忍者ブログ
知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,平成7年2月20日,名称を「アルコール飲料の風味向上剤及び風味向上法」とする発明につき,特許出願をし,平成16年3月5日,設定登録を受けた(特許第3530247号)被告に対し,原告が,平成24年9月6日付けで本件特許について無効審判請求をした(無効2012-800145号,実施可能要件違反,サポート要件違反,進歩性なし)ところ,被告は,同年12月3日付け訂正請求書により,特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の変更を内容とする訂正請求をし(本件訂正請求),特許庁は,平成25年8月27日,本件訂正請求は認められないとした上で,不成立審決をしたため,これに不服の原告が審決取消訴訟を提起したものです。

 これに対して,知財高裁2部(清水さんの合議体ですね。)は,審決を取消しました。要するに,実施可能要件違反あり,としたわけです。

 何だか久々の審決取消訴訟の紹介って気がします。私は,別に職務発明評論家じゃないですからね。私の興味はまずは,JD,次にいい感じのOL,その次は,・・・,じゃなかった,まずは進歩性,次に記載要件ですのでね。
 勿論,侵害訴訟だとクレーム解釈が重要なんですが,クレーム解釈って何かこう深みがないというか,論じにくい所がありますからね。

 ということで,今回のテーマは記載要件の方です。

 クレームを見ておきましょう。

【請求項1】
「シュクラロースからなることを特徴とするアルコール飲料の風味向上剤。」
【請求項2】
「アルコール飲料にシュクラロースを添加することを特徴とするアルコール飲料の風味向上法。」
【請求項3】
「アルコール飲料に含まれるエチルアルコール100部に対してシュクラロースを0.0001~2.0部添加する請求項2記載のアルコール飲料の風味向上法。」
【請求項4】
「アルコール飲料に含まれるエチルアルコール100部に対してシュクラロースを0.001~2.0部添加する請求項2記載のアルコール飲料の風味向上法。」

 この風味向上剤の,「風味向上」の部分が重要ですね。

 で,記載要件の場合は,明細書の中身も気になりますので,問題となった明細書の記載も挙げておきましょう。何をもって「風味向上」と言えるか作用効果の点ですね。
 「アルコールの軽やか風味を生かしたアルコール飲料の風味を向上する」(本件明細書【0024】)

2 問題点
 問題点は,今回記載要件の話で,そのうち実施可能要件とサポート要件が問題となっております。他方,記載不備の3点セットの一つ,明確性要件は何故か問題となっておりません。

 て,書くと,恐らく弁理士の方がピンと来るんじゃないでしょうかね。弁護士でピンと来たあなた,あなたは特許弁護士と名乗っていいかもしれません。

 そう,本件特許の出願日,いつでしたっけ?そう,平成7年2月20日ですね。ほんで,明確性要件が加わった平成6年改正法っていつから施行でしたっけ?そう,平成7年7月1日からですよね。
 つまり,今回の本件特許って,平成6年改正法以前の結構古い法律が適用になるのです。ちなみに,この平成6年法はここ数十年で一番大きな改正だったんじゃないでしょうかね。

 まずは,実施可能要件の方は,旧36条4項でした。各号はありません。

「前項第三号の発明の詳細な説明の記載には、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、その発明の目的、構成及び効果を記載しなければならない。」

 若干現行法と異なりますね。

 つぎにサポート要件の方は,旧36条5項1号でした。

 「第二項第四号の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
一  特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」

 こちらは基本同じです。

 で,ポイントは,旧36条4項です。実は,こちらの条文に明確性要件を読み込んでいたのです。しかも,現行法の明文上の明確性要件は,クレームの要件なのですが,旧36条4項は,明細書の要件ですので,明細書の明確性について,この条文が拒絶理由,無効理由となっていたのですね。
 まあ,明細書の明確性については,今も実施可能要件で問擬するのですが,今はクレームの用語でなく,明細書の用語が不明確だ~っていうのはなかなかないですよね。これは,弁理士の明細書作成技術が向上したんだと思いますよ,単純に。記載要件不備,しかも明細書の中身の用語でそんなことが問題になったら,恥ずかしいのなんのって感じですもんね。うーあー。

 で,上記の書いたとおり,今回風味向上剤ですので,風味向上がポイントです。その風味向上の風味っていうのは,明細書上,「アルコール飲料のアルコールに起因する苦味やバーニング感を抑え,アルコールの軽やか風味を生かしたアルコール飲料の風味向上剤及び風味向上法を提供すること」(【0004】)とあるようですから,2つです。
 まずは,苦味やバーニング感です。つぎが,軽やか風味ですね。

 何だか,抽象的過ぎて,すでに頭が痛くなってきましたが,果たして,知財高裁はどう判断したのでしょうか?

