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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 本件は,フォントベンダーである原告が,テレビ放送等で使用することを目的としたディスプレイフォントを製作し,番組等に使用するには個別の番組ごとの使用許諾及び使用料の支払が必要である旨を示してこれを販売していたところ,原告が使用を許諾した事実がないのに,前記フォントを画面上のテロップに使用した番組が多数制作,放送,配給され,さらにその内容を収録したDVDが販売されたとして,番組の制作,放送,配給及びDVDの販売を行った被告テレビ朝日並びに番組の編集を行った被告I M A G I C Aに対し,被告らは,故意又は過失により,フォントという原告の財産権上の利益又はライセンスビジネス上の利益を侵害したものであり,あるいは原告の損失において,法律上の原因に基づかずにフォントの使用利益を取得したものであると主張して,主位的には不法行為に基づき,予備的に不当利得の返還として,原告の定めた使用料相当額の金員の支払を求めた事案です。

 これに対して,大阪地裁第21民事部(谷さんの合議体です。)は,原告の請求をいずれも棄却しました。要するに,不法行為の損害賠償も不当利得も認めなかったわけです。

 いやあ実に面白い事件です。事件番号をご覧ください。知財で今時珍しい3年ものです。ただ,これだけの時間がかかったのもしょうがないですね,くらいの事件です。

2 問題点
 問題点としては,上記のとおり,原告が汗をかいて作ったフォントソフトを使用したと思われる番組テロップについて,それが著作権法ないしその他の法律に照らして違法と言えるかという問題です。

 で,何故私が面白いと思ったかというと,実に現代的だからです。

 つまり,タイプフェイスが法上保護されるか?つまり,著作権法とか意匠法とか,不正競争防止法で保護されるか?というのは昔からあります。でも,今回はそれだけでなく,それを生み出すのがコンピュータプログラムであるという一捻りが加わっているのです。

 どういうことかというと,タイプフェイス自体は,著作権法上保護されないということで一応の決着はついているのですね(最高裁平成12年09月07日判決,平成10(受)332,民集54巻7号2481頁)。ほんで,他の知財法も,基本消極的です。

 そうすると,次には,そうだとしても何らの不法行為が成立するかも・・ということですが,これも北朝鮮映画事件(最高裁平成23年12月8日第一小法廷判決・民集65巻9号3275頁参照)で否定されております。

 とすると,タイプフェイス自体の使用を不法行為で追及するのはなかなか難しいわけです(知財権のような第三者にまで追及できる物権的な飛び道具がないわけです。)。
 
 ところが,本件の場合,単にタイプフェイスを使ったのではなく,タイプフェイスソフトを使ったかということが問題になっておりますので,そこのところをうまく法的構成できないかというところにポイントがあると思います。

 ですが,今回事実認定で被告らは直接原告のソフトを使っていなかった,こういう事実認定になっておりますので,結論も上記のとおりにならざるを得なかったのでしょうね。

3 判旨
 「本件タイプフェイスの具体的形態は,前記第2の1(4) のとおりであって,著作権法2条1項1号の著作物に該当するものとは認められず(最高裁平成12年9月7日第一小法廷判決・民集54巻7号2481頁参照),原告も,著作権法に基づく保護を求めているものではないが,本件フォントをテレビ放送等に使用することは,上記法律上保護された利益を侵害するものとして,不法行為に当たると主張する。
 しかしながら,著作権法による保護の対象とはならないものの利用行為は,同法が規律の対象とする著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り,不法行為を構成するものではないと解されるが(最高裁平成23年12月8日第一小法廷判決・民集65巻9号3275頁参照),本件フォントを使用すれば,原告の法律上保護される利益を侵害するものとして直ちに不法行為が成立するとした場合,本件タイプフェイスについて排他的権利を認めるに等しいこととなり,このような主張は採用できない。
 原告は,前記アの主張とは別に,本件フォントに係るライセンスビジネスという営業上の利益が侵害された旨の主張もするところ,本件フォントをテロップに使用したテレビ番組が放送されたのは,被告らが,本件フォントソフトを使用してテロップを製作し,あるいは本件フォント成果物をテロップに使用したことにより,故意又は過失による不法行為が成立し,これによって,原告の営業上の利益が侵害された,あるいは,本件フォントに係る使用許諾契約上の地位が侵害された旨を主張すると趣旨と解される。そこで,次項以下では,前記認定事実に照らし,原告のかかる利益を侵害する不法行為が成立するか否かにつき,検討することとする。」

