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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 特許庁における手続きの概要は以下のとおりです。
 「原告(デンソー)は,平成8年5月23日,名称を「車両用指針装置」とする発明につき,特許出願をし(特願平8-128704号),平成15年10月3日,特許登録を受けた(特許第3477995号。請求項の数4。甲16。以下,この特許を「本件特許」といい,この特許権を「本件特許権」という。)。
 被告(カルソニックカンセイ)は,平成24年9月3日,本件特許の請求項1~3につき特許無効審判請求をした(無効2012-800143号)ところ,特許庁は,平成25年4月26日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をした(甲14)。
そこで,被告は,同年6月4日,当庁に対し,上記審決の取消しを求める訴えを提起し(平成25年(行ケ)第10154号),同年12月24日,上記審決を取り消す旨の判決を受けた(以下「前訴判決」という。甲15)。
 原告は,特許庁における審判手続において,平成26年7月25日付け訂正請求書(甲17の1・2。以下「本件訂正請求書」という。)により,特許請求の範囲を含む訂正をし(以下「本件訂正」という。本件訂正後の請求項の数5。),特許庁は,同年9月30日,「平成26年7月25日付け訂正請求において,訂正事項eないしh(請求項2,3及び5からなる一群の請求項に係る訂正)を認める。特許第3477995号の請求項1ないし3に記載された発明についての特許を無効とする。」とする旨の審決(以下,単に「審決」というときは,この審決を指す。)をし,その謄本は,同年10月9日,原告に送達された。」

 ということで,訂正を認めても無効審決(訂正要件違反,進歩性なし)を下された原告が,審決取消訴訟を提起したのが本件,ということになります。

 これに対して,知財高裁2部(清水さんの合議体ですね。)は,審決を取消しました。ま,訂正要件違反もなく,進歩性もないとは言えないというダブルの理由だったのですが,今回は訂正要件の方,すなわち,新規事項追加の方を検討しましょう。

 クレームは以下のとおりです。
【請求項1】

目盛り板(20)と,この目盛り板上にて指示表示する指針(30)と,前記目盛り板を光により照射する照射手段(50)とを備えた車両用指針装置において,

 車両のキースイッチ(IG)のオフに伴い前記目盛り板照射手段の照射光の輝度を,前記キースイッチのオン状態の当該目盛り板照射手段の照射光の初期輝度から徐々に低下させるように制御し,

 前記キースイッチのオフに伴い前記目盛り板照射手段の照射光の輝度が徐々に低下している状態で前記キースイッチがオンされると,前記目盛り板照射手段の照射光の輝度を前記キースイッチがオンされるタイミングで零にし,このキースイッチがオンされるタイミングから遅延させて前記目盛り板照射手段の輝度を前記初期輝度に戻すように制御する制御手段(112,112A,113,113A,121乃至124,130,130A)を備えることを特徴とする車両用指針装置。

 この下線部が,訂正事項aです。

 で,どういう発明かというと,車のインジケータ部に関する発明ですね。
「徐々に暗くなりつつあるが,まだ十分視認できた目盛り板が,キースイッチのオンと同時にいきなり真っ暗となり,そして所定時間遅延して初期輝度でパッと見えるようになるのが,訂正発明1の演出である。」
 こういう効果を生むものです。

 なんちゅうか,恐らく女子は全く興味がない~♫系の発明ですね。
 こういう一見どうでもいいっちゅうか,スターターを入れたときとか切ったときの光とか,エンジンや排気管の音とか振動とか,スターターの回し具合とか,そういうところが結構重要だったりするのです。
 神は細部に宿ると言いますけど,こういう所まで手を抜かないマニュファクチャリングが,結局客を呼ぶのですね。
 ま,私もメーカーでエンジニアをしておりましたので,こういうこだわりはようわかる(あんまり車に乗らなくてもね。)という所です。

2 問題点
 で,上記のとおり,今回は新規事項追加のところです。
 まずは条文からです。特許法126条5項です。

第一項の明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面・・・に記載した事項の範囲内にお いてしなければならない。

