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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,発明の名称を「高張力合金化溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法」とする発明について,特許出願(特願2004-285797)をした原告が,拒絶査定を受け,さらに,拒絶査定に対する不服審判請求(不服2009-13386号事件)をしたものの,特許庁が,不成立審決(進歩性なし。)を下したため,これに不服として,知財高裁に提訴した,審決取消訴訟の事案です。

 これに対して,知財高裁3部(飯村さんではなく,八木さんの合議体です。)は,審決を取消しました。引用発明の認定と相違点認定に誤りがあるというものです。

 最近,結構閲覧数が上がっていますが,今日はガクンと下がりそうですね。遊びなし,ド直球の特許訴訟の話です。

2 問題点
 今回これを取り上げたのは,2点理由があります。
 まず,一点目は,化学系の数値限定発明だからです。
 そして,二点目は,審決を取り消した理由というのが,特許庁の事実認定に誤りがあったという,これまたド直球のものだからです。
 つまり,実務的によくあるパターンですから,実務家には非常に勉強になる,ということです。

 クレームは,以下のとおりです。
【請求項1】鋼板表面に合金化溶融亜鉛めっき層を備える合金化溶融亜鉛めっき鋼板であって,前記鋼板が質量%で,C:0.05~0.25%,Si:0.02~0.20%,Mn:0.5~3.0%,S:0.01%以下,P:0.035%以下およびsol.Al:0.01~0.5%を含有し,残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有し,かつ前記合金化溶融亜鉛めっき層が質量%で,Fe:11~15%およびAl:0.20~0.45%を含有し,残部がZnおよび不純物からなる化学組成を有するとともに,前記鋼板と前記合金化溶融亜鉛めっき層との界面密着強度が20MPa 以上であることを特徴とする高張力合金化溶融亜鉛めっき鋼板。

 他方,引用発明(甲1,特開2002-294422号公報に記載されているとされた発明)は,以下のとおりと認定されました。
 鋼板表面に合金化溶融亜鉛めっき層を備える合金化溶融亜鉛めっき鋼板であって,前記鋼板が質量%で,C:0.03~0.18%,Si:0~1.0%,Mn:1.0~3.1%,P:0.005~0.01% 及びAl:0.03~0.04%を含有し,残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有し,かつ前記合金化溶融亜鉛めっき層が,質量%Fe:8~15 %,Al:0.1 ~0.5 %,及び100mg/㎡ 以下に制限されたMnを含有し,残部がZnおよび不純物からなる化学組成を有する高張力合金化溶融亜鉛めっき鋼板。

 もちろん,この引用発明の認定が本当にそのとおりなら,審決が進歩性なしと見るのも仕方がないかなあというところです。もちろん差はありますが(これが微差なら進歩性なしでしょうし,大きな差なら進歩性ありとは言えますが,ここは裁量の範囲内かもしれません。),メインの組成部分は重複部があると言えますからね。

 で,引用発明の認定が本当にそのとおりかどうかというところが問題になったわけです。直球過ぎて本当に珍しいですね。

3 判旨
 「審決は,引用発明について,引用例の【表1】の鋼1ないし鋼5,及び,【特許請求の範囲】の【請求項1】の記載に基づき,C含有量の下限は鋼3から,C含有量の上限は鋼5から,Si含有量の下限は鋼1又は鋼3から,Si含有量の上限は鋼4又は鋼5から,Mn含有量の下限は【請求項1】の「Mn:0.1 質量%以上を含有する」から,Mn含有量の上限は鋼5から,P含有量の下限は鋼2から,P含有量の上限は鋼1,鋼3又は鋼5から,Al含有量の下限は鋼3又は鋼5から,Al含有量の上限は鋼2又は鋼4からそれぞれ求め,上記第2の3の(2) のア記載のとおり認定した。
 しかし,審決の認定は,以下のとおり誤りである。
 (1) 引用例の【表1】には,独立した5種の鋼が例示され,鋼1ないし鋼5には,含有されている元素の含有量が示されている。
 ところで,合金においては,それぞれの合金ごとに,その組成成分の一つでも含有量等が異なれば,全体の特性が異なることが通常であって,所定の含有量を有する合金元素の組合せの全体が一体のものとして技術的に評価されると解すべきである。本件全証拠によっても,「個々の合金を構成する元素が他の元素の影響を受けることなく,常に固有の作用を有する」,すなわち,「個々の元素における含有量等が,独立して,特定の技術的意義を有する」と認めることはできない。したがって,引用例に,複数の鋼(鋼1ないし鋼5)が実施例として示されている場合に,それぞれの成分ごとに,複数の鋼のうち,別個の鋼における元素の含有量を適宜選択して,その最大含有量と最小含有量の範囲の元素を含有する鋼も,同様の作用効果を有するものとして開示がされているかのような前提に立って,引用発明の内容を認定した審決の手法は,技術的観点に照らして適切とはいえない。」

4 検討
 上記判旨は,引用発明の認定のところだけです。
 さて,化学系の発明(薬もそう。)だと,ほんの少しの成分が非常に重要だったりします。99%の組成が同じでも,残り1%が違うだけ,しかもそれが同系列のものであっても(メチル基がエチル基に,CがSiに),全く作用効果が異なり,どうなっているのこれ!?というようなことがあるのです。
 ですので,薬でも素材でも,こういうものの開発というのは,砂金取りみたいに,一定の領域を絨毯爆撃的に調べる必要があるのですね。

 本件の発明もまったくそうなのだと思います。
 ところが,特許庁の審決によると,同じ公報に載っているのだから,そういう作用効果の面(判旨によれば,一体としての技術的意義など。)を無視して,良いところ取りというかつまみ食いして,あれはそこ,これはここにあるなーんてやられたら,この手の発明は須く進歩性がなくなってしまいます。いやいやそんなことやられたら,新規性だってないですよ。

 従って,今回の判決は全く当然,これで取り消さないといつ取り消す?!くらいのものです。ただ,逆に何故特許庁がこんなド直球でのミスをしたか,そちらが今度は疑問ですね。

 ともかくも,審決取消訴訟で一番争えるのは,今回紹介したような所ですから,審決の認定部はよくよく注意した方がよいですね。

 ところで,話は全く変わりますが,今回の裁判長は,八木さんです。
 飯村さんが退官したり,異動になったわけではありません。そして,この八木さん,私が修習生のころに,横浜家裁か地裁にいらしたようです。しかしながら,知らないですね~。ただ,その昔,飯村さんが東京地裁の部長をされていたころ,やはり当時も陪席だったようです。色んなつながりがあるのですね。
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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