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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 首記は,本日の日経紙の法務インサイドの記事です。
 内容としては,従来特許権者に厳しい判決が多かったが,この1~2年は逆に権利者寄りの判断が増えてきた,というのものです。
 日経紙の特許に関する記事は,大本営発表そのままのいっこんがちゃあらん記事が多いのですが,今回はきちんと頭を使った内容です。

2 私のブログの平成21(ネ)10028号(知財高裁平成22年04月28日判決)の記事のとおり,特許権侵害訴訟においても,知財高裁の「新傾向」の判断が見られるようになってきました。
 特許は,審査を経ますので,仮に知財高裁の新傾向が見られるようになったとしても,まず拒絶審決に対する審決取消訴訟→つぎに無効審決に対する審決取消訴訟→それと同時くらいに特許権侵害訴訟の控訴審,という流れですので,特許権侵害訴訟にまで新傾向が及ぶにはタイムラグがあります。
 この記事によりますと,09年3月の事件で,「最近の知財高裁の進歩性についての判断基準が明確に表れている」そうですので,特許権侵害訴訟の控訴審で新傾向が見られるようになったのも当然かもしれません。

3 この日経の記事の補足を若干しておきます。
 実は,私のこのブログは,イソ弁時代お世話になっていた事務所で,内々に勝手に所属弁護士向けに流していたメルマガを発展させたものです。
 そのメルマガの2009年4月に流したものによりますと,「とある飯村コートの進歩性基準」との題名で,「各位**です。進歩性の基準について、潜在的にある種の客観化が図られつつあるのではないか、いうことはUSのKSR判決の影響もあって、噂レベルで最近よく聞かれるところではないかと思います。進歩性については、やってみないとわからない、というところからようやく脱出でしょうか~。
 ということで、最も急進的?な裁判官の一人である飯村さんの知財高裁第3部では、引例と対比して実質的な相違点のある場合には、添付のような進歩性基準で判断することが多くなっているものと考えます。」として,以下の基準を飯村さんの判決から抜き出して,送付しておりました。

「特許法29条2項が定める要件の充足性,すなわち,当業者が,先行技術に基づいて出願に係る発明を容易に想到することができたか否かは,先行技術から出発して,出願に係る発明の先行技術に対する特徴点(先行技術と相違する構成)に到達することが容易であったか否かを基準として判断される。ところで,出願に係る発明の特徴点(先行技術と相違する構成)は,当該発明が目的とした課題を解決するためのものであるから,容易想到性の有無を客観的に判断するためには,当該発明の特徴点を的確に把握すること,すなわち,当該発明が目的とする課題を的確に把握することが必要不可欠である。そして,容易想到性の判断の過程においては,事後分析的かつ非論理的思考は排除されなければならないが,そのためには,当該発明が目的とする「課題」の把握に当たって,その中に無意識的に「解決手段」ないし「解決結果」の要素が入り込むことがないよう留意することが必要となる。

さらに,当該発明が容易想到であると判断するためには,先行技術の内容の検討に当たっても,当該発明の特徴点に到達できる試みをしたであろうという推測が成り立つのみでは十分ではなく,当該発明の特徴点に到達するためにしたはずであるという示唆等が存在することが必要であるというべきであるのは当然である。」

 


 この基準が最初に用いられたのは,09年3月ではありません。09年1月です。拒絶査定不服審判に対する審決取消訴訟,H20(行ケ)10096号,知財高裁H21.1.28判決です。
 そして,その後,H20(行ケ)10153号,知財高裁H21.3.25判決(これが,日経の記事の判決です。)とH20(行ケ)10261号,知財高裁H21.3.25判決において,この基準が用いられております。
 しかしながら,この3つの判決以降,明示的にこの基準を用いた判決はありません(漏れがあるかもしれませんが)。あまりにあからさまなので,飯村さんも遠慮したのか,それとももはやこの基準を使うまでもなく,新傾向が定着したのかはわからないところです。

4 日経の記事によると,知財高裁のかじ切りだけでは,日本のプロパテント推進には足りないとの見方もある,とのことですが,これには賛成です。もちろん,まずは訴訟で推進してもらわないと,無効のリスクはあまりに高すぎるとは思います。
 ただ,訴訟でのプロパテント推進も,それ以外のプロパテント推進も,個人的には,いささか遅きに失したと考えております。

 何でもそうですが,一度定着した「評判」を取り換えるのは容易ではありません。大手の企業は,既にフォーラムショッピングを行い,日本でなんか特許権侵害訴訟を起こしません。中小の企業は,外国特許権までお金が回りませんから,日本でしか特許権侵害訴訟を起こせないのですが,やる気は0ですね。
 わずか数年前には,私のような知財専門の弁護士をはじめとする技術系の法曹の必要性が声高に叫ばれていたようですが,今となっては無用の長物と言えるでしょう。弁護士の場合,弁理士と違って何でもできるのが,一応幸いとなるのでしょうかな。

5 追伸
 H21(行ケ)10121号,知財高裁H21.4.27判決も同旨です。
 これで,4つの判決が同じことを言っていると思います。いずれも3部,飯村さんの合議体です。


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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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