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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,原告(アップル)が,原告による別紙物件目録記載の各製品(本件製品)の生産,譲渡,輸入等の行為は,被告(サムソン)が有する発明の名称を「移動通信システムにおける予め設定された長さインジケータを用いてパケットデータを送受信する方法及び装置」とする特許第4642898号の特許権(本件特許権)の侵害行為に当たらないなどと主張し,被告が原告の上記行為に係る本件特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求権を有しないことの確認を求めた事案です。
 
 これに対して,東京地裁民事46部(大鷹さんの合議体ですね。)は,原告の請求を全部認容しました。と言っても,所謂債務不存在確認訴訟ですので,主文は「被告が,原告による別紙物件目録記載の各製品の生産,譲渡,貸渡し,輸入又はその譲渡若しくは貸渡しの申出(譲渡若しくは貸渡しのための展示を含む。)につき,特許第4642898号の特許権侵害に基づく原告に対する損害賠償請求権を有しないことを確認する。」というものです。
 
 漸く判決がアップされました。例のFRAND特許でのアップルVSサムソンの判決です。
 
 ちなみに,私と同様の下世話なもの好きのために,代理人を紹介しておきます。と言っても,この前ここで紹介したものと同じですね。
 アップル側がモリソンフォースターとその他有名知財弁護士連合軍で,対するサムソンが大野総合に長島・大野・常松法律事務所連合軍です。
 
2 問題点
 問題点は,結構たくさんありますが,裁判所が判断しているのは,そのうち,2つです。技術的範囲に入るか?権利濫用にあたるか?というものです。
 
 まず,前者については,本件製品2と4というのが,本件発明の技術的範囲に入るとされました。というか,当たり前ですよね。本件発明は標準特許なので,そのとおりに作ったら,技術的範囲に入るのは当然ですわ〜♪

 つぎに,問題になったのは,それを前提にして,権利濫用になるのではないか,ということです。

 まず,標準特許とはどういうものかというと,今回の特許は3GPP規格のものであり,その標準化団体のIPRポリシーを見た方が早いので,それを引用します。
3 方針の目的
3.1 ETSIは,総会が提議した,ヨーロッパの通信セクターの 技術的な目的に最も資する解決策に基づく規格および技術仕様を作成することを目的としている。この目的を推進するため, ETSIのIPRについての方針は,ETSIおよび会員,ETSI規格および技術仕様を適用するその他の,規格の準備および採用,適用への投資が,規格または技術仕様についての必須IPRを使用できない結果無駄になる可能性があるというリスクを軽減するためのものである。この目的を達成するに当たり,ETSIのIPRについての方針では,通信分野での一般利用の標準化の必要性と,IPRの所有者の権利との間のバランスを取ることが求められる。

 
 次世代の通信でより便利により快適に通話できるようになるのは非常な便益です。
 でもその次世代の通信を開発した企業にもうまくお金が行き渡るようにしないと,ちぇっ俺が開発したのに,大損だぜ,ということになりかねません。そういう,「一般利用の標準化の必要性と,IPR(知財権のことですね。)の所有者の権利との間のバランス」が重要だとしたわけです。
 
 その結果,そのようなIPRの所有者には,以下のようなFRANDでのライセンスの義務が課されることになります。
 「6 ライセンスの可用性
6.1 特定の規格または技術仕様に関連する必須IPRがETSIに知らされた場合,ETSIの事務局長は,少なくとも以下の 範囲で,当該のIPRにおける取消不能なライセンス (irrevocable licences)を公正,合理的かつ非差別的な条件 (fair,reasonable and non-discriminatory terms and conditions)で許諾する用意があることを書面で取消不能な形で3か月以内に保証することを,所有者にただちに求めるものとする。

 ・製造で使用するべく,ライセンシー自身の設計で,カスタマイズした部品およびサブシステムを製造または過去から引き続き製造する権利を含む,製造。

 ・上記で製造した機器の販売または賃貸,処分。
 ・機器の修理または使用,動作,および
 ・方法の使用。
 上記の保証は,ライセンスの相互供与に同意することを求めるという条件に従い行われる場合がある。...
」 
 
 ちなみに,被告であるサムソンは,本件ファミリー特許を必須のIPR又はそうなる可能性が高いと知らせ,上記ETSIのIPRポリシー6.1項に従って,「公正,合理的かつ非差別的な条件 」 ( fair,reasonable and non-discriminatory terms and conditions)(FRAND条件)で許諾する用意がある旨の誓約(宣言)までもしていたようですね。
 
 そんな状況で,個別に差止や損害賠償を請求するとどうなるでしょうかね?
 標準の必須特許が使えると思ってそのとおりの技術を開発し,製品を製造し,上市したら,いきなりその必須特許の特許権者から,侵害でっせ〜と来たら??何それって感じになりませんかね。必須特許の技術なんだから,技術的範囲に入ることは明白ですもんね。
 
