忍者ブログ
知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 本件は,平成18年3月17日に出願(特願2003-62183号の分割出願)され,平成23年10月7日に設定登録された,発明の名称を「引戸装置の改修方法及び改修引戸装置」とする特許第4839108号(本件特許)の特許権に関し,原告が,平成24年3月16日,無効審判の請求(無効2012-800031号)をしたものの,特許庁は,不成立審決(本件発明1,2,4及び5には,サポート要件違反及び実施可能要件違反はなく,また,本件発明1は明確である。)をしたため,これに不服の原告が,審決取消訴訟を提起したものです。

 これに対して,知財高裁第3部(設樂さんの合議体ですね。)は,原告の請求を棄却しました。要するに,審決のとおりでよく,無効理由なし,ということです。

 発明は,要するにサッシの発明で,結構複雑ですが,無効理由は記載不備に限ってます。ですので,引例との把握なんていう面倒な作業はしなくて良いので,文系の皆さんにも受け入れやすい話だと想いますよ。ムフフフ。

クレーム1を見てみましょう。
【請求項1】
建物の開口部に取付けてあるアルミニウム合金の押出し形材から成る既設上枠,アルミニウム合金の押出し形材から成り室内側案内レールと室外側案内レールを備えた既設下枠,アルミニウム合金の押出し形材から成る既設竪枠を有する既設引戸枠を残存し,
 前記既設下枠の室外側案内レールを付け根付近から切断して撤去し,前記既設下枠の室内寄りに取付け補助部材を設け,この取付け補助部材を既設下枠の底壁の最も室内側の端部に連なる背後壁の立面にビスで固着して取付け,
 この後に,アルミニウム合金の押出し形材から成る改修用上枠,アルミニウム合金の押出し形材から成る改修用竪枠,アルミニウム合金の押出し形材から成り室外から室内に向かって上方へ段差を成して傾斜し,室外寄りが低く,室内寄りが室外寄りよりも高い底壁を備えた改修用下枠を有する改修用引戸枠を,前記既設引戸枠内に室外側から挿入し,その改修用下枠の室外寄りを,スペーサを介して既設下枠の室外寄りに接して支持すると共に,前記改修用下枠の室内寄りを前記取付け補助部材で支持し,前記背後壁の上端と改修用下枠の上端がほぼ同じ高さであり,
 前記改修用下枠の前壁を,ビスによって既設下枠の前壁に固定することで,改修用引戸枠を取付け補助部材を基準として取付けることを特徴とする引戸装置の改修方法。

 図でもなけりゃあ,何のこっちゃ?って感じですよね。
 いや,特許の専門家だからって,初見でこの程度のクレームをたちどころにわかるなんていう特殊技能は私にはありません。

 何だか皆さん,勘違いしておりますが,特許訴訟って,非常にしんどく,地道な作業の積み重ねなのですけどね。

2 問題点
 問題点は,先に書いたとおりです。
 
 サポート要件,実施可能要件,明確性要件,という,明細書の記載要件三羽ガラスってところです。

 ただ,ポイントはやはりサポート要件ですよね。条文を確認しておきましょう。あ,そうそう,弁理士の人は結構条文をすぐに確認します。これは本当良いことだと思いますね。他方,弁護士は,あまり条文を確認しませんね。すぐに,論点に行くようです。でも,条文あっての論点ですので,まずは条文を確認するというのが,イロハのイもいいところです。

6  第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
 一  特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。


 これが,特許法36条6項1号の所謂サポート要件です。よく見ると,これはクレームの要件であることがわかりますね。ただ,普通は,発明の詳細な説明中に,クレームの発明が書かれているかどうかという逆方向で判断されます。というのは,条文とおり,発明の詳細な説明が先にありきで,そこに記載した発明しかクレームできないとすると,36条5項があるのに,出願人に余計な要件を課すのではないかという話になってくるからだと思います。

 兎も角も,この「記載」の程度が問題になってくるというわけです。

 で,散々,ここでも書き,さらについ最近も書きましたので,大体はいいですよね。大きな流れとしては,パラメータ事件の大合議があり,飯村さんが,それに反旗を翻したものの,今はまたパラメータ事件の規範で落ち着いているということです。

