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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,被告である弁理士に特許出願等(本件出願AないしC)の委任をした原告が,被告のなした本件出願AないしCの出願手続に債務不履行ないし不法行為があるとして,被告に対し,本件出願AないしCの出願手続に係る各委任契約の債務不履行又は不法行為に基づき,4988万2200円の損害のうち一部である1000万円の損害賠償及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めている事案です。

 これに対して大阪地裁26部(山田さんの合議体です。)は,原告の請求をすべて棄却しました。

 まあ,ここに載せたのは,単純な理由です。弁理士の皆さん,「気をつけなはれや」ということです。

2 問題点
 問題点は,2つでしょうか。
 1つ目は,被告弁理士の問題点です。
 弁護士というのは,いわば鉄火場でガソリンの給油をするような仕事です。昨日の敵は今日の友ですし,今日の友が急に後ろから襲ってくることもあります。そして,これが法的ではなく,本当に物理的に襲ってくることもあるのです。したがって,自分の保身というか,アリバイというか,盾というか,そういうものは,何重に設定し,ちょっとやそっとのことでは,びくともしないようにしているわけです。クライアントが敵に回るなんて,犬が人を咬むような,当たり前のものです。

 ところが,弁理士は慣れていないのでしょうね。アリバイも作らない,契約書もそれっぽいっ条項を載せない,まわりの人はみんな良いひと~,とすると,脇の甘さを付けこまれる虞が出てくるわけです。まあしょうがないと言えばしょうがないのですけどね。
 弁理士が日頃仕事をする相手というのは,大手の企業の知財部であることが殆どで,学歴が高く,常識をわきまえ,しかも仕事として従事している人が相手なのです。

 他方,弁護士でそういう人を相手にしているのは,極少数の大手事務所か企業法務系のブティックだけなのです。
 ですが,弁理士も出願数が減って,街の発明家などを相手にしなければならなくなってきておりますので,早急にその辺をうまくこしらえた方が良いですね。

 2つ目は,弁護士の問題です。誰のこと?って感じですが,原告の代理人のことです。本件,判決そのものを見ればわかるのですが,恐ろしく筋悪な事件です。ところが,何と,本人訴訟ではないのですね(私はてっきり本人訴訟だと思いました。)。
 勿論,裁判所の認定は,神ではないので,完全ではないとは思うのですが,残念ながら,本件は特許の事件のため,特許庁の出願経過や出願書類を見ることができるのですよ。そうすると,まあ裁判所の認定とおりなんだろうなあという極めて強い推認が働きます。それでも,様々な理由があって,結局提訴したのでしょうが,これはまずいんとちゃいますか(関西なので。)。

 この原告は,自分の思うとおりにならなくて,出願の代理をした弁理士を訴えているのですよ。そうすると,今回,請求が棄却になって(やはり自分の思うとおりにならなくて,),そうすると,次なる矛先は誰でしょうね?!
 こういうのを事件化しちゃあいかんでしょう。もちろん,被告弁理士が押し切られたように,この代理人弁護士の先生方も押し切られたのかもしれませんけどね。

 一応判旨も行きますか。

3 判旨
 出願A「そこで検討すると,まず,前提事実及び前記(1)のとおり,原告が被告に出願手続を委任する前に拒絶査定がされていたことなどからすれば,原告は本件出願Aが最終的に登録されない可能性があることを認識した上で,被告に手続を委任したものと認められる。しかも,原告本人の供述によれば,本件出願Aに係る考案は科学技術庁長官により注目発明として選定されたことから重要な価値があると考えていたというのであり,そのような状況の中で,出願手続を被告に一任し,手続経過等についても全く報告を受けることなく,登録されたものと考えて,被告との委任契約締結後約10年間も放置していたなどという原告本人の上記供述は不合理というほかない。」

