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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件の概要は以下のとおりです。
「(1) 脱退被告(日本人)は,発明の名称を「同時圧縮方式デジタルビデオ制作システム」とする発明について,平成8年3月1日(優先日平成7年3月1日,優先権主張国米国)を国際出願日とする特許出願(特願平8-526411号。以下「本件出願」という。)をし,平成16年2月27日,特許第3525298号として特許権の設定登録(請求項の数50)を受けた(以下,この特許を「本件特許」,この特許権を「本件特許権」という。甲33)。
(2) 本件特許に対し,原告(パナソニック)は,平成24年9月11日に特許無効審判請求(無効2012-800149号事件)をした。脱退被告は,平成25年3月29日付けで本件特許の特許請求の範囲について設定登録時の請求項9を削除(訂正事項1)し,同請求項22及び23の内容を訂正(訂正事項2)し,同請求項34ないし39,45,48ないし50を削除(訂正事項3ないし12)し,本件出願の願書に添付した明細書(甲33)の発明の詳細な説明の誤記を訂正(甲33の10欄46行目の「オフライン編集システム」を「オンライン編集システム」と訂正。訂正事項13)する旨の訂正請求(以下「本件訂正」という。甲24)をした(以下,本件訂正後の明細書を,図面を含めて「本件明細書」という。なお,本件訂正による発明の詳細な説明の訂正は訂正事項13に係る1箇所のみであることに照らし,特に断りのない限り,本件明細書の記載事項は甲33の該当箇所により特定する。)。
 特許庁は,同年11月5日,審決の予告(甲30)をした。
 その後,特許庁は,平成26年3月14日,本件訂正を認めた上で,「特許第3525298号の請求項10ないし12,14ないし21,25,40ないし44,46,47に係る発明についての特許を無効とする。特許第3525298号の請求項1ないし8,13,22ないし24,26ないし33に係る発明についての審判請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同月25日,原告及び脱退被告に,それぞれ送達された。
(3) 原告は,平成26年4月23日,本件審決のうち,特許第3525298号の請求項1ないし8,13,22ないし24,26ないし33に係る部分の取消しを求める訴訟(第1事件)を提起した。
 脱退被告は,同年7月22日,本件審決のうち,特許第3525298号の請求項10,11,14,43,44,46,47に係る部分の取消しを求める訴訟(第2事件)を提起した。
 なお,本件審決のうち,本件訂正について請求項9,34ないし39,45,48ないし50を削除する訂正を認めるとの部分は同年3月25日に,本件審決のうち,請求項12,15ないし21,25,40ないし42に係る発明についての特許を無効とするとの部分は同年7月23日にそれぞれ確定した(上記確定後の請求項の数27。丙1)。
(4) 参加人(マルチ-フォーマット インコーポレイテッド)は,脱退被告から本件特許権を譲り受け,平成26年11月28日を受付日とする本件特許権の移転登録を受けたこと(丙1)を理由に,平成27年3月9日,第1事件及び第2事件における脱退被告の地位を承継する旨の訴訟承継参加の申立て(平成27年(行ケ)第10048号,第10049号)をした。
 脱退被告は,平成27年3月24日の本件第1回口頭弁論期日において,原告及び参加人の承諾を得て,訴訟から脱退した。」

 ということです。長いとわかりにくいですね。

 要するに,自然人の権利者が持つプロ用のビデオ編集システムの特許に,パナソニックが無効審判を請求し,一部は無効,一部は有効という審決が出たため,パナソニックは,有効部分がおかしいとして審決取消訴訟を提起し,特許権者の方は無効にされた所(一部ですが。)がおかしいとして審決取消訴訟を提起したものです。

 これに対して,知財高裁4部(富田さんの合議体ですね。)は,パナソニックの請求のみ認め(つまりは無効の可能性大),参加人側の請求は棄却(つまりは,特許のすべてのクレームが無効の可能性大)しました。

 やはり,このブログでは珍しい,逆転での無効~判断ですね。

 クレームから行ってみましょう。
【請求項1】オンラインビデオ編集システム設備と共に使用するように適合したデジタル音声・映像制作システムであって,その制作システムは,
 同じ番組ソース素材の内容の情報を二重に記録可能なデジタルビデオレコーダーを備え,このレコーダーは,相互に関連した編集タイムコード情報を,第1と第2のフォーマットで第1と第2の記録媒体の上に有し,前記第1のフォーマットの情報は前記第2のフォーマットの情報に関連してデータ圧縮され,
 プログラムが入れてあるパーソナルコンピューターを備え,これは前記第1の記録媒体の番組素材を受け取り,オペレータがオフライン方式で,前記第1のフォーマットの番組素材から必要な情報を取り出して編集して,編集決定リストを作成できるように構成され,
 前記編集決定リストをオンラインビデオ編集設備に移す手段を備え,これは前記第2の記録媒体の番組素材をアクセスして,前記オンラインビデオ編集設備のオペレータが前記編集決定リストを使って,前記第2のフォーマットの番組ソース素材より最終映像制作を行うことを可能に構成したことを特徴とするデジタル映像制作システム。

