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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。

1 概要
 本件は,発明の名称を「餅」とする特許権(特許第4111382)を有する原告(越後製菓)が,被告(佐藤食品工業)に対し,被告が製造・販売する製品(別紙被告製品図面 (斜視図)のとおりの構成を有する切餅,及び,当該切餅が鏡餅の形状をした容器の中に内包されている製品。)は上記特許に係る発明の技術的範囲に属し,これらを製造,販売,輸出する被告の行為は原告の特許権を侵害すると主張して, 不法行為(民法709)に基づく損害賠償請求として188595万円及び不当利得返還請求として3000万円の合計191595万円並びにこれに対する平成24529(訴状送達の日の翌日)から支払済みま で民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた特許権侵害訴訟の事案です。

 これに対して,東京地裁民事40部(東海林さんの合議体ですね。)は,原告の請求を782778332円及び遅延損害金の限度で認めました。

 いやあ,ここでこのいわゆる切り餅の訴訟を取り上げるのは,何回目でしょう。そして,前の事件は,報道のとおり,約8億円の損害賠償金の支払いが佐藤食品工業に命じられて終結しました。

 その後,こりゃあいいというわけで,違う製品等を対象として再び訴えたのが本件ということになります。

 で,クレームを見ておきましょうか(当然,特許は前訴と同じです。)。

A 焼き網に載置して焼き上げて食する輪郭形状が方形の小片餅体である切餅の

載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に,この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に長さを有する一若しくは複数の切り込み部又は溝部を設け,

C この切り込み部又は溝部は,この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に一周連続させて角環状とした若しくは前記立直側面である側周表面の対向二側面に形成した切り込み部又は溝部として,

D 焼き上げるに際して前記切り込み部又は溝部の上側が下側に対して持ち上がり,最中やサンドウイッチのように上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされている状態に膨化変形することで膨化による外部への噴き出しを抑制するように構成した

E ことを特徴とする餅。

 まあ,構成要件該当性は,前訴で飯村さんの合議体が行ったクレーム解釈が非常に疑問のあるクレーム解釈だったのですが,これが変わるわけがありませんので(判決をみてください。),争点は無効の抗弁ということになりそうです。

2 問題点
 争点は色々あるのですが,結局のところ,出願日(平成14年10月31日)よりも前に,被告が,公然実施等をしたとする「こんがりうまカット」という切り餅の側面に,本件特許と同様の切り込みがあったかどうか,ということになります。

 まあそうすると,あとは事実認定の問題って所ですね。

 判決の事実認定によると,

  被告の方で新製品の企画・開発あり→その際,側面の切り込みも設定するか多少の試行錯誤あり。

  その新製品(「こんがりうまカット」)に関する被告の特許出願があったものの,それには側面の切り込みが無い態様のものしかなかった

  で,その新製品については,当時の製品等が残っておらず,側面の切り込みがあったか無かったかよくわからず〜

  そして,原告の特許出願

 こんな感じの経緯があったようですね。

 そうすると,なかなか新規性なしってえのは難しい感じです。あとは,先使用権があるかないか,事業の準備をしていたかどうか,つまりは側面に切り込みのある切り餅の準備をしていたかどうかですね。

3 判旨
「ア この点に関して被告は,平成14621,被告の新発田第二工場の生産ラインにおいて,上下面に十字スリットの入った切餅の試作を行ったが,この量産工程で作成した試作品を調理したところ,切餅の上下面の十字スリットのみでは焼き方法やオーブン等の機種の違い等によっては焼けすぎた場合に側面にダレが発生してしまい,焼き上がりの形が崩れてしまう場合があることが判明したため,Dの発案に基づいて,上下面の十字スリットに加えて切餅の長側面に周方向に切り込みを設けた場合の効果について検討を実施したところ,平成14723日までには,上下面の十字スリットと側周表面のスリットを組み合わせた場合,十字スリットによる切餅が直方体状を維持して真ん中からふっくら焼ける効果がより安定して発揮されることを確認したので,さらに研究を進めて,平成148 8日には,十字スリットとサイドスリットの作用効果に関する研究結果 をまとめ,同月26日には,被告社内において,サイドスリットを入れた 際の焼き上がり効果及びスリットの最適条件が報告された結果,被告の発明が完成したこと,上記発明の完成を受けて,そのための製造設備を導入し,被告の新発田第二工場の生産ラインにおいて,平成141016日から,上下面の十字スリット及び長側面のサイドスリット1本が設けられた発明の実施品である「こんがりうまカット」の生産を開始し,イトーヨーカ堂の了解を得た上,これを同月21日にイトーヨーカドーにおいて 発売し,その製造・販売を,本件発明の優先日である同月31日以降も継続していたと主張し,同主張に沿う数々の証拠を提出する。
 しかし,これらの被告の主張は,前記(2)で認定した客観的に明らかな事実と矛盾するものであるから,被告の主張に沿う上記証拠はいずれも信用することができず,他に被告の上記主張を認めるに足りる的確な証拠はない。
 かえって,前記(2)によって認定される後記イの事実によれば,本件特許出願時までに,被告が切り餅の上下面の十字のスリットに加えて長側面に周方向にサイドスリットを1本設けた餅の発明を完成させていた事実,及びそのような餅を製造・販売するなどして同発明の実施である事業を行っていた事実は,いずれも認めることができないというべきである。

