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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 特許の拒絶審決に対する審取訴訟です。発明は,その名称を「耐油汚れの評価方法」とするものです。クレームも簡単ですから,特別に,全文書いておきます。

被評価物の表面を水平面に対して特定の角度に傾斜するように固定し,油脂とカーボンブラックとを有する特定量の擬似油汚れを該被評価物の表面に滴下し,続いて特定量の水を該擬似油汚れよりも上方の該被評価物の表面に特定の高さから滴下して,該擬似油汚れの残留状態により該被評価物の耐油汚れを評価することを特徴とする耐油汚れの評価方法。

 原告は,(株)INAXさんらですから,特許のクレームしては珍しく,どのような評価方法であるかは結構一目瞭然ですよね。それがポイントとなってもきます。

 審決は,この発明について,引用発明Aとの相違点(あ)と(い)を認めたものの,それぞれ,引用発明B,引用発明Cから,想到容易としました(進歩性なしということですね。)。

 訴訟では,相違点(い)が,特に問題となっております。

 そして,知財高裁(3部)は,この審決を取り消しました。

2 問題点等
 一見簡単な発明ほど,その価値は高いということがあります。例えば,ねじ,歯車,車輪など,その典型だと思います。
 ところが,このような発明は,一見簡単,わかりやすいからこそ,貶められることも多いのです。吉藤先生は自著で,「コロンブスの卵」の話を引用しておりますが,判断権者には厳に留意して欲しいところです。

 そういう意味では,以下のようなことがありました。
 2年くらい前,東京の弁護士会館(クレオ)で,知財に関する公開講座がありました。内容は,特許の間接侵害関係だったと思います。
 講師は,有名な大学教授のC先生でした。その中で,間接侵害の話でよく出てくる或る事件の説明に関し,問題となっている発明について,彼の先生は,「私にも考えつきそう」という旨の発言をしたのです。
 会場からは笑いが漏れておりましたが,私ははらわたが煮えくりかえりましたね。
 われん論文でんが,だれでんが考えつくんじゃねえんか,こーん,と言えないところは悲しいですが,まあこの程度の認識で特許のことを講釈するとは,とんでもない話です。

 一見簡単だからこそ,きちんと判断しなければならない,当たり前ですよね。一見こいつが犯人だから,審理も適当に有罪ベルトコンベアーで有罪へどうぞ,だと誰でもおかしいことがわかると思います。進歩性も同じことです。

3 判旨
「前記のとおり,引用刊行物A記載の発明は,擬似油汚れについて特定量を滴下し,乾燥工程を設けないとする相違点(い)に係る構成を欠くものである。同発明は,本願発明における時間,労力,価格を抑えることを目的として,手順を簡略化しようとする解決課題を有していない点で,異なる技術思想の下で実施された評価試験に係る技術であるということができる。このように,本願発明における解決課題とは異なる技術思想に基づく引用刊行物A記載の発明を起点として,同様に,本願発明における解決課題とは異なる技術思想に基づき実施された評価試験に係る技術である引用刊行物C記載の発明の構成を適用することによって,本願発明に到達することはないというべきである。

本願発明は,決して複雑なものではなく,むしろ平易な構成からなる。したがって,耐油汚れに対する安価な評価方法を得ようという目的(解決課題)を設定した場合,その解決手段として本願発明の構成を採用することは,一見すると容易であると考える余地が生じる。本願発明のような平易な構成からなる発明では,判断をする者によって,評価が分かれる可能性が高いといえる。このような論点について結論を導く場合には,主観や直感に基づいた判断を回避し,予測可能性を高めることが,特に,要請される。その手法としては,従来実施されているような手法,すなわち,当該発明と出願前公知の文献に記載された発明等とを対比し,公知発明と相違する本願発明の構成が,当該発明の課題解決及び解決方法の技術的観点から,どのような意義を有するかを分析検討し,他の出願前公知文献に記載された技術を補うことによって,相違する本願発明の構成を得て,本願発明に到達することができるための論理プロセスを的確に行うことが要請されるのであって,そのような判断過程に基づいた説明が尽くせない限り,特許法29条2項の要件を充足したとの結論を導くことは許されない。

本件において,審決は,上記のとおり,本願発明と引用刊行物A記載の発明と対比し,擬似油汚れについて特定量を滴下し,乾燥工程を経由しないで水洗するとの構成を相違点と認定している。しかし,審決は,本願発明と,解決課題及び解決手段の技術的な意味を異にする引用刊行物A記載の発明に,同様の前提に立った引用刊行物C記載の事項を組み合わせると本願発明の相違点に係る構成に到達することが,何故可能であるかについての説明をすることなく,この点を肯定したが,同判断は,結局のところ,主観的な観点から結論を導いたものと評価せざるを得ない。」

4 検討
 さすが,飯村さん,C先生に聞かせてやりたいですね。太字にしたのは,我が意を得たり,との感動からです。
 課題をきちんと把握しましょう,技術思想もきちんと把握しましょう,その上で組み合わせが容易であるか,今一度,客観的に判断しましょう,ただこれだけです。
 よくある進歩性の判断手法には,このような当たり前のことは,当たり前に書かれております。
 上手の手からも水は漏れます,偉い先生でも偉い弁護士でも偉い審判官でも偉い裁判官でもミスはします。ミスをしたときこそ,その人の本当の人間力が出ますので,その処理如何が本当に偉いか偉くないかの違いのような気がします。
 世の中に簡単な発明なんぞ,そうあるもんじゃありませんよ,C先生。
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