 まあ,細かい所はいいとして,パソコンでノンリニア編集をやるってやつですね。

 で,無効理由で特に問題になったのは,甲1(特開平6-292116号公報)発明との同一性(つまりは新規性の有無)です。
 で,甲1発明との一致点,相違点は以下のとおりでした。
(一致点)
「オンラインビデオ編集システム設備と共に使用するように適合したデジタル音声・映像制作システムであって,その制作システムは,
 同じ番組ソース素材の内容の情報を二重に記録可能なデジタルビデオレコーダーを備え,このレコーダーは,相互に関連した編集タイムコード情報を,第1と第2のフォーマットで第1と第2の記録媒体の上に有し,前記第1のフォーマットの情報は前記第2のフォーマットの情報に関連してデータ圧縮され,
 仮編集機は,前記第1の記録媒体の番組素材を受け取り,オペレータがオフライン方式で,前記第1のフォーマットの番組素材から必要な情報を取り出して編集して,編集決定リストを作成できるように構成され,
 前記編集決定リストをオンラインビデオ編集設備に移す手段を備え,これは前記第2の記録媒体の番組素材をアクセスして,前記オンラインビデオ編集設備のオペレータが前記編集決定リストを使って,前記第2のフォーマットの番組ソース素材より最終映像制作を行うことを可能に構成したことを特徴とするデジタル映像制作システム。」である点。
(相違点)
 本件発明1の仮編集機は「プログラムが入れてあるパーソナルコンピューター」であるのに対し,甲1発明の仮編集機は「コンピュータと組み合わせ」るものであって,「プログラムが入れてあるパーソナルコンピューター」とはいえない点

 うーん,何か殆ど同じ~,どうして,これで進歩性を主張しないのじゃ~?!って言う気がするほどですね。
 あ,判決をそのまま引き写したので,書くところがなかったのですが,請求項1に関しては,甲1発明との新規性欠如が無効理由で,進歩性欠如は無効理由じゃなかったのです。

2 問題点
 ということで,今回取り上げるのは,新規性ありっていう審決の認定の部分ですね。

 早速,多少脱線しますが,こういうのって,本当請求人次第ですから,これほど合っているなら,新規性なしだけじゃなく進歩性なしも主張すればいいのに~と思っても,敢えて新規性なしだけを主張することも多いですね。
 やはりその方が,特許庁と相手方に対するインパクトがあるのだと思いますが(こんなドンピシャの引例があるのに,お前は権利行使しようとしてるのか~この大バカ者めが~ってことですかね。),策士策に溺れるの如く,微細な点が差異とされれば,新規性で追い込むことはできません。

 今回の審決も,上記のとおりのほぼ同じような引例を探してきたにも関わらず,微細な差異があるとして新規性ありとの審決がされています。これが侵害訴訟の無効の抗弁なら,あとで進歩性なしという理由を追加するのはOKでしょうが,無効審判の場合は,ダメなのです(特許法131条の2第1項柱書及び但書1号)。

 なので,パナソニックの代理人や知財部は慌てたでしょうね~この審決が出たときは~。ま,インパクトも大事ですが,別に新規性と並行して進歩性を主張しちゃいけないってことはないので,格好つけずにやるべきことはやっておいた方がいいですね。

 で,本件では,上記の相違点のとおり,本件発明にいう仮編集機がパソコンなのに,甲1には,パソコンそのものとしての開示が無かった点につきます。しかし,ノンリニア編集で,パソコンというかコンピュータ使わないやつの方が珍しいっていう気がしますねえ。

