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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,いずれも銀行である上告人ら(原告です。株式会社新生銀行,株式会社三菱東京UFJ銀行,株式会社みずほ銀行。)が,外国国家である被上告人(被告です。アルゼンチン共和国。)が発行したいわゆるソブリン債である円建て債券を保有する債権者らから訴訟追行権を授与された訴訟担当者であるなどと主張して,被上告人に対し,当該債券の償還及び約定利息等の支払を求める事案です。

 これに対して,一審の東京地裁平成21年(ワ)第21928号(平成25年1月28日判決)は,何と訴えを却下!しました。

 理由としては,狭義の任意的訴訟担当を認めた最高裁昭和45年11月11日の判示,「すなわち、任意的訴訟信託は、民訴法が訴訟代理人を原則として弁護士に限り、また、信託法一一条が訴訟行為を為さしめることを主たる目的とする信託を禁止している趣旨に照らし、一般に無制限にこれを許容することはできないが、当該訴訟信託がこのような制限を回避、潜脱するおそれがなく、かつ、これを認める合理的必要がある場合には許容するに妨げないと解すべきである。
 そして、民法上の組合において、組合規約に基づいて、業務執行組合員に自己の名で組合財産を管理し、組合財産に関する訴訟を追行する権限が授与されている場合には、単に訴訟追行権のみが授与されたものではなく、実体上の管理権、対外的業務執行権とともに訴訟追行権が授与されているのであるから、業務執行組合員に対する組合員のこのような任意的訴訟信託は、弁護士代理の原則を回避し、または信託法一一条の制限を潜脱するものとはいえず、特段の事情のないかぎり、合理的必要を欠くものとはいえないのであつて、民訴法四七条による選定手続によらなくても、これを許容して妨げないと解すべきである。」に当てはめをして,「被告を要約者,原告らを諾約者,本件各回債の債権者を第三者とする第三者のためにする契約である」と認定したものの,「本件授権条項について,受益の意思表示をしたものと認めることができないことは明らかである」として,「本件各回債の債権者による原告らに対する訴訟追行権の授与を認めることはできない」としたのですね。

 この一審については,ファイナンスの実務者やファイナンスを専門とする弁護士から,エー!えー!はあー?という,大量のレスがあったことで,少し話題になりました。

 私の事務所の判例検索システムでも,判例解説で2本(判例タイムズ第1411号357頁 ,金融法務事情第1981号125頁),判例の評釈論文で4本(判例時報 2189号78頁 ソブリン・サムライ債に係る債券管理会社の任意的訴訟担当の可否(東京地判平25.1.28、平21(ワ)第21928号), 判例時報 2202号153頁 判例評論 最新判例批評 2 ソブリン・サムライ債に係る債券管理会社による任意的訴訟担当の可否 ソブリン・サムライ債に係る債券管理会社による任意的訴訟担当が否定された事例(東京地判平25.1.28、平21(ワ)第21928号), 判例タイムズ 1411号357頁 下級審判例 地裁・家裁判例 民事 主権国家である被告が発行した円貨債券について,管理委託契約を締結した原告ら銀行が,被告に対し債券の償還等を求めたのに対し,原告らの任意的訴訟担当を認めず,訴えを却下した事例(東京地判平25.1.28、平21(ワ)第21928号), 金融法務事情 1981号125頁 判決速報 主権国家である被告が我が国で発行した円貨債券について、被告との間で管理委託契約を締結した原告ら銀行が、被告に対し、当該円貨債券の償還等を求めたのに対し、原告らの任意的訴訟担当を認めなかった事例(東京地判平25.1.28、平21(ワ)第21928号))も載っております。

 つまりすげえ話題になったわけです。

 ほんで控訴審ですが,東京高裁平成25(ネ)998 号( 平成26年1月30日 判決)で,この一審を是認したのです。「上告人らと被上告人との間の本件管理委託契約は,第三者である本件債券等保有者のためにする契約と解されるところ,本件債券等保有者が,上告人らにおいて償還等請求訴訟を提起することがあり得ると具体的に理解した上で本件債券を購入したと推認することは困難であり,本件債券等保有者による受益の意思表示があったとはいえず,訴訟追行権の授与があったとは認められない。また,本件債券等保有者が個別に訴えを提起することを妨げる事情はないことや,上告人らと本件債券等保有者との間に利益相反関係が生ずるおそれもあることなどからすると,本件において任意的訴訟担当を認める合理的必要性があるとはいえない。」というわけです。

