棄却されたわけです。

 次に,問題となった薬事法等の規定はたくさんあるのですが,メインのところだけ示しましょう。
 まずは,薬事法です。
「 (一般用医薬品の販売に従事する者)
第三十六条の五  薬局開設者、店舗販売業者又は配置販売業者は、厚生労働省令で定めるところにより、一般用医薬品につき、次の各号に掲げる区分に応じ、当該各号に定める者に販売させ、又は授与させなければならない。
一  第一類医薬品 薬剤師
二  第二類医薬品及び第三類医薬品 薬剤師又は登録販売者


 この条文を見てわかるように,誰に販売させなければならない,という主体についての制限はあります。でもそれ以外の制限はありませんね。対面じゃなきゃダメ,郵便なんか論外なーんてことは書いておりません。
 
 他方,今回問題となったのは上で言う厚生労働省令です。そして,そのメインが,薬事法行規則(厚生労働省令のことです。)159条の14ですね。
(薬剤師又は登録販売者による医薬品の販売等)
第百五十九条の十四  薬局開設者、店舗販売業者又は配置販売業者は、法第三十六条の五の規定により第一類医薬品については、医薬品の販売又は授与に従事する薬剤師に、自ら又はその管理及び指導の下で登録販売者若しくは一般従事者をして、当該薬局若しくは店舗又は当該区域における医薬品を配置する場所(医薬品を配置する居宅その他の場所をいう。以下この条及び第百五十九条の十八において準用する次条から第百五十九条の十七までにおいて同じ。)(以下「当該薬局等」という。)において、対面で販売させ、又は授与させなければならない。
2  薬局開設者、店舗販売業者又は配置販売業者は、法第三十六条の五の規定により、第二類医薬品又は第三類医薬品については、医薬品の販売又は授与に従事する薬剤師又は登録販売者に、自ら又はその管理及び指導の下で一般従事者をして、当該薬局等において、対面で販売させ、又は授与させなければならない。ただし、薬局開設者又は店舗販売業者が第三類医薬品を販売し、又は授与する場合であつて、郵便等販売を行う場合は、この限りでない。


 委任の元である薬事法とは異なり,販売方法の指定があります。1項は,第一類医薬品を,2項は第二類と第三類医薬品についてのものです。そして,2項の最後にただし書きが有り,一定の場合に第三類医薬品のみ,郵便等販売が認められるのがわかりますね。ということは,第一類医薬品と第二類医薬品については,例外などなく,対面販売じゃなきゃダメ!ということです。
 
 となると,従前,インターネットを通じて,薬の通販をやっていた会社は,新薬事法の元では,第三類しか通販できないことになります。勿論,上記の厚生労働省令を設けたのはそれなりの理由がありますが,通販会社にとってはまさに規制により商売上がったりになってしまったわけですね。
 
 そして,原告らとしては,何とかこの厚生労働省令をつぶすべき,と憲法違反を主張したわけです。まずは,委任立法の論点(政省令に白紙委任的丸投げじゃあ,国会が唯一の立法機関(憲法41条)とした趣旨に反する!つまり委任立法は仕方ないけど,個別具体的な委任が無きゃダメってこと。)を主張したわけですね。つぎに,インターネット販売の禁止自体に必要性・合理性がないから,憲法22条1項違反だ,と主張したわけです(その他制定手続の違法性の主張もあり。)。
 
 この点からして,この裁判は,憲法訴訟的扱いだったと思います(でも,最高裁の判示を見たら,憲法の論点はありませんね。その理由は後述。)。
 
 さて,結局,一審は,まず,「本件無効確認の訴え及び本件取消しの訴えは,いずれも,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たらないものを対象として提起されたものといわざるを得ず,その余の点(行政事件訴訟法36条の要件該当性等)について判断するまでもなく,不適法であり,却下を免れない。」として,無効確認部分は却下としました。
 その上で,地位等確認部分も,委任立法の論点について,まず,「新薬事法36条の5及び36条の6の委任に基づくものであるということができる。」とし,その中身も「当該法律の委任の趣旨(上記の裁量権の範囲)を逸脱するものではなく,その委任の範囲を超えるものではないというべきである。」としてOKと判断したのです。
 さらに,憲法22条違反の主張についても,「一般用医薬品の副作用による健康被害を防止するという規制目的を達成するための規制手段として,必要性と合理性が認められるというべきであり・・」等として,これもOKとしたわけです。
 
