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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 本件は,平成18年8月1日,発明の名称を「加速推進装置」とする特許出願(特願2006-209933号。請求項の数8)をした原告が,特許庁から平成23年7月8日付けで拒絶査定を受けたため,同年10月19日,これに対する不服の審判を請求し,特許庁は,これを不服2011-22602号事件として審理したものの,拒絶審決(本件審決,特許法36条4項1号及び同条6項2号違反)を下されたため,これに不服として審決取消訴訟を提起したものです。

 これに対して,知財高裁4部(富田さんの合議体ですね。)は,原告の請求を棄却しました。要するに,こんなもん,実施できるわけねえだろ!ってやつです。

 昨日に続いて(まとめは入りましたが。)特許の判決の紹介です。今日も閲覧数が伸びそうにもありませんね。
 ほんで,何と記載要件不備でNGになった事例です。

 一応クレームを書いておきましょうかね。
【請求項1】自装置の重心を貫く中央回転軸と,
 前記中央回転軸の周囲に配置された3以上の複数の回転子と,
  前記回転子を支持し,前記中央回転軸の周囲を回転する公転盤と,
  前記中央回転軸上の一点と各回転子の中心とを結んで構成される斜軸と,
  前記回転子の回転軸であって,前記中央回転軸に向かって直交する向きから平行になる向きに沿って旋回される各回転子軸と,
  前記回転子の外殻であって,前記斜軸まわりに回転する外殻体と,
  前記外殻体に固定され,前記回転子軸と前記斜軸とが所定の角度をなすように,前記回転子軸を支持する回転子軸支持枠と,
  前記中央回転軸,前記斜軸及び前記回転子軸をそれぞれ回転駆動させる動力源と,
を有し,
  前記複数の回転子は,前記回転子軸まわりにそれぞれ同速度で回転し(第3の回転),
  前記公転盤は,前記中央回転軸まわりに回転し(第1の回転),
  前記各外殻体及び回転子軸支持枠は,前記中央回転軸と所定の角度をなす前記斜軸まわりにそれぞれ同速度で回転し(第2の回転),
  前記第2の回転は,前記中央回転軸まわりに互いに隣り合う各外殻体及び回転子軸支持枠の回転の周期に等しい位相差が割り当てられることを特徴とする加速推進装置。

