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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
   本件は,被告両名が権利者であり,名称を「無水石膏の製造方法及び無水石膏焼成システム」とする発明についての特許第4202838号の請求項1ないし5(以下「本件発明1」などといい,全体を「本件各発明」といいます。)に対し,原告が特許無効審判請求をし,被告らが平成22年1月22日付けで訂正請求(以下「本件訂正請求」といいます。)をして対抗したところ,特許庁が,上記訂正請求を認めた上,請求不成立の審決(訂正要件OK,進歩性あり。)をしたことから,これに不服の原告が取消しを求めた事案です。  

 これに対して,知財高裁1部(新所長の中野さんの部ですね。)は,この審決を取り消しました。

 まあよくあるパターンなのかもしれませんが,今回取り上げたのは,いわゆる新規事項追加OKの事例として,若干おもしろいところがあったからです。もしかすると,中野さんの部の判決を新所長就任後取り上げたのは,初めてかもしれません。

2 問題点
 新規事項追加というのは,new matterという英語の訳でしょうね。
 特許出願の特許性の要件の基準時は,原則として出願日ですから,その後,あれもあった,これもあった,あれもいただき,これもいただき,追加しちゃおうというのでは,後出しジャンケンと同じでダメですよね。
 例えば,ライバル社の製品を見た後で,特許を書き換えることが許されれば,侵害にならない方が不思議なわけです。

 ですので,この新規事項追加についての基準は重要なのですが,色々紆余曲折がありました。私が,弁理士試験の受験生の頃には,補正時のその基準として,「直接的かつ一義的」,というのをお経のように唱えていたものです。
 その後,その基準は,若干緩やかに「自明」となり,そして,今回の判旨にも載っている平成20年5月30日の大合議判決からは,「明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項」が,その基準となっていることは,まあ特許の実務家ならば,みなさん,ご存じのところでしょう。

 さて,本件は,クレームに温度の数値限定があり,訂正後限縮になっているものの,その閾値についての記載が,明細書上には全くないため,問題となったのでした。

 具体的には,「該本体の内部で該石膏廃材を330℃以上840℃以下に加熱しながら,」→「該本体出口における粉粒体温度が330℃以上500℃以下になるように加熱しながら,」の,500℃の記載がどこにもなかったのですね。

3 判旨
判旨は,上記問題点のみピックアップしました。
「 ところで,上記「500℃」という値は当初明細書等に明示的に表現されているものではない。そこで,上記「500℃」という値が,当初明細書等に記載された事項から自明であるといえるかどうかが問題となる。
    しかし,「500℃」という特定温度は,もともと訂正前の「330℃以上840℃以下」の温度の範囲内にある温度であるから,上記「500℃」という温度が当初明細書等に明示的に表現されていないとしても,硫黄酸化物の発生抑制のための温度として分解温度以下である以上他の温度と異なることはなく,実質的には記載されているに等しいと認められること,当初明細書等に記載された実施例においては,炉出口粉粒体温度が460℃になることを目標とした旨が記載され(段落【0034】,【0035】),当初明細書等の【表2】には,実施例における「炉出口粉粒体温度(℃)」が,「460℃」(実施例1),「470℃」(実施例2),「450℃」(実施例3),「470℃」(実施例4)であったことが記載されていることからすれば,具体例の温度自体にも開示に幅があるといえること,したがって,具体的に開示された数値に対して30℃ないし50℃高い数値である近接した500℃という温度を上限値として設定することも十分に考えられること,また,訂正後の上限値である「500℃」に臨界的意義が存しないことは当事者間に争いがないのであるから,訂正前の上限値である「840℃」よりも低い「500℃」に訂正することは,それによって,新たな臨界的意義を持たせるものでないことはもちろん,500℃付近に設定することで新たな技術的意義を持たせるものでもないといえるから,「500℃」という上限値は当初明細書等に記載された事項から自明な事項であって,新たな技術的事項を導入するものではないというべきである。」

4 検討
 大体で,ざっくりで,適当で,よいようです。まるで,私のブログのようですね~。
 結論的には,審決のこの部分はOKだったのですが,結局進歩性なしとして,審決は取り消されました。

 しかし,ずいぶん新規事項追加の基準も広がったものですね~。
 なんだか,出願時にきちんとしたデータを揃えて,きっちりした明細書を書くのが馬鹿らしいというか,何というか。

 まあこういう事例のときには,こう判断するといういわゆる事例判決であって欲しいものだ~というところで今回はおしまいです。
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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