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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 本件は,発明の名称を「高強度高延性容器用鋼板およびその製造方法」とする発明について,平成10年5月26日に特許出願をし,平成14年7月5日に設定登録がされた(特許第3324074号)特許を保有の被告に対し,無効審判請求(サポート要件・明確性要件違反,新規性なし)をした原告が,被告による訂正請求を経て,特許庁により訂正を認め,不成立審決(サポート要件・明確性要件OK,新規性あり)を下されたため,これに不服として,審決取消訴訟を提起したものです。

 これに対して,知財高裁3部(芝田さんの合議体ですね。)は,審決を取り消しました。要するに,サポート要件の違反あり,ということです。

 お,サポート要件,すなわち記載要件の違反ですか~♪珍しいってところです。

 ま,ここで取り上げたのもそういう理由だからですね。
 ちなみにクレームは,以下のとおりです。
 「【請求項1】
 重量%で,C:0.005~0.040%を含有し,JIS5号試験片による引張試験における0.2%耐力が430MPa以上,全伸びが15%以下で,10%の冷間圧延前後のJIS5号試験片による引張試験における0.2%耐力の差が120MPa以下で,引張強度と0.2%耐力の差が20MPa以上であることを特徴とする板厚0.4mm 以下の高強度高延性容器用鋼板。

 数値限定な上に,マニアックなパラメータ特許ってところですね。こりゃ見えてきたなあって感じでしょうか。

2 問題点
 サポート要件は,ここで,何でも取り上げました。条文は,特許法36条6項1号です。
 「第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
 一  特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。

 で,裁判の規範は,飯村さんの特殊な判決がありますが,大体パラメータ事件の判決です。飯村さん系の判決が少しは出るかなあと思ったのですが,ここのところ,本当パラメータ事件のやつだけですね。
 ポイントは,「特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か」ということです。

 さて,そうすると,明細書にどの程度,記載していれば,「当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる」のかが問題なのですが,恐らく技術分野とか,パイオニア発明かそうでないか,などで決まってくると思います。
 極めて大雑把に言えば,化学とか薬とかバイオとかの発明は,かなり詳細に書いていないとダメですね。これらの分野のものは,ほんのちょっとの違いで作用効果がめちゃくちゃ違いますから。また,パイオニア発明についても,同じです。要するに,当業者でも,こうならこうだろうという予測が出来にくいような場合は,詳細に書いていないとね,ってわけです。
 
 だから,究極のジェネリック対策としては,薬の成分を全部明かさないということがありえます。勿論,あまりに明かさないと特許もとれず,認可も下りないのですが,そうならない程度,つまりは,製造工程でほんの少しだけ入れる鼻薬程度のもの秘匿のことですね。そうすると,ジェネリックが全く同じものを作った筈でも,新薬と同じ効き目が無いこともありえるわけです。実際,医者によっては,ジェネリックの効き目ってどうなんだろうと思っている人もいるらしく,まあ知る人ぞ知る新薬メーカーの隠れたジェネリック対策ですね。

 さて,今回の発明は,缶詰め用の鋼板で,高強度で,高延性(加工しやい)のものを実現したというものです。もう何ちゅうか,またそのパターンか!って感じですよね。強度が高いと,普通は加工しやすくないですよね。
 他方,加工しやすいと,強度はイマイチなのが普通です。ですので,何故,一見こんな矛盾する課題をどうやって克服したのか~♪がポイントになるわけです。

 そして,上記のクレームのとおり,元素の限定はCのみ,製造方法の限定もない,ある意味獏としているわけで,・・・その結末は?ってことですね。

3 判旨
 「本件訂正発明に係る特許請求の範囲に記載された鋼板は,上記アのとおり,C:0.005~0.040%を含有し,容器に用いられるものである限り,各種の成分及び組成範囲を有する鋼板を包含するものであるのに対し,訂正明細書の発明の詳細な説明には,上記イ以外の成分及び組成範囲を有する鋼(例えば,上記の鋼に,更にCr,Cu,Ni等を添加したものなど)を用いて製造された鋼板が,「JIS5号試験片による引張試験における0.2%耐力が430MPa以上,全伸びが15%以下」及び「10%の冷間圧延前後のJIS5号試験片による引張試験における0.2%耐力の差が120MPa以下で,引張強度と0.2%耐力の差が20MPa以上」を満たし,良好なフランジ成形性を有することについては,何ら開示されていない。
 のみならず,そもそも,合金は,通常,その構成(成分及び組成範囲等)から,どのような特性を有するか予測することは困難であり,また,ある成分の含有量を増減したり,その他の成分を更に添加したりすると,その特性が大きく変わるものであって,合金の成分及び組成範囲が異なれば,同じ製造方法により製造したとしても,その特性は異なることが通常であると解される。そして,訂正明細書の発明の詳細な説明に開示された鋼の組成についてみると,含有する成分として,C:0.005~0.040%のほか,Si:0.001~0.1%,Mn:0.01~0.5%,P:0.002~0.04%,S:0.002~0.04%,Al:0.010~0.100%,N:0.0005~0.0060と特定しているところ,上記以外の成分及び組成範囲を有する鋼を用いる場合においても,上記の所定の製造方法により製造された鋼板が,良好なフランジ成形性を有するものであるとは,当業者が認識することはできないというべきであり,また,そのように認識することができると認めるに足りる証拠もない。
 そうすると,鋼の組成について,「C:0.005~0.040%を含有」することを特定するのみで,C以外の成分について何ら特定していない本件訂正発明は,訂正明細書の発明の詳細な説明に開示された技術事項を超える広い特許請求の範囲を記載していることになるから,訂正明細書の発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。」

4 検討
 いやあ予想とおりの結果ですね。所望の性能が出た鋼板の態様の記載はあったものの,それはクレームの範囲の一部のみ。それ以外の部分のところは,どうやって作るの~これ??ってわけですね。そうすると,やはりサポートされているとは言えないのでしょうね。
 
 あと,サポート要件違反は,紹介した判旨以外のところでもありとされました。ま,詳しくは判決を見てください。
 技術的にはそんな難しい話じゃないので,食わず嫌いの,法学部出身の先生方や学者の皆さんも読んで損はないですよ。

5 その他
 こうやって知財の判決を最高裁のHPから見ているのですが,今般プラウザのfirefoxをバージョンアップしたら,大失敗ですね。
 firefoxは,軽くて,しかも操作が昔からあまり変わらないので,使い続けているのですが(操作性って重要ですよね。IEは確か操作がすごく変わった時期があり,使わなくなりました。だって,そうでしょ。ブレーキとアクセルを間違えるお年寄りが増えたので,今度のクラウンからは,ブレーキとアクセルの位置を逆にしました~,ってトヨタが言ったら,正気かおい!ってなるでしょ。変えるのは中身だけでいいのですよ。やり方とか変えちゃダメですよ。民法の改正も同じことですけどね。),今回はダメですね。

 何がダメって,pdfのビューワーが標準装備したので,最高裁のHPからpdfを開くと,そのビューワーが立ち上がるのですね。ですが,これが全く読めない!文字化けの上に,位置までめちゃくちゃになるし~,最悪ですよ。モジラは馬鹿どもだなあ。

 というわけで,私と同様,この糞ビューワーを何とかしたいという人はここをどうぞ。
 いやあこれによって漸く前に戻りましたね。めでたしめでたし。
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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