忍者ブログ
知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 本件は,発明の名称を「安全後退用針を備えたカニューレ挿入装置」とする特許(特許第2647132号。既に,平成20年4月28日存続期間満了。以下「本件特許1」といい,その特許権を「本件特許権1」,訂正2010-390017号審決により訂正された特許請求の範囲請求項1記載の発明を「本件訂正発明1」という。)の特許権者であったAから本件特許権1に基づく権利の全てを譲り受け,かつ,発明の名称を「医療器具を挿入しその後保護する安全装置」とする特許(本件特許2といい,その特許権を「本件特許権2」といい,その特許請求の範囲請求項1,3,5,7,8記載の発明を「本件発明2-1」,「本件発明2-3」,「本件発明2-5」,「本件発明2-7」,「本件発明2-8」といい,本件訂正発明1と併せて「本件各発明」という。なお,本件特許2の請求項2,4,6記載の発明は,請求原因として主張されていない。)の特許権者である被控訴人(1審原告)が,控訴人ら(1審被告ら)の製造,販売等していた別紙物件目録記載の医療器具(被告製品)は上記各特許権を侵害するとして,本件特許権2に基づき,特許法100条1項により被告製品の製造,販売等の差止めを求めるとともに,本件特許権1及び本件特許権2を侵害した不法行為による損害賠償請求権に基づき,連帯して特許法102条3項による損害7億4280万円及び弁護士費用7428万円の合計8億1708万円並びにこれに対する平成20年11月26(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案の控訴審です。

 まず,本件の原審,東京地裁平成20(ワ)33536号(平成24年02月07日判決)は,原告の請求を一部認容しました(差止と,賠償金1億1668万7911円です。)。
 そこで,この判決に不服の被告が控訴したのが,今回の判決ですね。

 そして,知財高裁3部(芝田さんの合議体ですね。)は,控訴を棄却しました。

 侵害訴訟というと,クレーム解釈,均等論,間接侵害,はては無効論の進歩性又は記載要件??という考えられる論点は色々ありますが,今回取り上げた理由は違います。

 それはちょっと厳しいんじゃないの,これが通例になると,控訴審の意味はあんまりなくない?というものです。

2 問題点
 弁理士の方も侵害訴訟の代理人はできますし,実体法(特許法)は当然詳しいですし,技術のことは当然ですね。でも,民法と並んで弱点の1つが民事訴訟法じゃないでしょうか。

 そして,実は,民事訴訟法が口語化され,抜本改正があったのが平成10年なので,ある程度ベテランの弁護士も民訴法の条文を知らなかったりします。平成10年というと,修習期でいうと53期くらいですね。とすると,それくらいの期以前合格の弁護士が代理人についている場合は,弁理士も会社側も,色んなところを注意した方がいいですね。

 で,話は逸れそうになりましたが,今回問題になったのは,その民事訴訟法です。157条になります。

「(時機に後れた攻撃防御方法の却下等)
第百五十七条  当事者が故意又は重大な過失により時機に後れて提出した攻撃又は防御の方法については、これにより訴訟の完結を遅延させることとなると認めたときは、裁判所は、申立てにより又は職権で、却下の決定をすることができる。」


 これが問題になった結構有名な事件もありました。例の切り餅特許の事件です。
 これは,実は,中間判決後に,被告側代理人の交代があり,その交代した後の代理人がかなりの無効資料を提出したのですが,時機に後れた攻撃防御方法として,却下されております。

 ただ,この切り餅特許の事件は,中間判決というメルクマールもありますので,被告側への不意打ちの程度という意味ではそれほど大きくないのではないかと思います。

 また,今回の事件に関し,手持ちのデータベースでちょっと調べたのですが,この切り餅特許の事件が厳しいくらいで,あとは一太郎事件の控訴審でも,何だかんだ言いつつも裁判所は控訴審からでの新証拠を受け入れる場合が多いですよね。だって,民事訴訟は,続審主義なのですから,新たな攻撃防御方法を提出してもらうということが前提です。審決取消訴訟のように,事後審ではないのですから(しかも,最高裁の大法廷の判例もあるし。)。

 そうしないと,紛争の1回性から言ってもどうなのかなという面もあるでしょうしね。

 と,散々引っ張ったということは・・・?