 ま,要するに,原告らの全面敗訴でした。
 
(2)二審(東京高裁平成22(行コ)168号,平成24年04月26日判決)
 ということで,全面敗訴した原告らが控訴したのが,今回の原審であり,最高裁ではこの判断を維持することになったわけですので,非常に重要な高裁の判示です。
 また,請求(控訴の趣旨か)から見てみましょう。
 「1 原判決を取り消す。
 2 主文第2項と同旨
 3(1)(主位的請求)
 厚生労働大臣が平成21年2月6日に公布した薬事法施行規則等の一部を改正する省令(平成21年厚生労働省令第10号)のうち,薬事法施行規則に15条の4第1項1号,159条の14,159条の15第1項1号,159条の16第1号並びに159条の17第1号及び第2号の各規定を加える改正規定が無効であることを確認する。
 (2)(予備的請求)
 前項の省令改正規定を取り消す。

 
 そして,主文です。
 「1 原判決主文第2項を取り消す。
 2 控訴人らが,医薬品の店舗販売業の許可を受けた者とみなされる既存一般販売業者として,平成21年厚生労働省令第10号による改正後の薬事法施行規則の規定にかかわらず,第一類医薬品及び第二類医薬品につき店舗以外の場所にいる者に対する郵便その他の方法による販売をすることができる権利(地位)を有することを確認する。
 3 控訴人らのその余の控訴をいずれも棄却する。


 ここで原判決主文第2項とは,「原告らのその余の訴えに係る請求をいずれも棄却する。」というけんもほろろのやつです。その代わりに,この2審の主文で権利ないし地位の確認は認められましたから大勝利です。
 
 二審は,無効確認ついては,規則の制定行為が,やはり行政処分には当たらないとして,一審同様却下しました。
 そして,地位確認等については,従前の経緯を踏まえた上で,委任そのものについては,一審同様「新施行規則159条の14は新薬事法36条の5に,同規則159条の15ないし17は新薬事法36条の6にその委任の根拠が求められ,同規則15条の4は,その内容及び規定位置から一般用医薬品の販売及び情報提供と関連するものとして,上記各規定と同様に,新薬事法36条の5及び6にその委任の根拠が求められることとなる。」と判断し,中身の問題とされました。
 そして,その中身についての判断が,一審と大きく異なったわけですね。「本件各規定のうち本件規制を定める部分は,例外なく第一類・第二類医薬品の郵便等販売を禁止したことについて,被控訴人主張の新薬事法36条の5及び6あるいはその他の新薬事法の各規定による委任の趣旨の範囲内において規定されたものと認めることはできない(新薬事法36条の5が,第一類・第二類医薬品等についての販売方法を厚生労働省令に委任していることを前提としても,同条が,店舗販売業者が行う第一類・第二類医薬品をの郵便等販売を一律に禁止することまでを委任したものと認めることはできず,また,同条のほか,被控訴人が主張する他の委任の根拠規定を総合して検討しても,本件規制の根拠となる委任の規定を新薬事法の条項中に見出すことができない。)。したがって,第一類・第二類医薬品の郵便等販売を規制した本件各規定は,以上の限度において,新薬事法の委任の趣旨の範囲を逸脱した違法な規定であり,国家行政組織法12条3項に違反し,無効であると解すべきことになる。」と判示しました。

 要するに,委任はあるんだけど,その範囲を大幅オーバーでアウト!というわけです。
 ということで,司法(裁判所)は必要最小限のことしかやりませんので(結論が出ればそれでよし。),明示の憲法の論点だった,省令の憲法22条違反の論点の判断はないわけです。最高裁の判示に憲法の話があまり出ない原因がここにあります。
 つまり,原告らはこの判示で満足しており,上告受理申立(行ツでなく行ヒですので。)したのは二審で負けた国だけだったわけです。
 
