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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
本件は,原告が,被告保有の特許権(特許番号:第4208982号,ヒートポンプ式冷暖房機)の本件発明に係る特許に対して特許無効審判の請求をしたものの,特許庁が不成立審決(記載要件不備なし,進歩性あり。)を下したため,これに不服の原告が,その取消しを求めた審決取消訴訟の事案です。

 これに対して,知財高裁4部(滝澤さんの合議体ですね。)は,原告の請求を棄却しました。要するに,審決のとおりでよし,ということです。

2 問題点
 まあ審決の理由を見ると,どうしてこれを取り上げたかわかりますね。要は,記載要件のところです。
 特に,サポート要件のところです。近時,飯村さんの合議体が,サポート要件の判断をいわゆるパラメータ事件の大合議事件の規範を使わず,それに物申すような形での規範を示したため,このサポート要件を判断する場合,何が妥当なのか,イマイチわかりづらいことになっているからです。

 被告も,「被告は,サポート要件について,実施可能要件を判断するのと全く同様の手法によって解釈,判断することは許されず,キャピラリチューブの機能の実施可能性に関する原告の主張は,サポート要件の規定の趣旨に反したものであると主張する。」とありますので,飯村さんの基準を念頭に置き,それに従うべきだという主張をしているようです。
 他方,原告としては,従来のパラメータ事件の規範で判断してもらいたいようです。そりゃそうですね,こちらの基準の方がハードルが高く,無効になりやすいからです。

 では,この事件で,滝澤さんの合議体は,どんな規範で判断したのでしょうか?
 ちなみに,クレームは,
 「【請求項1】コンプレッサーと既設コンデンサーを四方弁を介したガスパイプで結び,既設コンデンサーの冷媒ガス出口に設置したキャピラリチューブと,内部のガスパイプ回路の管を前記既設コンデンサー内のガスパイプ回路の管の内径の80%以内又は断面積を64%以下と細くした追設コンデンサーとをガスパイプで結び,追設コンデンサーと蒸発器のキャピラリチューブをガスパイプで結び,蒸発器の冷媒ガス出口とコンプレッサーとを四方弁を介したガスパイプで結び,ガスパイプ側にコンプレッサーより冷媒ガスを吐出して既設コンデンサーに送り,既設コンデンサーで大気又は冷却水と熱交換して凝縮させ,ガスパイプを通って追設コンデンサーに送って放熱してさらに凝縮させ,ガスパイプを通って蒸発器に設置したキャピラリチューブで減圧し,蒸発器に送って蒸発させたのち,ガスパイプで冷媒ガスをコンプレッサーに戻す冷房運転と,コンプレッサーよりガスパイプに冷媒ガスを吐出し,蒸発器をコンデンサーとして作動させて冷媒ガスを凝縮させ,ガスパイプを通って追設コンデンサーに送って放熱してさらに凝縮させ,ガスパイプで冷媒ガスを既設コンデンサーに設置したキャピラリチューブに送って減圧し,既設コンデンサーに送って既設コンデンサーを蒸発器として作動させて冷媒ガスを蒸発させたのち,ガスパイプを通ってコンプレッサーに戻す暖房運転とを,四方弁で切替え運転を可能とし,冷房運転,暖房運転のいずれの場合でも追設コンデンサーで冷媒ガスを放熱して,凝縮を進めることを特徴とするヒートポンプ式冷暖房機。
です。パラメータ的な要素(数値限定発明か。)もありますね。

3 判旨
「特許請求の範囲の記載が,サポート要件に適合するものであるか否かについては,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,発明の詳細な説明に,当業者において,特許請求の範囲に記載された発明の課題が解決されるものと認識し得る程度の記載ないし示唆があるか否か,又は,その程度の記載や示唆がなくても,特許出願時の技術常識に照らし,当業者において,当該課題が解決されるものと認識し得るか否かを検討して判断すべきものと解するのが相当である。」

「上記(1)の記載からすると,本件発明は,冷房運転時,暖房運転時のいずれも冷媒ガスの凝縮能力だけが増大するように工夫したものであって,冷房運転では,冷媒ガスの凝縮をよくして飽和を,暖房運転では,追設,増大した凝縮器より出る温風を蒸発器となるコンデンサーに送り,コンデンサーで熱交換する大気温度を高くして,コンデンサーに霜が付着するのを防ぐとともに,冷房運転でも,暖房運転でも,追設,増大した凝縮器よりの放熱カロリー分,ヒートポンプ式冷暖房機の性能を向上させるという技術課題について,冷房運転,暖房運転のいずれの場合でも,追設コンデンサーで冷媒ガスを放熱して凝縮を進めることにより解決することを特徴とするものであるところ,発明の詳細な説明には,冷房運転,暖房運転のいずれも場合でも追設コンデンサーで冷媒ガスを放熱して凝縮することが達成されることが,具体例とともに記載されている。
 したがって,発明の詳細な説明には,当業者において,特許請求の範囲に記載された発明の技術課題が解決されるものと認識し得る程度の記載があるということができる。」

4 検討
 上記規範について,引用元は示していませんが,これはパラメータ事件の大合議の規範です。ただ,どうしてこの規範を使うかという説明は一切ありません。
 今回,飯村さんの示した基準からしても,パラメータ事件の規範を使うべき事案だったのかなあ(でもかなり苦しいですよ。)という気がします。

 今後もこのサポート要件の判断の規範については,「動き」があるでしょうね。まあ司法権というのは,そんなものだという話もないわけではないですけどね。
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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