忍者ブログ
知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,発明の名称を「地震時ロック方法及び地震対策付き棚」とする特許権を有する原告が,同特許権に係る特許出願についての出願公開があった後,被告らに特許出願に係る発明の内容を記載した書面を提示して警告をしたにもかかわらず,被告らが同特許権に係る発明の技術的範囲に属する製品を販売したとして,いずれも特許法65条1項に基づき,被告サンウエーブ工業らに対し,補償金等の支払を求める,特許権侵害訴訟の事案です。

 大阪地裁は,「被告物件は,少なくとも構成要件Cを充足しないから,本件特許発明の技術的範囲に属すると認めることはできない。」として,原告の請求を棄却しております。

2 問題点
 よくあるタイプの侵害訴訟ですが,気になったのは,上記構成要件Cの解釈です。
 ちなみに,構成要件Cは,「C 地震時に前後または左右のゆれでその後部において回動の動きが妨げられ扉等の開く動きを許容しない状態になり,」です。

 これについて,原告は,「被告ら及び補助参加人は,特許請求の範囲の記載が機能的クレームであるとして,本件明細書に記載された実施例に限定して技術的範囲を解釈すべきであると主張するが,特許請求の範囲の記載が機能的,抽象的であるからといって,その技術的範囲が無条件に実施例に限定されるわけではない。明細書の記載から当業者が容易に実施できる発明は技術的範囲に含まれると解すべきであるから,被告物件が構成要件Cを充足することは上述のとおりである。」と主張しております。
 何だか懐かしい感じもしますね。

 というのは,従前,クレームの記載が抽象的・機能的であって,それだけでは課題の解決を示したということができない場合には,実施例に限定して技術的範囲を定めるべきという考えがありました(例えば,「特許法概説 13版」p505など)。判決も東地昭和51.3.17などがあります。

 しかし,公知技術とダブりのある場合のクレーム解釈,作用効果を奏しない部分がある場合のクレーム解釈,本件のように機能的過ぎる場合のクレーム解釈・・・については,いわゆる無効の抗弁ができた以上,それぞれ,新規性・進歩性なし,サポート要件なし,明確性なし又はサポート要件なし・・・等々で処理すればよく,無理に無理を重ねたようなクレーム解釈をする必要はないのが現状です。

 さて,大阪地裁はどう判断したのでしょうか?

3 判旨
「ところで,特許権に基づく独占権は,新規で進歩性のある特許発明を公衆に対して開示することの代償として与えられるものであるから,このように特許請求の範囲の記載が機能的,抽象的な表現にとどまっている場合に,当該機能ないし作用効果を果たし得る構成すべてを,その技術的範囲に含まれると解することは,明細書に開示されていない技術思想に属する構成までを特許発明の技術的範囲に含ましめて特許権に基づく独占権を与えることになりかねないが,そのような解釈は,発明の開示の代償として独占権を付与したという特許制度の趣旨に反することになり許されないというべきである。
したがって,特許請求の範囲が上記のように抽象的,機能的な表現で記載されている場合においては,その記載のみによって発明の技術的範囲を明らかにすることはできず,上記記載に加えて明細書及び図面の記載を参酌し,そこに開示された具体的な構成に示されている技術思想に基づいて当該発明の技術的範囲を確定すべきであり,具体的には,明細書及び図面の記載から当業者が実施できる構成に限り当該発明の技術的範囲に含まれると解するのが相当である。」

4 検討
 うーん,という感じですね。手法としては,昔懐かしの手法ですので,それ自体違法・不当となるわけではないのですが,これで棄却された原告が納得しますかね?
 広い機能的クレームなので,形式上,技術的範囲に属する,しかしながら,広く機能的過ぎて,記載要件に不備がある・・・の方が,原告被告双方の納得が得られるような感がします。
 というのは,無効の抗弁で刎ねられると,無効審判でもダメそうだという蓋然性が強く推認できますので,紛争の解決ということからすると,実効性は大ありなのですね。
 まあ刑事事件と同様,構成要件該当性がまず重要なのだ,という考え方も悪くはないのですが,それで曲芸のようなクレーム解釈をしなければならないのであれば,本末転倒と言えるでしょう。
PR
94  93  92  91  90  89  88  87  86  85  84 
カレンダー
09 2017/10 11
S M T W T F S
8 9 11 14
15 16 18 20
22 24 25 26 27 28
29 30 31
ブログ内検索
プロフィール
HN:
iwanagalaw
HP:
性別:
男性
職業:
弁護士
趣味:
サーフィン&スノーボード
自己紹介:
理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
カウンター
アクセス解析
忍者アナライズ
Admin / Write
忍者ブログ [PR]