忍者ブログ
知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 特許の訂正審判の不成立審決に対する審決取消訴訟の判決です。
 発明は,「酵素によるエステル化方法」を名称とするものです。
 前審たる審決は,本件出願が,「適法な分割出願であるということはできず,したがって,本件出願の出願とみなす日は現実の出願日である昭和62年9月26日となるところ,本件訂正後発明は原出願発明及び現実の出願日前の技術常識に基づいて当業者が容易に発明することができたものであって,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,その訂正は,平成6年法律第116号による改正前の特許法126条3項(以下「改正前126条3項」という。)の規定する独立特許要件を欠く,また,訂正事項6に係る訂正については,「明瞭でない記載の釈明」及び「誤記の訂正」のいずれにも該当せず,かつ,原出願明細書に記載した事項の範囲内のものでもないから,その訂正は,平成6年法律第116号による改正前の特許法126条1項(以下「改正前126条1項」という。)の規定に適合しない」と判断しました。
 要は,原出願の範囲内でないものを付加しているために,出願日が現実の出願日となったため,進歩性がないなどということです。

 これに対して,特許権者たる原告が,審決取消訴訟を提起しましたが,知財高裁は,請求を棄却しました。

 なお,これと平行して,原告は,これと同一の特許権に基づき,特許侵害訴訟について控訴をしておりましたが(原審の大阪地裁は,新規性なしとして請求棄却),知財高裁は,同日控訴を棄却しております(知財高裁平成20(ネ)10083)。

2 問題点等
 本件の特徴は,分割出願に係る出願について,訂正の要件が問題点となっているということです。

 他方,これに対して,通常よくあるのは,分割出願について,分割の要件自体が問題となるものです(特許法44条)。特許権者としては,太らせてから食おう,ということで,他社の実施態様を見て,それからやんわり係属していた特許出願(これも既に分割後のことも多いです。)を分割し,うまく捕捉できるようにする,ということを行うわけです。
 ただし,このようなことをすれば,分割要件スレスレでやることが多そうだなあということが直感的にわかりますね。それ故,分割出願で特許侵害訴訟を提起すると,結構な割合で,分割要件違反で権利行使不能をくらったり,無効審判を提起されての対世的無効にされたりします。
 本件では,さらに訂正も加わっているということですから,裁判の帰趨は,中身を見なくてもわかりそうなものです。

 もちろん,その帰趨自体も重要ですが,ここで問題とするのは,審決が「本件訂正の適否について判断するに当たり,本件訂正は本件訂正前発明を本件訂正後発明に訂正するものであるが,本件訂正前発明が原出願発明の分割出願に係る発明であるため,本件訂正後発明における技術的事項,すなわち,本件訂正後事項と原出願事項とを比較検討して」いるのが,適当か否かということにあります。
 要は,分割出願なのだから,本件訂正前事項と原出願を比較検討する必要があるのではないか,ということです。

3 本件判決の判旨
「しかしながら,本件訂正の適否について本件訂正後発明が独立特許要件を具備するか否かを判断する必要がある場合には,その進歩性の判断の基準時として,本件出願の出願日を確定する必要があるところ,本件出願は分割出願であるから,本件出願が適法な分割出願であれば,原出願の出願日である昭和55年3月14日に遡って出願したとみなされる(改正前44条2項)ので,原出願日が基準時となるのに対し,適法な分割出願でなければ,本件出願の現実の出願日が基準時となるのであって,その基準時を確定するためには,まずもって本件出願が分割出願として適法なものであったか否かを検討する必要がある。
しかるところ,本件出願が適法な分割出願であったというためには,分割出願の発明の構成に欠くことができない技術的事項,すなわち,本件訂正前の請求項1に係る発明(以下「本件訂正前発明」という。)の構成に欠くことができない技術的事項(以下「本件訂正前事項」という。)が原出願の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された事項であること,すなわち,原出願事項の範囲内であることが必要であって,原出願事項の範囲内であるか否かを検討する対象となるのは,本件訂正後事項ではなく,本件訂正前事項でなくてはならない。けだし,本件訂正後発明の進歩性について判断するのは,本件訂正の適否を検討するためであるところ,原出願日を基準にその判断をすることが可能であるのは,本件出願が適法な分割出願であった場合であることを前提とするが,本件においては,その分割出願の適否もまた問題となっているからである。」

4 検討
 原告被告とも,審決の枠組みに則って,主張・立証をしますから,審取訴訟においても,訂正後事項が原出願の範囲内か否かを主張・立証等していたようです。
 ところが,知財高裁は,そもそも論に立ち,親亀がこけたら子亀もこくんのんじゃ!親亀がこけてねえかどうかよう調べんか,と前提がきちんとしているかどうか判断しました。
 知財高裁が,このように審決と異なった判断手法をとった以上,審決はミスをしていることにはなるのですが,取り消すほどの瑕疵ではないとして,結論自体は是認されております。こういうところも職権主義ですなあ,こりゃこりゃ。

 まあこういうのは,どっちかに決めてくれればそれでよい準則のようなものですから,今後は,こういう判断手法ないし枠組みで推移すると思います。
PR
24  23  22  21  20  19  18  17  16  15  14 
カレンダー
07 2017/08 09
S M T W T F S
3 4 5
11
13 15 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31
ブログ内検索
プロフィール
HN:
iwanagalaw
HP:
性別:
男性
職業:
弁護士
趣味:
サーフィン&スノーボード
自己紹介:
理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
カウンター
アクセス解析
忍者アナライズ
Admin / Write
忍者ブログ [PR]