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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は, 平成16年12月6日,発明の名称を「食品及び飼料サプリメントとその使用」とする発明について特許出願(特願2006-542523号,パリ条約による優先権主張:平成15年(2003年)12月5日,優先権主張国:ノルウェー。本願。)をした原告が,平成21年6月26日付けで特許庁より拒絶理由通知を受けたことから,同年12月25日付け手続補正書を提出したものの,平成22年3月15日付けで拒絶査定を受けたことから,同年7月23日,これに対する不服の審判を請求し(不服2010-16549号事件),併せて同日付け手続補正書により特許請求の範囲を補正(本件補正)したにも関わらず,特許庁は,拒絶審決(進歩性なし)を下したことから,これに不服として審決取消訴訟を提起したものです。

 これに対して知財高裁4部(富田さんの合議体ですね。)は,審決を取り消しました。要するに,進歩性あり,ということですね。

 おっと,何だかここの所年末の出血大サービスのように,判決の紹介が多くなっておりますが,中でも今日の判決は少々重要なものと思います。要注意です。

 クレームから行きましょう。本件補正後の本願補正発明です。
【請求項1】
 健康及びパフォーマンスの改善用の,ビタミンを含有する食品及び飼料サプリメントにおいて,当該サプリメントが,基礎成分として蟻酸,乳酸,クエン酸,プロピオン酸,アスコルビン酸,フマル酸,酢酸,ラク酸,及び安息香酸である少なくとも1つのC 1~8 カルボン酸及び/又はその塩と,前記サプリメントの乾燥重量1g当たり10~50mgの量のビタミンB 6 ,B 9 及びB 12 であって,その量が少なくとも,前記カルボン酸のCOOH基の代謝中に消費されうる量に相当する量のビタミンB 12 及びB 9 であって,ビタミンB 6 ,B 9 及びB 12 の量が,前記サプリメント中の純カルボン酸の含有量の乾燥重量1g当たりそれぞれ,0.5~30mg,0.1~10mg,及び1~1500μgの範囲であり,前記サプリメントの乾燥重量1g当たり5~25mgのFeと,0~1重量%の酸化防止剤とを含み,前記サプリメントを水に溶解させたとき,前記塩及びカルボン酸の量が,2.0~6.0のpHを与えることを特徴とする食品及び飼料サプリメント。

 傍線部が補正で限定したところなのでしょうね。

 ま,見てお気づきのとおり,これは数値限定発明です。その数値限定発明での進歩性が問題となって,逆転で進歩性あり!となったのですから,そりゃあ注目せんとならんって所じゃないですかね。

 で,問題となったのは,審決認定の相違点2です。
相違点2
 該食品が含む,クエン酸,ビタミンB 6 ,B 9 ,B 12 ,Fe,酸化防止剤及びクエン酸の各量が,本願補正発明では,ビタミンB 6 ,B 9 ,B 12 については,前記食品の乾燥重量1g当たり10~50mgの量のビタミンB 6 ,B 9 及びB 12 であって,その量が少なくとも,前記カルボン酸のCOOH基の代謝中に消費されうる量に相当する量のビタミンB 12 及びビタミンB 9 であって,ビタミンB 6 ,B 9 及びB 12 の量が,前記サプリメント中の純カルボン酸の含有量の乾燥重量1g当たりそれぞれ0.5~30mg,0.1~10mg及び1~1500μgの範囲であり,Fe及び酸化防止剤については,前記サプリメントの乾燥重量1g当たり5~25mgのFeと,0~1重量%の酸化防止剤であり,クエン酸の量については,該食品を水に溶解させたとき,2.0~6.0のpHを与える量であるのに対し,引用発明では,各栄養素が上記各範囲に含まれるか明らかでない点。

 要するに,数値限定の部分しか実質的な違いはない!というわけです。

2 問題点
 問題点は上記のとおり,数値限定発明の進歩性はいかに?ってやつです。

 ここでも何度か取り上げましたね。あと,マニアの人は,私の事務所のHPにある,私が書いた最初の論文を見てください。今回のこの判決のために見直しましたが,その論文に追加するようなことはありませんね。処女作というのは,本当,出来がよいことが多い,そのジンクス?とおりです。