 もう,発明の名称からして怪しいです。特許庁の審決も,
「 実施可能要件(特許法36条4項1号)について
  (ア)  本願発明の動力源及び動力の伝達系統について,モータ等のそれぞれの動力源150,151,153による動力は,どのような各種の部材を駆動し,最終的に,加速推進装置100全体を天地軸134,135(中央回転軸)方向に浮揚しながら進行又は後退するようになるのか,不明又は不明確である。 
 また,本願発明の第1の回転の反力,第3の回転の反力の処理及び第2の回転の反力の処理であり,加速推進装置100自体の重量や前記浮揚する方向の力,すなわち,鉛直方向に対する反力及び当該装置100自体の重量と当該装置100により発生する浮揚方向の加速推進力との関係で,当該加速推進力の方が勝ることとなる旨の説明はない。 
  このため,仮に,天地軸134,135方向(中央回転軸方向)に浮揚する方向の力が発生したとしても,加速推進装置100自体の重量や各種反力に打ち勝って,加速推進装置100全体が,中央回転軸方向への並進加速度を生成できることになるのか,依然として,不明又は不明確である。 
 したがって,中央回転軸方向への並進加速度を生成し,加速,速度,移動方向又は移動範囲の制約を受けることのなく,移動手段として連続して機能する動力伝達経路は,依然として,不明又は不明確である。
  (イ)  加速推進装置100全体を天地軸134,135(中央回転軸)方向に浮揚しながら進行又は後退させるのには,本件出願時における技術では,エネルギー源はかなりのエネルギー容量が必要と考えられるので,その重量も当然のことながら大きくなるものと考えられる。
 そうすると,「例えば,蓄電池,水素発電機又は太陽光発電機等」のようなエネルギー源を加速推進装置100に搭載した場合,加速推進装置100全体の重量がかなり大きくなり,加速推進装置100全体を天地軸134,135(中央回転軸)方向に浮揚しながら進行又は後退するようにできるのか,依然として,不明又は不明確となる。 
 したがって,加速推進装置全体が,中央回転軸方向への並進加速度を生成し,加速,速度,移動方向又は移動範囲の制約を受けることのなく,移動手段として連続して機能するための加速推進装置に入力されるエネルギーのあるエネルギー源がどこに設置されどのようにエネルギーを入力しているのか,依然として,不明である。
  (ウ)  本願発明の加速推進装置における「加速」は,「加速」だけでなく「減速」も含むことは分かったが,物理学上の意味での「加速」のみならず,他の「定速度」,「ホバリング」若しくは「停止」も含まれているものなのか,依然として,「加速推進装置」の「加速」の意味が不明確である。
  (エ)  本願発明の加速推進装置の各軸の回転方向及び回転速度並びに位相差の相互の関連について,「天地軸134,135」(中央回転軸),「因果軸106」(斜軸106)3つ(球体3つの場合),「回転軸115」3つ(球体3つの場合)の3種の軸の回転方向及び回転速度並びに位相差の相互の関連が,どのように加速推進装置100全体に影響して,当該加速推進装置100全体が,中央回転軸方向への並進加速度を生成し,加速,速度,移動方向又は移動範囲の制約を受けることのなく,移動手段として連続して機能するのか,依然として,不明又は不明確である。
  (オ)  本願明細書の記載からすると,本願発明の加速推進装置は,中央回転軸方向への並進加速度を生成し,加速,速度,移動方向又は移動範囲の制約を受けることなく,排気による大気汚染や運転騒音の被害を引き起こすことのない移動手段として機能することが可能となるものと認められるところ,どのような動力源により,どのような動力伝達経路を経て,加速推進装置全体がどのような動きをして,中央回転軸方向への並進加速度を生成し,加速,速度,移動方向又は移動範囲の制約を受けることのなく,移動手段として連続して機能するようになるのか,依然として,不明又は不明確であり,本願明細書において本願発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているものとは認められない。
  イ  明確性の要件(特許法36条6項2号)について
  (ア)  前記ア(エ)のとおり,請求項1において,本願発明の課題を達成するためには,各軸の回転方向及び回転速度並びに位相差の相互の関連についての事項は必要であると思われるが,依然として,請求項1にはこのような事項は記載されていない。 
 よって,請求項1の記載は明確でない。
 (イ)  前記ア(ア)のとおり,請求項1において,本願発明の課題を達成するためには,加速推進装置を駆動する動力源及びエネルギー源についての事項も必要であると思われるが,依然として,請求項1には,動力源の記載はあるもののその配置は不明であり,また,エネルギー源の記載はなく,このため,動力源と当該エネルギー源との相互の関連等の事項は記載されていない。 
  よって,請求項1の記載は明確でない。  」

 いやあ,凄いです。衒学的と言いましょうかね。

2 問題点
 問題点は,上記のとおり,実施可能要件があるか明確性要件はあるか,です。

 ま,これは特許の制度趣旨から来ているわけです。特許法は,発明の公開の対価として独占排他権を与える,ということになっております。つまり,江戸時代のように一子相伝で,科学や技術を伝えられると,なかなか進歩しにくいのではないか,つまり色んな人が色んなツッコミをして,あーでもないこーでもないとした方が進歩しやすいのではないかということなのですね。

 ま,本当にそうかはよくわかりませんが,取り敢えず,法制度はそうなっています。ほんで,ツッコミを入れるためには,明細書を見て再現できなきゃいけないわけです。物の発明なら,製造し使用できなきゃいけないのです。
 ただ,真似されたくないための特許なのに,真似されることが前提なので,明細書にどれだけのことを書き,どれだけのことを隠すかということは結構重要ですね。

 とは言え,「【クレーム】UFO 【発明の詳細な説明】地球上にはない超合金で出来た超重力エンジンでズバーと飛ぶ。機体も超合金。」みたいなものって,これで作れますかね?

