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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,名称を「プロバイオティクス構成成分及び甘味剤構成成分を含む組成物」とする発明につき,平成18年4月4日,特許出願をした原告が(特願2008-506508号,パリ条約による優先権主張・外国庁受理・2005年4月11日・米国/2006年3月17日・米国,国際公開・平成18年10月19日・WO2006/110406,国内公表・平成20年9月4日・特表2008-535520号),平成23年3月9日付けで特許請求の範囲を全文変更する手続補正をし(請求項の数19),さらに,平成24年3月13日付けで特許請求の範囲を全文変更する手続補正をしたが(請求項の数17),平成24年10月29日付けで,上記平成24年3月13日付けの手続補正は却下され,同日付けで拒絶査定を受けたため,平成25年3月4日,これに対する不服審判を請求をするとともに(不服2013-4177号),特許請求の範囲を全文変更する手続補正(本願補正)をしたたものの,特許庁は,平成26年7月25日,本願補正を却下した上で,拒絶審決(進歩性なし)を下したことから,これに不服の原告が審決取消訴訟を提起したものです。

 これに対して,知財高裁2部(清水さんの合議体ですね。)は,原告の請求を認め,審決を取消しました。要するに,進歩性なしとは言えないってことですね。

 クレームからです。
本願補正発明(下線部が本願発明の限定部分)
(a) 切除及び洗浄されたイヌ科動物又はネコ科動物の胃腸管から単離された株含み,かつビフィドバクテリウム,ラクトバシラス,及びこれらの組み合わせからなる群から選択される属を含む細菌を含む,プロバイオティク構成成分,及び
(b) ソルビトール,マンニトール,グルコース,マンノース,フルクトース,及びこれらの混合物からなる群から選択される単糖類を含む,甘味剤構成成分,を含む,組成物であって,
 前記甘味剤構成成分およびプロバイオティク構成成分は共に混合されてなり,前記組成物は,実質的にチューインガム基質を有しない,組成物。

 技術的にはあまりよくわからない分野であるのですが,ペットフードの組成物のようですね。
 で,一致点・相違点は以下のとおりです。
イ  一致点
「  (a)  ビフィドバクテリウム,ラクトバシラスから選択される属を含む細菌を含む,プロバイオティク構成成分,及び
    (b)  グルコース,マンノース,フルクトースからなる群から選択される単糖類を含む,甘味剤構成成分,
  を含む,組成物であって,
    前記甘味剤構成成分およびプロバイオティク構成成分は共に混合されてなり,
    前記組成物は,実質的にチューインガム基質を有しない,組成物。」
      ウ  相違点
  【相違点1】
「  本願補正発明は,細菌が『切除及び洗浄されたイヌ科動物又はネコ科動物の胃腸管から単離された株を含』むのに対して,引用発明は,そうではない点。」

2 問題点
 問題点は上記のとおり,進歩性で,特に今回は一致点相違点認定の誤りが論点になっております。
 つまり,事実認定のところですね。

 この点,原告の主張を見てもらうといいのですが,
「 審決が,刊行物1の実施例1に着目して,「スクロース,初乳,プレバイオティック,プロバイオティックを含む乳製品おやつであって, 製品は未加工材料を混合することによって得た混合物を型にすくい入れ/かき入れ,冷蔵庫に入れて固化させ,得られた材料片を型から外した乳製品おやつ」(前記第2,3(1)ア)と引用発明を認定したことは,争わない。
  しかしながら,そのように引用発明を認定したのであれば,引用発明の内容は,上記実施例1の記載に基づいて解釈されなければならない。刊行物1の実施例1に係る記載箇所以外に本願補正発明の構成に対応する構成の記載があるからといって,その記載を流用して実施例1の組成に係る構成成分を組み替えることは許されない。
  しかるに,①上記実施例1は,単に,「プロバイオティック」が2重量%含まれているとされているだけであり,それが,本願補正発明の「ビフィドバクテリウム,ラクトバシラス,及びこれらの組み合わせからなる群から選択される属を含む細菌」を含むものであるか否かは明らかではないから,この点は,相違点として認定されなければならない。また,②上記実施例1は,単に,「プレバイオティック」が3重量%含まれているとされているだけであり,それが,本願補正発明の「ソルビトール,マンニトール,グルコース,マンノース,フルクトース及びこれらの混合物からなる群から選択される単糖類」を含むものであるか否かは明らかではないから,この点は,相違点として認定されなければならない。 」とあるのですね。