 で,この基準として,大合議の
平成20年5月30日判決での「「明細書又は図面に記載した事項」とは、当業者によって、明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり、補正が、このようにして導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるときは、当該補正は、「明細書又は図面に記載した事項の範囲内において」するものということができる。」というものが有名です。

 で,本件の場合の審決は,「イ 本件明細書の【0002】,【0003】,【0021】及び図6の記載に接した当業者ならば,指針照射手段(発光素子31)及び目盛り板照射手段(光源50)の各発光輝度が低下している状態で車両のキースイッチ(イグニッションスイッチIG)がオンされた場合の目盛り板照射手段の輝度制御に関して,【0021】及び図6には,従来の技術と同じ制御,すなわち,「車両のキースイッチのオンに伴い,指針を発光させた後所定時間の経過に伴い文字板を発光させて,乗員に対し視認性の斬新さを与える」制御が開示されていると理解し,指針照射手段及び目盛り板照射手段の各発光輝度が低下している状態で車両のキースイッチがオンされた場合の目盛り板照射手段の輝度制御において,「指針を発光させた後所定時間の経過に伴い文字板を発光させ」ることは「乗員に対し視認性の斬新さを与える」ために必須の構成であると理解する。
 そうすると,本件明細書には,車両のキースイッチがオンされた場合の目盛り板照射手段の輝度を,車両のキースイッチがオンされたタイミングに基づいて制御し,指針照射手段の輝度を初期輝度に戻すタイミングとの関係で制御しない構成は,記載も示唆もされていない。」などと判断したのですが,これがようわからないのですね。

 
 本件発明って,上記のクレームのとおりですが,図を見るとよくわかります(上の図は図6で,光るタイミングを表したものです。下の図は図1で,本件発明の断面図ですね,)。
 つまりは,スピードメーターみたいなやつで,針自体(30)が光るようになってますし(指針照射手段31),文字盤(20)のところも光るようになっています(
目盛り板照射手段50)。

 ほんで,クレーム1の発明の構成要件には,
指針照射手段(31)のことは書かれていません。つまり関係ないのです。

 ところが,上記の審決を見て分かるとおり,何故か
指針照射手段がどうのこうの言ってます。

 このクレーム1の発明って単純で,指針が暗かろうが明るかろうが関係なく,兎に角,目盛り板の所が,
徐々に暗くなりつつあり,まだ十分視認できたのだけど,その目盛り板が,キースイッチのオンと同時にいきなり真っ暗となり(光源50の発光輝度0),そして所定時間遅延して(T2),初期輝度Aでパッと見えるようになるちゅうだけなのですね。

 だから,明細書にそのことが書かれていれば,新規事項追加になるわけがないし,もうそれだけを見ればいいのです。

 で,何がわからないかというと,上記の図の図6を見てのとおり,
目盛り板が,キースイッチのオンと同時に真っ暗となり(光源50の発光輝度0),そして所定時間遅延して(T2),初期輝度Aでパッと見えるようになるようなタイミングが表されています。
 つーか少なくとも私にはそう見えます。

