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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,平成19年8月10日(優先権主張平成18年10月23日・日本国。本件優先日。)を出願日として,発明の名称を「振動低減機構およびその諸元設定方法」とする発明につき,特許出願をし,平成24年4月13日,設定登録を受けた(特許第4968682号)原告(清水建設)に対して,被告(免制震ディバイス)は,平成25年6月3日付けで本件特許について無効審判請求(無効2013-800102号)をしたところ,原告は,平成26年3月24日付け訂正請求書により,訂正請求をしたものの(本件訂正請求),特許庁は,平成26年6月9日,本件訂正請求を認めた上で,本件特許の請求項1,2に係る発明についての特許を無効とするとの審決(進歩性なし)をしたことから,これに不服の原告が審決取消訴訟を提起したものです。

 これに対して,知財高裁2部(清水さんの合議体ですね。)は,審決を取り消しました。要するに,進歩性なしとは言えないってことですね。

 私のライフワークたる進歩性~しかも逆転~そりゃ取り上げないっとね,てやつです。

 まずは,クレームです。
【請求項1】
 多層構造物の振動を低減する機構であって,
 多層構造物の全層を除く任意の層に,層間変形によって作動して錘の回転により回転慣性質量を生じる回転慣性質量ダンパーを設置するとともに,該回転慣性質量ダンパーと直列に付加バネを設置し,回転慣性質量と付加バネとにより定まる固有振動数を前記多層構造物の固有振動数や共振が問題となる特定振動数に同調させてなることを特徴とする振動低減機構。

 特許権者が誰かってことを見ると,どんな発明かすぐにわかりますね。建物の減震装置ですわ。

 で,とりあえず,甲1発明との一致点・相違点です。
(一致点)
「多層構造物の振動を低減する機構であって,
多層構造物に,層間変形によって作動して錘の回転により回転慣性質量を生じる回転慣性質量ダンパーを設置するとともに,該回転慣性質量ダンパーと直列に付加バネを設置してなる振動低減機構。」
(相違点)
[相違点1]
本件発明1は,多層構造物の「全層を除く任意の層」に回転慣性質量ダンパーを設置するのに対し,甲1発明は,建物2の全層に回転慣性機構を設置する点。
[相違点2]
本件発明1は,「回転慣性質量と付加バネとにより定まる固有振動数を前記多層構造物の固有振動数や共振が問題となる特定振動数に同調させ」るのに対し,甲1発明は,回転慣性機構と第1,第2取付部材24,26とで新たな共振点を形成し,第1,第2取付部材24,26の剛性を建物2の剛性の1割とした条件下で,最下層の制振装置の回転慣性機構の質量を1次振動数に対して調整し,中間層の回転慣性機構の質量は3次振動数に対して調整し,最上層の回転慣性機構の質量は2次振動数に対して調整して,より大きな制振効果を実現する点。

 とりあえずと書いたのには理由があります。本件,ポイントは本願発明の認定だったからです。

2 問題点
 上記のとおり,本件は進歩性~なのですが,このブログをよく見ている人には進歩性の論点は大きく2つあるってことはいいですよね。
 1つが,事実認定の話で,もう1つが法的判断の話です。塚原パパが前者を容易性だか想到性だか言い,後者を想到性だか容易性だか言ったのでわけわからん~ことになっているのですが,ま,基本,この2つです。

 で,更にこのブログをよく見ている人はおわかりのとおり,問題がある場合って,ほぼ100%主引例の調査に問題がある場合だって知ってますよね。要するに,遠い主引例しか見つからず,強引に本願発明と合わせようとした結果,そんなことは引例に書いてね~事実認定の誤りってことになります。
 他方,強引に合わせようとしない場合は,当然隔たりが大きいわけですので,動機付けないのに組み合わせた~法的判断の誤りってことになります。

 調査不足~を幕は待たない~進歩性はいつでも初舞台~♪ちゅうことです。

 しかし,ときどき,このパターンに当てはまらない恐るべき場合もあります。典型的なものが,本願発明の認定でズッコケるやつです。

 は!?そこから~?はなっからダメ!っていうド素人がやってんじゃないの~パターンです。とは言え,有名なリパーゼ判決も,この本願発明の認定でどうのこうの問題になったわけですので,無くはないのですけどね。

 でもねえ,普通は,本願発明の認定では争いようがないですよ。だって,特許庁の審査官や審判官は,理系の謂わば当業者ですからね。でも,まあいつもわかっているとは限らないってもんです。
 あ,そうそう,特許庁の審査官や審判官も,経産省の文系の所謂キャリア官僚よりは下に見られているらしいですね~,当たり前ですが。
 更に,院を出ようが,どこかに行ってようが,入省年度が1つでも下だと呼び捨てらしいですね~。いやあ今や勝ち組の代表とも言える国家公務員の皆さんも,つまらんことでプライドを維持するのに,苦心惨憺のようですね~。ガハハハ。

 おっと議題が逸れましたわ。元に戻すと,なんかの原因があって,本願発明の認定から狂ってしまうと,もう後が大変ですわ。
 引用発明の認定がバッチリでも,一致点・相違点認定には当然誤りが生じます。その誤りが生じた相違点について,他の副引例との組み合わせの動機付けなどを探せたとしても,そもそも相違点が間違っているので,ダメ!ってことになります。
 わかりますかね。