 何か杓子定規っつーか,実情をあまり知らないのかなあって所はありますね。まあ私もそんなファイナンス詳しくないので,私が裁判官だったら,処分証書系の証拠だけ見て,こんな判断しそうですけどねえ。

 頭おかしいだろ,why japanese judge?!,つーことで,銀行が上告受理の申立てをしたのが本件というわけです。

 ああ,何か久々ここで判決のこと書いたので,ここまででもうくたびれましたよ。

2 問題点
 問題点は,上記のとおり,銀行団が,狭義の任意的訴訟担当となれるかどうかってやつです。

 任意的訴訟担当って,法曹の人にはいいですかね。民訴で出ます。当事者適格のところです。

 関係条文は,民訴法30条です。
(選定当事者)
第三十条  共同の利益を有する多数の者で前条の規定に該当しないものは、その中から、全員のために原告又は被告となるべき一人又は数人を選定することができる。」

 これ以前に,任意的ではない法定の訴訟担当っていう存在もあります。株主代表訴訟における株主がそうです。要するに,法上明文のあるやつですね。

 他方,明文のない場合は,上記の民訴法30条の要件を満たさないといけないわけです。でも,これだと「共同の利益」を有した場合じゃないといけないわけです。なので,更にその例外で,民訴法30条の要件を満たさない場合でも,当事者適格を認めていいか?というわけなのですね。

 やはり,安易に認めると私のような弁護士はもう要らんもんね,ってことになりますし,素人さんがやった場合,結局権利者の保護にならん,ってことで一応厳し目の要件で認めているようです。それが上の最高裁45年の判例の要件です。
 当該訴訟信託がこのような制限を回避、潜脱するおそれがなく、かつ、これを認める合理的必要がある場合
 すなわち,授権があって,特段の事情のない場合はOKとしたわけです。

 今回,第三者のためにする契約(まあこれも論点っちゃ論点なのですね。でもこの細かい説明は省略します。民法537条~)であることは認めています。
 問題なのは,受益の意思表示,「前項の場合において、第三者の権利は、その第三者が債務者に対して同項の契約の利益を享受する意思を表示した時に発生する。 」とあり(民法537条2項),個別の債権者が,債務者(諾約者)である銀行団に意思表示をしたかどうかってことになります。

 まあ一審の言いたいこともわかりますよ。
 第三者のためにする契約って,自らの意思によらず義務を負うことのないっていう原則の例外なわけです。例外は厳格に解さないといけない!だから,「債権者の原告らに対する受益の意思表示は,その意思を看取するに足りる明確なものでなければならないというべきである。」としたわけです。

 だけど,実務者などから言わせると,サムライ債の募集で,訴訟になりそうだったら俺らじゃなくあんたら銀行団に任せますからねなんて,契約以外に説明等しますかね。
 しかも似たような募集をする社債の場合は,会社法の705条などで,「第七百五条  社債管理者は、社債権者のために社債に係る債権の弁済を受け、又は社債に係る債権の実現を保全するために必要な一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する 」という規定があり,サムライ債の募集をする方も募集をされる方も,みんな知っている前提といえます。