イ すなわち,前記(2)認定の事実によれば,平成13年秋に,イトーヨーカ堂のH社長の指示により,イトーヨーカドー各店における被告のNB商品である切餅「シングルパック」の販売が中止になったこと,C,被告の営業担当社員であったBに対して,上記中止の指示を伝えるとともに,平成14年度以降,被告のNB商品の切餅の仕入・販売が可能となるよう, 新たな切餅の提案をするよう打診したこと,これを受けて,被告において, 新たな切餅の開発に着手したこと,その結果,上下面に十字の切り込みを 設ける餅を開発したこと,B作成にかかる同年31日付け出張報告書 (118)において,新たな切り餅の開発については特許を申請し他メーカーにまねられない方向にて進める旨記載されているように,被告においては平成14年中にイトーヨーカドーで販売を開始する新たなNB商品については,特許を取得して他社の模倣を防ぐことが同年228日に社の方針とされ,それに沿って同年3月末までに特許出願を行うべく,A弁理士事務所を通じて特許の出願手続の準備が進められていたこと,そして, 同年322日には,A弁理士事務所から被告に対して,上下面にのみ十字のスリットが設けられた被告第1特許出願の出願明細書の原案(13 5)がファックス送信されていたこと,被告は,同年517日付け 「『サトウの切り餅』新規開発のご案内 -新しいスタイルの餅-」との プレゼン資料(120)を作成した上,同年63,イトーヨーカド ー本部において,CのほかIらに対して試食プレゼンを実施し,さらに, 平成14717日には,イトーヨーカ堂において,C,Iに加えてO に対して試食プレゼンを実施し,切餅の上下面に十字の切り込みを設けた新商品を提案していたこと,上記試食会の際にイトーヨーカドーに対する提案において用いられた「『サトウの切り餅』新規開発のご案内-新しいスタイルの餅-」とのプレゼン資料(194添付資料1)には,切り餅の平坦上面に十字スリットが見て取れる写真はあるが,サイドスリットにする記載等は一切なく,しかも,91日発売開始との旨が記載されていたこと,同年717日に,被告開発部のJ,A弁理士事務所に対し, 被告第1特許出願の出願明細書の原案(135)に関し,スリットとは全く関係のない若干の修正を求めたものの,それ以外には訂正がないとして,ファックスを返信したこと,それを受けて,同月23日に,A弁理士 から,J宛てに被告第1特許出願についての出願願書の訂正案がファックスで送付されたこと,被告は,同月29日に,イトーヨーカ堂に対し,予定する新たなNB商品の最終提案を行うための商品提案書と試食サンプルを提出したが,その際に,側面にサイドスリットが入った切り餅を提案した形跡は一切ないこと,この時点において,イトーヨーカ堂のC及びIらは予定する新たなNB商品の切り餅の側面にサイドスリットが入っているとの認識を持っていなかったこと,A弁理士は,同年95,同年7 23日にJにファックスした被告第1特許出願にかかる明細書等の案について連絡がないことから,返信を求める内容のファクスをしたところ,同年96日に,Jからファックスされた明細書等の案につき内容的な訂正 はないので至急特許庁に提出することを求められたため,同日,被告の代理人として,被告第1特許出願をしたこと,同年1021日ころ,イトーヨーカドーにおいて,被告の新たなNB商品として「こんがりうまカット」が発売されたこと,同「こんがりうまカット」の外装フィルムに表示された製品の外観写真にはサイドスリットは見当たらず,また,個包装フィルムの表面には「この餅には切り込みが入っています。」との注意書きとともに,上下面にのみ十字のスリットが入った図面が表示されていたこと,その後9か月ほどが経過した平成15717,被告は,上下面の十字のスリットに加え,側面に2本のサイドスリットを入れた切り餅の発明である被告第2特許出願を行ったこと,同年819日付けで作成されたB作成にかかる「イトーヨーカドーこんがり切り餅バージョンアップ商談及びPB魚沼塩沢コシヒカリ試食報告の件」と題する報告書(12 7)には,同年811日に,「『こんがりうまカット』のバージョンアップ(スリット内容の変更)商談,現在開発中のPB『魚沼塩沢コシヒカリ』の試食会」を実施したこと,その際,Cに対し,「こんがりうまカット」のバージョンアップ(スリット内容の変更)を提案して説明したことが記載されていること,被告は,同年91,NB商品として,上下面に十字のスリットを入れ,側面に2本のサイドスリットを入れた切り餅を「パリッとスリット」として発売したこと,この「パリッとスリット」の 個包装フィルムには,発売当初から2本のサイドスリットが印字されていたこと,被告は,同年99日に,新製品である「パリッとスリット」の 宣伝のため業界紙に対して説明会を行ったこと,それを受けて業界紙各社 が「パリッとスリット」の記事を掲載したが,それらの記事はいずれも,「こんがりうまカット」は餅の上下面に十字の切れ込みを施したものであったのに対し,「こんがりうまカット」はさらに側面にも2本の切れ込みを施した製品であることが強調されていたこと,被告は,被告第2特許出願にかかる平成1668日提出の早期審査に関する事情説明書(1 42)において,特許庁に対して「請求項1に記載されているように,上 面,下面,および側面に切り込みを入れたことを特徴とする切餅を平成1 591日より発売開始している実施関連特許である。」と説明していること,以上の事実が認められる。