 「・・・・被告らが,本件フォントソフト又は本件フォント自体を使用してテロップを製作したことを前提とする原告の主張は,その余の点について検討するまでもなく理由がない。」

 「前記認定のとおり,被告らの行為は,本件フォントソフト又は本件フォント自体を使用してテロップを製作したわけではなく,テロップ製作業者等の第三者が本件フォントを使用し,フォント成果物として出力したテロップ画像を取得し,これを使用したに過ぎないものである。
 そして,前記(1)のとおり,本件タイプフェイスあるいは本件フォントに著作物性,排他性を認めることはできないから,フォント成果物を取得する際に,本件フォントに由来する文字であることを認識していたとしても,当然に原告に対する故意の不法行為が成立するものではない。」

 「しかし,原告が,本件フォントを販売するにあたりその使用に制限を課したとしても,それに拘束されるのは,その制限のあることを了解して原告と本件使用許諾契約を締結した本件フォントの購入者に限られる。つまり,仮にテロップ製作業者等が原告と本件使用許諾契約を締結した場合であっても,別の法主体である被告テレビ朝日がこれに拘束されるべき理由はなく,不法行為の成否を考えるに当たっても,テロップ製作業者等と被告テレビ朝日との間で法的地位に違いがあることは明らかである。
 そうすると,仮に,第三者であるテロップ製作業者等に本件使用許諾契約違反があれば,原告は,その者に対し,債務不履行責任等を追及しうるが,その後,フォント成果物を取得し,これを使用するに過ぎない被告テレビ朝日との関係においては,テロップ製作業者らとの間に長年にわたる取引関係などがあったとしても,テロップ製作業者等の故意を,被告テレビ朝日の故意と同視すべきとは認められず,両者の責任を同一視することはできない。」

 「多数のフォントベンダーによる多数のフォントが流通しているが,無償で使用し得るもの,有償で正当に取得すれば使用に特段の制限のないもの,使用態様に制限があるもの,使用態様の制限はないが,期間制限があり更新が必要なものなど,その使用制限の有無,態様は様々であり,契約の当事者でない者が,これを区別することは極めて困難であるから,仮に,フォント成果物としてテロップを取得した者が,それを使用するにあたり,テロップの製作者におけるフォントの使用に正当な権限があるかを確認しなければならないとすれば,非常な困難を強いられるおそれがある。」

 「平成21年に前記通知を受けた後においては,前記1(5) のとおり,同年12月3日放送分を最後に,当時放送継続中であった番組における本件フォントの使用が中止されている。すなわち,被告らは,上記通知を受け,本件フォントが原告の許諾なく使用されている可能性を認識した後は,本件使用許諾契約に基づく原告の利益を損なうことがないよう速やかな対応をとったものといえる。」

4 検討
 上記のとおり,物権的な権利で追及するのは厳しい。とすると,債務不履行で追及するしかないけど,原告-被告間には契約がないので,それも厳しい。じゃあさらに,契約違反をした契約当事者(原告のフォントソフトを使用していたテレビ番組の下請業者など)と同視できるような事情を探しても,それもない。さらにさらに,そうはいうものの,放っといて使い倒して俺は知らん,みたいなこともない(被告らはまずいと思った時点で,すぐに原告ソフトの成果物の使用をやめたようですからね。)。

 そうすると,被告らとしては,やるべきことをやっており,これで損害賠償等までしなきゃいけないとなるとそれは酷という価値判断なのでしょうね。

 ただ,原告としては,何でライセンスもしてないところが勝手に使ってんだという所は非常にあったと思います。

 ですが,上に述べたとおり,確実に著作権が存在すると思われるソフトの不正使用については,被告らはしておらず,その時点である意味勝負あったという感じがしますね。

 ですので,あまり好きではないのですが,これは本格的に立法論を考えた方がよいのかもしれませんね。タイプフェイスに知財権が発生するとすれば,ソフトの成果物(これがタイプフェイス)の不正使用ということで,端的に追及できるわけですから。

 まあでも,そうは書きましたが,個人的には,新たな知財権については,長期的に本当にイノベーションに寄与するのかいなあという思いがあります。ですので,慎重に,でしょうね。
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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