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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,控訴人(第1審の原告)であり第1審で負けた横浜ゴムが,被控訴人(第1審の被告)であり第1審で請求棄却を勝ち取ったヨネックスに対し,ヨネックスが製造,販売する7つのモデルのゴルフクラブ(被告製品)は,横浜ゴムが有する特許第3725481号(中空ゴルフクラブヘッド)の特許請求の範囲の請求項1記載の発明(本件発明)の技術的範囲に属すると主張して,出願公開後の警告から設定登録までの間の特許法65条1項に基づく補償金と設定登録後の民法709条に基づく損害賠償との合計額の一部請求として2億円などを請求した事案の控訴審です。

 第1審は,文言非侵害,均等非侵害であって,被告製品は,本件特許の技術的範囲に属しないとして,原告の請求を棄却しました(東京地裁平成20年12月9日)。
 具体的には,「本件発明の構成中の被告製品と異なる部分である「縫合材」は,本件発明の本質的部分であるから,本件発明の「縫合材」を備えていない被告製品を本件発明と均等なものと解することはできない。」として,いわゆる均等の第一要件で切ったのです。

 ところが,控訴審は,逆転で,しかも珍しいことに均等侵害によって(無効の抗弁も全て排斥),原告勝訴判決となりました。

2 問題点等
(1)問題点1
 この事件は,大型事件らしく中間判決があります(知財高裁平成21年06月29日)。この中間判決は,いわゆる侵害論について述べたものです。
 したがい,主文も「被控訴人が製造,販売する別紙製品目録記載のゴルフクラブは,控訴人が有する別紙特許目録記載の特許の特許請求の範囲の請求項1記載の発明の技術的範囲に属する。同特許は特許無効審判により無効にされるべきものとは認められない。」というものでした。

 そこでの問題点は,均等侵害の成否ということになります。控訴審でもやはり,文言侵害は認められませんでした。下記(d)を満たさないとされたのでした。

(d) 該貫通穴を介して繊維強化プラスチック製の縫合材を前記金属製外殻部材の前記繊維強化プラスチック製外殻部材との接着界面側とその反対面側とに通して前記繊維強化プラスチック製の外殻部材と前記金属製の外殻部材とを結合した

 この構成要件のうちの「縫合材」の解釈について,「本件発明の構成要件(d)の「縫合材」は,「金属製外殻部材の複数の(二つ以上の)貫通穴を通し,かつ,少なくとも2か所で繊維強化プラスチック製外殻部材と接合(接着)する部材」であることを要する」にもかかわらず,被告製品は,「金属製外殻部材に設けた一つの貫通穴に1回だけ通すものであって,・・・複数の貫通穴に複数回(2回以上)通すものではなく,また,上面側のFRP製上部外殻部材10と1か所で接着するにとどまり,少なくとも2か所で繊維強化プラスチック製外殻部材と接合(接着)するものではない。」と認定されたからです。
 要は,縫合材は2カ所で接合する部材なのに,被告製品は1カ所でしか接合してないよね~,というわけです。

 さてさて,均等論ですが,ボールスプライン事件(最高裁平成10年2月24日)直後は,受験界から実務まで,果ては,学者先生の方々までこれでもかというくらい話題に登り,何本もの論文が書かれました。
 しかし,祇園精舎の鐘の声諸行無常の響きあり,沙羅双樹の花の色盛者必衰の理を表す,奢れる均等論は久しからず,ただ春の夜の夢の如し・・・ではないですが,今は誰も論じません。
 そんな緊急避難的なもので侵害を認めても,無効の抗弁で春の夜の夢になってしまうからです。
 そうすると,まず文言侵害が無理そうなら,そこでもう諦めますよね~。均等論侵害の主張なぞは,負け筋も良いところ,あんた自分の特許権がかわいくないの!もうばかばかってな感じです。

 本件では,まず,ここが問題となりました。

(2)問題点2
 次に,終局判決では,そこは確かに問題だよね~と思われるようなことが問題となりました。
 すなわち,均等侵害で補償金請求権を認めてよいの?ということです。

 補償金請求権は,出願公開に基づくもので,特許権自体の効力とは違います。
 特許権は審査を経て登録されて初めて,禁止権の効力を及ぼせるものですから。
 そうすると,補正された場合はどうなるのかという本件と似たような問題点も生じます。ただ,補正の場合,新規事項追加の禁止等ということがありますから,禁止権の最大値は出願当初の明細書に開示されており,第三者に不意打ちとはなりません。
 ところが,均等侵害の場合,その最大値を越えて侵害を認めようというのですから,第三者に不意打ちとなる可能性が出てきます。
 刑事法で有名なテーゼとして,類推解釈の禁止というものがありますよね。要は,あれと同じことです。