3 判旨
「上記(ア)及び(イ)によれば,本件出願の優先日当時,オフライン式でオンライン編集のための編集決定リストを作成する仮編集機としてソフトウェアでプログラムされたパーソナルコンピュータを用いる構成,すなわち,仮編集機が「プログラムが入れてあるパーソナルコンピューター」である構成は,周知であったものと認められる。・・・
・・・しかるところ,前記イ(ウ)のとおり,オフライン式でオンライン編集のための編集決定リストを作成する仮編集機としてソフトウェアでプログラムされたパーソナルコンピュータを用いる構成は,本件出願の優先日当時,周知の技術事項であったことに鑑みると,甲1に接した当業者であれば,甲1記載の「仮編集システムをコンピュータと組み合わせて効率的に仮編集し」との記載は,オフライン式で編集決定リスト(EDLリスト)を作成する仮編集機としてソフトウェアでプログラムされたパーソナルコンピュータを用いることを開示したものと理解するものと認められる。
 そして,オフライン式で編集決定リストを作成する仮編集機としてソフトウェアでプログラムされたパーソナルコンピュータを用いる構成は,本件発明1の「前記第1の記録媒体の番組素材を受け取り,オペレータがオフライン方式で,前記第1のフォーマットの番組素材から必要な情報を取り出して編集して,編集決定リストを作成」するように「プログラムされたパーソナルコンピューター」に該当するものと認められる。
 そうすると,甲1には,本件発明1の「前記第1の記録媒体の番組素材を受け取り,オペレータがオフライン方式で,前記第1のフォーマットの番組素材から必要な情報を取り出して編集して,編集決定リストを作成」するように「プログラムされたパーソナルコンピューター」の構成の開示があり,甲1発明は,上記構成を備えるものと認められるから,本件発明1は甲1に記載された発明であるといえる。
 したがって,甲1発明の仮編集機は「コンピュータと組み合わせ」るものであって,「プログラムが入れてあるパーソナルコンピューター」とはいえない点で相違し,甲1には,上記相違点に係る構成の開示がないから,本件発明1は甲1に記載された発明ではないとした本件審決の判断は,誤りである。」

4 検討
 まあ,そのものが開示されていなかったとしても,開示されたに等しい事項と言えるわけですね。
 これだけドンピシャな引例探したのに,潰すことができず~みたいな大恥事例にならなくてよかったのではないでしょうか。富田さんの合議体も若干負けてやっかみたいなところはあったのかもしれませんね。

 他の無効理由も面白い点もありますが,あとは自習ということで。

 ところで,本件の出願自体がちょっと遅いっていう気がしますので,結論は実に妥当ですね。

 実は,私が昔いたソニー厚木というのは,本件で問題になった技術について,非常に有名な所です。
 ソニー関係者だと情機とかB&Pとか言えばすぐにわかりますね。そう,プロ用のAV機器って本社圏ではなく,厚木で開発していたのです。
 私が入社した25年前は,D2フォーマットで我が世の春~みたいな時期だったと思います。世界中の放送局の放送機器について,ほぼソニーが寡占していたのではないかと思います。それ故,情機の利益率はものすごく,典型的な殿様商売でした。

 ところが,何でもそうですが,胡座をかいてるとイノベーションで吹き飛ばされるわけで,テープではなくHDD等に画像を入れ,デジタル編集するというビッグウェーブが欧米の会社から提案され,それを積極的に取り入れた松下(当時)の製品に,D2が押され始めたということがあったのです。それが1990年代の前半のことだったと思います。

 この辺の技術,専門外なのですが,結構よく知っているでしょ。一応ソニーの厚木に居たもんでね。
 今でも,ときどき,映画を見ていると,HDの撮影関係で,special thanks sony atugiみたいなものが出ると,懐かしくなりますわな。

 兎も角も,そういうことですので,ノンリニア編集での様々な技術は1990年代の前半にはかなり完成されてたわけです。
 他方,本件での優先権主張日がいつかというと,1995.3.1ですもんね。そりゃ遅いよね。なので,ほぼドンピシャの引例があったのはある意味当たり前~って所でしょうね。

 あと,今回の前の特許権者は,自然人で,その後の特許権者は,ようわからんアメリカの企業なのですよね~。敢えて言わねえけど,色々と興味深い事件ですなあ。

5 追伸
 毎度おなじみ流浪の弁護士,散歩のコーナーでございます。
 本日は,ここソニー旧本社圏の4G前に来ております。
 
 透明の塀がありますが,その中には,往時ソニーの案内図がありました。その土台だけが今こうしてかろうじて残っているというわけです。

 さて,本日の東京は朝結構雨が降ったのですが(何日ぶりでしょう。),今はいつものとおり,晴れて暑くなっています。

 いやあ,暑いっていいですねえ。絶好の散歩日和です。今日はGW明けで久々の仕事~♪という人も多いのではないでしょうかね。
 私は,実は,今週月曜に珍しく休日出勤しましたので,ダラっとすることもなく,通常営業って所です。そして,早くも今週末のサーフィンの予定などを立てているって所ですね。ムフフフ。
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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