 だ・か・ら,どんな超合金を使うのか,その超合金はどんな材料でどうやって作るのか,超重力エンジンって何だ,どうやって作るんか,書かんかバカタレが,となるわけです。

 昔,こんなことをソニー時代の知財部でのエンジニア向けの講義で説明したところ,そりゃそうだけど,実際そんなのあんのかよ,的な顔をされました。でもあるんですよ。今回もそうです。
 
 判決見てみますかね。

3 判旨
「 本願発明は,物の発明(特許法2条3項1号)であるから,本願発明が実施可能要件を充足するためには,本願明細書の発明の詳細な説明に,当業者がこれを生産することができ,かつ使用することができる程度に明確かつ十分に記載したものでなければならない。
  本願明細書の段落【0030】ないし【0036】及び別紙の図2及び3には,本願発明の加速推進装置の具体的な構成が記載されており,また,本願明細書の段落【0047】ないし【0053】には,本願発明の加速推進装置の作用が記載されているが,これらの説明及び図面からは,従来技術(地面に対する反作用を利用して推進するハイブリットカーを含む一般の車両,水面に対する反作用を利用する船舶及び空気や自機からの噴射物に対する反作用を利用して推進する飛行体)とは異なり,歳差運動のみによって並進加速度を発生させて加速推進装置全体を浮揚しながら進行又は後退させることができる具体的な機構や構造は記載されていない。
 一般に,質量が変化しない物体(加速推進装置)が空中に浮揚するには,上昇方向への力が付与される必要があり,そのためには地面等に対して力を印加し,地面等からは反作用で力を受ける必要がある。本願発明に係る加速推進装置は歳差運動のみによって同装置全体が中央回転軸方向に浮揚しながら進行又は後退するというものであるが,全体として質量が変化するものではなく,地面等に対する反作用の力を生じるものではないから,物体(加速推進装置)を浮揚させる要因となるものが全く見当たらない。そうすると,本願発明に係る加速推進装置が浮揚する原理に係る原告の考察や試算では,この加速推進装置を浮揚させることは困難であるといわなければならない。
 また,運動量保存の法則によれば,外力の作用を受けていない系の全運動量(物体の質量×速度)は,時間が経過しても不変である(乙1)。本願発明の加速推進装置が静止している状態では,全体の運動量は0であるのに対し,静止状態から中央回転軸方向に浮揚しながら進行又は後退する状態では,0でない速度を有しており,同装置の質量とその移動速度の積である運動量を有することになるから,本願発明の加速推進装置は,静止している状態と,中央回転軸方向に浮揚しながら進行又は後退する状態とでは,運動量は変化していることになる。そうすると,反作用を利用することなく,歳差運動のみによって並進加速度を発生させて加速推進装置全体を浮揚しながら進行又は後退させるという本願発明の動作原理は,運動量保存の法則にも反するというべきである。
 このように,本願明細書の発明の詳細な説明に開示された本願発明の具体的な構造や作用によれば,歳差運動のみによって並進加速度を発生させて加速推進装置全体を浮揚しながら進行又は後退させることは困難であると認められるが,本願明細書には,本願発明の加速推進装置が浮揚しながら進行又は後退した事実(実験結果)は示されていない。
 したがって,本願発明の加速推進装置は,浮遊しながら進行又は後退することができるということはできず,本願明細書の発明の詳細な説明には,当業者が,歳差運動のみによって並進加速度を発生させて浮揚しながら進行又は後退する加速推進装置を生産し,かつ使用することができる程度に明確かつ十分に記載されたものということはできない。」
「 原告は,本願発明の加速推進装置は運動量保存の法則と角運動量保存の法則が適用できない運動系である加速系にあるから,空気や地面等の媒介物との間の反作用やその他外力からの作用しか考慮せずに,本願発明の加速推進装置が運動量保存の法則及びニュートン力学に反し,実施可能性がないとした本件審決の判断は失当であるし,本件出願時に当業者によく知られたベクトルの外積の原理等を用いた試算の結果によれば,本件出願時において市場に流通していたモータ等により,中央回転軸方向への並進加速度を生成する構成は実現可能であるなどと主張する。
  しかしながら,前記(1)のとおり,一般に,質量が変化しない物体が浮揚しながら進行又は後退するためには,少なくとも物体に上昇方向への力が付与される必要があるところ,そのためには,地面等に対して力を印加し,地面等からは反作用で力を受ける必要があることは,技術常識というべきである(本願明細書にも,従来技術であるハイブリットカーを含む一般の車両,船舶,飛行体は,いずれも反作用を利用して推進するものと記載されている。)。運動量保存の法則が技術常識であることについても,同様である。原告は,本願発明の加速推進装置が運動量保存の法則と角運動量保存の法則が適用できない運動系に属する旨の主張の根拠について,具体的かつ合理的な説明をしない。 」
「以上によれば,本願発明の加速推進装置が,どのような動力源により,どのような動力伝達経路を経て,装置全体がどのような動きをして,中央回転軸方向への並進加速度を生成し,加速,速度,移動方向又は移動範囲の制約を受けることのなく,移動手段として連続して機能するようになるのかについて,本願明細書に明確に記載されているということはできないから,本願明細書には,本願発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているということはできない。
 したがって,本願発明の特許請求の範囲の記載が実施可能要件を充足しないとした本件審決の認定及び判断は相当であって,取り消すべき違法はない。」

