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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,相手方と抗告人らとの間のさいたま地方裁判所川越支部平成26年(ワ)第215号損害賠償請求事件(基本事件)について,同裁判所が,平成28年6月13日,「本件訴訟を東京地方裁判所に移送する。」旨職権で決定したところ,抗告人らが,「原決定を取り消す。」旨の裁判を求めて,知財高裁に対し抗告を申し立てた事件です。
 抗告の理由は,要するに,基本事件は,民事訴訟法6条1項の「特許権に関する訴え」に該当しないというものです。

 これに対して,知財高裁4部(高部さんの合議体ですね。)は,原決定を取り消しました。つまり,「特許権に関する訴え」に該当しないというわけです。

 ま,民訴法6条1項の「特許権に関する訴え」の解釈問題なので,どっちかというマジメ系の事件です。なので,本来後継ブログマターかなと思うのですが,技術的な話が基本無いので,こちらで紹介することにしました。

 ですので,中身としては大したことない話です。

2 問題点
 問題点としては,上記のとおり,民訴法6条1項の「特許権に関する訴え」って何?ってことです。
 
 勿論,特許権侵害訴訟,つまり特許権に基づく差止請求と,不法行為に基づく損害賠償請求(特許権侵害が不法行為)の2大類型がこれに含まれることは確かでしょう。

 あとは,不法行為に基づく損害賠償請求が時効割れした不当利得返還請求も含んでよいと思います(本質は特許権侵害ですからね。)。

 そして,これらの不存在確認請求も含んでよいと思います(本質は特許権侵害ですからね。)。

 さらに,職務発明の相当対価請求(いまや相当利益請求ですかね。),これもいいでしょう。

 最高裁のウェブサイトの東京地裁の知財部のページによると,今まで述べた類型については,文句無く,「特許権に関する訴え」らしいです。

 じゃあこれ以外に無いかね?ってことは思います。

 例えば,ライセンス契約がこじれて,デフォルト(債務不履行)があったの無かったのってどうでしょうね?
 これだったら,含んでもいいような気がします。

 他方,国際特許取得とかいうフライパンを買って,油料理を作っていた所,持ち手が取れて酷いやけどを負った,国際特許という謳い文句に惹かれて買ったのだから,これも「特許権に関する訴え」か?ってなると,かなり遠いですね。

 ですので,どのくらい「特許権・・・」がメインか,これで決まるのだと思います。

3 判旨
「(6) さいたま地方裁判所川越支部は,同年6月13日,基本事件を東京地方裁判所に移送する旨職権で決定した。その理由は,抗告人X1が新規開発したと述べていた消火剤の製造方法は,訴外会社の有する特許権を侵害するから,相手方を含む第三者が特許権者の許諾を受けずに実施することはできないのに,抗告人らが,これを秘して,相手方に対し,海外での販路拡張を目的とする消火器の商品サンプルを国内で作るために製造機械を売却したことは欺罔行為に当たる旨の相手方の主張を,抗告人らが争っているから,基本事件は,「特許権に関する訴え」(民事訴訟法6条1項)に当たり,東京地方裁判所の管轄に専属するというものである。
2 民事訴訟法6条1項の「特許権に関する訴え」に当たるか否かについては,
訴え提起の時点で管轄裁判所を定める必要があり(同法15条),明確性が要求されることなどから,抽象的な事件類型によって判断するのが相当である。そして,同法6条1項が,知的財産権関係訴訟の中でも特に専門技術的要素が強い事件類型については専門的処理体制の整った東京地方裁判所又は大阪地方裁判所で審理判断することが相当として,その専属管轄に属するとした趣旨からすれば,「特許権に関する訴え」は,特許権侵害を理由とする差止請求訴訟や損害賠償請求訴訟,職務発明の対価の支払を求める訴訟等に限られず,特許権の専用実施権や通常実施権の設定契約に関する訴訟,特許を受ける権利や特許権の帰属の確認訴訟,特許権の移転登録請求訴訟,特許権を侵害する旨の虚偽の事実を告知したことを理由とする不正競争による営業上の利益の侵害に係る訴訟等を含むと解するのが相当である。
 他方,基本事件は,抗告人らの共同不法行為(詐欺)又は会社法429条に基づく損害賠償請求訴訟であるから,抽象的な事件類型が特許権に関するものであるということはできない。そして,相手方の欺罔行為に関する主張は変遷しているものの,相手方は,抗告人X1による消火器販売事業への勧誘に際し,抗告人X1の開発した消火剤が,同人は技術やノウハウを有していないのに,同人が特許を持っており,これまでの消火剤より性能がよいと述べたことや,他社メーカーの特許を侵害しないと述べたことが,詐欺に当たるなどと主張するものと解される。しかし,事業の対象製品が第三者の特許権を侵害するというだけで,当該事業への勧誘が詐欺に当たるとか,取締役の任務を懈怠したということはできないから,欺罔行為の内容として「特許」という用語が使用されているだけで,このことをもって,基本事件が専属管轄たる「特許権に関する訴え」(民事訴訟法6条1項)に当たるということはできない。また,知的財産高等裁判所設置法2条3号は,「前2号に掲げるもののほか,主要な争点の審理に知的財産に関する専門的な知見を要する事件」を知的財産高等裁判所の取り扱う事件の1つとしており,第三者の特許権の侵害の有無が争点の1つとなる場合には,専門的処理体制の整った東京地方裁判所又は大阪地方裁判所で審理判断することが望ましいとしても,それが全て専属管轄たる「特許権に関する訴え」に当たるということもできない。基本事件のように,審理の途中で間接事実の1つとして「特許」が登場したものが専属管轄に当たるとすると,これを看過した場合に絶対的上告理由となること(民事訴訟法312条2項3号)からしても,訴訟手続が著しく不安定になって相当でないというべきである。
3 したがって,基本事件は,「特許権に関する訴え」(民事訴訟法6条1項)に当たらないというべきであり,東京地方裁判所の専属管轄とは認められない。」

