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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,平成18年6月7日,発明の名称を「ローソク」とする特許出願をし,平成23年5月13日付け手続補正書により,特許請求の範囲及び明細書についての補正(本件補正1)を行い,また,同年10月21日付け手続補正書により,特許請求の範囲及び明細書についての補正(本件補正2)を行い,平成24年4月13日,設定登録(特許第4968605号)を受けた被告に対し,原告らは,平成24年11月29日,特許庁に対し,本件特許の全ての請求項について無効にすることを求めて審判の請求をしたところ(無効2012-800197号事件),被告は,平成25年9月20日付け訂正申立書により,特許請求の範囲及び明細書についての訂正請求(本件訂正)をし,その結果,特許庁は,平成26年5月9日,訂正を認めての不成立審決(①訂正要件OK,②補正についての新規事項追加なし,③記載不備なし,④進歩性あり)を下したことから,これに不服の原告が審決取消訴訟を提起したものです。

 これに対して,知財高裁1部(設樂さんの合議体です。)は,原告の請求を認め,審決を取り消しました。つまり,逆転で,訂正要件NGと判断されたのですね。

 クレームです。訂正要件とは実は関係ないのですが,一応。

ローソク本体から突出した燃焼芯を有するローソクであって,該燃焼芯にワックスが被覆され,かつ該燃焼芯の先端から少なくとも3mmの先端部に被覆されたワックスを,該燃焼芯の先端部以外の部分に被覆されたワックスの被覆量に対し,ワックスの残存率が19%~33%となるようこそぎ落とし又は溶融除去することにより前記燃焼芯を露出させるとともに,該燃焼芯の先端部に3秒以内で点火されるよう構成したことを特徴とするローソク。

 次に,問題となった明細書の記載です。
 「【0025】

ワックスが被覆された比較例1の燃焼芯2の先端から各々1mm、3mm、5mmの長さの先端部に被覆されたワックスを実施例2と同一方法でスチール製のつめ状具でこそぎ落した各2本、合計6本の燃焼芯を用意した。

先端部のワックスがそぎ落とされた燃焼芯の重量から先端部に残ったワックスの被覆量を算出したところ、6本とも先端部のワックス被覆量は、燃焼芯の先端部以外の部分に被覆されたワックスの被覆量の24%であった。

上記先端から1mm、3mm、5mmの長さの先端部に被覆されたワックスをそぎ落とした各2本、合計6本の燃焼芯をローソク本体1に設けられた貫通孔に挿通して図2に示すローソクを各2個、合計6個製作した。該ローソクを内径38mm、深さ24mmのポリカーボネイト製容器(図示せず)に入れ、さらに開口部直径53mm、深さ55mmのガラス容器(図示せず)に収容した。

各ローソクの燃焼芯に点火して、点火時間を測定した。その結果を表2に示す。表2から先端部の長さが異なる3種類の燃焼芯への点火時間に有意な差は認められなかったが、長さ1mmの先端部を有する燃焼芯は、点火された炎が小さく風で消える恐れがあるため屋外使用は不適当である。」

 この記載の傍線部について,訂正では,
訂正事項5

本件特許明細書の段落【0025】に「実施例2と同一方法でスチール製のつめ状具でこそぎ落した」とあるのを,「刺抜きでこそぎ落した」に訂正する。

 

 訂正事項6

本件特許明細書の段落【0025】に「先端部のワックスがそぎ落とされた燃焼芯の重量から先端部に残ったワックスの被覆量を算出したところ,6本とも先端部のワックス被覆量は,燃焼芯の先端部以外の部分に被覆されたワックスの被覆量の24%であった。」とあるのを削除する。

 とされました。これが問題となったのですね。

2 問題点
 問題点は訂正要件ですので,条文を見ましょう。
 「(特許無効審判における訂正の請求)

第百三十四条の二  特許無効審判の被請求人は、前条第一項若しくは第二項、次条、第百五十三条第二項又は第百六十四条の二第二項の規定により指定された期間内に限り、願書 に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正を請求することができる。ただし、その訂正は、次に掲げる事項を目的とするものに限る。

一  特許請求の範囲の減縮
二  誤記又は誤訳の訂正
三  明瞭でない記載の釈明
四  他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること。