 つまり,審決は,上位概念的な記載のある引用例を探してきたのは良いのですが,そこに現実の記載のない下位概念まで認定してんじゃねえのってことが問題になっているのです。

 例えば,審査基準だと,
(4) 引用発明の認定における上位概念及び下位概念で表現された発明の取扱い
①引用発明が下位概念で表現されている場合は、発明を特定するための事項として「同族的若しくは同類的事項、又は、ある共通する性質」を用いた発明を引用発明が既に示していることになるから、上位概念(注1)で表現された発明を認定できる。なお、新規性の判断の手法として、引用発明が下位概念で表現されている場合でも、上位概念で表現された発明を認定せずに、対比、判断の際に、上位概念で表現された請求項に係る発明の新規性を判断することができる。
②引用発明が上位概念で表現されている場合は、下位概念で表現された発明が示されていることにならないから、下位概念で表現された発明は認定できない(ただし、技術常識を参酌することにより、下位概念で表現された発明が導き出せる場合(注2)は認定できる)。
(注1)「上位概念」とは、同族的若しくは同類的事項を集めて総括した概念、又は、ある共通する性質に基づいて複数の事項を総括した概念をいう。
(注2)概念上、下位概念が上位概念に含まれる、あるいは上位概念の用語から下位概念の用語を列挙することができることのみでは、下位概念で表現された発明が導き出せる(記載されている)とはしない。」

 弁理士だったら,だれでも知っている~つーか受験のとき,こういう所を死ぬほど勉強してますからね~内容です。
 基本の基本~です。

 ですので,そうなると・・・て感じですけどね。

3 判旨
「本願補正発明は,「【A1】切除及び洗浄されたイヌ科動物又はネコ科動物の胃腸管から単離された株を含み,【A2】かつビフィドバクテリウム,ラクトバシラス,及びこれらの組み合わせからなる群から選択される属を含む細菌を含む,【A】プロバイオティク構成成分,及び【B1】ソルビトール,マンニトール,グルコース,マンノース,フルクトース,及びこれらの混合物からなる群から選択される単糖類を含む,【B】甘味剤構成成分,を含む,組成物であって,【C】前記甘味剤構成成分およびプロバイオティク構成成分は共に混合されてなり,【D】前記組成物は,実質的にチューインガム基質を有しない,【E】組成物。」(本判決において分説した。)であり,引用発明は,「スクロース,初乳,プレバイオティック,プロバイオティックを含む乳製品おやつであって,製品は未加工材料を混合することによって得た混合物を型にすくい入れ/かき入れ,冷蔵庫に入れて固化させ,得られた材料片を型から外した乳製品おやつ。」であるところ,引用発明の「未加工材料を混合することによって得た混合物を型にすくい入れ/かき入れ,冷蔵庫に入れて固化させ,得られた材料片を型から外した乳製品おやつ」は,材料を混合して製造され,チューインガム基質を含むものではないので,本願補正発明の構成C~Eに相当する構成を有するから,本願補正発明と引用発明との一致点・相違点は,次のとおりである。
 
