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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 本件は,原告ら(自然人と大林精工)が,被告(LGディスプレイ)に対し,被告が別紙目録1及び2記載の各特許権の移転登録手続を求める権利及び同目録3記載の各特許出願の特許を受ける権利の移転手続を求める権利を有しないことの確認を求める事案です。

 これに対して,東京地裁46部(大鷹さんの合議体です。)は,本件の訴えを却下!しました。

 なかなか時間が取れない状況はまだ終わっていないのですが,下調べなしでも結構わかる判決がありましたので,その紹介です。

 論点としては,訴えの利益と渉外管轄ってところでしょうか。

2 問題点
 訴えの利益というのは,結構難しい民事訴訟法上の概念です。特に確認訴訟という類型で問題となります。

 あ,民事訴訟の類型に3つあるというのはご存知ですね。給付訴訟,確認訴訟,形成訴訟です。給付訴訟というのは,一番よくあるパターンで,とにかく何かくれとかやれとかいうものです。他方,確認訴訟というのは,知財畑の人に説明するには,発見のようなもので,形成訴訟というのは,発明のようなものだと言えばわかりますかね。
 確認は,今現在存在する既存の権利や法律関係を見出すだけ,つまり見出すことにかかわりなく,その権利や法律関係は存在するわけですね。他方,形成は,ないものを有ること,または有ることをないことにするわけで,形成を経ないと何も始まらないというようなものです。ですので,前者は発見に,後者は発明にピッタリというわけです。

 確認訴訟のポピュラーなものは,無効審判ついでに実施者が起こす,差止請求権不存在確認訴訟でしょうかね。形成訴訟のポピュラーなものは,知財だとあんまりないかなあ,離婚訴訟が典型なんですけどね。

 で,それぞれの類型ごとに訴えの利益というのを吟味することにはなります。まあこの訴えの利益っていうのは,平たく言えば,国家機関たる裁判所の無駄遣いを防ぎ,リソースを守るということになります。
 例えば,差止請求権存在確認訴訟をやろうとしても,それは訴えの利益がないということになります。だって,端的に差止請求訴訟(給付訴訟)をやった方が話が早く,紛争の解決になります。ま,つまりは,そんなのやってもしょうがねえじゃん,ってえのが訴えの利益が認められないという感じでしょうかね,ああざっくりざっくり~♪

 で,確認訴訟というのは上記のとおり,現状維持だけ,ですので,わざわざそんなことだけやるの~ということもあり,訴えの利益は認められにくい,とこういうわけなのですね。

 つぎに,渉外管轄というのは,日本の裁判所に管轄があるか,それとも外国か,ということです。管轄というのはややこしい面がありますが,近時民訴法が改正され,様々な類型で多少明確になったと思います。

 本件では,原告らと被告間での特許権及び特許を受ける権利の譲渡契約の履行(被告であるLGディスプレイが,原告らに特許権等の移転登録を求めたのです。)が問題となったのですが,契約上,「9.本件合意書に関し紛争が行った場合,その準拠法は韓国法令とし,管轄法院(裁判所)はソウル中央地方法院にする。」とありました。
 すると,民訴法上は,第三条の七第1項「当事者は、合意により、いずれの国の裁判所に訴えを提起することができるかについて定めることができる。」というので,韓国に管轄があるように思えます。

 その通り,実は,この訴訟の前,韓国で特許権等の移転登録を求める給付訴訟の提起があり,これはLGディスプレイ側の勝訴で確定しており,さらに日本において執行判決を求める訴えも提起済みなのですね(民事執行法22条により,外国の確定判決はそのままでは債務名義にならないのです。)。じゃあもう結論も見えたもんだという気もします。

 ところが,同じ民訴法には,第三条の五第3項「知的財産権(知的財産基本法 (平成十四年法律第百二十二号)第二条第二項 に規定する知的財産権をいう。)のうち設定の登録により発生するものの存否又は効力に関する訴えの管轄権は、その登録が日本においてされたものであるときは、日本の裁判所に専属する。」があり,これによると,特許権はこの条文の典型例ですし,移転登録も存否と言えば存否にあたるようだし,こっちの条文の適用もある気もします。ちなみに,専属管轄の方が通常強力なのですね~。