3 判決
「(1) 本件追加無効主張について
ア 控訴人らは,控訴理由として,①本件特許1に関する無効主張(前記第3の2(1)ア:乙9の1(特開昭62-72367号公報)を主引用例とする容易想到),②本件発明2-7,2-8に係る特許に関する無効主張(前記第3の2(2)ア(ア):505号明細書を主引用例とする容易想到,同(イ):乙11の1(特開平3-15481号公報)を主引用例とし505明細書記載の技術を組み合わせることにより容易想到)を主張するところ,被控訴人は,①の無効主張及び②の505号明細書を主引用例とする無効主張(原審追加無効主張)は,いずれも本件主張期限の後に提出され,原審裁判所に時機に後れた攻撃防御方法として却下された主張であり,②の乙11の1及び505号明細書に基づく無効主張(控訴審追加無効主張)は,控訴審に至って初めてされた主張であり,いずれも時機に後れた攻撃防御方法として却下されるべきで,控訴審において審理の対象とされるべきではないと主張するので,まず,この点について検討する。
イ 原審追加無効主張について
(ア) 本件訴訟の原審における審理及び関連する特許無効審判の経過の概要は,以下のとおりである(各項末尾に証拠を掲記するもの以外は,記録上明らかな事実である。)。・・・・
(イ) 以上のように,原審の受命裁判官は,第1回弁論準備手続期日において控訴人らに対し無効論の準備をするように指示し,控訴人らは,本件訴訟の提起(平成20年11月19日,同月25日訴状送達)から2か月以上後の平成21年2月6日付け第1準備書面により,本件特許1及び本件特許2の請求項1,3,5について最初の無効主張を行い,同年6月12日付け準備書面(4)により請求原因に追加された本件特許2の請求項7,8については,追加から約3か月後である同年9月18日付け第8準備書面により最初の無効主張を行っている。そして,平成22年2月5日の第8回弁論準備手続期日において,受命裁判官は,本件各特許について無効理由の追加は原則として認めないとし,同年6月14日(本件主張期限)の第11回弁論準備手続期日におい当事者双方により技術説明が実施され,原審裁判所は,以後,侵害論についての主張立証の追加は認めないとしたものである。
 上記原審の審理経過によれば,原審裁判所が侵害論についての主張立証の追加は認めないとした平成22年6月14日(本件主張期限)は,本件訴訟の提起から1年6か月以上後で,本件特許2の請求項7,8が請求原因に追加されてから約1年を経過し,しかも,受命裁判官が無効理由の追加は原則として認めないとした第8回弁論準備手続期日からも4か月以上を経過しているのであるから,侵害論の主張を制限する期間として短すぎるとは認められない。・・・原審追加無効主張(平成22年12月15日付け第24準備書面,平成23年5月9日付け第25準備書面,同年8月4日付け第27準備書面及び同月30日付け第28準備書面による主張)及びこれらに係る上記各証拠は,いずれも本件主張期限から6か月以上も経過した後に提出されたもので,提出が当該時期となったことにやむを得ない事情は認められないから,控訴人らは,少なくとも重大な過失によりこれらの主張立証を時機に後れて提出したものというべきであり,かつ,これにより訴訟の完結を遅延させるものと認められる。したがって,原審追加無効主張を時機に後れた攻撃防御方法であるとして却下した原審裁判所の判断に,誤りはない。
(ウ) 当審においても,原審追加無効主張は,上述したのと同様の理由により少なくとも重大な過失により時機に後れて提出されたものというほかなく,かつ,これにより訴訟の完結を遅延させるものであることも明らかである。
 控訴人らは,本件のように改正法の公布,施行時をまたいで係属していた事件について,無効主張を時機に後れた攻撃防御方法として却下すると,控訴人らは予想外の著しい不利益を被ることになるなどと主張する。しかしながら,上記イに認定した原審の審理経過によれば,控訴人らには無効主張を提出する十分な期間があったというべきであるから,控訴人らの主張を採用することはできない。
 よって,当審において提出された控訴人らの原審追加無効主張は,民事訴訟法157条1項によりこれを却下する。

