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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,発明の名称を「シリコーンオイルを含む単位用量の洗剤製品」とする発明について,2005年5月9日に国際出願(パリ条約による優先権主張 2004年5月11日)をした原告(特願2007-511682号)が,特許庁から,平成22年8月18日に拒絶査定をくだされ,原告は,同年12月22日,これに対する不服の審判(不服2010-28988号)を請求するとともに,請求項の数を8から7とする手続補正書を提出した(本件補正)ものの,特許庁が,拒絶審決(進歩性なし)を下したことからこれに不服として,審決取消訴訟を提起したものです。

 これに対して,知財高裁3部(設樂さんの合議体ですね。)は,審決を取り消しました。

 ま,よくある特許の進歩性の話ですが,クレームがちょっと注目です。

 「液体布地処理組成物と水溶性材料とを含む単位用量の洗剤製品であって,当該液体組成物の単位用量が前記水溶性材料内に含有され,前記液体組成物が非ニュートン液体であり,0.5s -1 の剪断速度及び20℃で測定される場合に少なくとも3Pa・s(3,000cps)の剪断粘度を有するずり減粘液体であることを特徴とし,前記液体組成物がシリコーンオイルを含み,前記シリコーンオイルが前記液体組成物中に乳化して,乳化したシリコーンオイルの液滴の平均粒径が5~50マイクロメートルであり,更に,前記液体組成物が15重量%未満の水を含む,単位用量の洗剤製品。

 化学の分野の見事なまでの数値限定発明ですね。これで進歩性が覆ったなんて,注目に値します(でも大したことはないのですが。)。

2 問題点
 問題点は進歩性で,特に数値限定発明の進歩性ですね。とは言うものの,ちょっと前に結構な判断をここで書きましたから,詳しい説明はもういいでしょう。

 重要なのは,別段数値限定発明の進歩性と言えども,基本は普通の発明の進歩性とそんな変わらないということでしょうか。

 ですので,本願発明の認定→引用発明の認定→一致点相違点認定という,所謂事実認定の所が違えば,そこで覆る可能性は非常に高いということです。

 ま,そういう言い方をしたということは?

 ちなみに,審決の認定した引用発明はこうでした。

1回用量の形態で水溶性材料からなる被膜で封入されている洗浄中に柔軟化する液体洗濯洗剤組成物であって,(a)布帛柔軟化シリコーンを組成物の少なくとも0.5重量%,及び(b)脂肪酸,及び(c)(i)非アルコキシル化陰イオン性界面活性剤を界面活性剤系の少なくとも75重量%と(ii)アルコキシル化界面活性剤を界面活性剤系の25重量%未
満とを含む界面活性剤系,及び(d)1種類以上の洗濯洗剤補助剤成分を含む,粘度が周囲条件で20s -1 のせん断速度で測定する場合,0.05Pa・s~0.3Pa・sである組成物であって,当該組成物は,水を組成物の5重量%~90重量%含むものであり,上記布帛柔軟化シリコーンは,組成物中で1μm~50μm未満の一次粒径を有するエマルションの形態である液体洗濯洗剤組成物

3 判旨
「これらのうち,②本組成物の粘度については,被告も,正しくは「周囲条件で20s -1 のせん断速度で測定する場合,0.5Pa・s~3Pa・sである」と認定すべきであったことを認めるものの,審決が原告の指摘するとおり認定したことは明らかな誤記であると主張する。
    し か る に , 審 決 は , 引 用 例 に “ The  composition  typically  has  a viscosity of from 500cps to 3,000cps, when measured at a shear rate of 20s -1  at ambient conditions.”とある(19頁3行目及び4行目)にもかかわらず,甲12文献の該当部分(【0066】)に,「本組成物の粘度は,周囲条件で20s -1 のせん断速度で測定する場合,典型的には,0.
05Pa・s(500cps)~0.3Pa・s(3,000cps)である。」とあること(1Pa・sが1000cpsに相当することは技術常識であるから,上記記述中の「0.05Pa・s」は「0.5Pa・s」の,「0.3Pa・s」は「3Pa・s」の,それぞれ誤記であると認められる。)を踏まえ,引用発明における本組成物の粘度を前記第2の3(2)アのとおり認定した上,「引用発明の「液体洗濯洗剤組成物」は,上記のとおり,「ずり減粘液体」であるから,剪断速度の増加に対して粘度が大きく低下するもの,すなわち剪断速度の減少に対して粘度が大きく上昇するものであるから,「周囲条件で20s -1 のせん断速度で測定する場合,0.05Pa・s~0.3Pa・sである」ものであれば,周囲条件と略同等の温度条件である20℃で,「0.5s -1 」なる極めて低い剪断速度で測定される場合に「少なくとも3Pa・s(3,000cps)」なる剪断粘度を有するものと理解するのが自然である。」として,相違点2が実質的な相違点であるとはいえないと結論付けたものである。
 そうすると,審決は,本組成物がその摘示したとおりの数値範囲の粘度を有するものと認定した上で,これを前提に,本願発明との相違点2があると認定し,これが実質的な相違点ではないとの判断を行ったものであるから,審決による本組成物の認定における粘度の数値範囲の記載(「0.05Pa・s~0.3Pa・s」の部分)は単なる誤記であるということはできず,審決は,上記の点において,引用発明の認定を誤ったといわざるを得ない。」

「 審決が,本組成物の粘度についての誤った認定を前提に本願発明との相違点2を認定した上,これが実質的な相違点ではないと判断したのは前記1(2)のとおりであり,本組成物の粘度についての正しい認定を前提に相違点2を認定し,これに対する判断を行っていない以上,上記認定の誤りは,審決の結論に影響するといわざるを得ない。 」

4 検討
 まあ,誰しもミスはするのですが,若干恥ずかしいミスかもしれませんねえ。
 その上,明らかな誤記といえば,それはそうだけど,それにも関わらず,兎に角突進してしまった。ミスはあっても大したことねえんだよ~お上の言うことには間違えがねえんだよ的やり方ですね。

 うーん,経産省の特許庁,法務省の検察庁,随分違う省庁なのですが,何かやり方が似てませんかねえ。

 両者に共通するのは,誤りを誤りと認めない,非常に頑迷な所があるってことですね~。審決の認定なんか誤りがあれば,素直に認め,別な対処をすれば恥の上塗りをすることもないのに,何故そうしないんでしょ?

 もしかして,私のようなチンピラ弁護士のブログに面白い話題を提供してやろうと,陰ながら手助けをしているのかもしれませんよ~。バカに見えて意外と小利口というのはありえますからね~ムフフ。
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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