 で,数値限定発明というと,すぐにその数値の臨界的意義というのが問題になりそうですが,そうではないのです。だって,従来技術に比べて大きな差があり,別に数値限定なんぞ付加しなくても特許性のある発明に,数値限定をしたとしても,そりゃ特許取れますよね。で,数値限定しなくても特許とれる筈のものですから,その数値に臨界的意義など必要なわけがありません。当たり前です。

 他方,もう数値の範囲しか従来技術と区別するものがない,そんな発明については構成の差はほぼない!と言って良いのですから,数値の臨界的意義,つまりその数値にしたことの意味,結局はその数値での顕著で有利な効果があるかないかが重要になるわけです。

 そして,私の論文では,後者を公知発明の延長線上にある発明と呼び,前者の臨界的意義の不要なものを公知発明の延長線上にない発明と呼んだのです。

 ということで,結局問題となるのは,上記の例は典型ですが,どのような場合が,公知発明の延長線上にない場合で,臨界的意義が不要か?ということです。
 数値限定をつけなくても特許性のある場合は,公知発明の延長線上になく臨界的意義が不要と言えるでしょうが,数値の範囲しか違いが無くても,公知発明の延長線上になく臨界的意義が不要の場合だってあるんじゃないの?そう,公知発明と大きく違うのならば,という所でしょうかね。

3 判旨
「被告は,この点について,本願補正発明においては,「サプリメントの乾燥重量1g当たり10~50の量のビタミンB 6 ,B 9 及びB 12 」と特定されているが,本願明細書にはビタミンB 6 ,B 9 及びB 12 を上記濃度で配合することの作用効果や技術的意義の記載も,その上限と下限の臨界的な技術的意義の記載もなく,それどころか,実施例のレース結果やびらんの治癒効果等の本願補正発明の効果は,上記で特定された濃度によりもたらされたものとは必ずしもいえない旨主張する。
 しかしながら,要は,引用発明におけるサプリメントの乾燥重量1g当たり各1.77mgのビタミンB 6 ,B 9 及びB 12 という濃度を,本願補正発明の「サプリメントの乾燥重量1g当たり10~50mgの量のビタミンB 6 ,B 9 及びB 12 」との濃度の範囲内とすることが容易に想到できるかどうかが問題であって,本願明細書にビタミンB 6 ,B 9 及びB 12 を上記濃度で配合することの作用効果及び技術的意義の記載並びにその上限と下限の臨界的な技術的意義の記載がないことや,実施例に見られる本願補正発明の効果が本願補正発明により特定された上記ビタミン類の濃度によりもたらされたものなのかどうかは,上記容易想到性の判断とは関係のない事項であるから,被告の上記主張は失当というほかない。
 ウ  また,被告は,引用発明は,運動パフォーマンスを向上させるための各栄養素の目安となる最低摂取量とその栄養素の特徴を生かす配合比が規定されているものであるから,引用発明において,運動量の多いスポーツ選手のパフォーマンスを向上させる目的で,運動量に合わせ最適化を図り,本願補正発明のように「サプリメントの乾燥重量1g当たり10~50mgの量のビタミンB 6 ,B 9 及びB 12 」という程度の濃度の高いものとすることは,当業者が適宜なし得る範囲内のことである旨主張する。
 しかし,前記2のとおり,引用発明は様々な栄養素を含む飲料及び栄養補助食品であるところ,引用発明に含まれる様々な栄養素の中で,ビタミンB 6 ,B 9 及びB12 が,その効果の発現に寄与していることは引用例には記載も示唆もされていないし,引用発明における栄養素の中で,ビタミンB 6 ,B 9 及びB 12 を殊更に選択して増量する動機付けも引用例には何ら記載されていない。
 さらに,引用発明におけるビタミンB 6 等の量は各50mgであるところ,サプリメントの乾燥重量1g当たりの量を本願補正発明で特定された下限値の10mgとするためには,その量を5.8倍してそれぞれ290mgにしなければならない(引用発明中のビタミンB 6 ,B 9 及びB 12 をそれぞれ5.8倍した場合,各ビタミンの量は50mg×5.8=290mgとなり,引用発明におけるサプリメント(栄養素)の量の合計は28.25+(0.290-0.05)×3=28.97gとなるから,ビタミンB 6 ,B 9 及びB 12 の各量をサプリメントの乾燥重量1g当たりに換算すると,290mg÷28.97≒10mgとなる。)。また,サプリメントの乾燥重量1g当たりの量を本願補正発明で特定された上限値の50mgとするためには,引用発明におけるその量を33倍してそれぞれ1650mgにしなければならない(引用発明中のビタミンB 6 ,B 9 及びB 12 をそれぞれ33倍した場合,各ビタミンの量は50mg×33=1650mgとなり,引用発明におけるサプリメント(栄養素)の量の合計は28.25+(1.650-0.05)×3=33.05gとなるから,ビタミンB 6 ,B 9 及びB 12 の各量をサプリメントの乾燥重量1g当たりに換算すると,1650mg÷33.05≒50mgとなる。)。しかしながら,引用発明におけるビタミンB 6 ,B 9 及びB 12 の量をそれぞれ5.8倍ないし33倍に増量しなければ,運動量の多いスポーツ選手のパフォーマンスが向上しないというような動機付けとなることも引用発明には一切記載されていない。
  そうすると,引用発明におけるサプリメントの乾燥重量1g当たり1.77mgであるビタミンB 6 ,B 9 及びB 12 の量を,本願補正発明におけるビタミンB 6 ,B9 及びB 12 の量であるサプリメントの乾燥重量1g当たり10~50mgの範囲内とすることについては,なお当業者であれば容易に想到できたということはできず,他にこれが容易想到であるとの評価をするに足りる事実の存在を認めるべき証拠もない。 」