 さーて結局どう判断したんでしょうね。

3 判旨
「外国裁判所の確定した給付判決であるソウル高等法院判決の執行判決を求める訴えである別件訴訟①及び②が現に係属している場合に,給付判決の基礎とされた同一の請求権又は実質的に同一の請求権が存在しないことの確認を求める消極的確認の訴えである本件訴訟を許容するならば,執行判決の要件である民訴法118条1号の外国裁判所における国際裁判管轄の有無と表裏一体の関係にある消極的確認の訴えの国際裁判管轄の有無について,執行判決を求める訴えの係属する裁判所の判断と消極的確認の訴えの係属する裁判所の判断とが矛盾抵触するおそれが生じ得るのみならず,請求権の存否についても,外国裁判所の確定判決の判断内容の当否を再度審査して,それと矛盾抵触する判断がされるおそれが生じ得ることとなり,裁判の当否を調査することなく,執行判決をしなければならないとした民事執行法24条2項の趣旨に反するのみならず,当事者間の紛争を複雑化させることにつながりかねないものと認められる。
 また,仮に外国裁判所の確定判決の執行判決を求める訴えに係る請求が認容され,その判決が確定した場合には,同一の請求権について消極的確認請求を認容する判決が確定したとしても,当該判決には,前に確定した判決(外国裁判所の確定判決)と抵触する再審事由(民事訴訟法338条1項10号)が存することとなり,他方で,外国裁判所の確定判決の執行判決を求める訴えに係る請求が棄却され,当該判決が確定した場合には,日本において同一の請求権に基づく給付の訴えが提起される可能性があり,その場合には,同一の請求権についての消極的確認の訴えは訴えの利益を欠く関係にあるから,いずれの事態も消極的確認の訴えにより紛争の解決に直結するものとは認め難い。
 以上を総合すると,ソウル高等法院判決の執行判決を求める訴えである別件訴訟①及び②が現に控訴審に係属している状況下において,本件訴訟(本件訴え)により被告が目録1及び2の各特許権の移転登録手続を求める権利並びに目録3の各出願の特許を受ける権利について移転手続を求める権利を有しないことの確認を求めることは,原告らと被告間の上記各特許権及び特許を受ける権利の帰属に関する紛争の解決のために必要かつ適切なものであるとはいえないから,本件訴えは,いずれも確認の利益を欠く不適法なものであるというべきである。」

4 検討
 いやあ学者が喜びそうな事案ですね~♪

 さて,裁判所は2つの理由から,訴えを却下しているように思えます。
 まずは,現に執行判決を求めている裁判の判断と矛盾し,さらに,執行判決の判断で実体的判断を迫られてしまうこと(民事執行法24条2項よりそれはできない。)。

 次に,執行判決により執行可能になって確定しても,今回の裁判がLGディスプレイ側の敗訴で確定すると再審事由になってしまい,他方執行判決が執行不可能で確定した場合は,日本で新たに給付訴訟を起こさないといけないわけで,どっちにしろ訴えの利益がないこと。

 結論としては,これで良いとまでは言えないかもしれませんが,いたし方ないという気がします。執行判決が得られたら,債務名義になるのですから,今更ジタバタしても仕方無い感がありますねえ。

 悔やむべきは韓国の訴訟だとか今回の訴訟ではなく,最初の契約書!です。まあ相手方が大手だったのでバーゲニングパワーが無かったのだと思いますが,それでも被告地主義にしておかないと。恐らく,弁護士のレビューをケチってこのザマってやつなんではないでしょうか。
 予防法務としての弁護士の契約書レビューなんていくら高くても数十万円で済みます。他方,今回の訴訟に費やしたお値段は?しかも日経紙の推薦するベスト弁護士なんて頼んだ日にゃあ~どんだけ~♪ってもんですよ。企業の皆さん,こういうところをケチっちゃダメですよ,とステマも織り込んでおきます。
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