4 検討
 いやあ久々の面白判決というか面白発明ですね。要するに,永久機関のお仲間~♫物理の法則なんて目じゃねえぜ,UFOは超重力理論で飛ぶんだよ,超重力理論は超重力理論なんだよ,理屈じゃねえんだよ,超重力理論なんだよ,兎に角飛ぶんだよ,って言ってるだけです。

 これ,本人出願じゃありませんので,代理人がついております。
 勿論,訴訟もです。これねえ,まずくないですかね。いやあこういうのって出願しても特許されないんですよ,だって,超重力理論は私もわかりませんからね~って言っておかないとダメでしょう。

 裁判官ってね,文系だから物理とかよくわかんないの,だからこんな判決出したの,ってやつですかね。いやあ,判決見たらよくわかってんじゃんと思いましたけどね。

 何でもかんでもやりゃあいいってわけには行きませんよ。高貴なる者の義務ってやつですかね。ま,そんなこと言われてもぽか~んですかな。ま,お前はそれでいいや。わかっている人のみ先に進むとしますかね。

5 追伸
 ということで,恒例の目黒川沿いの桜です。本日は,大崎方面です。
まずは,ここから,イマジカ前です。いい感じですね。公園にも人が一杯です。
続いて桜越しの某会社です。エレキの黒字化はまさに正念場って所です。花見してる余裕はないかな。
結構よく撮れました。目黒川と山手通りが交差する辺りです。
ここは大崎側に移って,GCOの裏辺りです。
目黒川に遊覧船~。この時期だけですが,川から見るのはオツでしょうね。ここら辺から乗れりゃあいいのに,たしか浜松町か田町の辺まで行かないと乗れないのですね。
 あと,これは確か森永橋から写したものです。昔,この辺に森永の工場があったから,名前がつけられたらしいです。確かに先程の某会社も,テレビの工場があったので,それ以来ってわけです。でも,今はこの辺,大きな工場は全くありませんね。再開発が進行中です。
GCOの裏がよく見えます。
で,あっという間五反田に戻り,これは池上線と桜です。
他方,これは山手線と桜ってやつです。この時期ならではです。

 桜も満開から数日過ぎて,早いやつは散り始めておりました。ですので,BGMは,ケツメイシのさくらがいいでしょうね。
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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