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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,名称を「位置検出器及びその接触針」とする発明についての本件特許(特許第4072282号)の特許権者である控訴人(原告)が,被控訴人(被告)が製造,販売等している原判決別紙物件目録1記載1及び2の各スタイラス(接触針)を装着した同目録2記載1及び2の各位置検出器が本件発明1の技術的範囲に属すると主張して,本件特許権に基づく差止請求(直接侵害・間接侵害)として上記両目録記載の各物件の製造,販売等の差止め及び廃棄を求めるとともに,本件特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求(直接侵害・間接侵害)として,損害賠償金900万円及び不法行為後の日で本件訴状送達の日の翌日である平成23年6月11日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を求めた事件です。

 これに対して,一審の大阪地裁平成23年(ワ)第6980号(平成24年11月1日判決)は(第26民事部で山田さんの合議体ですね。),「進歩性欠如の無効理由を有しており,特許無効審判により無効にされるべきものと認められるから,原告は,被告に対し,本件特許権に基づく権利を行使することはできない」として,原告の請求をすべて棄却しました。

 で,この二審の知財高裁2部(清水さんの合議体ですね。)も,控訴棄却しました(つまりは請求棄却ということです。)。

 まあ,上っ面だけから見るとよくある事件なのですが,これを取り上げた理由は結構興味深い点があったからです。それは,久々に,記載要件の不備で権利行使不能となったためです。

 クレームはこんな感じです。
 本件訂正発明1
【請求項1】
  A1  電気的に絶縁された状態で所定の安定位置を保持する微小移動可能な接触体(5)と,
  A2  当該接触体に接続された接触検出回路(3,4)とを備え,
  A3´当該接触検出回路で接触体(5)と被加工物との接触を電気的に検出する位置検出器において,
  D    接触体(5)が接触部である先端の球体(16)と当該球体を本体から離れた位置に保持する細長い柄杵(17)とを含む接触針であり,前記柄杵が非磁性材で製作され,
  E´  前記球体(16)がタングステンカーバイトの微粉末に4~16%のニッケルを結合材として加え,型内でニッケルを溶融及び当該混合物を球形に焼結し,その後に転動させながら研磨することで得られた非磁性材であることを特徴とする,
  C    位置検出器。

 これはそんな難しい技術じゃありません。基本,玄関のピンポンと同じで,押すと電気回路が閉じて電流が流れ,音や光で分かるというやつと同じ原理です。それを生産機械などに据えて,加工品の位置を測ろうとするものです。
 ただし,切削加工とかで金属粉が出て,それを電流を通す金属部の接触体がそのうち磁性を帯びてくっつけるようになるので,その防止策が発明のミソです。構成要件のDとE’の所ですね。

 そそ,特許なんて,偉そうな,企業法務系の王様みたいな顔をして,エリート勝ち組ブル弁の専売特許じゃ~みたいなイメージがありますが,実は誰でもわかる技術の場合も結構あります。そんなの高いフィーでお高く留まった特許弁護士じゃなくてもできるんじゃないの~って例はたくさんあると思うのですね。

 そう言えば,またこの前の研修の話になりますが,それ関連で知り合いの弁理士に聞いた話です。
 ある有名大手知財事務所に審決取消訴訟を頼んだら,700万円の弁護士費用だと言われた,あまりに高いのでびっくりし,中堅どころの知財事務所に頼んで終わってみたら,やっぱりタイムチャージで結局700万円くらいかかったって話がありました。いやあ凄いですね。どんな複雑な事案なんでしょう~♪
 私ならその1/4くらいのフィーですが,ま結局,当事者の言い訳作り・アリバイ作りが重要なので,私には頼まないって所なんでしょう。

 おっと,議題から逸れましたな。で,上記のとおり,一審で,進歩性なしと言われたもんで,慌てて訂正したのが,上記のクレームです。E’に製法で数値限定が入ってきたことがポイントです。

2 問題点
 問題点は,記載不備の話ですが,特に,今回は実施可能要件です。
 条文を見てみましょう。出願時ではなく,今の法律ですが,基本法改正ないので,いいでしょう。特許法36条4項1号です。

経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること。

 なので,試行錯誤しなきゃいけないとか,技術常識を用いてもようわからんというような明細書の記載はダメ!ってやつです。

 ただね~今回は上記のとおり,一審で進歩性なしって言われたため,引例との差異を付けるので精一杯だったんじゃないかなあって所です。ですので,あまり細かいことを考えずに訂正したのでしょうね。

 早めに判旨に行きますか~。

3 判旨
「   (1)  本件訂正により生じた無効理由について
  本件訂正の適法性については,前記第2,2(5)のとおりである。
  被控訴人の主張は,本件訂正が,本件訂正発明1と乙12発明との間に新たな実質的相違点を生じさせるようなものである場合には,本件明細書における発明の詳細な説明の記載が実施可能要件(平成14年法律第24号による改正前の特許法36条4項)に反するというものである。これは,スタイラス先端の球体(接触体の接触部)の製造方法が,本件訂正の結果,本件明細書に開示された方法に限定され,その他周知の方法が排除されたことの結果として,当業者において実施可能ではなくなるとの趣旨と解される。
  そこで,以下,事案の内容,当事者の主張立証状況にかんがみ,本件訂正により生じた無効理由中の実施可能要件違反の有無について,まず検討することとする。
    (2)  実施可能要件違反の有無について
      ア  本件訂正発明1について
  本件明細書(本件訂正後のもの。以下同じ)には,次の記載がある。 ・・・・

