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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 本件は,平成12年11月29日,発明の名称を「有機LED用燐光性ドーパントとしての式L2MXの錯体」とする特許出願をし,平成17年8月23日,その一部につき分割出願をして(特願2005-241794),設定の登録(特許第4358168号)を受けた原告らの特許に対し,被告が無効審判(無効2010-800084号)を請求した所,原告らが,訂正請求をしたものの,特許庁が,訂正を認めた上で無効審決(サポート要件違反)をしたことから,これに不服の原告らが,審決取消訴訟を提起したものです。

 これに対して,知財高裁4部(土肥さんの合議体です。)は,審決を取り消しました。要するに,サポート要件の違反はないということですね。

 お,サポート要件ですか,ということで,取り上げた理由もわかりますね。

 あとで,使うので,クレーム1のみ示しておきます。
 
 【請求項1】式L2MX(式中,L及びXは,異なったモノアニオン性二座配位子であり,MはIrであり,さらに前記L配位子はsp2混成炭素及び窒素原子を介してMに配位し;前記X配位子がO-O配位子又はN-O配位子である)の燐光性錯体を含む,有機発光デバイスの発光層として用いるための組成物(但し,L2MX中,Xがヘキサフルオロアセチルアセトネート又はジフェニルアセチルアセトネートである組成物を除く)。

 技術的には,有機EL素子の発光材料ですね。

 そして,審決の理由は,「本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明に係る技術的事項を具備するものが全て本件発明の解決しようとする課題を解決できると当業者が認識することができるように記載されておらず,本件出願日当時の技術常識に照らしても,本件発明が解決すべき課題を解決できると当業者が認識することができるものということができず,」という,パラメータ事件に準拠したものでした。

2 問題点
 サポート要件とくれば,ちょっと前までは,パラメータ事件大合議,というくらいのものでした。

 ところが,ここで散々話しているように,ちょっと前に飯村さんの合議体のフリバンセリン事件で,その規範に従わなかった判決が出たもんだから,弱火ながらも一応論点となったわけです。

 この論点については,特許法の判例百選での新61期の前田健准教授の解説(22番の判決)やらを見た方が早いです。

 平たく言うと,サポート要件と実施可能要件は,同じものを違う観点から見ただけで(一方は,クレーム中心,他方は,発明の詳細な説明中心。),結局は同じことだという実務通説(パラメータ事件大合議ですね。),と,いやいやそうでない,サポート要件と実施可能要件は,違うものだから,合目的の規範(実際は,ゆるい規範)で判断すべきだという説の争いですね~。しかし弱火ですねー。

 ただ,そうは言うものの,現実に,当事者が,パラメータ事件大合議でやれ,いやフリバンセリン事件でやれ,とまで争ったことはなかったのでした。

 そう。そんな話をしたということは,この事件,当事者が規範の綱引きをしているのですね。ですので,ここで取り上げたのです。

 まず,審決で負けた,特許権者の原告らは,パラメータ大合議事件の規範は,厳しすぎるんじゃ,別に上記のとおり,難しいパラメータで規定されたクレームじゃねえで,フリバンセリン事件のゆるい規範で判断せんかえ,ちくらっそと主張したわけです。

 他方,審決で勝った被告は,パラメータ事件大合議の規範は,パラメータ発明だけに適用すんじゃねえんで,一般的にも使ゆんのんで,ほんで,フリバンセリン事件でんパラメータ事件大合議の規範の適用要件を示したけんが,本件特許んクレームはそん適用条件にばちっと合うごたっで,ばかごとんじょう言うな,ぶち回っそ,と主張したわけです。
 私は大分弁のバイリンガルですので,ちょっと混ぜました。

 ですので,判決がどう判断したか,非常に注目したいわけです。

3 判旨
 「本件特許は,平成12年11月29日出願に係るものであるから,法36条6項1号が適用されるところ,同号には,特許請求の範囲の記載は,「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」でなければならない旨が規定されている(サポート要件)。
 特許制度は,発明を公開させることを前提に,当該発明に特許を付与して,一定期間その発明を業として独占的,排他的に実施することを保障し,もって,発明を奨励し,産業の発達に寄与することを目的とするものである。そして,ある発明について特許を受けようとする者が願書に添付すべき明細書は,本来,当該発明の技術内容を一般に開示するとともに,特許権として成立した後にその効力の及ぶ範囲(特許発明の技術的範囲)を明らかにするという役割を有するものであるから,特許請求の範囲に発明として記載して特許を受けるためには,明細書の発明の詳細な説明に,当該発明の課題が解決できることを当業者において認識できるように記載しなければならないというべきである。法36条6項1号の規定する明細書のサポート要件が,特許請求の範囲の記載を上記規定のように限定したのは,発明の詳細な説明に記載していない発明を特許請求の範囲に記載すると,公開されていない発明について独占的,排他的な権利が発生することになり,一般公衆からその自由利用の利益を奪い,ひいては産業の発達を阻害するおそれを生じ,上記の特許制度の趣旨に反することになるからである。
 そして,特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