4 検討
 まあ,特許権が出ても,論点の一部にすぎないときは,「特許権に関する訴え」(民事訴訟法6条1項)に当たらないというわけです。

 従前,結構緩やかに解していたと思います。
 というのは,専属管轄の違反は,上記の判旨のとおり,絶対的上告理由になりますが,専属管轄でないもの(今回のように特許権がメインじゃないやつ)を東京地裁等で扱っても別に~ですからね。。

 とすると,基本木端役人たる裁判官がどう考えるか,答えは簡単です。 
 それっぽいものは,全部「特許権に関する訴え」(民事訴訟法6条1項)に当たる~とするインセンティブバリバリです。

 東京や大阪以外の地裁で「特許権」と出ると,もううちの管轄じゃありません,これはもう東京(大阪)でやってもらってください,ってなるわけです。
 あー格好わりい。

 ま,でも高部さんの美意識からすると,何でもかんでも東京に送るんじゃねえよ,ってことなんでしょうね。

 でもよく考えると,別に東京や大阪に何でもかんでも送っていいのでは?と思います。

 例えば,私もときどき,知財関係の訴訟の弁論準備手続などのために東京地裁の3Fに行くのですが,大体シーンとしていますね。
 たまにデカイ事件に出くわすこともありますが(有名弁護士が居るのですぐわかります。そういう場合,お伴も多いし,企業関係者も多いです。当然両当事者そんな感じなので,3Fの廊下に溢れ出ています。),そんなの例外です。

 逆に知財部じゃない普通部の方が人が居るって感じがしますし,さらに,労働部とか交通部とかもうこんなもんじゃないです。

 え?知財部の事件が労働部や交通部に比べて複雑高度なんだ,だから一つの事件で数倍の労力がかかるって?
 何バカなこと言ってますの~,労働事件や交通事故の事件って凄く複雑で高度でっせ,知財のことしか知らない弁理士だってもっと気の利いたことを言いますぜ。

 日本全国(と言っても東京と大阪)で一年に提起される特許権侵害訴訟って,200件程度/年です。なので,東京だけだと,百数十件程度です。東京の知財部は4か部ありますので,4で割ると1部当たり,40件弱となります。

 とすると,1週間に1件,新件が来るか来ないか程度しか,特許権侵害訴訟の事件はない!ってことになります。
 まあ勿論,特許権侵害訴訟以外の他の知財の事件も来ますが,それがこの10倍あるというわけではありません。せいぜい,同数程度です。
 つまり,現状の東京地裁では,1週当たり,特許権侵害訴訟が週に1件あるかないか,それ以外の知財の事件も1件あるかないかのレベルです。

 まあ別に訴訟が多ければ良いってもんでもないでしょうが,知財立国なんたらかんたらじゃなかったでしたっけ?
 さもなければ,そもそもリソースの無駄遣いとも言えますよ。例えば,4か部を2か部にするとか,専属部ではなく集中部にするとか,ね。

 つーことで,だから別に東京や大阪に何でもかんでも送っていいのではって思えます。事件数が少ないんだから,多少送っても何でもねえでしょ,え!そうでしょってことです。

 ですので,やはり面白判決(決定ですけどね。)で良かったのだと思います。
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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