 上記記載によると,本件訂正発明1においては,焼結の対象(原料)は,「タングステンカーバイトの微粉末」に所定量の「ニッケル」を結合材として加えた「混合物」であり,また,本件明細書にも,上記以外の他の微量添加元素を含むことについては何ら記載がないから,本件訂正発明1には,焼結の対象(原料)には,「タングステンカーバイトの微粉末」と「ニッケル」以外の他の微量添加元素を含む場合は含まれないと解される。
  また,「タングステンカーバイトの微粉末」については,本件明細書には,具体的にどのようなものを使用するのかについて何ら記載がされていないから,通常の化学成分及び粒度を有するタングステンカーバイト粉(乙45)を意味するものと認められ,通常のタングステンカーバイト粉よりも炭素含有量を相当程度少なくした特殊なタングステンカーバイト粉を使用する場合は含まれないと解される。
  さらに,本件訂正発明1においては,型内での焼結が行われるが,型の内外で雰囲気が遮断されるため,脱炭雰囲気中での焼結によりタングステンカーバイトから炭素を除去することができないことは明らかである。また,本件明細書にも,脱炭雰囲気中での焼結については何ら記載がないから,本件訂正発明1には,脱炭雰囲気中で焼結する場合は含まれないと解される。
  なお,本件明細書の「型内で球形に焼結したものの周面を研磨して真円とし」(【0015】)との記載によれば,焼結後に「転動させながら研磨する」のは,球体を真円(真球)とするためであり,球体を構成する「非磁性材」の非磁性化に寄与する工程ではないと考えられる。
 以上によれば,結局,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件訂正発明1におけるスタイラス先端の球体を構成する「非磁性材」は,通常のタングステンカーバイトの微粉末に4~16%のニッケルを結合材として加え,型内で当該混合物を溶融し,当該混合物を球形に焼結することのみにより,その非磁性化が達成されることが記載されていることになる。
    イ  実施可能性について
  タングステンカーバイトは非磁性体であり(乙36),ニッケルは強磁性体であるから(乙37),タングステンカーバイト―ニッケル系超硬合金の非磁性化は,強磁性体であるニッケルを非磁性化することにより達成されるものであることは明らかであり,この非磁性化のための手段としての技術常識は,次の①及び②のとおりであると認められる。
  ①  タングステンカーバイト―ニッケル系超硬合金における炭素含有量を少なくすることにより,タングステンをニッケル中に固溶させ,ニッケルの格子定数を変化させる。具体的には,原料であるタングステンカーバイト粉末として,炭素含有量が通常よりも不足のもの(WC中に少量のW2Cを含むもの)を用いるか,焼結を脱炭雰囲気中で行うことにより,炭素含有量を少なくする。(乙24,47)
  ②  タングステンカーバイト―ニッケル系超硬合金の原料に,タングステン,クロム,モリブデン,タンタル等を添加することにより,これらの元素をニッケル中に固溶させ,ニッケルの格子定数を変化させる。(乙24,38,39,47)
  以上の技術常識に照らすと,本件明細書に記載された「非磁性材」の製造方法は,非磁性化を可能とするための手段の記載があるととはいえず,この記載の「非磁性材」の製造方法によっては,当業者は,スタイラス先端の球体を構成する「非磁性材」を作製することはできないと認められる。 」

4 検討
 要するに,E’に対応する明細書記載のような製法だけじゃあ,非磁性体を製造するのは難しいということですね。カーバイトなので,その炭素の量を調整するか,第三の元素を使うか,どちらかじゃないと,元々強磁性体であるニッケルの磁性を消すことができないわけです。

 まあしかし,これは細かいなあ~♪ここまで要求するのは酷なんじゃないかなあ。

 広いクレームのときは,それを製造する色んな方法があり得たので,まあ実施可能要件違反にもならない。他方,狭いクレームのときは,それを製造する方法も限られてくるので,それ相応の詳しい説明がないとダメ!ってわけですか~。

 でもそれって,そんなことまで出願時に予想して明細書書けって言ってるようなもんで,それはほぼ不可能でしょうね。普通は減縮したクレームに対応しそうな明細書の記載があれば,それでOKと考えますわなあ。それ以上,その記載だけで本当にその物が作れるかどうかなんて,そこまでのチェックはできませんよね。しかも,後でそのことが分かったので,付け足そう~♪なんてやると新規事項追加でNGですし,1年以上経ってりゃ国内優先権も使えませんしね。

 兎に角,私だけじゃなく,色んな人の評釈も待ちたい,結構問題となる判決だと思いますよ。

 ちなみに,記載不備で無効になった侵害訴訟の事件は,前回が昨年の5月のものだったので,1年4ヶ月ぶりですね~。
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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