 それなのに,審決は,あーちょっと何言っているかわからない~ですね。

3 判旨
「ところで,本件明細書には,前記(1)イのとおり,発光輝度が徐々に低下している状態でイグニッションスイッチIGがオンされた場合の記載として,【0021】及び図6がある。この【0021】において,「・・・発光素子31及び光源50の各発光輝度が低下している状態でイグニッションスイッチIGがオンされた場合には,図6にて示すように,光源50の発光輝度を初期輝度Aに戻すタイミングを,発光輝素子31の発光輝度に比べて,所定時間T2だけ遅延させて実施してもよい。・・・」と記載され,目盛り板照射手段の光源50を発光させるタイミングを,指針照射手段の発光素子31の発光のタイミングと比較して遅延させることが明らかにされているが,イグニッションスイッチのオンのタイミングから遅延して初期輝度Aに戻ることについての記載はない。
 しかし,以下に述べるとおり,図6には,キースイッチのオフに伴い光源50(目盛り板照射手段)の照射光の輝度が徐々に低下している状態で前記キースイッチがオンされた時点で,光源50(目盛り板照射手段)の照射光の輝度が零となり,その時点から所定時間T2だけ遅延して,光源50(目盛り板照射手段)の照射光の輝度が初期輝度Aに戻る態様が記載されているものと認められる。
 すなわち,まず,前記(1)イのとおり,本件明細書の発明の詳細な説明の本文中には,発光輝度が低下している状態でイグニッションスイッチIGがオンされた場合について,目盛り板照射手段の光源50を発光させるタイミングを,指針照射手段の発光素子31の発光のタイミングと比較して遅延させることのみが記載されているが(【0021】),指針照射手段を構成に含まない本件発明1において,イグニッションスイッチのオンではなく,発光素子31の挙動に光源50の挙動タイミングを合わせるべき技術的意義を示す記載はない。また,【0011】,【0013】~【0015】,【0018】及び図3(駆動回路)によれば,目盛り板の輝度制御を行う駆動回路90bと指針の輝度制御を行う駆動回路90aが個別に制御されていることが明らかであり,技術的に目盛り板の輝度制御が指針の輝度制御に連携して制御されているわけではないことが理解できる。そして,イグニッションスイッチIGのオフ後における第1実施の形態における光源50及び発光素子31の各発光輝度の変化を示す図5には,イグニッションスイッチIGのオン,オフ挙動を示す図の下に光源50(目盛り板照射手段)の発光輝度が,更にその下に発光素子31(指針照射手段)の発光輝度が記載されており,イグニッションスイッチIGのオフを示す線の直下に,それぞれ補助線が引かれ,これを起点に徐々に発光輝度が低下する様子が示されている。この場合において,目盛り板照射手段の発光輝度が徐々に低下するタイミングが,イグニッションスイッチIGのオフにかかっていることは,本件明細書の請求項1,【0018】の記載からも明らかである。一方,図6においても,図5の場合と光源50と発光素子31の位置を入れ替えることなく,イグニッションスイッチIGの図の下に,光源50の発光輝度,発光素子31の発光輝度を示す記載が順に並べられ,イグニッションスイッチIGがオフとなり各発光輝度が徐々に低下している際に同スイッチをオンした場合に,その挙動を示す線の直下に補助線が引かれ,光源50はその直下で輝度が零とされ,その補助線からT2遅れたタイミングで初期輝度Aに復帰する一方,発光素子31はその補助線を起点として直ちに初期輝度Aに復帰することが示されている。そうすると,図6の記載に触れた当業者は,図5において目盛り板照射手段の発光輝度が徐々に低下するタイミングをイグニッションスイッチのオフにかからせたのと同様に,目盛り板照射手段のみを対象とした本件発明1の構成において,同照射手段の発光輝度が徐々に低下している状態でイグニッションスイッチIGがオンされた場合,これを契機として,光源50の発光輝度が零となり,そこからT2時間経過した後に,その輝度が初期輝度Aに戻ることを読み取るものと認められる。
 したがって,上記付加された構成要件は,図6の記載によって十分に裏付けられていると認められ,訂正事項aは,本件訂正前の本件明細書に記載した事項の範囲内でしたものと認められる。
 よって,取消事由1には,理由がある。」

4 判旨
 そうだよね~図6見りゃあそのままじゃんって感じなのですが,審決はちょっと難しく考えすぎたのでしょうかね(善解~)。

 今は試験自体が簡単になったので,あんまりないのですが,昔は,何でも知っているベテラン受験生が短答すら通らないってことがよくありました(司法試験でも弁理士試験でも。)。
 何といいますか,考えすぎというか,すべての例外まで隈なく考え,そうすると,正しい選択肢(又は誤った選択肢)が全くない~♫という事態に陥り,パニックになり,時間を費やし~・・・というやつですね。

 今回の審決は何かそんな匂いがします。ただ,クレームにない構成要件まで検討している所などからすると,何かそこまでも行ってない気もするのですが,まあいいでしょう。

 ということで,何か久々にきちんとした特許の判決の紹介だったというような気がしますね。
 ま,これ私の興味で書いているだけですので,興味の湧くような判決がなかなかそんなにない!って所でしょうね。

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