ウ 以上認定の「こんがりうまカット」開発の契機と経緯,その開発に関するイトーヨーカ堂に対する説明の経緯及び内容,イトーヨーカ堂側のC Iの認識の内容,「こんがりうまカット」の外袋及び個包装の表示,被告の第1特許出願及び第2特許出願の内容及び出願時期,「パリッとスリット」の開発時期,その商品発表会における被告側の説明の内容,それを受けた業界各紙の記事の内容からすれば,被告が,「こんがりうまカット」の発売前に,側面にサイドスリットを入れた切り餅の発明を完成させ,これをイトーヨーカ堂の承認を得た上で製造・販売したとの事実を認めることはできず,かえって,被告が切り餅の側面にサイドスリットを入れた商品を完成してこれを製造・販売したのは,「パリッとスリット」に至ってからであると認めるのが相当である。」

4 検討
 まあ,こういう事実認定ならこうなるという感じですね。

 弁理士や知財部の人にはあんまり馴染みのない話かもしれませんが,こういう事実認定については裁判官が一番得意なやつです。

 基本,客観面を重視しますね。ただ,普通は,客観的な証拠ってポツポツしかありません(骨のイメージ)。全部を認定はできないわけです。

 そうすると,その無い部分(肉のイメージ)は,バーバルな証拠(陳述書,法廷での証言)で認定するしかありません。ただ,皆さんもよくわかるように,何年も前の話なんか覚えておりません。しかも,人間の記憶ってうまいようにすり替わるということがよく知られており(逆行睡眠なんかすると生まれる前まで遡れるなんて,典型です。要するに,自分で本当に経験したことと,見聞きしたことの,記憶での区別ってつかないのですよ。),アテになりません。

 ですので,客観的証拠と合う分のみで認定するということですね。

 ということですので,今回の認定は仕方がないと思います。ですので,恐らく被告は控訴するのでしょうから,もっと客観的な証拠を多く集める必要がありますね。

 特に,事業の準備に関し,切り餅の側面の切り込みについて,それが可能な生産機械まで導入していたらしいですから,そこをもっと追求するといいのではないかなあと思いますね。

 あと,何か,この公然実施というか先使用権があるかないかの点について,証拠の捏造的な言われ方を前訴以来されていると思います。
 しかし,こういう批判はあまりフェアじゃないし,そもそも,そういう理由があるからって,構成要件該当性の解釈を捻じ曲げるなんてことはありませんしね。

 まあ,しかし,このままなら,これで被告は15億円以上の支払いということになりますねえ(前訴とあわせて)。
 原告代理人は大儲けですニャー。

5 追伸
 毎度おなじみ流浪の弁護士,散歩のコーナーでございます。
 いや,今日はおまっとうさんの方がいいですかね。

 偶然にも,アド街ック天国の1000回のときは見ました。今思うと見ていて良かったなあと思いますね。ただ,もうちょっと若いときは正直嫌いだったのですね。例えば,11PMの司会をやってたころとかね。

 わかるでしょ,私が嫌いなタイプって。偉そうにしている人が大嫌いですもん。本当に偉い人はいいのですよ,私は,寄らば大樹の陰~長い物には巻かれろ~ですからね。あくまでも偉そうにしている人が大嫌いなのです。

 ですが,もうそんなことはいいですわな。つい一ヶ月くらいまで元気にテレビに出ていたっていうのにねえ。

 
 さて,本日は大宮です。ちょっとした仕事でしたが,帰りは雨ザーザーでした。その後,弁護士会で行われた研修もあったので,霞ヶ関に戻った次第です。

 最近は事務所で起案している時間が多く,こうやって外回りをするのは非常に珍しいのですが,外に出るというのはいいことです。

6 更に追伸 15/04/30
 本件については,佐藤食品工業は,控訴しないということです。
 ええ,マジですか~!
 「・・・当社は控訴せず、本件に関する越後製菓との法廷闘争をすべて終
結させることといたしました。」ということです。

 まあそれも1つの決断でしょうね。おそらく,弁護士費用の高さも原因だと思いますよ。どこの事務所かは・・・リンクの代理人の欄を見ればすぐにわかりますわ。

 ただ,言っておきますが,自分が控訴しないからって,相手方が三次訴訟を提起しない可能性はないわけではないですからね。
 戦争放棄したからって,戦争に巻き込まれる可能性が0ではないのと同様です。

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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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