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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。

1 知財の判決のアップはないようですので,ちょっと古いこんなもので行きます。

 実は,昨日,例の安請け合いした弁護士知財ネットの判決勉強会でした。
 実にやる気の起きない判決だったので,準備も進まず,非常に憂鬱に昨日を迎えたのですが,大過なく終えることができ,まずは肩の荷が下りました。あーあ,特許の審決取消訴訟での進歩性の技術的に難しい話がしてえや~とずっーと思いながら話してましたけどね。

 ま,そんな愚痴はいいとして,折角なので,その判決をここでも紹介することにします。

2 概要
 本件は,平成14年4月15日に設立され同年6月28日に文化庁長官から著作権等管理事業者の登録を受けた一審原告(株式会社アジア著作協会)が,日本において通信カラオケ業を営む一審被告(株式会社第一興商)に対し,原著作権者(原権利者)である韓国内の作詞家・作曲家・音楽出版社等が権利を有する音楽著作物に関し,韓国法人である「株式会社ザ・ミュージックアジア」(日本語訳)・「The Music Asia」(英語訳)(TMA社。ただし,平成18年10月4日に解散決議がなされ,平成19年3月28日に清算結了登記済み)を通じ又は原権利者から直接に,著作権の信託譲渡を受けた等として,平成14年6月28日から平成16年7月31日までの著作権(複製権,公衆送信権)侵害に基づく損害賠償金又は不当利得金9億7578万6000円及びこれに対する平成16年9月9日(訴状送達の翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案です。

 一審(東京地裁平成16年(ワ)第18443号,平成22年2月10日判決)では,原権利者らが一審原告に対し信託の清算事務として訴訟を追行することを認めるとの意思を表明している場合に限って一審原告の原告適格が認められる等として,その表明をしない原権利者に係る請求部分につき訴えを却下し,本件訴訟係属中の平成19年4月から6月にかけて書面(確認書B)によりその表明がなされた部分及び直接契約に係る部分に関しては,JASRAC規程の個別課金方式によって一審原告の損害額を算定して,一審被告に対し2300万5495円及び遅延損害金の支払を命じたものです。

 これに対して,両当事者とも不服として,控訴したのが,今回の事件です。

 そして,知財高裁1部(中野さんの合議体ですね。)は,一審被告に対し642万6464円及び遅延損害金の支払を命じました。つまり,一審よりかなり低くなったのですね。

 時系列はこんなところです。

 平成16年8月31日 X→Y訴訟提起(東京地裁)    
 平成18年7月14日    ②契約の解除通知    
 平成18年10月4日 TMA解散決議。    
 平成19年3月28日 TMA閉鎖登記(清算結了)。    
 平成19年3月31日 ②契約解除(「本契約は,通知の到達の日から6か月を経過した後最初に到来する3月31日をもって終了する。」という条項あり。)(ただし多少争いあり。)
 成22年2月10日 一審判決

 あ,②契約というのは,原告とTMA社の間の契約のことです。

3 問題点
 いわゆる争点はすごくあります。韓国の著作権管理団体と著作権者との話ですから,渉外事件として,あとは中に入っていたTMAが解散していますので,それによる信託譲渡契約の後処理の問題です。さらには,損害額についても,一審原告方式では高すぎるんじゃないかという争点まであります。

 なので,法的には結構複雑で,判決も長いです~。ただ,上記のとおり,そういうのって私はあまり興味がありませんね。しかも,韓国の著作権の話~,つまりK-popの上がりをどうのこうのっていう話ですからね,はっきり言って従軍慰安婦問題をきちんと片付けてから,日本で商売せいーや,われ!って所も非常にありますからね。

 おっと,また議題から逸れそうですが,ただ,一審と二審で判断が違う所は一箇所しかありません。それは,中に入っていたTMA経由での信託譲渡楽曲の取扱いです。

 一審では,信託譲渡契約が終了していても,場合によっては,ただちに訴訟提起中の損害賠償請求権が元に戻ることはないとしていたのですね。ですので,一審原告にも当事者適格が認められ,TMA経由での信託譲渡楽曲についても請求が一部認められたわけです。

 ただ,信託譲渡契約が終わったら著作権は元に戻るはずなのに,この損害賠償請求権が戻らないのは何故?っていうところがイマイチよくわかりませんね。

 この辺,L&Tに道垣内正人先生の論文があり,そこには詳しいです(L&T6361頁)。でも,何か為にする議論って感じで,実にどうでもいいや~って気がしますね。

 私としては,著作権が戻るんだから,それに基づく損害賠償請求権も戻るのが当然で,場合によってまずいときには信義則か何かで阻めばいいじゃんというところです(事案を解決できりゃあいいのです。)。