 そうすると最高裁は?ってやつです。

3 判旨
「4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 任意的訴訟担当については,本来の権利主体からの訴訟追行権の授与があることを前提として,弁護士代理の原則(民訴法54条1項本文)を回避し,又は訴訟信託の禁止(信託法10条)を潜脱するおそれがなく,かつ,これを認める合理的必要性がある場合には許容することができると解される(最高裁昭和42年(オ)第1032号同45年11月11日大法廷判決・民集24巻12号1854頁参照)。
 前記事実関係によれば,被上告人と上告人らとの間では,上告人らが債券の管理会社として,本件債券等保有者のために本件債券に基づく弁済を受け,又は債権の実現を保全するために必要な一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する旨の本件授権条項を含む本件管理委託契約が締結されており,これは第三者である本件債券等保有者のためにする契約であると解される。そして,本件授権条項は,被上告人,上告人ら及び本件債券等保有者の間の契約関係を規律する本件要項の内容を構成し,本件債券等保有者に交付される目論見書等にも記載されていた。さらに,後記のとおり社債に類似した本件債券の性質に鑑みれば,本件授権条項の内容は,本件債券等保有者の合理的意思にもかなうものである。そうすると,本件債券等保有者は,本件債券の購入に伴い,本件債券に係る償還等請求訴訟を提起することも含む本件債券の管理を上告人らに委託することについて受益の意思表示をしたものであって,上告人らに対し本件訴訟について訴訟追行権を授与したものと認めるのが相当である。
そして,本件債券は,多数の一般公衆に対して発行されるものであるから,発行体が元利金の支払を怠った場合に本件債券等保有者が自ら適切に権利を行使することは合理的に期待できない。本件債券は,外国国家が発行したソブリン債であり,社債に関する法令の規定が適用されないが,上記の点において,本件債券は社債に類似するところ,その発行当時,社債については,一般公衆である社債権者を保護する目的で,社債権者のために社債を管理する社債管理会社の設置が原則として強制されていた(旧商法297条)。そして,社債管理会社は,社債権者のために弁済を受け,又は債権の実現を保全するために必要な一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有することとされていた(旧商法309条1項)。そこで,上告人ら及び被上告人の合意により,本件債券について社債管理会社に類した債券の管理会社を設置し,本件債券と類似する多くの円建てのソブリン債の場合と同様に,本件要項に旧商法309条1項の規定に倣った本件授権条項を設けるなどして,上告人らに対して本件債券についての実体上の管理権のみならず訴訟追行権をも認める仕組みが構築されたものである。
 以上に加え,上告人らはいずれも銀行であって,銀行法に基づく規制や監督に服すること,上告人らは,本件管理委託契約上,本件債券等保有者に対して公平誠実義務や善管注意義務を負うものとされていることからすると,上告人らと本件債券等保有者との間に抽象的には利益相反関係が生ずる可能性があることを考慮してもなお,上告人らにおいて本件債券等保有者のために訴訟追行権を適切に行使することを期待することができる。
 したがって,上告人らに本件訴訟についての訴訟追行権を認めることは,弁護士代理の原則を回避し,又は訴訟信託の禁止を潜脱するおそれがなく,かつ,これを認める合理的必要性があるというべきである。
 以上によれば,上告人らは,本件訴訟について本件債券等保有者のための任意的訴訟担当の要件を満たし,原告適格を有するものというべきである。

4 検討
 いやあ,実務者は拍手喝采でしょうね。債権者の人も,漸く金払わんかボケ!と言えるわけです。 
 とは言えこれで漸く地裁に戻るだけ,また最初からってわけです。上記のとおり,H21に提訴していますから,これでもう7年!です。ばかっじゃないかと思いますね。

 いやあ本当勘弁してくれよって感じです。こんなん被告のアルゼンチンも,別に支払うって判決でも構わなかったと思いますね(でも却下だからねえ。)。
 そして,デフォルトで実際の支払いができなくなったとしても,それはそれで銀行も債権者も取り敢えずは納得したと思うのです。

 だって,債券,しかも外国が発行するサムライ債ですよ。ハイリターンハイリスクの極致じゃないですか。プレミアムの利息とかついてたわけですので,デフォルトもまた自己責任,プレミアムの利息にそのリスクは織り込み済みの商品なはずです。

 でも,一審の判決での却下!っつうのは,あり得ない予測不可能性です。ファイナンスの世界では,予測可能な不利益のことは本来リスクとは言わないらしいですね。今回の債券でのデフォルトするかも~みたいなことです。

 他方,銀行団が社債管理者的な地位に居るのに,それ,訴訟担当じゃないから却下だなんて,まったく読めませんよ。リスクの極致です。

 いやあ地裁と高裁の裁判官は,現場の実務を知らなすぎますね。特許も同じようなことはあるんですよね。
 ま,所詮,人のやることだし,裁判なんてゲームに過ぎませんから,いいちゃいいのですけどねえ。審判がバカだとゲームを台無しにするってえのは,スポーツと同じですわなあ。ムフフフ。

 
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