 さて,判旨を見ましょうかね。
 
3 判旨
「一般に,技術の標準化を進めることによって,製品間の互換性を確保し,製造・調達のコストを削減し,また,研究開発の効率化や他社との提携機会の拡大等の効果が見込まれ,さらには,エンドユーザーにとっても,製品・サービスの利便性の向上,製品価格やサービス料金の低減につながるといった意義があると考えられるが,他方で,企業は,知的財産権に基づいて技術の実施を独占することで,競合他社による当該技術の実施を禁止し,自社の売上げの増加を図っているところ,ある特定の知的財産権が標準化された技術の規格に必須とされた場合,当該知的財産権を保有する企業が,その標準規格を使用して製品化を図る他の企業に対し,当該知的財産権の実施を禁止すると脅しつつ,法外な実施料やその他の理不尽なライセンス条件を要求して,これに強制的に同意させるという状況が策出されるおそれがあり,また,他の企業は,当該知的財産権の実施許諾を得られない結果,既に標準規格の適用のために行った投資(開発投資・設備投資) が無駄になるおそれがあり,ひいては,技術の標準化による普及が著しく阻害される可能性があることを踏まえて,通信分野における技術の標準化の必要性と知的財産権の保有者の権利との間のバランスをとることが要請されている。」
「被告は,2011年(平成23年)7月25日付け書簡(甲2 9)で,アップル社に対し,FRAND条件に従って,UMTS規格 に必須の被告の保有する特許(出願中のものを含む。)の全世界的か つ非独占的なライセンスを,関連する「●(省略)●%の料率」でライセンス供与する用意ができていることを提示(以下「被告の本件ラ イセンス提示」という。)し,●(省略)●旨を伝えた。
 これに対し,アップル社は,同年8月18日付け書簡(甲34の 4)で,被告に対し,●(省略)●との意見を述べるとともに,被告の本件ライセンス提示がFRAND条件に従ったものとアップル社において判断することができるようにするために,アップル社と被告間 の秘密保持契約に基づいて,被告がアップル社に支払うことを求める ロイヤルティ料率を他社も支払っているかの確認を含む情報,被告と 他社との間の必須特許のライセンス契約に関する情報を開示するよう要請した。
 アップル社の上記意見は,1UMTS規格に不可欠とされる特許のあらゆる所有者が全体として要求できるロイヤルティ料率の合計には上限があると考えられており,被告も別の訴訟において,そのような ロイヤルティ料率の合計が「約5%」であるべきだと主張しているところ,全世界においてUMT規格に不可欠と宣言された1889の 特許ファミリーのうち,被告が保有しているものがその5.5%に当たる103にすぎないこと(2009年に「Fairfield Resources International」が実施した調査結果)に鑑みると,被告がアップル社に対して要求できるロイヤルティ料率は,高くても0.275% (5%×5.5%)と捉えるべきである,2被告がUMTS規格に不可欠と宣言する特許は移動体通信チップの機能性にのみ関連するものであるから,当該部品の価格あるいは少なくとも通信装置の業界平均 価格を基準とすべきであるところ,被告提示のライセンス料率は,● (省略)●を基準とし,その料率に係る数値も上記1の数値をはるかに上回る点で,法外に高いなどというものである。」
「原告は,被告が意図的に本件特許について適時開示義務に違反したこと,被告の本件仮処分の申立てが報復的な対抗措置であること,被告が本件FRAND宣言に基づく標準規格必須宣言特許である本件特許権についてのライセンス契約締結義務及び誠実交渉義務に違反し,いわゆる「ホールドアップ状況」(標準規格に取り込まれた技術の権利行使によって標準規格の利用を望む者が利用できなくなる状況)を策出していること,かかる被告の一連の行為が独占禁止法に違反することなどの諸事情に鑑みれば,被告が原告に対し,本件特許権に基づく損害賠償請求権を行使することは,権利の濫用(民法1条3項)に当たり許されない旨主張する。
 ア(ア) 我が国の民法には,契約締結準備段階における当事者の義務について明示した規定はないが,契約交渉に入った者同士の間では,一定の場合には,重要な情報を相手方に提供し,誠実に交渉を行うべき信義則上の義務を負うものと解するのが相当である。
 ところで,前記前提事実によれば,13GPPを結成した標準化団体であるETSI(欧州電気通信標準化機構)の会員である被告は, 平成19年8月7日,甲13の書面で,ETSIに対し,本件出願の 国際出願番号等に係るIPR(知的財産権)がUMTS規格(3GPP規格)に必須であること,この必須IPRについて,ETSIのIPRポリシー6.1項に準拠するFRAND条件(公正,合理的かつ 非差別的な条件)で,取消不能なライセンスを許諾する用意がある旨の宣言(本件FRAND宣言)をしたこと,2IPRについてのETSIの指針1.4項は,会員の義務として,「必須IPRの所有者 は,公正,合理的かつ非差別的な条件でライセンスを許諾することを保証することが求められること」(IPRポリシー6.1項),会員の権利として,「規格に関し,公正,合理的かつ非差別的な条件でラ イセンスが許諾されること」(IPRポリシー6.1項),第三者の権利として,「少なくとも製造及び販売,賃貸,修理,使用,動作す るため,規格に関し,公正,合理的かつ非差別的な条件でライセンス が許諾されること」(IPRポリシー6.1項)を定めていることが 認められる。
 上記1及び2と弁論の全趣旨を総合すると,被告は,ETSIのIPRポリシー6.1項,IPRについてのETSIの指針1.4項の規定により,本件FRAND宣言でUMTS規格に必須であると宣言した本件特許権についてFRAND条件によるライセンスを希望する 申出があった場合には,その申出をした者が会員又は第三者であるかを問わず,当該UMTS規格の利用に関し,当該者との間でFRAND条件でのライセンス契約の締結に向けた交渉を誠実に行うべき義務 を負うものと解される。
 そうすると,被告が本件特許権についてFRAND条件によるライセンスを希望する具体的な申出を受けた場合には,被告とその申出をした者との間で,FRAND条件でのライセンス契約に係る契約締結準備段階に入ったものというべきであるから,両者は,上記ライセンス契約の締結に向けて,重要な情報を相手方に提供し,誠実に交渉を行うべき信義則上の義務を負うものと解するのが相当である。」
「上記1及び2に鑑みると,被告は,アップル社の再三の要請にもかかわらず,アップル社において被告の本件ライセンス提示又は自社のライセンス提案がFRAND条件に従ったものかどうかを判断するのに必要な情報(被告と他社との間の必須特許のライセンス契約に関する情報等)を提供することなく,アップル社が提示したライセンス条件につい て具体的な対案を示すことがなかったものと認められるから,被告は, UMTS規格に必須であると宣言した本件特許に関するFRAND条件でのライセンス契約の締結に向けて,重要な情報をアップル社に提供し,誠実に交渉を行うべき信義則上の義務に違反したものと認めるのが相当である。」
「以上のとおり,被告が,原告の親会社であるアップル社に対し,本件 FRAND宣言に基づく標準規格必須宣言特許である本件特許権についてのFRAND条件でのライセンス契約の締結準備段階における重要な情報を相手方に提供し,誠実に交渉を行うべき信義則上の義務に違反していること,かかる状況において,被告は,本件口頭弁論終結日現在, 本件製品2及び4について,本件特許権に基づく輸入,譲渡等の差止めを求める本件仮処分の申立てを維持していること,被告のETSIに対する本件特許の開示(本件出願の国際出願番号の開示)が,被告の3GPP規格の変更リクエストに基づいて本件特許に係る技術(代替的Eビット解釈)が標準規格に採用されてから,約2年を経過していたこと, その他アップル社と被告間の本件特許権についてのライセンス交渉経過において現れた諸事情を総合すると,被告が,上記信義則上の義務を尽くすことなく,原告に対し,本件製品2及び4について本件特許権に基づく損害賠償請求権を行使することは,権利の濫用に当たるものとして許されないというべきである。」
 
