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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,平成24年11月28日,発明の名称を「ソーラーポスター」とする特許出願(特願2012-260408号)をした原告が,平成27年9月7日付けで拒絶査定を受けたことから,平成27年12月11日,これに対する不服の審判(不服2015-21980号)を請求するとともに,同日付け手続補正書により,特許請求の範囲の変更を内容とする補正(本件補正)を行ったものの,特許庁は,平成28年11月7日,本件補正を却下した上,不成立審決(本件審決)をしたことから,これに不服の原告が,平成28年12月20日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起したという審決取消訴訟の事件です。

 これに対して,知財高裁4部(高部さんの合議体ですね。)は,原告の請求を棄却しました。要するに,審決のとおりでOK!ということです。

 ま,常々ここで述べているとおり,ここで紹介するのは,基本,オモシロ判決のみです。で,今回は実に感慨深いオモシロ判決ですね。

2 問題点
 問題点は何個かあるのですが,今回紹介するのは,補正の却下の話ですね。

 補正の却下は,そういうタイトルの条文がありますので,基本これを見ればいいのです。特許法53条です。まあ弁理士試験でもよく出る,実務でもよく出る条文です。

(補正の却下)
第五十三条  第十七条の二第一項第一号又は第三号に掲げる場合(同項第一号に掲げる場合にあつては、拒絶の理由の通知と併せて第五十条の二の規定による通知をした場合に限る。)において、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面についてした補正が第十七条の二第三項から第六項までの規定に違反しているものと特許をすべき旨の査定の謄本の送達前に認められたときは、審査官は、決定をもつてその補正を却下しなければならない。
2  前項の規定による却下の決定は、文書をもつて行い、かつ、理由を付さなければならない。
3  第一項の規定による却下の決定に対しては、不服を申し立てることができない。ただし、拒絶査定不服審判を請求した場合における審判においては、この限りでない。

 まあこの条文,一見で何を書いているか分かる人は居ないと思いますね。それは弁護士や当然裁判官もです。

 1項が重要で,或る場合にされた或る補正については,却下されるということが書かれています。

 ①或る場合とは,最初の拒絶理由通知と最後の拒絶理由通知のタイミングで補正された場合です。ただし,最初の拒絶理由通知での場合は,実質的に二度目の拒絶理由通知の場合のみです(多くは分割出願の場合です。)。

 ②或る補正とは,17条の2第3項から6項に反する補正です。
 これは以下の類型です。
 ・新規事項を追加しちゃった(3項)
 ・シフト補正しちゃった(4項)
 ・目的要件違反しちゃった(5項)
 ・独立特許要件NG(6項)

 何故,こんな要件を課されるか~話せば長いのですが,要するに,これ実質的には,拒絶理由なんですね。だけど,二度目!の出された補正に,再度拒絶理由通知を打つとキリがなくなるわけです(最後の拒絶理由通知への対応ですし。)。なので,こういう要件を課すわけです。

 で,話はこれだけで終わりません。今回,審査時ではなく,審判の,審判請求と同時の補正の件ですから,正確にはこの条文ではないのです。159条第1項になります。

第百五十九条  第五十三条の規定は、拒絶査定不服審判に準用する。この場合において、第五十三条第一項中「第十七条の二第一項第一号又は第三号」とあるのは「第十七条の二第一項第一号、第三号又は第四号」と、「補正が」とあるのは「補正(同項第一号又は第三号に掲げる場合にあつては、拒絶査定不服審判の請求前にしたものを除く。)が」と読み替えるものとする。

 で,読み替えますと,以下のとおりです。

第十七条の二第一項第一号、第三号又は第四号に掲げる場合(同項第一号に掲げる場合にあつては、拒絶の理由の通知と併せて第五十条の二の規定による通知をした場合に限る。)において、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面についてした補正(同項第一号又は第三号に掲げる場合にあつては、拒絶査定不服審判の請求前にしたものを除く。)が第十七条の二第三項から第六項までの規定に違反しているものと特許をすべき旨の査定の謄本の送達前に認められたときは、審査官は、決定をもつてその補正を却下しなければならない。 」

 さあ,付いてこれますかね?!。弁理士の人や特許やっている弁護士の人は付いてこないとダメよ。
 要するに,拒絶査定不服審判の請求と同時にした補正(162条)を却下出来るようにしたわけです。

 じゃあ問題です。
 それなら,読み替え後「第十七条の二第一項第四号」とすればよく,「第十七条の二第一項第一号、第三号又は第四号」とすると蛇足のようにも思えますよね。何故,このような条文になったのでしょうか?