(2) 控訴審追加無効主張について
 控訴審追加無効主張は,控訴人らの平成24年4月2日付け控訴理由書により追加された無効主張であり,本件主張期限から1年9か月以上経過した後に提出されたものであるところ,上記審理経過に照らして,同主張が後れて提出されたことについてやむを得ない事情があるとは認められない。したがって,控訴審追加無効主張は,少なくとも重大な過失により時機に後れて提出されたものというほかなく,かつ,これにより訴訟の完結を遅延させるものであることも明らかである。控訴人らは縷々主張するが,採用の限りではない。
 よって,控訴人らの控訴審追加無効主張は,民事訴訟法157条1項によりこれを却下する。」

4 検討
 控訴人(被告)は,無効論の攻撃防御方法に関し3種の主張をしています。①まず,一審で追加した無効主張を却下したのが違法,②その追加した無効主張を改めて控訴審で審理してくれ,③さらに,控訴審で追加した無効主張をも控訴審で審理してくれ,というわけです。

 ところが控訴審では,①は適法,②も却下,③も却下,ということです。

 でもこれいいんですかね。控訴審が判断の基準としたのは,あくまで一審での主張制限の終期です。続審主義とは言え,こういうタイムリミットまで,引き継がれるのですかね~。

 で調べたところ,古い判例で,最高裁昭和28(オ)759号(昭和30年04月05日判決)がありました。

 これによると,「控訴審において初めて提出した攻撃防禦の方法が、民訴第一三九条にいわゆる時機に後れたるや否やは、第一審以来の訴訟手続の経過を通観してこれを判断すべく、時機に後れた攻撃防禦の方法であつても、当事者に故意または重大な過失が存し、かつ訴訟の完結を遅延せしめたる場合でなければ、同条によりこれを却下し得ないものと解すべきである。」というわけです(なお,民訴法157条は,平成10年改正前は,139条だったものです。)。

 つまりは,一審のタイムリミットまでに,本当に出せた攻撃防御方法だったら,二審で時機に後れた攻撃防御方法に当たり却下される可能性はあるということで,最高裁の判例にも反しない以上,何ら不当じゃないということですね。

 でも,この事案で,本当に,「当事者に故意または重大な過失が存し、かつ訴訟の完結を遅延せしめた」と言えるのですかね~。いやあ私は微妙だと思いますよ。
 という風に,最高裁の判決のあるところですから,少なくとも上告受理の申立て(民訴法319条)はできるじゃんないかなあ,またやった方がいんじゃないかなあと思いますね。

5 その他
 特許界隈ですと,今回の民訴法のやつより,特許法102条が問題となった最新の大合議の紹介でもやれと言われそうですが,あれはできないんですよ。非常に弁護士チックな理由でね。

 そう,できないと,このように書くこと自体も,ヤッカミだろと言われてもアレなので,ともかくこの辺で。
PR
600  599  598  597  596  595  594  593  592  591  590 
カレンダー
06 2017/07 08
S M T W T F S
1
3 5 7 8
9 11 12 13 15
16 17 19 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31
ブログ内検索
プロフィール
HN:
iwanagalaw
HP:
性別:
男性
職業:
弁護士
趣味:
サーフィン&スノーボード
自己紹介:
理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
カウンター
アクセス解析
忍者アナライズ
Admin / Write
忍者ブログ [PR]