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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,控訴人(原告)が,被控訴人(被告)を相手方として,平成20年10月から12月にかけて原審の大阪地裁に対し,①被控訴人の製造する被告製品Aは控訴人の本件意匠権A を侵害する(A事件),②被控訴人の製造する被告製品Bは控訴人の本件特許権を侵害する(B事件),③被控訴人の製造する被告製品Cは控訴人の本件意匠権Cを侵害する(C事件),として,それぞれ,(i)製造・販売・販売の申出の差止めと,(ii)半製品と各製品の製造に用いる型の廃棄,(iii)弁護士費用相当額の損害賠償(A事件は100万円,B事件は200万円,C事件は100万円)と各遅延損害金の支払いを求めた,特許権・意匠権の侵害訴訟の控訴審です。

 まず,原審である大阪地裁は,被告製品Aは原告の本件意匠権Aに類似しない,被告製品Bは原告の本件特許権を侵害しない(文言充足性なし,均等でもない),被告製品Cは原告の本件意匠権Cに類似しない,として,原告の請求を棄却しました。

 これに対して,知財高裁1部は,逆転で,特許権侵害を認めました。何と,均等侵害です。

 さあ年に一度の均等侵害判決です。学者のみなさ~ん,出番ですよっ!

2 問題点
 まあ均等侵害の主張なんて負け筋もいいところです。ボールスプライン事件のころは猫も杓子も均等均等,ちょうど私が知財部に異動し,弁理士試験受験生となる直前にこの事件の最高裁判決が出たものだから,知財部でも受験界でも大騒ぎ~♪。しかし,今や何だっただろう,あの騒ぎは?!というくらい,実務ではあまり見かけないものになりました。

 ですので,昨年の中空ゴルフクラブヘッド事件はすごく話題になったのです。ゾンビ復活でしたからね。

 本件もそのゾンビが復活しました。
 クレームからです。
A 丸型の蓋本体と,この蓋本体を内周面上部で支持する受枠とからなる地下構造物用丸型蓋において,
B 受枠の内周面上部には,受枠の内方に向けて凸となる受枠凸曲面部を形成するとともに,この受枠凸曲面部の上方に凹状の受枠凹曲面部を連続して形成し,
C 蓋本体の外周側面には,前記受枠凸曲面部に倣った凹状の蓋凹曲面部を形成するとともに,この蓋凹曲面部の上方に前記受枠凹曲面部に倣った凸状の蓋凸曲面部を連続して形成し,
D また,前記受枠凹曲面部の上方には,受枠の上方に向けて拡径する受枠上傾斜面部を連続して形成し,
E 前記蓋凸曲面部の上方には,蓋本体の上方に向けて拡径する蓋上傾斜面部を連続して形成し,
F 蓋本体を受枠で支持した閉蓋状態において,受枠上傾斜面部と蓋上傾斜面部は嵌合し,
G 蓋凸曲面部と受枠凹曲面部および蓋凹曲面部と受枠凸曲面部は接触しないようにしたことを特徴とする
H 地下構造物用丸型蓋。

 平たくいえば,マンホールの蓋とマンホールの受枠の発明ということになりますね。ポイントは上記の構成要件Bの「受枠凹曲面部」です。

 これに対して,イ号物件の対応部は,凹面ではあったものの,曲面ではなく直線と直線によるいわば,段部でした。
 そこで,一審は,文言の充足性なしとしました。
 さらに,本件発明において,受枠凹曲面部の曲面が,均等論第一要件の「本質的部分」だとし,これの置き換えにあたると認定し,均等侵害も認めませんでした。

 ちなみに,本件発明の効果としては,①バールで蓋本体を引きずるようにしたり,蓋本体を後方から押し込むだけで蓋本体を受枠内に スムーズに収めることができること (本件作用効果①),②蓋本体のガタツキを防止できるとともに,土砂,雨水等の地下構造物内部への浸入を防止できること(本件作用効果②)が挙げられています。

3 判旨
「上記①における『特許発明の本質的部分』とは,明細書の特許請求の範囲に記載された構成のうち,当該特許発明特有の解決手段を基礎付ける技術的思想の中核をなす特徴的部分を意味するものである。 」

「 以上によれば,本件特許(RV構造)出願以前から,平受構造や急勾配受構造のマンホールは存在したが,本件発明では,内鍔(棚部)を用いず,凸曲面部と凹部で構成することにより,『閉蓋の際,バールで蓋本体を引きずるようにしたり,蓋本体を後方から押し込むだけで蓋本体を受枠内にスムーズに収めることができる』ようにしたものと認められ,その全体的な構成をみれば,被告製品Bにおいても,凹曲面部はないものの,本件発明の構成と類似の構成を採用したことによって,蓋本体を受枠内にある程度スムーズに収めることができるものといえる。
  このように,内鍔(棚部)を設けず,凸曲面部と凹部とで受枠を構成するという点において,本件発明と被告製品Bとは共通している。・・・・ 他方で,本件発明の請求項の分説B,C,Gのほか,明細書の段落【0008】,【0020】においても,繰り返し『凸曲面部』と『凹曲面部』とが対になって記載され,蓋本体と受枠それぞれに凸曲面部と凹曲面部を設けるという構成を採用したことによって,『閉蓋の際,バールで蓋本体を引きずるようにしたり,蓋本体を後方から押し込むだけで蓋本体を受枠内にスムーズに収めることができる』との作用効果(本件作用効果①)が生じる旨記載されている。
  以上を前提として,明細書のすべての記載や,その背後の本件発明の解決手段を基礎付ける技術的思想を考慮すると,本件発明が本件作用効果①を奏する上で,蓋本体及び受枠の各凸曲面部が最も重要な役割を果たすことは明らかであって(段落【0009】【0020】等参照),『受枠には凹部が存在すれば足り,凹曲面部は不要である』との控訴人の主張は正当であると認められ,本件発明において,受枠の『凹曲面部』は本質的部分に含まれないというべきである。
 なお,明細書の段落【0020】には,『閉蓋状態において,受枠上傾斜面部と蓋上傾斜面部および受枠下傾斜面部と蓋下傾斜面部は嵌合し,蓋凸曲面部と受枠凹曲面部および蓋凹曲面部と受枠凸曲面部は接触しないようにする』という構成を採ることにより,本件作用効果②を奏する旨記載されており,ここでは受枠の凹部が『曲面部』であるかどうかは問題とされていないといえ,本件作用効果②を奏する上でも,受枠の凹部が『曲面部』であることは本質的部分には含まれないというべきである。 」

4 検討
 結局,カクカクしようが(段部,イ号),なめらかにしようが(曲面部,本件発明),それにかかわりなく,作用効果は生じ,凹んでいればよく,そのカクカク性は本質的なものではないという判断ですね。

 まあ,これについても,いつものとおり,最終的には,価値判断の話でして,そう考えれば,そうなるんじゃねえ~の~くらいのものですので,大したコメントは不要でしょう。

 しかし,私が感じたのは,あの石頭のコンコンチキとも思えた中野さんの合議体でもやるときはやるんだなあという所です。つまりは,遅きに失した本当のプロパテントへの一助でしょうね。

 あ~あ,もう数年,せめてリーマンショック前にこういう傾向が始まっていればよかったのでしょうけど,一度押された烙印(日本で特許訴訟やってもしょうがない)は,ちょっとやそっとでは拭い落とすことはできませんね。

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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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