3 判旨
(1)問題点1
「本件発明の目的,作用効果は,前記(1)ア(ア)の本件明細書の記載によれば,金属製の外殻部材と繊維強化プラスチック製の外殻部材との接合強度を高めることにある。特許請求の範囲及び本件明細書の発明の詳細な説明の記載に照らすと,本件発明は,金属製の外殻部材の接合部に貫通穴を設け,貫通穴に繊維強化プラスチック製の部材を通すことによって上記目的を達成しようとするものであり,本件発明の課題解決のための重要な部分は,「該貫通穴を介して」「前記金属製外殻部材の前記繊維強化プラスチック製外殻部材との接着界面側とその反対面側とに通して前記繊維強化プラスチック製の外殻部材と前記金属製の外殻部材とを結合した」との構成にあると認められる。・・・・,「縫合材であること」は,本件発明の課題解決のための手段を基礎づける技術的思想の中核的,特徴的な部分であると解することはできない。したがって,本件発明において貫通穴に通す部材が縫合材であることは,本件発明の本質的部分であるとは認められない。」

(2)問題点2
「なお,被告製品の具体的態様に照らすならば,本件各補正の内容は,被告製品が本件発明の技術的範囲に含まれるか否かの争点(均等を前提とした技術的範囲の解釈を含む。)に関係するものではないし,いわゆる侵害論において,このような観点からの当事者の主張もされていない」

4 検討
(1)問題点1
 これについては,そう認定すればそうなるよね,としか言いようがありません。第1審は,「縫合材」が本質的部分であると判断し,控訴審は,作用効果からして「縫合材」は本質的部分でないと認定しました。
 今後は,作用効果を重視して,単なる伝達的・媒介的機能しか持たない部材は本質的部分でないかもしれないと注意することが肝腎ですね。

(2)問題点2
 被告である被控訴人は,侵害論(中間判決)では,この論点を明示的に主張しなかったものと思われます。
 そりゃそうですよね,第1審では,文言非侵害,均等非侵害だったのであり,さらに無効の抗弁も主張していたのですから,マジノ線よろしく絶対に破られるわけがないとして,負け前提の最終防衛ラインの主張をするインセンティブには欠けます。ですので,終局判決でも,今更主張しても遅いわ馬鹿もん的な判示しかありません。
 ただ,論点としては気になりますよね。少なくとも上告受理申立(法令の解釈に関する重要な事項)をしてもよいのではないかと思います。

 ともかくも最近あまり注目されていなかった倉庫送りの問題点が論点になったいうことでおもしろい判決だと思います。

5 その後(2011/2/3)
 やはり,被告の方が上告受理申立を行っていたようです。しかし,最近,不受理決定がなされたとのことです。詳しくは,原告である横浜ゴムのHPを見て下さい。

 これにて,知財高裁のこの判決で確定することになりますね。ただ,色んな論点がありますから,最高裁の判断がないのは残念です。

 しかし,これでは被告のヨネックスが黙っていないでしょう。と思って,IPDL見たら,無効審判をやっていないのですね~。
 ただ,判定の請求はしています。そして,その結果は,「イ号物件は、本件発明の構成要件Dにおける「縫合材」を備えていないといえるから、本件発明の構成要件Dを充足しないものといわざるをえない。」として,構成要件充足性なし,という結論でした。

 つまり,被告のヨネックスとしては,特許庁の判定でも,第1審の東京地裁でも(阿部さんの合議体でした。昨日の講演で若干コメントがありました。),構成要件充足性なしの結論を得たのですから,無効審判なんか請求しなかったのでしょうね。
 おそらく,弁護士や弁理士の意見書も同じ結論だったのでしょうから,余裕で勝てるわい~と高を括っていたのでしょうね。
 ただ,これは責められません。正直,この件で,客観的に,均等論を含めて技術的範囲内!という結論を出せる弁護士はいなかったのではないかと思います。

 ですので,取りあえず,金を払って,商品は回収するとともに,改めて公知技術を探し無効審判を提起することですよ。

 ということで,この事件もしばらく続きますかな。
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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