 というところで,二審はどうだったのでしょう。

4 判旨
「ウ  ところで,前記1の認定事実によれば,平成15年(2003年)9月18日付けでなされた著作権信託契約書(TMA・原告契約,乙24)の第19条には「甲は,信託期間内においても書面をもって乙に通知することにより本契約を解除することができる。この場合本契約は,通知の到達の日から6か月を経過した後最初に到来する3月31日をもって終了する」旨記載され,その後上記契約書の甲であるTMA社代表者P1は当時の一審原告代表者P13宛てに,平成18年(2006年)7月14日付けの書面(乙7の2)により,「本件契約第19条に基づき,貴社に対し契約の解約を通知致します」との通知を同年7月20日ころ発し,まもなく一審原告に到達しているのであるから,TMA・原告契約は,上記通知が到達した平成18年(2006年)7月20日すぎころから6か月を経過した後最初の3月31日である平成19年3月31日を以て終了したものというべきである。 
 上記終了により,一審原告の受託財産である原権利者の有する著作権(複製権・公衆送信権)は直ちに委託者であるTMA社に移転したというべきであり(TMA社が平成19年(2007年)3月28日付けで清算結了登記を経由していたとしても,返還を受けた著作権との関係では依然として法人格を有すると解される。),上記著作権の侵害を理由とする一審被告に対する損害賠償債権(請求権)もTMA社に移転すると解するのが相当である。 
 もっとも,一審被告に対する著作権侵害を理由とする損害賠償債権(請求権)は,一審原告が一審被告に対し原審の東京地裁にその支払を求める民事訴訟を提起し現に係属中であったから,その移転時期はいつかという問題がある。しかし,TMA社からの解約(解除)通知が発せられたのが平成18年(2006年)7月20日ころであり,契約終了時とされたのがそれから8か月余を経過した平成19年(2007年)3月31日であるから,係属中の損害賠償請求訴訟を一審原告からTMA社に承継させるための猶予期間としては十分であると解することができ,一審原告は平成19年3月31日の経過により,TMA・原告契約に基づく本件著作権と一審被告に対する損害賠償債権(請求権)の管理権限を全て失ったと認めるのが相当である。この結論は,その後一審原告が,原権利者の一部の者から確認書B(甲75,甲80の1~44(欠番部分を除く。))及び確認書D(甲145の1の1ないし甲145の62の1,甲150の1,甲151の1,甲152の1,甲153の1,甲158の1,甲160の1,甲161の1)を取得したことを考慮しても,影響を受けるものではない。 
 一審原告は,平成19年(2007年)3月31日を経過しても上記管理権を失わないと主張するが,これを採用することができない。」

5 検討
 上記のとおり,二審では,著作権も戻り,損害賠償請求権も戻り,原告は権利者ではないよ~,残念でした~という結論です。
 ただし,一審では,何故損害賠償請求権が戻らないか,ちょっとした理由は書いてあったのですが,二審では,そんな理由は書いておらず,猶予期間の話しかしておりません。ま,だから,これを見ても,あんまり理屈じゃないのではないかなあという気が実にするわけですね。

 この判決は,平成25年1月30日,上告不受理決定で,控訴審判決が確定しております。ですので,このとおりになったわけですね。

 以上,昨日の発表の判決の紹介でした。

 で,これで,H24年度に言い渡した審決取消訴訟以外の判決はすべて終了で,来月の勉強会からは違う感じになるらしいです。
 ただ,私としては,やっぱ審決取消訴訟をやって欲しいのですね。そして,特に進歩性が論点のものを,です。

 だって,元になった知財高裁判例集の収録判決176件のうち,特許の進歩性の判決は,何件だと思いますか?何と56件です!3割ですよ,3割!
 弁護士知財ネットと言いながら,知財における最重要の論点はスルーしているわけです~ちゃんちゃら可笑しいとはこのことです。

 だから,弁理士になめられるわけですよ。そうするとどうなるかというと,こんな重要な論点について,あ,弁護士なんか頼んでもしょうがねえってことで,大きなマーケットを失うことになる~それが現状なわけです。

 審決取消訴訟で,弁護士なく訴訟遂行されているものってたくさんありますよね。にも関わらず,勉強会でも進歩性を避けていたら,あ,やっぱ弁護士じゃ無理なんだって,クライアント筋は思ってしまいます。
 ということで,別に自分の得意分野の発表がしたいわけではなく,金を儲けるにはこういうことが大事じゃねえのかなあって話でした。

6 追伸
 本日の東京は,最高気温が25度にいかないくらいの肌寒い一日でした。
 8月でこんな涼しいのは珍しいんじゃないですかね。散歩に行っても普段ギャンギャン鳴いているセミが全く鳴いておりませんでした。気温には敏感なんですね。

 こういう北東からの冷たい風が吹くと,湘南の波は全く上がりません。不思議なもんですね。オフショアはオフショアなのですが,うねりが全くないので,何の足しにもならないってやつです。
 私が大分に帰省している間も,湘南は波があんまりなかったようですが,去年も確か夏は波が少なかったのですね。ただ,去年はずっと暑かったような気はします。

 このまま秋になるんですかね~。

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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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