 「・・・したがって,本件明細書の発明の詳細な説明は,本件発明について,有機発光デバイスの発光層として用いることができる組成物であって,本件出願日当時に知られていた有機金属化合物とは異なるものとして説明しているものと認めるのが相当であり,本件出願日前に達成されていたものと比較してより高いEL効率を発揮する組成物として説明するものとは認められない。・・・・

 そして,本件明細書には,本件発明の課題が必ずしも明確に記載されていないが,本件明細書は,上記技術水準を前提として,本件発明について,有機発光デバイスの発光層として用いることができる組成物であって,本件出願日当時に知られていた有機金属化合物とは異なるものとして説明しているものであるから,本件発明の課題は,「有機発光デバイスの発光層に使用した場合に燐光を発する新たな有機金属化合物を得ること」であると認めるのが相当である。
 他方,本件明細書には,先行技術(甲1)によるEL効率や,これと同等以上のEL効率を発揮することの意義等についての具体的な記載は何ら見当たらず,本件明細書は,本件発明について,本件出願日前に達成されていたものと比較してより高いEL効率を発揮する組成物として説明するものとは認められない以上,本件発明は,本件出願日前に達成されていたものと比較してより高いEL効率を発揮することなどを課題としているものとは認められない。

 「本件発明の課題は,前記(1)に説示のとおり,「有機発光デバイスの発光層に使用した場合に燐光を発する新たな有機金属化合物を得ること」であるところ,本件明細書の発明の詳細な説明には,前記(2)に説示のとおり,本件出願日前に燐光を発することが知られていなかった特定の有機イリジウム錯体が,その製造方法及び本件発明の他の構成とともに具体的に記載されているばかりか,前記(3)に説示のとおり,当該有機イリジウム錯体を有機発光デバイスの発光層に使用した場合に燐光を発することが,その作用機序とともに具体的に記載されているといえる。
 したがって,本件発明として特許請求の範囲に記載された発明は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるというべきであって,本件発明の特許請求の範囲の記載は,法36条6項1号にいう「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものである」ということができる。」

4 検討
 まず,規範は,一目瞭然,パラメータ事件大合議判決のものです。ですので,この時点では,被告有利,でした。

 ところが,この後,判旨は急展開します。パラメータ事件ならば,発明の課題が大事,でも今回の明細書には,その明示がない,ということで,課題探しをやったのですね。

 その結果,審決の認定した課題「本件出願日前に達成されていたものと比較してより高いEL効率を発揮すること」ではなく,「有機発光デバイスの発光層に使用した場合に燐光を発する新たな有機金属化合物を得ること」が課題なのだ,と認定したのでした。

 そうすると,この時点で勝負あったということになります。というのは,審決の認定した課題では,ある意味応用発明のような課題ですから,微に入り細に入り,どうやって作ったのだ~どうゆう効果が出たのだ~,そうじゃなきゃ課題を解決できたと言えんだろう,と突っ込まれる余地があったのですね。
 他方,判決の認定した課題では,ある意味パイオニア発明的なものですから,一応作れました,一応こんな効果も出ました,でもまあ最初の発明だからね,大目に見ましょ,となるわけです。

 珍しいパターンですね。

 そうそう,なお書きで,「なお,原告らは,法36条6項1号の解釈に当たっては,特許請求の範囲の記載が,発明の詳細な説明の記載を超えているか否かを合目的的な解釈手法で判断すれば足りる旨を主張するところ,仮に当該判断手法によったとしても,前記(2)及び(3)に説示のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明には,式L2MXで表される様々な有機イリジウム錯体を有機発光デバイスの発光層又はこれが組み込まれた表示装置に使用した場合に燐光を発することがその作用機序とともに具体的に記載されているから,当業者は,本件発明が本件明細書の発明の詳細な説明に記載されているものと理解することができると認められ,本件審決の判断が誤りであるとの上記結論に異なるところはない。」とあります。

 フリバンセリン事件の規範はゆるいものですので,それで判断して違反になるわきゃないですわな。

 ということで,フリバンセリン事件か,パラメータ事件か,当事者が規範の綱引きを行った事件で,知財高裁4部は,現に,パラメータ事件の方を取りました。

 でも,だからと言って,全部の部や全部の事件でも,そうなんだろうとならない所が司法の良い所だというのは,リーガルマインドのある方にはわかりますよね。

5 追伸
 まあしかし,今年の冬は寒いですね。11月下旬の連休が終わったら一気に冬って感じになっております。しかも,1月くらいの寒さだと感じます。
 去年も寒かった(正月に大分の実家に帰ったら,東京よりも暖かでしたから。九州の北の方なので,いつもは東京よりも寒かったのですが。)けど,今年はそれ以上かもしれません。今日は,午前中雨が少し降ったものの,漸く一段落っていう感じです。いやあ寒いのは嫌だなあ。
 
 夏生まれの私には,もはや耐えられないという所です。本当,春まで冬眠したいですニャ。
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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