出願B 「そこで検討すると,原告が拒絶したのでなければ,被告が審査官と再度面談をしたり,進歩性なしとして拒絶された出願について一部でも特許査定をする旨の合意をされたにもかかわらず,それに従った手続補正をしなかったりする理由は他にないのであって,上記経過は被告本人の供述を前提としてしか了解することができないものである。
 また,前提事実のとおり,原告と被告は相互に本件出願Bに係る委任契約を解除したにもかかわらず,再度,本件出願Bに係る委任契約を締結している。これは,本件出願Bについて拒絶査定がされ,本件出願A及びCの拒絶査定も確定した後の時期であり,原告の主張するような債務不履行が被告にあったのであれば起こりえないことである。
 さらに,乙20及び21によれば,再度の委任契約後に,原告は本件出願Bに係る手続補正について発明の名称や請求項の記載内容の文案を示すなど,被告に詳細に指示したことが認められる。このことや,前記1のとおり,被告が原告のアメリカ特許について手続をする都度,原告に了解を求めたことは,被告本人の上記供述を裏付けるものである。なお,この点に関する原告本人の供述は,書面の体裁からして原告から被告に指示したものであることが明らかであるのに,被告から指示されるままに書いたなどと不合理な弁解に終始しており,信用することはできない。
 加えて,上記1と同様に,原告が平成19年4月に至るまで被告の責任を追及することがなかったことからすれば,本件出願Bの出願手続において被告の責任を追求することができるような事情があったとは考えにくい。」

出願C「そこで検討すると,まず前提事実のとおり,原告が,本件出願Cに係る出願手続を被告に委任する前に上記拒絶理由の通知がされていたこと,前述のとおりこれに対応するには軽微な手続補正で足りるようなものではなかったことなどからすれば,原告が被告に委任するに当たり本件出願Cについて拒絶査定をされる可能性があることを当然認識していたことが認められる。それにもかかわらず,出願手続を被告に一任し,内容について一切関知しなかったとか,登録されたものと考えて手続の結果について報告を求めることもなく,拒絶査定後7年以上も放置していたなどとする原告本人の上記供述は不合理というほかない。
 かえって,上記1のとおり,被告がアメリカ特許に係る手続を進めるに当たり,手続の都度原告に了解を求めたこと,上記2のとおり原告が本件出願Bに係る手続補正の内容を被告に詳細に指示したことが認められる。
 そうすると,被告が主張するとおり上記手続補正書の内容や拒絶理由の通知等に対応しなかったのは原告の意向に沿ったものであることが認められる。
 被告は,単なる代理人にすぎないから,原告の意向に反する手続補正や手続をすることができないのはもとより,本件で,被告が弁理士としての通常の注意義務を果たすことにより,原告の意向に沿いながら,上記拒絶理由を解消することのできる手続補正をすることができたことを認めるに足りる証拠はない。原告が本件出願Cについて拒絶査定がされたことを認識しながら,その後7年以上も放置していたことからすれば,被告に債務不履行又は不法行為に当たるような事情があったとは考えにくいのも前同様である。」

4 検討
 まさか,出願の一件書類などの検討なしに,ダマで提訴したわけではないとは思いますが,検討すればするほど,無理筋の事案ですよね。色んな意味で不思議な事件です~♪

5 追伸(2012/5/24)
 ジャジャーン,控訴審の判決も出ました( 平成24(ネ)10007号,知財高裁 平成24年05月16日判決)。

 特筆すべきは,2点です。
 まず,控訴人(原告)に代理人がいません。一審の上記大阪地裁の判決のときは居ました。それがいなくなったわけです。

 いかんですなあ。こういう事件にこそ代理人がついてやらないと。やはり弁護士の数が少ないからですよ!私が予てから主張しているとおり,1年に30万人の司法試験の合格者が必要です。社会の隅々に法の支配を!ホホホ。
 
 次,そんな代理人がいないこの控訴審ですが,控訴人の主張は結構ちゃんとしています。勿論,筋悪なので,それは如何ともし難いのですが,それを差し引いても,あっぱれな感じですね。
 ということは,この被控訴人(被告)の弁理士の先生の気苦労は大変なものだっただろうねえ。何事もお客さんは選びたいものです~,選べるものならば。
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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