4 検討
 この判決を書いたのは,左陪席かなあ,でも富田さんの手直しもあるかもしれませんねえ。何が言いたいかというと,この判決のセッカチ感が私にそっくりだということです。

 さて中身に行きますが,本願では,数値限定について臨界的意義はなかったようです。
 しかし,結局,判決のポイントは,相違点2における本願補正発明の「サプリメントの乾燥重量1g当たり10~50mgの量のビタミンB 6 ,B 9 及びB 12 」の数値限定が,引用発明の「サプリメントの乾燥重量1g当たり各1.77mgのビタミンB 6 ,B 9 及びB 12 」という数値限定に比べて,かなりかけ離れているんじゃないの??ということに尽きると思います。

 通常は,上記のとおり,本願のような数値限定の範囲などしか違わない場合,公知発明の延長線上にあると判断される場合が多く,それによって臨界的意義が必要とされ,臨界的意義を書いてないなら,そりゃあ進歩性ナシだべ~♫っとなるわけです。

 ところが,本件では,数値の範囲がかけ離れ過ぎていたため,公知発明の延長線上にはなく,臨界的意義不要と判断されたのではないかなあと思います。

 あと,相違点2の他の数値限定のところの判断もありますが,省略します。やはり同様の判断ですので。各自自習,ということで。

5 その他
 ところで,上記に私の事務所のHPのリンクを付けましたが,いかがでしょうかね?
 いや先日,知り合いの弁理士の方と飲んだのですが,その先生曰く,岩永先生の事務所のHPはもうちょい何とかした方がいい~という痛い所を突かれました。

 開業当時に,ISPの簡単テンプレート集みたいなやつに取り敢えず,ぶち込んだだけですので,今は昔の自作感バリバリですよね~。これでITに詳しい~,理系だ~特許だ~と言われても説得力ないのかもしれませんねえ。

 私も霞を食って生きているわけでなく,仕事をドンドンやって大好きなお金を稼がないといけませんので,できれば多くのお客さんに依頼されたいわけです。そういう意味からすると,うーんこりゃとずっと気にはしていたのですね。

 ま,というわけですので,うちなら更新料も取らないし,作成自体も安いよ~というHP作成会社の方々,ご連絡をお待ちしております(ちゃんとブログ見たって言ってよね。)。あ,仕事の依頼なら尚更お待ちしております。ムフフフ。

 
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