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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 今日も知財の話題などないなあと思っていたら,ふと目に入ったこのニュース。まだやるんですねえ・・・との第一印象だったのですが,色々調べているうちに,これは一審ではとても終わらないということがわかりました。

 兎にも角にも,一般に公開されているものからわかる範囲で,両者の攻防を振返ることにしましょう。

2 特許侵害訴訟(東京地裁平成21年(ワ)第7718号,平成22年11月30日判決)
(1)概要
本件は,発明の名称を「餅」とする特許第4111382号の特許権者である原告(越後製菓)が,被告(佐藤食品)において被告製品を製造,販売及び輸出する行為が本件特許権の侵害に当たる旨主張して,被告に対し,特許法100条1項及び2項に基づき,被告製品の製造,譲渡等の差止め並びに被告製品,その半製品及び被製品の製造装置の廃棄を求めるとともに,本件特許権侵害の不法行為による損害賠償として14億8500万円及び遅延損害金の支払を求めた事案です。

 これが,話題の事件であり,今回の控訴の対象となった事件です。
 しかし,まあ典型的な特許侵害訴訟なのですが,かなり密接な間柄とも思える同業他社同士での争いですから,何かあったのではないかと推察されますね。

 これに対して,東京地裁46部(大鷹さんの部です。)は,原告の請求を棄却しました。理由は,構成要件充足性に欠けるということです。

(2)問題点
クレームは以下のとおりです。

A 焼き網に載置して焼き上げて食する輪郭形状が方形の小片餅体である切餅の

B 載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に,この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に長さを有する一若しくは複数の切り込み部又は溝部を設け,

C この切り込み部又は溝部は,この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に一周連続させて角環状とした若しくは前記立直側面である側周表面の対向二側面に形成した切り込み部又は溝部として,

D 焼き上げるに際して前記切り込み部又は溝部の上側が下側に対して持ち上がり,最中やサンドウイッチのように上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされている状態に膨化変形することで膨化による外部への噴き出しを抑制するように構成した

E ことを特徴とする餅。」

 さてさて,問題となったのは,構成要件Bです。
 普通の人から見ると,若干わかりにくい面もあるのですが,特許のクレームにしては,わかりやすい方だと思います。要は,角形の餅の側面に,側面に沿った方向に,溝を設けたというものですね。

 さらに,端的にいうと,餅の上側や下側には溝はなく,側面のみ?に溝を設けたという趣旨か?ということですね(ちなみに,被告製品には,その餅の上側や下側に,十字形の溝があったようですので,「のみ」という解釈をとられてしまうと,構成要件充足性はないことになります。)。

(3)判旨
「オーブン天火による火力が弱い位置にあるため,焼き上がった後の切り込み部位が人肌での傷跡のような忌避すべき焼き形状とならない場合が多い」などの作用効果を奏することに技術的意義があるというべきであるから,本件発明の構成要件Bの「載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に,・・・切り込み部又は溝部を設け」との文言は,切り込み部等を設ける切餅の部位が,「上側表面部の立直側面である側周表面」であることを特定するのみならず,「載置底面又は平坦上面」ではないことをも並列的に述べるもの,すなわち,切餅の「載置底面又は平坦上面」には切り込み部等を設けず,「上側表面部の立直側面である側周表面」に切り込み部等を設けることを意味するものと解するのが相当である。」

(4)検討
 原告は,色々言い訳をしておりますが,明細書中の作用効果から,「のみ」であることは結構明白なようですし,結論として,「のみ」の解釈をとられてもしょうがないですね。

 しかし,これは特許侵害訴訟としては,一番単純な部類で,普通は,この程度だと訴訟までいかないのですけどね~。まあこの話は後回しにして,次行ってみよう!

3 判定(判定2009-600006,【判定日】平成21年5月12日)
(1)概要
 本件判定請求は、請求人である佐藤食品提出の回答書に添付されたイ号図面及びイ号物件の説明書に示す「餅」(以下「イ号物件」 という。)が、越後製菓保有の特許第4111382号の請求項1に係る発明の技術的範囲に属しない、との判定を求めるものです。

 判定知っている人?手を上げて~。
 知財部や弁理士の方なら知っていると思います。でも本当に使った人は少ないのではないかと思います。
 私も,検討はしたことはあるのですが,実際に請求したり,請求されたりしたことは一回もありません。使用頻度の少なさは,日本知的財産仲裁センターとどっこいどっこいでしょうか。だって,何の法的効果も得られないんだもん!条文は,特許法71条です。

 要するに,特許庁のサービス的なもので,構成要件充足性のみ判断して・あ・げ・る,というわけですね。ただ,相手方(今回は,特許権者)にも,判定請求書の副本は送付されますので,何らかのアクションはありえるわけです。

 さて,特許庁は,この判定について,構成要件充足性なし,としました。

(2)判旨
「本件発明の構成要件Bの「載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に、…切り込み部又は溝部を設け」るとは、載置 底面又は平坦上面に切り込み部又は溝部を設けず、上側表面部の立直側面である側周表面に、切り込み部又は溝部を設けることを意味すると解される。」

「一方、イ号物件の「載置底面(3)及び平坦上面(2)に十字の切り込み(7),(7'),(5),(5')を設けるとともに、この小片餅体(1)の上側表 面部の立直側面である側周表面(8),(8')に、この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に長さを有する複数の切り込み部(9),(9')を設 け」とは、小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面とともに、載置底面(3)及び平坦上面(2)に切り込みを設けていることは明らかである。
そうすると、イ号物件の構成bは、本件発明の構成要件Bを充足しない。」

(3)検討
 まあ侵害訴訟と同じ結論ですね。というか,誰がやっても同じ結論になるでしょ,これは。
 むしろ,どうして,この結論が出たのに,侵害訴訟をやめなかったのか不思議です。

3 無効審判(無効2009-800168,平成22年6月8日 審決)
(1)概要
 本件は,請求人である佐藤食品が,特許4111382号はこれを無効とする,との審決を求めて、の無効理由1~5(不明確,サポート要件違反,実施可能要件違反,新規性なし,進歩性なし)を主張して,越後製菓を被請求人として請求した無効審判です。

 無効審判の説明はいいですよね。

 この無効審判請求に対し,特許庁は,不成立審決としました。

(2)判旨
「以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び証拠によっては、本件特許を無効とすることはできない。 」

(3)検討
 無効理由がたくさんあるので,詳細は省略しました。さらに,これは,出訴されております。
「出訴事件番号(平22行ケ10225) 出訴日(平22.7.16) 知的財産高等裁判所 第3部」だそうです。
 ですので,本当の決着は,これからですね。

 ということで,今回侵害訴訟も控訴され,知財高裁に係属されるということになり,内部ルールからすると,これも3部(飯村さんの部です。)で判断されることになります。
 こういった事情もあり,冒頭に書いたとおり,これは終われないなあ,というところだと思います。

4 まとめ
 とにかく,結構明白に構成要件充足性がなさそうにも関わらず,何故ここまで特許権者側が頑ななのかわかりません。
 大きな企業同士の争いといえども,実の発端は幹部同士の極些細な諍いだったりします。今回のこの事件もそうなのかどうかわかりませんが,傍から見ていると,不毛ですね。

 弁護士がこんなこと言ってよいかわかりませんが,今回の件で笑うのは,弁護士だけですからね。判定でウマ-,無効審判でウマ-,無効審判の審取訴訟でウマ-,侵害訴訟でウマ-,侵害訴訟の控訴でウマ-,ですから。
 何事も損切りが難しいのはわかりますが,冷静になった方がいいと思いますね。



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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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