 分かりますかね。弁理士よりも弁理士受験生の方が分かるかもしれませんね。
 分かる人には簡単です。答えは後回しにしておきましょう。

 で,本件では,5項,つまり目的要件違反で却下となりました。
 ちなみに,5項はどういうものかというと,以下のようなものです。

5 前二項に規定するもののほか、第一項第一号、第三号及び第四号に掲げる場合(同項第一号に掲げる場合にあつては、拒絶理由通知と併せて第五十条の二の規定による通知を受けた場合に限る。)において特許請求の範囲についてする補正は、次に掲げる事項を目的とするものに限る。
一  第三十六条第五項に規定する請求項の削除
二  特許請求の範囲の減縮(第三十六条第五項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)
三  誤記の訂正
四  明りようでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)

 つまり,これは以下のような類型です。
 ・請求項の削除
 ・限定的減縮
 ・誤記の訂正
 ・明りょうでない記載の釈明
 そして,限定列挙なので,これらに該当しないとダメ!です。

 さらに詳細には,「知財実務のセオリー」のを見て下さい。

 ここまでが本件を楽しむための前提知識です(知らない人にはマジ~かって感じでしょうね。)。このくらいの前提知識がないと,この判決の面白さは味わえないわけで,まあ面倒ちゃ面倒ですね。



 さて,本件は実際どうしたかというとこんな感じです。

(補正前)
【請求項1】公職選挙法ポスターの規格に合致する条件を備え,基材の片側に感圧性接着剤,リリースライナーを設け,該リリースライナーにはスリットを設け,このスリットは掲示板にポスターを貼る時に,そのスリットからリリースライナーの一部を剥がして接着面の一部をむき出しにして掲示板に位置決めして貼り,次に残りのリリースライナーを剥がしてポスター全面を貼るように構成され,蛍光体のごとき発光体を用いず,太陽エネルギーや車のヘッドライト等のエネルギーを吸収し,夜間又は暗所で所定部分が発光することを特徴とするソーラーポスター。
             
(補正後)
【請求項1】ポスターの人名に蓄光インクを使用せずに,逆にバックに蓄光インクを使用することにより大きな面積で強力な効果となり,また人名に蓄光インクを使用せずに人物の目のみに蓄光インクを使用することにより蓄光インクの量を人名に使うより最小限に少なくして大幅なコストダウンをし,しかも強力に目立ち,大効果があることを特徴とする高効果蓄光ポスター。


 どうですか~?うん?全然違うやんけ~そうですね~そう思います。だとすると・・・。

3 判旨
「前記第2の2のとおり,本件補正は,①補正前の本願発明から,「公職選挙法ポスターの規格に合致する条件を備え」という記載,及び「基材の片側に…ポスター全面を貼るように構成され」という記載を削除するとともに,②補正前の本願発明の「蛍光体のごとき発光体を用いず,太陽エネルギーや車のヘッドライト等のエネルギーを吸収し,夜間又は暗所で所定部分が発光することを特徴とするソーラーポスター」を,「ポスターの人名に蓄光インクを使用せずに,逆にバックに蓄光インクを使用することにより…また人名に蓄光インクを使用せずに人物の目のみに蓄光インクを使用することにより…大効果があることを特徴とする高効果蓄光ポスター」という記載に訂正するものである。
 前記①により,本願補正発明は,本件補正前の本願発明が有していた,ポスターが合致するべき条件及びポスター全面を掲示板に貼付けするための構成に係る発明特定事項については限定がないことになる。また,前記②は,上記条件及び構成に関するものではなく,蓄光インクの使用箇所に関するものである。
 したがって,前記②の点を勘案しても,本件補正により,本願補正発明は,本願発明が有していた,ポスターが合致するべき条件等の発明特定事項については限定がないことになるから,本件補正は,特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものではなく,請求項の削除を目的とするもの,誤記の訂正を目的とするもの,明りようでない記載の釈明を目的とするものの,いずれにも当たらない。 」

4 検討
 まあそりゃそうだよなあって所でしょうか。
 普通,こういう補正というかそういうのをしたけりゃ,分割出願でしょうねえ。別にこれだけ元の発明と違うなら,シフト補正もクソもないでしょうからね。

 で,この判決には代理人がついております。ただ,勘違いされないようにして頂きたいのは,出願段階でも審判段階でも代理人はついて無さそう,ということです。

 上記のとおり,条文操作は複雑なのですが,弁理士だったらイロハのイ!,です。最後の拒絶理由通知以降で,この補正の目的要件知らないなんてあり得ないわけです。
 ですが,弁理士じゃない人にはなかなか分からないパターンかもしれません。巷によく居る,自称特許の専門家~にも残念ながら知られていないと思いますよ。

 ということで,餅は餅屋,ステルスと言えばマーケティング,という話でしたな。

 あと,上の答えですが,特許庁の手続は基本職権主義なので,審判段階でも新たな拒絶理由が来る時があり得ます。なので,審判段階での最初の拒絶理由通知だとか最後の拒絶理由通知があり得るわけで,そのタイミングでの補正もあり得る,ということなのですね。
 分かりましたかな。




 
 
 
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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