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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,名称を「耐疲労特性に優れた高強度無方向性電磁鋼板とその製造法」とする発明につき特許出願した原告が,特許庁より拒絶査定を受けたことから不服審判請求をしたものの,さらに特許庁から拒絶審決(進歩性なし)を受けたため,これを取り消すべく出訴した審決取消訴訟です。

 これに対し,知財高裁2部は,この審決を取り消しました。要するに,進歩性はあるよ,としたわけです。

ちなみに,クレームは,

【請求項1】
 質量%で,
C:0.01%以下,Si:0.3%以上2.9%以下,Mn:2.0%以下,
S:0.001%以上0.01%以下,酸可溶Al:0.7%以上3.0%以下,
P:0.1%以下,
N:0.0050%以下,残部Feおよび不可避不純物より成る鋼組成を有し,
下記式(1)~(3)を満たすことを特徴とする無方向性電磁鋼板。
Sieq*σw/τ≧4.0・・・・・(1)
σw≧350・・・・・(2)
τ≦95 ・・・・・(3)
ただし,Sieq=Si+酸可溶Al+1/2Mn(すべてSi,Al,Mnは
それぞれの化学成分の質量%),σwは表面コーティングおよび打ち抜き加工後の疲
労限(MPa),τはフェライト結晶粒径(μm)である。
です。

典型的な数値限定発明ですね。
さらに一致点・相違点は以下のとおりです。
【本願発明と引用発明の一致点】
「質量%で,
C:0.01%以下,Mn:2.0%以下,S:0.001%以上0.01%以
下,酸可溶Al:0.7%以上3.0%以下,P:0.1%以下,残部Feおよび
不可避不純物より成る鋼組成を有する無方向性電磁鋼板」である点。
【本願発明と引用発明の相違点】
(1) 相違点1
「本願発明が『Si:0.3%以上2.9%以下』を含むのに対し,引用発明のSi量は3.1%である点。」
(2) 相違点2
「本願発明が『N:0.0050%以下』に限定するのに対し,引用発明のN量が不明な点。」
(3) 相違点3
「本願発明が
『下記式(1)~(3)を満たすことを特徴とする無方向性電磁鋼板。
Sieq*σw/τ≧4.0・・・・・(1)
σw≧350・・・・・(2)
τ≦95 ・・・・・(3)
ただし,Sieq=Si+酸可溶Al+1/2Mn(すべてSi,Al,Mnはそれぞれの化学成分の質量%),σwは表面コーティングおよび打ち抜き加工後の疲労限(MPa),τはフェライト結晶粒径(μm)である。』のに対し,引用発明が式(1)~(3)を満たすか不明な点。」

2 問題点
 この夏,相講師の弁理士の方と弁理士会主催の研修で,数値限定発明についての講師をしたことは述べました。そして,最近も,別の数値限定発明について,進歩性が認められた判決を紹介しました。

 さて,この数値限定発明ですが,このうち特に,化学系の分野では,数値限定しないとなかなか戦えないというのが実情なのですね。しかしながら,ばったばったと切られることも多いので,化学系の企業の知財部員や弁理士としたら,どうやったらうまく審査・審判をクリアして特許査定をもらえるのかということに日々頭を悩ましていると思います(無効審判のことまで考えられるか,ということでもありますが)。

 今回のポイントはスタンダードに真面目に正攻法で戦っても勝てる場合はあるよ,ということでしょうか。

3 判旨
【相違点1について】
「そして,被告が提出するその余のすべての証拠に照らしても,引用発明の電磁鋼板において,鋼中のSi,Al,Mnの各含有成分の打ち抜き加工性に対する作用が等価であれば,結晶粒径や疲労限に対する作用も等価であるとか,Si及びAlのみならずMnについても,結晶粒径や疲労限に対して等価な作用を及ぼす含有成分であるということは困難であるといわざるを得ない。
したがって,本願発明の出願日当時,引用発明の構成から,相違点1に係る構成,すなわち「Siを0.3%以上2.9%以下の範囲内に減量すると共に,Mnを2.0%以下,sol.Alを0.7%以上3.0%以下の範囲内で増量すること」とした場合に,当該電磁鋼板が好ましい磁気特性(鉄損,磁束密度等)及び疲労強度特性(疲労限等)の双方を獲得し得るか否かは,当業者においても容易に予測し難い事柄であったものといわざるを得ない。」
「結局,審決の前記(1)の判断は,その前提を欠くものであって,本願発明の出願日当時,引用発明の構成から,相違点1に係る構成に想到することは,当業者が容易になし得たものではないというべきである。」

4 検討
 今回は,かなりディープなところでの戦い(法的判断というより,技術的判断の要素が強い)故に,正攻法が効を奏したのかもしれません。
 基本的には,相違点1について,副引例にはドンズバの記載がなかったのですね。とすると,特許庁としては,設計事項系の話とせざるを得なかったわけです(本件では,「当業者が容易になし得た等価成分間の含有量調整である」と審決で示したようです。)。

 このように示されると,攻撃側としては,パターンは決まっております。予想以上の効果はある=本件では,等価成分とは言えず作用効果が全然違う,という主張をしていくわけです。
 原告は,丹念にこれをやり,裁判所に自説を認めさせることに成功しました。これは,すばらしいですね。こういう正攻法は,出願時からずっとやっている弁理士の方ならではという感がします。

 ところで,塩月さんの新2部の判決を紹介したのは,これが初めてかもしれません。
 塩月さんは,最近は知財から離れていたようですが,知財との付き合い自体は長いと思います。この点,旧2部で今や新所長の方とは違いますね。
 ちなみに塩月さん絡みで一番有名なものは,いわゆるリパーゼ判決の最高裁判例解説ですよね。判決自体よりもこの調査官解説を巡って,その解説の解釈が様々あり,翻ってリパーゼ判決の解釈もいまだに諸説紛糾状態ですから,一度塩月さん自身のお考えを再度お聞きしたいものです。
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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