  <一致点>
  【A】プロバイオティク構成成分,及び【F】他の構成成分,を含む,組成物であって,【C】前記他の構成成分及びプロバイオティク構成成分は共に混合されてなり,【D】前記組成物は,実質的にチューインガム基質を有しない,【E】組成物。
  <相違点ア>
  プロバイオティク構成成分として,本願補正発明は,「切除及び洗浄されたイヌ科動物又はネコ科動物の胃腸管から単離された株を含み(構成A1),かつビフィドバクテリウム,ラクトバシラス,及びこれらの組み合わせからなる群から選択される属を含む細菌を含む(構成A2)」ものであるのに対し,引用発明は,そのような特定がされていない点。
  <相違点イ>
  他の構成成分として,本願補正発明は,「ソルビトール,マンニトール,グルコース,マンノース,フルクトース,及びこれらの混合物からなる群から選択される単糖類を含む(構成B1),甘味剤構成成分,を含む(構成B)」ものであるのに対し,引用発明は,「スクロース,初乳,プレバイオティック」を含むとはされているものの,そのような特定がなされていない点。
 
  そうすると,相違点アのうち,構成A2の点(相違点ア´),及び相違点イを相違点と認定せず,これを一致点と認定した審決の一致点・相違点の判断には,誤りがあり,原告の前記主張には理由がある。
  すなわち,引用された発明が「プロバイオティック」との上位概念で構成されている場合,その下位概念に「ビフィドバクテリウム,ラクトバシラス」が含まれるものであるとしても,「ビフィドバクテリウム,ラクトバシラス」により具体的に構成された発明が当然に開示されていることにはならない。また,本願補正発明の「甘味剤構成成分」と,引用発明の「プレバイオティック」とが同一成分で重なるからといって,両者を直ちに同一のものととらえることはできない。

4 検討
 うーん,これはちょっと恥ずかしいんじゃないですか。

 別段,特段,争いのあるようなことではないですよね。審査基準とおりにやってりゃ間違えそうにもないのに,何故かそのようにしていない~。
 ま,合議体が処理しているって言っても,拒絶査定不服審判ですので,実際やっているのは一人でしょうねえ。いやあ,書面審理だから,だれも注視してなかったりして~♫
 となると,こんなポカミスをやるわけですわ。

 まあ今時珍しいやつでしたね。

 ところで,この特許の明細書を読んだのですが,酷い訳でしたね。典型的な,三流翻訳ですわ。機械翻訳でやって,あとちょこちょこチェックしただけかなあってやつです。

 翻訳というと思い出すのが,アインシュタインの伝記のやつです。

 私も弁護士なもんで,ときどき,凹むようなことがあります。
 そんなときでも,この訳を読んだら,くよくよ悩んでいることがバカらしくなるくらい大笑いできます。本当この訳で笑えないことは1回もないですね。

 そうか~マックス・ボルン(Max Born)ってノーベル賞を取っているのに,機械翻訳の機械はそんなこと知る由もないもんね~。
 だからと言って「ボルンの妻のヘートヴィヒに最大限にしてください。」って酷いというか,何ちゅうか,名前を最大限と訳されても困ってしまいますね~。

 ですので,今回の特許庁のしくじりの原因って,この酷い訳に遠因があったのではないかと思いますよ。
 意訳しろとは言いませんが,読んでて何言っているかわかる日本語にしておかないと,不利益を被るのは自分たちだと思いますけどね~っと言っても,外国に居る出願人がコントロールできない話なので,また困りますニャ。

5 追伸
 毎度おなじみ流浪の弁護士散歩のコーナーでございます。 
 本日はここ多摩川沿いに来ております。
 
 午前中だったのですが,それでも当然暑かったです。
 ちなみに,本日の東京は最高気温が37.7度!,ギャグでもガセでもないですね。ついに8日連続の猛暑日ですし。

 しかし,この37.7っちゅうのは,歴代でも・・・と思ったら,大したことは無かったですね。39.5度が東京の最高らしいです。いつだったかというと,2004年の7/20ですね。司法試験の論文試験の終わった次の日かよ~。論文試験も暑かったもんね。

 さて,週末はどうですかね。
 

 

 
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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