 親ガメコケたら皆コケた~♪ってなわけですね。

 本件では,上記の下線を引いた「同調」の意味が問題となりました。ただ,本件では,固有振動数との同調,つまりはチューニングですので,一致ということでよろしいのでは?ということだったようです。

3 判旨
「イ(ア) 本件訂正明細書中,本件発明の「同調」の意義を端的に説明する記載は,見られない。
 しかしながら,本件発明の「回転慣性質量と付加バネとにより定まる固有振動数を前記多層構造物の固有振動数や共振が問題となる特定振動数に同調させ」(本件請求項)につき,本件訂正明細書には,以下の記載が存在する。
【0012】
 そして,本実施形態においては,上記の回転慣性質量ダンパー1とそれに直列に設置される付加バネ2とにより定まる固有振動数を,構造物全体の所望の固有振動数に同調させるようにそれらの諸元を適正に設定することにより,その振動数での構造物の応答を大きく低減させることができるものである。すなわち,一般に質量mとバネkによる振動系における固有角振動数ωは
 ω=k/m
なる関係で定まるのと同様に本実施形態のような回転慣性質量ダンパー1と付加バネ2とによる振動系においては,その固有角振動数Ωは回転慣性質量Ψ0および付加バネ2のバネ定数k0から
 Ω=k0/Ψ0
なる関係で定まる。したがって,その固有角振動数Ωをたとえば構造物全体の固有1次角振動数ω1に一致させれば,つまり
 Ω=k0/Ψ0=ω1
の関係が成り立つようにΨ0およびk0の値を設定すれば,従来のTMDを設置した場合と同様に,構造物全体の固有1次モードの振動に対する応答を大きく低減させることができ,特に風揺れに対する充分な低減効果が得られる。
【0013】
 あるいは,固有角振動数Ωを構造物全体の固有2次角振動数ω2と一致させることでも良く,その場合は
 Ω=k0/Ψ0=ω2
となるようにΨ0およびk0の値を設定すれば,固有2次モードの振動に対する応答を大きく低減させることができる。
 同様に,必要であればさらに高次の固有角振動数に同調させたり,機械振動のような特定の振動数を対象とする場合にはその振動数に同調させることにより,目的とする振動数との共振による応答増大を有効に防止することができる。
(イ) これらの記載内容は,「回転慣性質量ダンパー1の回転慣性質量Ψ0と付加バネ2のバネ定数k0とにより,Ω=k0/Ψ0として定まる固有角振動数Ω」を,構造物全体の固有1次角振動数ω1,固有2次角振動数ω2,更に高次の固有角振動数等に「一致」させることによって,その振動数での構造物の応答を低減させるというものである。
ウ 以上によれば,本件発明の「同調」とは,「一致」を意味するものと解される。・・・
・・・イ 本件審決は,本件発明の「同調」の意義につき,結論として,「回転慣性質量と付加バネとにより定まる固有振動数と,多層構造物の固有振動数や共振が問題となる特定振動数とを,本件訂正明細書記載の作用,効果を達成できるように特定の関係とすること」と解される旨述べているところ,「一致」が,比較対象とされるものの完全な合致のみを指す一義的な用語であるのに対し,「特定の関係」は,「一致」よりも広義の用語であることは,明らかである。
 この点に関し,「特定の関係」の具体的内容については,本件訂正明細書において記載も示唆もされておらず,不明といわざるを得ない。
 また,本件審決は,前記のとおり,本件訂正明細書の段落【0027】の記載等によれば,「特許請求の範囲の『同調』」は「一致」を意味する旨認定しながら,本件訂正明細書の段落【0002】記載の「同調」の意義につき,甲21号証の記載を参照して異なる解釈をし,結論として,「特許請求の範囲の『同調』とは,」前記「特定の関係」を意味するものと判断しているところ,「特定の関係」の具体的内容を示しておらず,加えて,最終的に,本件請求項の「同調」の意義を,本件訂正明細書の記載によって認定した「一致」よりも広義のものと認めた合理的な理由も,明らかにしていない。
⑶ 小括
 以上によれば,本件審決は,本件発明の「同調」の意義を,誤って認定したものといえる。」

4 検討
 上記の判旨ですが,上付き文字の2がうまく表示できません。小さい2は二乗と思ってください。
 まあ,物理の中でも一番簡単なものの1つかもしれませんので,間違えないとは思いますけどね。

 その他,「同調」の解釈以外の件も,明後日の方向で取り消されておりますが,それは各自自習ってことで。

 まあ実に珍しいということでの紹介でしたね。同じ日に記載不備でNGになった特許の審決取消訴訟もあるのですが,こっちの方がより珍しいので,こっちから先に取り上げました。

5 検討
 毎度おなじみ流浪の弁護士,散歩のコーナーでございます。
 本日はここ武蔵小山駅に来ております。
 
 いやあ今日も暑いです。武蔵小山まで結構な距離でしたが,何とか辿り着きました。

 昔ここでも書いたと思いますが,大学の学部時代,目黒本町に下宿してましたので,この辺は土地勘がありますね。
 とは言え,もうそれも30年前の話!!歳も2.5倍の大増量ってわけですわ。

 そうそう,下記のhttp://iwanagalaw.strikingly.com/の巻頭の写真をごく最近のものに変えました。優良誤認させるといけませんからね。私はおっさんです~。
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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