(3)問題点
 ですので,憲法問題と言えば憲法問題なのですが,端的に問題点を言えば,省令が法律の委任の範囲を越えているか越えていないかというそれだけの話です。
 
 で,ようやく最高裁の判決です。
 
3 判示
「厚生労働大臣が制定した郵便等販売を規制する新施行規則の規定が,これを定める根拠となる新薬事法の趣旨に適合するもの(行政手続法38条1項)であり,その委任の範囲を逸脱したものではないというためには,立法過程における議論をもしんしゃくした上で,新薬事法36条の5及び36条の6を始めとする新薬事法中の諸規定を見て,そこから,郵便等販売を規制する内容の省令の制定を委任する授権の趣旨が,上記規制の範囲や程度等に応じて明確に読み取れることを要するものというべきである。
しかるところ,新施行規則による規制は,前記2(1)のとおり一般用医薬品の過半を占める第一類医薬品及び第二類医薬品に係る郵便等販売を一律に禁止する内容のものである。これに対し,新薬事法36条の5及び36条の6は,いずれもその文理上は郵便等販売の規制並びに店舗における販売,授与及び情報提供を対面で行うことを義務付けていないことはもとより,その必要性等について明示的に触れているわけでもなく,医薬品に係る販売又は授与の方法等の制限について定める新薬事法37条1項も,郵便等販売が違法とされていなかったことの明らかな旧薬事法当時から実質的に改正されていない。また,新薬事法の他の規定中にも,店舗販売業者による一般用医薬品の販売又は授与やその際の情報提供の方法を原則として店舗における対面によるものに限るべきであるとか,郵便等販売を規制すべきであるとの趣旨を明確に示すものは存在しない。なお,検討部会における議論及びその成果である検討部会報告書並びにこれらを踏まえた新薬事法に係る法案の国会審議等において,郵便等販売の安全性に懐疑的な意見が多く出されたのは上記事実関係等のとおりであるが,それにもかかわらず郵便等販売に対する新薬事法の立場は上記のように不分明であり,その理由が立法過程での議論を含む上記事実関係等からも全くうかがわれないことからすれば,そもそも国会が新薬事法を可決するに際して第一類医薬品及び第二類医薬品に係る郵便等販売を禁止すべきであるとの意思を有していたとはいい難い。そうすると,新薬事法の授権の趣旨が,第一類医薬品及び第二類医薬品に係る郵便等販売を一律に禁止する旨の省令の制定までをも委任するものとして,上記規制の範囲や程度等に応じて明確であると解するのは困難であるというべきである。
 したがって,新施行規則のうち,店舗販売業者に対し,一般用医薬品のうち第一類医薬品及び第二類医薬品について,① 当該店舗において対面で販売させ又は授与させなければならない(159条の14第1項,2項本文)ものとし,② 当該店舗内の情報提供を行う場所において情報の提供を対面により行わせなければならない(159条の15第1項1号,159条の17第1号,2号)ものとし,③郵便等販売をしてはならない(142条,15条の4第1項1号)ものとした各規定は,いずれも上記各医薬品に係る郵便等販売を一律に禁止することとなる限度において,新薬事法の趣旨に適合するものではなく,新薬事法の委任の範囲を逸脱した違法なものとして無効というべきである。

 
4 検討
 一審から見ていくと,最高裁の判示はほぼ二審と同じですね。
 従前の経緯からすると,インターネット販売の一律禁止には議論等があり,それでも委任立法をするには,授権の趣旨が元の法律自体に明確に現れていないとダメでしょう,としたわけですね。まあこの法律と省令を眺めると,この判示は妥当なのではないかと思いますね。

 憲法の勉強をしている人なら,ストレートに憲法22条の適合性のところを判示してもらいたかったなあと思うかもしれませんが,サヨクの政治訴訟とは異なり,今回はビジネス訴訟ですので,実がとれればそれで良いのです。司法と政治はごっちゃにしないようにね。
 それに,憲法が好きな人にとっても,全然憲法の論点じゃないというわけではなく,私の持っている芦部の基本書のp272,佐藤の基本書のp231などに書いてある有名な論点ですので,良い勉強になるのではないでしょうかね。私も久々芦部を開きましたし。
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