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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,発明の名称を「窒化物半導体素子」とする特許権(第4314887号)を有する原告(日亜化学工業)が,被告(三洋電機)による被告製品の生産,譲渡等が上記特許権の侵害に当たる旨主張して,特許法100条1項及び2項に基づき,被告製品の生産,譲渡等の差止め及び廃棄を求めるとともに,特許権侵害に基づく損害賠償金1億円(一部請求。売上高58億円,実施料率3%)及びこれに対する平成23年10月28日(訴状送達日の翌日)から民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める特許権侵害訴訟の事案です。

 一審の東京地裁民事46部(長谷川さんの合議体ですね。)は,原告の請求を棄却しました。要するに,構成要件充足性なしってわけです。
 
 そして,今回の二審の知財高裁2部(清水さんの合議体ですね。)も,控訴棄却で,請求を棄却しました。やはり構成要件充足性なしってわけです。

 まあよくあるパターンではあるのですが,クレーム解釈が面白かったので,取り上げました。

 クレームは,以下のとおりです。
A  厚みが50μm以上であり,少なくとも下面から厚さ方向に5μmよりも上の領域では結晶欠陥の数が1×10 の7乗 個/cm 2 以下である,ハライド気相成長法(HVPE)を用いて形成されたn型不純物を含有するGaN基板と,
B  前記GaN基板の上に積層された,活性層を含む窒化物半導体層と,
C  前記窒化物半導体層に形成されたリッジストライプと,該リッジストライプ上に形成されたp電極と,
D  前記GaN基板の下面に形成されたn電極と,
E  を備えたことを特徴とする窒化物半導体素子。
です。

 おっと,何気にPBPクレームだったのですね(構成要件A参照)。
 しかし,こんなのでも,明確性要件が問われるとしたら,罪作りだなあ最高裁も。
 特許庁も,また仕事が増えたわ~ブラック省庁って言われるわ~明確性の要件自体が不明確なのにどうやれって言うんだよ~と思っていること明らかですね~♪。

 ただ,今回論点になったのは,上記構成要件Aの下線部分です。この部分はそうだとしても,じゃあ,少なくとも下面から厚さ方向に5μmよりも下の領域での結晶欠陥の数はどうなのよ?ってえのが問題になったのです。

2 問題点
 問題点は上記のとおり,少なくとも下面から厚さ方向に5μmよりも下の領域での結晶欠陥の数如何ってことです。
 実は,この発明の発明者の一人に中村修二さんが入っているのですが,昨年のノーベル賞関連の報道で,GaNの基板の結晶欠陥を克服するのに大変苦労した~みたいな話を覚えている人もいるのではないでしょうか。

 この発明もその一環なのですね。特に活性層の部分は結晶欠陥が少ない方がいいわけで,他方,当業者の常識からすると,ヘビーにドープされるであろう電極に近いN++部分の結晶欠陥は多くてもいいのではないかなあと思われます。
 どうせ,ヘビーにドープすれば結晶欠陥は増えるし,増えるからって言ってデバイスの特性に悪影響を与えるものでもないですからね。

 ただ,当業者の常識からすると,そのように読めるけども(つまり,下面から厚さ方向に5μmよりも下の領域での結晶欠陥の数が相対的に大きいGaN基板のみが権利範囲で,相対的に小さいものやどこでも一律の結晶欠陥のGaN基板は権利範囲に入らない),文言上は,下面から厚さ方向に5μmよりも下の領域での結晶欠陥の数の限定なんかないわけです。

 なので,文言上限定がないのに,ファイルラッパーや明細書の記載や,はたまた技術常識みたいなもので,クレームを限定解釈できるかどうかが問題になっているわけですね。

 この点に関して,キルビー判決や無効の抗弁が大ぴらに認められる前には,クレーム解釈で狭く解釈するってのは定番中の定番でした。
 作用効果がない,公知技術に入っている,出願人がファイルラッパーで狭く解釈した,実施例に限定される,などなどです。

 しかし,広すぎるクレームは,公知技術とのダブリも大きくなりますので,新規性や進歩性でNGになりやすいし,そもそも記載不備(特にサポート要件かな)の可能性も高くなりますので,無理に限定解釈をする必要性は薄れてきたわけです。
 つまり,構成要件充足性はあるけど,無効で権利行使不能だね~ってやつです。具体的な妥当性も得られますので,本当最近,限定解釈って少ないと思いますよ。

 ところが,本件の一審は珍しく限定解釈しております。
 書いていない,下面から厚さ方向に5μmよりも下の領域での結晶欠陥の数が相対的に大きいGaN基板のみが権利範囲としたわけです(被告製品は上下一律の結晶欠陥数だったので,権利範囲に入らず。)。

