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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,発明の名称を「医療用器具」とする特許第1907623号の特許権者である被告に対し(被告補助参加人の参加があります。なお,この補助参加人は,被告から本件特許権の専用実施権の設定登録を受けた専用実施権者です。),原告らは,平成20年12月5日,本件特許(請求項1ないし7)について無効審判(無効2008-800273号)を請求したものの,特許庁は,平成21年12月21日,「本件審判の請求は成り立たない」との不成立審決をしたため,これに不服の原告らが,審決の取消を求めて出訴したものです。

 これに対して,知財高裁第3部は,請求棄却の判決を下しました。要は,審決(進歩性あり,サポート要件ありなど)のままでOK!ということですね。

2 問題点等
 本判決は,いわゆる進歩性の新傾向判決にあたるものと言えます。さらには,サポート要件の新傾向判決(これは私オリジナルか?)にあたるものと言えます。

(1)進歩性について
 まず,進歩性の新傾向判決についてです。新傾向判決については,日経の記事のときに少し述べました。さらには,判例タイムズ1324号の話でも少し述べました。要は,進歩性のハードルが若干低くなっているのではないかということです。特に,知財高裁3部では,顕著なのではないだろうか?というものです。

 これについては,種々の意見・認識があると思います。したがい,軽々な評価をすることなく,事実の指摘のみにとどめておきます。そして,最近5つ目の新傾向判決が出た,それが本件だということになります。

(2)サポート要件について
 サポート要件については,従前,パラメータ事件大合議事件の規範が地裁・高裁レベルでは,事実上の規範であったと思います。審査基準との整合性や利益考量上のバランスから見て妥当な基準のように考えられます。

 ところが,これに真っ向から逆らうような,判決が登場しました。これも3部の判決です。
 このとき,当該判決は,「知財高裁大合議部判決の判示は,①「特許請求の範囲」が,複数のパラメータで特定された記載であり,その解釈が争点となっていること,②「特許請求の範囲」の記載が「発明の詳細な説明」の記載による開示内容と対比し,「発明の詳細な説明」に記載,開示された技術内容を超えているかどうかが争点とされた事案においてされたものである。これに対し,本件は,①「特許請求の範囲」が特異な形式で記載されたがために,その技術的範囲についての解釈に疑義があると審決において判断された事案ではなく,また,②「特許請求の範囲」の記載と「発明の詳細な説明」の記載とを対比して,前者の範囲が後者の範囲を超えていると審決において判断された事案でもない。知財高裁大合議部判決と本件とは,上記各点において,その前提を異にする。」との判示があったもので,一応,事案を異にする旨のエクスキューズがあったものです。

 まあ,特殊な場合には,パラメータ事件大合議事件の規範を使わなくてもね,というのは,理解できるところです。しかし,今回,本件では,再度,パラメータ事件大合議事件の規範を使わない,新傾向判決となっております。

3 判示
(1)進歩性
「 発明の特徴は,当該発明における課題解決を達成するために採用された,当該発明中これに最も近い先行技術との相違点たる構成中に見いだされる。
したがって,当該発明の容易想到性の有無を判断するに当たっては,先行技術と対比した,当該発明の課題を達成するための解決方法がどのようなもであるかを的確に把握することが必要となる。そして,当該発明が特許されるか否かの判断に当たっては,先行技術から出発して当該発明の相違点に係る構成に至ることが当業者において容易であったか否かを検討することになるが,その前提としての先行技術の技術内容の把握,及び容易であったか否かの判断過程で,判断の対象であるべきはずの当該発明の「課題を達成するための解決手段」を含めて理解する思考(事後分析的な思考)は,排除されるべきである。そして,容易であったか否かの判断過程で,先行技術から出発して当該発明の特徴点に到達できる試みをしたであろうという推測が成り立つのみでは十分ではなく,当該発明の特徴点に到達するためにしたはずであるという程度の示唆等の存在していたことが必要であるというべきである(知的財産高等裁判所平成20年(行ケ)第10096号平成21年1月28日判決参照)。 」

「そこで,甲1記載の発明から出発して本件特許発明1の相違点に係る上記構成に到達するためには,縫合糸を,縫合糸挿入用穿刺針を用いて体内に挿入する構成を採用した上で,環状部材を,縫合糸把持用穿刺針の先端から突出させたときに,縫合糸挿入用穿刺針の方向に延びるようにした構成を採用し,さらに,突出させた環状部材内部を,縫合糸挿入用穿刺針の中心軸又はその延長線が貫通する位置関係とするために,縫合糸挿入用穿刺針と縫合糸把持用穿刺針を所定距離離間して平行に固定した構成とすることが必要になる。
しかし,甲1記載の発明と甲2記載の発明とは,その技術分野及び課題・目的において共通するものであるとしても,甲1,2,4,5及び7においては,本件特許発明1の特徴点(本件固定構成及び本件貫通構成)に到達するためにしたはずであるという程度の示唆等は,何ら存在しない。」

(2)サポート要件
「同号は,「特許請求の範囲」の記載が,「発明の詳細な説明」に記載・開示された技術的事項の範囲を超えるような場合に,そのような広範な技術的範囲にまで独占権を付与するならば,当該技術を公開した範囲で,公開の代償として独占権を付与するという特許制度の目的を逸脱することになるため,そのような特許請求の範囲の記載を許容しないものとした規定である。例えば,「発明の詳細な説明」における「実施例」として記載された実施態様等に照らして,限定的で狭い範囲の技術的事項のみが開示されているにもかかわらず,「特許請求の範囲」に,その技術的事項を超えた,広範な技術的範囲を含む記載がされているような場合には,同号に違反することになる。このように,旧法36条5項1号の規定は,「特許請求の範囲」の記載について,「発明の詳細な説明」の記載と対比して,広すぎる独占権の付与を排除する趣旨で設けられたものである。
以上の趣旨に照らすならば,旧法36条5項1号所定の「特許請求の範囲の記載が,・・・特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものである」か否かを判断するに当たっては,その前提として「発明の詳細な説明」の記載がどのような技術的事項を開示しているかを把握することが必要となる。」

「 上記(ア)ないし(ウ)の記載によれば,本件特許明細書の発明の詳細な説明には,挿入針の中心軸又は延長線が環状部材の内部を貫通するという構成を実現するための技術的手段が,具体的に記載されており,特許請求の範囲(請求項1)に記載された技術内容は,発明の詳細な説明に開示された技術的事項を超えるものではない。 」

4 検討
(1)進歩性について
 進歩性については,今回審決追認の判決ですので,こういう事実のときは,こう判断するということに留まっていると思います。まあしかし,新傾向判決は,続くよ,ということは確認できましたので,その点の意義は小さくないように思えます。あとは,他の部ではどうなの?というところが問題になるとは思いますが。

(2)サポート要件について
 これについては,新しい規範が出ていると思います。補正の基準と似ております。つまり,クレームの内容が,発明の詳細な説明に開示された技術的事項を超えるか否かということですね。

 ただ,この基準,パラメータ事件大合議事件の規範に比べて,使いやすいのでしょうか?まあパラメータ事件大合議事件の規範は,当事者というよくわからないものが入っており(条文上ありません。),どっこいどっこいだという気もしないでもないですけどね。

 さらに,しつこく3部が使うかどうか,若干推移を見守りたいと思います。

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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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