 さあ,念願の?知財に復帰した設樂さんの合議体はどうしたのでしょうね~♫

3 判旨
 「特許制度は,明細書に開示された発明を特許として保護するものであり,明細書に開示されていない発明までも特許として保護することは特許制度の趣旨に反することから,特許法36条6項1号のいわゆるサポート要件が定められたものである。したがって,同号の要件については,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明の欄の記載によって十分に裏付けられ,開示されていることが求められるものであり,同要件に適合するものであるかどうかは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が発明の詳細な説明に記載された発明であるか,すなわち,発明の詳細な説明の記載と当業者の出願時の技術常識に照らし,当該発明における課題とその解決手段その他当業者が当該発明を理解するために必要な技術的事項が発明の詳細な説明に記載されているか否かを検討して判断すべきである。」

「・・・以上によれば,本件明細書の発明の詳細な説明には,当業者において,特許請求の範囲に記載された本件発明の課題とその解決手段その他当業者が本件発明を理解するために必要な技術的事項が記載されているものといえる。
 したがって,本件発明は,本件明細書において十分に裏付けられ,開示されているものと認められ,特許法36条6項1号のサポート要件違反の有無に関する審決の判断の結論に誤りはない。」

4 検討
 お,パラメータ事件大合議に似ているものの,一見違うようにも見えますよね。設樂オリジナルが出ました!

 規範を若干分析すると,「その他」で続けていますので,並列ですよね。
 つまり,①「当該発明における課題とその解決手段」,それ以外の②「当業者が当該発明を理解するために必要な技術的事項」が,発明の詳細な説明の記載と当業者の出願時の技術常識に照らし,発明の詳細な説明に記載されているかどうかで判断する,というわけです。

 余計なことかもしれませんが,ポイントは,必要な技術的事項ではありませんよ。「その他の」ではありませんからね。仮に「その他の・・・必要な技術的事項」となっていれば,当該発明における課題とその解決手段は,単なる例示ですから,ポイントは必要な技術的事項の方となりますけどね。

 わかりましたかな~。その他とその他の,って似ているけど,法的な解釈は全然違いますからね。英語の契約書で言えば,termとtermsの違いみたいなもんですよ。

 兎も角も,当該発明における課題とその解決手段が記載されているかどうかが第一のポイントなわけです。

 他方,パラメータ事件の方は,「特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明
の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か」です。

 若干パラメータ事件の方が抽象的ですね。つまり,具体的な当該発明における課題とその解決手段が記載されていなくても,当業者が当該発明の課題を解決できると認識できるものならいいよ,というわけです。ただ,通常,当該発明の課題を解決できると認識できるには,課題とその解決手段がきちんと書かれていないと,そんなのわかるわけありませんから,パラメータ事件の規範と設樂規範で,実際そんなに違わないとは思います。

 最初に書きましたね。特許訴訟は,地道でしんどいものだ,ということを。こういう文言1つ1つを見逃さないようにして,しかも技術も把握していくのが,デフォルトの作業ということになります。
 ですので,定型的な処理には極めて程遠く,常につきっきりで処理しないといけないわけですね。というわけであまり儲かりません。

 ただ,他の事件類型に比べて,ストレスは少ないなあと思いますね。このブログをよくご覧になっている人なら先刻ご承知でしょうが,私はかなり精神的に打たれ弱く,本当に脆弱です。などと書くと,それで何で弁護士やっているんですか?となるのですが,そりゃ私が聞きたいよ,くらいな話です。

 ですが,そんな私でも,基本,会社と会社の揉め事,誰も死んだり怪我したりしてないし,身柄が拘束されているわけでなく,事件の当事者も休みになれば,別なことで時間を割ける単なるお仕事,である類型の特許訴訟だからこそやってられるわけです。
 ですので,技術的に難しいなんぞ,本当屁みたいなもんですし,技術的に難しいのは,逆に理解欲を掻き立ててくれますから,やってても面白いわけです。本来,揉め事なので,面白いと言うのはある意味不謹慎なのですが,実際面白いですもんね。これは本当,この種の事件がメインで良かったなあと思いますね。
 

PR
702  701  700  699  698  697  696  695  694  693  692 
カレンダー
06 2017/07 08
S M T W T F S
1
3 5 7 8
9 11 12 13 15
16 17 19 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31
ブログ内検索
プロフィール
HN:
iwanagalaw
HP:
性別:
男性
職業:
弁護士
趣味:
サーフィン&スノーボード
自己紹介:
理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
カウンター
アクセス解析
忍者アナライズ
Admin / Write
忍者ブログ [PR]