 つまり,クレームじゃない明細書中の訂正といえども,新規事項追加NGに加えて,誤記又は誤訳の訂正か,明瞭でない記載の釈明を目的とした訂正しか認められないわけです。何でもかんでも訂正じゃあっというわけにはいかないのです。

 で,今回の訂正は,誤記の訂正だという趣旨で行われたようです。要するに,補正で【0025】の傍線部のようにしたのだけど,この補正が誤記なので,これを訂正したいということのようでした。

 審決は,「訂正事項5及び6による訂正前の特許明細書による記載は,何れも平成23年5月13日付け手続補正書(判決注:本件補正1)による補正によってなされたものであり,・・・その残存量が24%である旨の記載もなされていなかったものである。このような審査段階での補正の経緯を踏まえて特許明細書の記載を検討するならば,段落【0025】における,「ワックスのそぎ落としの用具が『スチール製のつめ状具』である」旨の記載も,また,「そぎ落とし後に先端部に残ったワックスの被覆量を算出した結果,先端部以外の被覆量の24%である」旨の記載も,ともに錯誤によりなされた記載であることが明らかというべきである。」と判断しました。

 で,それに対して,原告の側は,「当業者である被告も,上記補正が補正前の記載事項と技術的に相容れない事項とはみなしておらず,訂正事項5及び6について錯誤による訂正ともしていないのであるから,本件補正1のうち上記補正が錯誤によりなされたということはできず,審決の判断は誤りである。」等など主張していたわけなのですね。

 ま,ですので,「誤記」の意味がどうのこうというよりも,そのあてはめが問題になったと言える事例ですね。

3 判旨
「イ そこで検討するに,訂正事項5及び6は,前記第2の4(3)及び(4)のとおり,本件特許明細書の段落【0025】中に,「実施例2と同一方法でスチール製のつめ状具でこそぎ落した」とあるのを,「刺抜きでこそぎ落した」に訂正し(訂正事項5),また,「先端部のワックスがそぎ落とされた燃焼芯の重量から先端部に残ったワックスの被覆量を算出したところ,6本とも先端部のワックス被覆量は,燃焼芯の先端部以外の部分に被覆されたワックスの被覆量の24%であった。」とあるのを削除する(訂正事項6)ものである。そして,前記1(6)ア,イ及びエのとおり,各訂正前の段落【0025】の各記載は,本件補正1による補正F1及び補正F3に係る補正により記載されたものである。
 誤記の訂正が認められるためには,まず,特許明細書又は特許請求の範囲に「誤記」,すなわち,誤った記載が存在することが必要である。しかし,前記1(6)イ,エで判示したとおり,補正F1は,本件当初明細書に,段落【0025】の各実験例の燃焼芯の作製方法について「(ワックスを)刺抜きでこそぎ取った」と記載していたのを,「(ワックスを)スチール製のつめ状具でこそぎ落した」と言い換え,実施例2とこそぎ落としの方法が同一であることを明瞭にしたものであり,補正F3は,本件当初明細書には,段落【0025】の各実験例の燃焼芯からワックスをこそぎ取った割合(ワックスの残存率)が明らかにされていなかったのを,ワックス残存率が24%であることを明らかにしたものであり,これらの補正内容自体が誤ったものであるとも,補正後の記載事項が,補正前に記載されていた事項と技術的に相容れない事項であるとも認められないから,そもそも,補正F1又は補正F3に係る補正後の記載内容(本件訂正前の記載内容)自体に,誤りがあるとは認められない。なお,訂正の経過をみても,被告は,本件訴訟に先立つ無効審判請求において,原告らから,補正F1及びF3が新規事項の追加に当たるとの無効理由が主張されたのに対し,当初これを争い,補正F1及びF3は新たな技術的事項を導入するものではない旨主張していたものの(甲21),審決の予告において,これらの補正が特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていないとの審判合議体の判断が示されたため(甲13),初めて,本件補正1後の記載を補正前の記載に戻すために,訂正事項5及び6の訂正を請求するに至ったものであり(乙2),被告自身も,本件補正1後の記載内容自体が誤っている,との主張をしているものではない。
 そうすると,補正F1及びF3に係る補正後の記載を,補正前の記載に戻すための訂正事項5及び6は,「誤記」の訂正に当たるとは認められず,審決の判断は,その前提において誤りがあるというべきである。」
「・・・エ 念のため,訂正事項5及び6が誤記の訂正以外の事項を目的とするものといえるか否かについて検討する。訂正事項5及び6は,いずれも本件特許明細書中の実験に関する部分(段落【0025】)であって,特許請求の範囲の文言の解釈に影響を与えるような部分についての訂正ではないから,特許法134条の2第1項ただし書1号の特許請求の範囲の減縮や同4号の請求項間の引用関係の解消を目的とするものではないことは明らかである。
 また,本件特許明細書の訂正事項5及び6に係る部分(補正F1及びF3により補正された部分)は,補正前の当該部分の記載内容自体又はその他の記載との関係を明瞭にするために,補正されたものであり,それ自体が意味の不明瞭な記載となっていることや,その他の記載との関係で不合理を生じて不明瞭になっている記載を見出すことはできないし,そうである以上,本件特許明細書に存在した訂正事項5,6に係る部分の記載を訂正又は削除することによって,何らかの事項が明瞭になるとも認められないから,訂正事項5,6は特許法134条の2第1項ただし書3号の明瞭でない記載の釈明を目的とするものともいえない。」