 ちゅうことで,そんな書いていないことを付加したような構成要件のクレーム解釈はおかしいじゃんよ~って,そりゃあ原告もそういうよね~てえのが本件の論点なわけです。

3 判旨
「  (1)  本件特許の特許請求の範囲及び本件明細書の詳細な説明に関し
・・・
 ウ  上記のように解されるから,本件発明において,結晶欠陥の数が多い高キャリア領域にn電極を設けることによって,効率のよい素子を作製することまでがその技術的意義に含まれるとはいえず,したがって,この観点から,「GaN基板」の解釈を導くことはできない。・・・
  (エ)  以上によれば,平成17年4月18日受付の手続補正書(乙9)の【0009】に「前記GaN基板は,結晶欠陥が少ない領域と結晶欠陥が多い領域とを有することが望ましい。」とあるとしても,本件明細書の記載に接した当業者において,「GaN基板」に,上記のような偏在があるものだけでなく,結晶欠陥の偏在のないものが含まれると直ちに理解するとは考えられない。
    (2)  出願経過
  さらに,出願経過を見るに,本件原出願及び本件出願,並びに本件補正の内容等について,原判決第3,1(1)ウ(ア)のとおり認められる。これによれば,本件発明の「GaN基板」は,本件当初明細書等における「第2の窒化物半導体」に相当するものであり,本件原出願及びこれからの分割出願である本件出願においては,窒化物半導体素子の発明は,いずれも,下地層に接近した側に結晶欠陥が多い領域と,下地層より離れた側に結晶欠陥が少ない領域とを有する第2の窒化物半導体層を備えることを必須の構成としていたことが明らかである。
  そして,本件原出願等においても,結晶欠陥が少ないGaN基板の上に活性層を含む窒化物半導体層を積層することによって,信頼性の高い素子を提供することを技術的意義とするものであるから,下地層より離れた結晶欠陥が少ない側に活性層を,下地層に接近した結晶欠陥が多い側にn電極を設けることは必至であって,逆の領域に活性層を設けることはあり得ない。
  したがって,本件当初明細書等において,第2の窒化物半導体の基準面より上の,活性層を設ける側の領域と比較してそれより下の領域の結晶欠陥の数が少ない構成や,両領域の結晶欠陥が同数の構成は,特許請求の範囲及び発明の詳細な説明に記載されていなかったものと認められる。
    (3)  以上のとおり,特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載の検討に加え,本件補正を経て成立した本件発明の構成要件の解釈に当たっては,原告において,本件補正に際し,本件当初明細書書等に記載されていない事項を含むような補正をする意思ではなかったと解されること(特許法(平成18年法律第55号による改正前のもの)17条の2第3項参照)を踏まえると,本件発明の構成要件Aの「GaN基板」は,基準面より下の領域の結晶欠陥の数が上の領域のそれよりも相対的に多いものとして特定されるGaN基板を意味するものと解するほかはない。
・・・以上を踏まえて検討するに,原判決第2,1(4)のとおり,被告製品1のGaN基板における結晶欠陥の数は,GaN基板の厚さ方向において略均一(8×10の6乗個/cm2以下)であって(構成a),厚さ方向に結晶欠陥の数の偏在がないのであるから,構成要件Aの「GaN基板」を充足しないものと判断することが相当である。」

4 検討
 要するに,クレームと明細書の記載からはイマイチようわからん,ただ,当業者からすると,下部の結晶欠陥が多く,そこより上は結晶欠陥が少ないようなGaN基板が想定されるよねってことです。そして,ファイルラッパーからすると,下部の結晶欠陥が多く,そこより上は結晶欠陥が少ないようなGaN基板前提だったんじゃないの~そうすると,そこに限定されても仕方ないよね,ってことになると思います。

 つーことで,ほぼ一審と同様に,書かれていないような構成要件を付加したような限定解釈をされて,構成要件充足性なし!となったわけです。

 うーんただ,やはりクレーム解釈って難しいですね。形式的には含まれるってなっても,じゃあ思いもよらなかったようなことまで含んでいいのかってなりますし,逆に,明示的に否定していない以上,そこまでも含んでも第三者を不当に萎縮させるものでもないからいいんだ~みたいにも思えますからね。

 最終的には裁判官の胸先三寸で決まるのではありますが,ある意味予測可能性の低い世界ですよね。
 まあ別に特許権侵害訴訟に限らないとは思うのですが,これどう考えてもとか,そこまでは行かない50:50の案件でも何か100:0みたいな結論で,ガーン!みたいなことは結構ありますよね(弁護士ないし当業者のみなさん~)。

 最終的には人の決めることなので,どうしても予測不可能な所は残るのですが,それにしてもな~みたいなことがあるなあと思う今日このごろです~(独り言ですよ。単なるね。)。
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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