3 判旨
 苦味やバーニング感
「・・・このことから,「バーニング感」又は「焼け感」は,アルコール度数の高いものに限らず,多くのアルコール飲料において,特段の困難を伴うことなく知覚し得るものといえる。
 以上に鑑みれば,本件審決が,「バーニング感」や「焼け感」という用語は,アルコールを飲用する者であれば誰もが分かる感覚といえ,特段不明瞭な点はないと判断した点に誤りはないと思料する。」

 軽やか風味
「b しかしながら,前記(ア)のとおり,アルコールは,甘味,苦味,酸味,その混合,「灼く(やく)ような味」など複数の風味を有するところ,本件明細書においては,シュクラロースの添加がアルコールの苦味及びバーニング感を抑えることは確認されているものの,アルコールの有する複数の風味のうちそれら2つの風味のみを特異的に抑えることまでは確認されておらず,しかも,「アルコールの軽やか風味を生かしたまま」であるか否かは明らかにされていない。
 また,前記アのとおり,本件明細書は,「アルコールの軽やか風味」を,アルコールに起因する「苦味」及び「バーニング感」と併存するものとして位置付けているものと認められるところ,本件明細書上,これらの関係は不明であり,したがって,「苦味」及び「バーニング感」の抑制によって,「アルコールの軽やか風味を生かす」という効果がもたらされるか否かも,不明といわざるを得ない。被告は,「苦味」及び「バーニング感」を抑制することが「アルコールの軽やか風味」の向上であるかのような主張をするが,これは,本件明細書の客観的記載に反する解釈である。
 以上によれば,被告の前記主張は,採用できない。
エ 小括
 以上によれば,「アルコールの軽やか風味」という用語の意味は,不明瞭といわざるを得ない。そして,前述のとおり,当業者は,本件発明の実施に当たり,「軽やか風味」については「生かしたまま」,すなわち,減殺することなく,アルコール飲料全体の風味を向上させられるか,という点を確認する必要があるところ,「軽やか風味」の意味が不明瞭である以上,上記確認は不可能であるから,本件特許の発明の詳細な説明は,「アルコールの軽やか風味」という用語に関し,実施可能性を欠くというべきである。
 したがって,「アルコールの軽やか風味」の意味するところは明瞭といえる旨の本件審決の判断は,誤りである。」

4 検討
 まあ,苦味やバーニング感はわかりますかね。
 今,NHKの朝の連ドラのマッサンやってますが,ちょっと前の回で,西川きよしさんの会社の株主にマッサンがウィスキーを振る舞ったときに,皆さん咳き込んだり,顔をしかめたりしてましたが,あんなもんだと思います。

 他方,軽やか風味~♪って何じゃろうな??こりゃわからんねえ。判決も人が判断しているわけで普通の人にわからんものは,裁判官にもわからんさ~,リーガルマインドは常識だという話もありますからね。

 ただ,今回,変な言葉がはっきりしましたので,これを訂正で削除したら,OKのはずですね。訂正するのは,明細書だけでいいはずなので,恐らく訂正要件もOKでしょう。あとは,訂正の時期的要件ですね~。

5 その他
 今日は何だかすごい閲覧数になっております。これは企業法務戦士さんのブログでほんのちょっと紹介されたことが起因のようですね。ま,閲覧数の高いところに紹介されるとこんな感じなるのですね。

 ただ,私はアフィリエイトやって広告代を稼いでいるわけでもなく,仕事がこれで増えるわけでもなく,せめて,「知財実務のセオリー」の売上げアップにでも効果がありゃあいいのにと思うのですが,そうもいきません。

 まあ世の中色々うまくはいかないということです。

 ところで,今日は本当に寒いです。昨日も寒かったのですが,今日は本当に寒いです。これは風が強いためですね。いやあ本当嫌だなあ。

PR
1018  1017  1016  1015  1014  1013  1012  1011  1010  1009  1008 
カレンダー
06 2017/07 08
S M T W T F S
1
3 5 7 8
9 11 12 13 15
16 17 19 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31
ブログ内検索
プロフィール
HN:
iwanagalaw
HP:
性別:
男性
職業:
弁護士
趣味:
サーフィン&スノーボード
自己紹介:
理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
カウンター
アクセス解析
忍者アナライズ
Admin / Write
忍者ブログ [PR]