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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,ハンガリーに本社を持つ製薬会社のテバ社が,同社の保有する特許権(特許番号:特許第3737801号,発明の名称:プラバスタチンラクトン及びエピプラバスタチンを実質的に含まないプラバスタチンナトリウム,並びにそれを含む組成物)を協和発酵キリン社が侵害しているとして,同社製品の製造・販売の差止等を請求した特許侵害訴訟の事件です。

 そして,その特許のクレーム1には,
次の段階:
a)プラバスタチンの濃縮有機溶液を形成し,
b)そのアンモニウム塩としてプラバスタチンを沈殿し,
c)再結晶化によって当該アンモニウム塩を精製し,
d)当該アンモニウム塩をプラバスタチンナトリウムに置き換え,そし

e)プラバスタチンナトリウム単離すること,
を含んで成る方法によって製造される,プラバスタチンラクトンの混入量が0.5重量%未満であり,エピプラバの混入量が0.2重量%未満であるプラバスタチンナトリウム。
との記載がありました。いわゆるプロダクトバイプロセスクレームです。 クレームは複数ありますが,いずれもこのクレーム1の従属項です。

 結論として,東京地裁は,原告テバ社の請求を棄却しております。

 さてさて,ブログ創設以来,ようやく,私の専門領域の判決が紹介でき,感激一塩です。

2 問題点等
 プロダクトバイプロセスクレームというのは,「物」の発明(特許法2条3項1号)にもかかわらず,そのクレーム中に,対象となる物の製法が記載されているものをいいます。
 本来物の発明は,その構成(例えば,Siバルク基板の上,1000nm膜厚の酸化シリコン膜,その上の50nm膜厚の多結晶Si膜・・・・)だけで記載できますから,製法(例えば,酸化シリコン膜上の多結晶Si膜は,シランをLP-CVDにて・・・)をわざわざクレームに記載する必要はありません。

 ところが,最先端の物質発明や,バイオの発明などでは,構成そのもので物を特定できないものもあります。
 さらに,特許法36条5項には,「特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載しなければならない。」とあり,これは拒絶理由でも無効理由でもありません。
 したがい,出願人の好みで,製法で特定するか構成で特定するか許されているところもあります。
 以上のことから,プロダクトバイプロセスクレームは,広く行われております。

 しかし,一旦特許侵害の事件となり,技術的範囲の解釈(特許法70条)に際しては,このプロダクトバイプロセスクレーム,下手に製法の特定があるため,その製法に限定されるのではないか(製法限定説),いやいや物の発明なのだから,結果の物が同じなら同じだ(物同一性説),と争いが生じることが多いのです。もちろん,素直な被告が全部認めれば,こんな争いは起こりませんが。

 本件でも久々,このような典型的教科書事例が争いとなったのです。最近の特許侵害訴訟は,事実の争いは多いものの,こういう法律的な争いは殆ど無く,いっこんがおもしんねえんじゃ,と思っていたので,わくわくしますね。

3 判旨
「ところで,特許発明の技術的範囲は,特許請求の範囲の記載に基づき定めなければならない(特許法70条1項)ことから,物の発明について,特許請求の範囲に,当該物の製造方法を記載しなくても物として特定することが可能であるにもかかわらず,あえて物の製造方法が記載されている場合には,当該製造方法の記載を除外して当該特許発明の技術的範囲を解釈することは相当でないと解される。他方で,一定の化学物質等のように,物の構成を特定して具体的に記載することが困難であり,当該物の製造方法によって,特許請求の範囲に記載した物を特定せざるを得ない場合があり得ることは,技術上否定できず,そのような場合には,当該特許発明の技術的範囲を当該製造方法により製造された物に限定して解釈すべき必然性はないと解される。
したがって,物の発明について,特許請求の範囲に当該物の製造方法が記載されている場合には,原則として,「物の発明」であるからといって,特許請求の範囲に記載された当該物の製造方法の記載を除外すべきではなく,当該特許発明の技術的範囲は,当該製造方法によって製造された物に限られると解すべきであって,物の構成を記載して当該物を特定することが困難であり,当該物の製造方法によって,特許請求の範囲に記載した物を特定せざるを得ないなどの特段の事情がある場合に限り,当該製造方法とは異なる製造方法により製造されたが物としては同一であると認められる物も,当該特許発明の技術的範囲に含まれると解するのが相当である。」
として,本件では特段の事情はなく,被告製品の製法には,「a)プラバスタチンの濃縮有機溶液を形成し,」がないので,技術的範囲に含まれない,と結論づけました。

4 検討
 判旨は,修正製法限定説のようですね。要するに,プロダクトバイプロセスクレームの解釈に際しては,原則クレーム中の製法に限定するが,例外的に特段の事情があれば,製法をスキップできる,と読めるように思えます。
 まあ,具体的事件の解決に際しては,妥当な判断手法でしょう。

 ところで,この判旨ですが,高林龍先生の「標準特許法」の記載,ほぼそのままです~。高林先生の論文から頂いたのかもしれませんが,結構学説を気にしているのね,清水さん(今は,知財高裁に異動されたようです。)。

 なお,プロダクトバイプロセスクレームについての判決は,最高裁H10.11.10,東京高裁H9.7.17,東京地裁H14.1.28などがあります。

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