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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 特許侵害訴訟の控訴審です。
 発明は,「鉄骨柱の建入れ直し装置」を名称とするものです。
控訴人たる原告は,前審の東京地裁に訴訟を提起したのですが,東京地裁は,構成要件充足性の判断をすることなく,乙1発明等に基づき進歩性なしと認定し,原告の請求を棄却しました。
 これに対して,原告が知財高裁に控訴したのが,本件です。

 そして,知財高裁は,構成要件充足性を認め,さらに進歩性も認め,原告の逆転勝訴としました。
 従来の傾向からすると,珍しい感がしましたので,取り上げました。

2 問題点等
 特段,法的な争点は相変わらずありません。そこは,最近の侵害訴訟って論文書こうとすると何も書くことなくて困っちゃうのよね~,というアンニュイなところです。まあ進歩性の話は,法的争点と言えなくもないのですが,結局事実認定の話に還元できそうなので,私にとっては・・・です。

 ただ,何をどう重視するかという取捨選択の観点は重要です。今回この事件を取り上げたのは,一審と控訴審で,主引例が同じでかつその一致点・相違点認定も同じであったにもかかわらず,結果として何故進歩性の有無の判断が違ったのか,そこにつきると思います。

3 判旨
「相違点1についてみるに,本件発明は鉄骨柱の立て直し装置であるのに対し,引用発明は車両ホイス(ジャッキ装置)であって,必ずしも技術分野が共通するものということはできない。」「・・・てこの原理によって,ベースプレートの低い側の縁部に,鉄骨柱の重量に対して比較的小さな力を加えることによって,その縁部を持ち上げて微調整をすることを可能としているということができるのに対し,乙1発明は,省力化のため,電動モータの力によって,対象物である車両の重量を積極的に引き受けて車両を上下させようとするホイスト(ジャッキ装置)を提供するものであって,発明の課題が異なるものである。」

4 検討
 被控訴人は,さらなる主引例の追加等もしたようですが,これらについても進歩性ありとしてはねられています。しかし,本質は,私が判旨で引用した部分です。
 この点に関し,一審は,「相違点1は,本件発明がジャッキ装置を「基礎コンクリートに固定されたテツダンゴ上に載置され,かつ,複数のアンカーボルトおよびこれらに螺合された複数のナットを介して前記基礎コンクリートに仮止めされたベースプレートを有する鉄骨柱の建入れ直し装置」として用いるのに対し,乙1発明はジャッキ装置を「地面からの車両ホイスト(ジャッキ装置)」として用いるという相違,すなわち,同じ構成を有するジャッキ装置をどのような用途で用いるのかという相違にすぎないことになる。」と,技術分野の違いや課題の違いについて,特段判断しておりません。

 昔読んだ「釣りキチ三平」に,釣りは鮒釣りに始まり,鮒釣りに終わるというような話があったような気がします。特許の世界で言えば,特許は進歩性に始まり,進歩性に終わると言っても過言ではないと思います。私が,特許の世界に飛び込んでから早12年ですが,いまだに進歩性はよくわかりません。経験や知識が増えれば増えるほど,なおわからなくなるという感がします。
 そのような中,巷に言われている進歩性の判断手法(審査基準由来でしょうね。)では,構成の組み合わせ又は置換が容易であるか否かが進歩性の判断基準とされています。そして,その動機付けとなりうるものとして,①技術分野の関連性,②課題の共通性,③作用・機能の共通性,④内容中の示唆が挙げられます。

 本件では,その①と②を捉え,特に②を非常に重視したのではないかと思われます。一審の東京地裁は,47部で,昨年の3月5日に判決があったものです。地裁の知財部と知財高裁は頻繁に人事異動がありますから,どちらかが突出して新傾向を打つということはあまり考えられません。
 むしろ,一審の東京地裁は,従来のイメージとおりで,私が原告の代理人だったとしても,結構諦めてしまうくらいのものです。何と言っても,審決取消訴訟だと,証拠の制限がありますが(メリヤス編機事件,最高裁大法廷判決です。知財で唯一の大法廷判決です。),継続審たる民訴の控訴審では,証拠の制限などありませんから,原告側は,控訴したとしても相当不利なのです。
 ところが,一審の判決から一年程度で,若干傾向が違うのでは??という判決が出たわけですから,今後も注意する必要があります。
 したがい,原告側でも,進歩性で無効の抗弁をくらっても,「諦めるな,知財高裁で課題の違いが言えれば何とかなる」とシュプレヒコールをあげてもよいのかもしれませんね。

 ところで,この判決は,滝澤さんの4部です。滝澤さんは,民商事事件のエキスパートとしてかなり有名な方で,知財高裁への異動直前に,「民事法の論点」(経済法令研究会)という非常にためになる本を出されております。
 ところが,最近は,「システム開発契約の裁判実務からみた問題点」(判タ2010年4月15日号)という,技術的な事件に関しての論文を出されております。勉強熱心な方であると思いますので(偉そうで,すみません。),実は飯村さん以上に新傾向に興味がおありなのかもしれません。
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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