4 検討
 誤記というのは,その字義とおり,誤った記載というわけです。
 で,訂正の要件は,それを訂正するためのものだからそもそも誤ってないとダメ!ってわけです。まあ,ある意味杓子定規な判断ではあるのですが,条文上そうなっているからしょうがありません。

 特許庁の判断は,理系の人特有の実質的には別に拡張とかなっていないんだからいいんじゃなーいってやつですね。
 でも,世の中そうはいきません。私が弁理士から,司法試験を経て法曹になって,ああここは結構違うなあって思ったのは,形式面(手続面と言い換えてもいいですが。)の重視ですね。特に,言葉,文言に拘るってえのは,だいぶ違います。

 いや実質が良ければそれでいいんじゃなーいってなるのですが,例えば,最近刑事手続の改正論議もありますが,実質が良ければいいなら,自白しない被疑者や被告人に対し,どんどん拷問をすればいいと思いますよ。

 え?拷問すると嘘の自白が増えるだろうって?

 いえいえ,人間って弱いもんだから,本当のことを言う人が増えるだけですよ。
 つまり,真理を明らかにするという実質面重視なら拷問すりゃあいいのですね。それに嘘の自白が増えるから拷問をしちゃいけないなら,何らかのうまい拷問を使うなどして嘘の自白が増えないなら拷問してもいいってことになりませんかね。実質を重視すると,当然こうなりますよね。

 違うのですよ。

 何故拷問しちゃいけないかっていうと,拷問そのものがいけないからです。
 わかりますか~?虚偽自白の防止ではありません。拷問自体が外道だからいけないってするわけです。つまりは手続,形式面の重視~です。
 こういうことがわからんと,リーガルマインドがあるって言いませんわな。ま,お勉強してくださいな。

5 追伸
 ということで,昨日東京は桜の満開を迎えました。
 東京の最高気温は,23.6℃で暑かったですね~。ほんで散歩の模様です。
 
 これは東急目蒲線じゃねえや,目黒線の橋梁の下ですね。
 
 これはいつもの定点の場所です。よく咲いてますね。
 
 アマゾン裏も人が多いです。離合するのも一苦労でした。普段は来ないくせに,この時期だけ湧いて出るなあと思いますが,致し方ありません。
 
 で,ここもよく出る太鼓橋からです。
 
 ほんで,これもいつも出る山本橋です。
 
 で,山本橋の下流の御成橋ですね。
 
 春のうららの目黒川~♪って所でしょうか。遊覧船は10分に一本くらい来てました。
 
 いやあ,綺麗綺麗。これでもよく見るとまだ咲いていないのがちょびっとあったりするのですね。満開は8割咲くと満開らしいですから,100%は,明日くらいじゃないでしょうか。
 こんな日にずっと事務所に篭っているなんて信じられなーいですので,見に行ってない人も明日は行った方がいいでしょうね。

 そう言えば,何か久々のまともな更新って気がしますね。多少,落ち着いたかなあって感じがしますが,予定は未定ですので,あまり期待しない方がいいと思いますね。
 


 

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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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