4 検討
 判断としては妥当なところなんじゃないでしょうか(民法の,内田先生が好きな論点のようですね。私の持っている版だと民法Ⅱのp27以降に参考になる話が書いてあります。やっぱ,民法って重要だよね〜。)。
 結局,サムソンはパニクったのか,それに手を出しちゃあおしめえよ,という禁じ手を繰り出したのが失敗だったのでしょうね。

 しかし,そうせざるを得なかったのは,当然アップルの攻め手がきつかったということです。最近日の出の勢いで,法務部門にも凄い陣容を揃えているサムソンでもこのザマというわけです。
 日本の企業がこの立場なら??と思うところでしょうが,日本企業って,意外とこういうのを慣れている所が多いので,この手のヘマはしないと思いますよ。ま,それ以前の問題ではありますがね。
 
 しかし,こういう遠い異国で締結された民間の規約というか,約款というか,そんなのが,日本の特許訴訟で云々されるとは面白い時代になりましたね〜。
 でも私のような人間は益々お呼びでないって感じではありますが。

5 追伸
 今日は雨で寒い東京です。桜の写真はありませんが,この寒い中花見している人はご苦労さまです。

 さて,また,ゴ3ネタで紹介されました。何だか目を付けられましたかな。ムフ。
 と言ってもありがたいことです。面白い所に紹介されるとこっちまで面白そうに思えるじゃないですか〜♪

 他方,そのパロディ元のボ2ネタの面白くなさ加減と来たら〜♪
 某裁判官がどっかで紹介したような話を載っけるだけってやってて面白いですかね〜。
 私のように,やりたいことをやりたいようにやっとかないと,読んでいる人もわかるんだよね〜,単にルーチンワークとしてのみやっていると。

6 更に追伸4/16
 本日の朝刊によりますと,サムソンが控訴した模様です。ま,そりゃそうですね。こんな初めての事例で負けが確定したら,後に禍根を残すことになりますので。
 知財高裁でどんな判断になりますやら~(4部に係属したりして~)。
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