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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 本件は,別紙目録1ないし12記載の漫画各話(本件漫画各話)の作画(本件各作画)を制作した原告が,本件漫画各話を掲載したコミックの初版,さらには増刷を発行した被告に対し,被告が上記コミックを増刷して発行した行為が本件各作画について原告が保有する著作権(複製権)の侵害行為に当たる旨主張して,被告に対し,著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償を求めた事案です。

 これに対して,東京地裁民事46部(大鷹さんの合議体ですね。)は,原告の請求を棄却しました。

 昨日に続いて判決の紹介ですが,昨日以上に柔らかい話です。通常知財というと,事実関係が複雑ですが,昨日は事実関係ではなく法律関係が問題となったものです。そして,今日は,契約の解釈が問題となったものです。

2 問題点
 出版社のお客さんも居たりするので,あまり大っぴらなことは言えないのですが,出版業界では,契約書を作らず,作家に執筆を依頼するということは結構多いようですね。この辺,「エンタテインメント契約法」内藤篤著(商事法務)にも詳しいです(今見たら,第3版になっていた~,ガーン。)。

 これはIT業界でも多いのですが,やはり,動くお金が大きくならないと,いちいち契約書を巻くのが面倒というのがあるのでしょうね。この件もそうですが,数十万円単位で契約書を作るというのは,どの業界でも,本当例外ですね。でも,契約書は作った方がいいですよ,ただし,きちんとしたものをです。

 そうしないと,何を依頼され,何を譲り渡したかがわかりません。つまり,IT系コンテンツでも,こういう従来系のコンテンツでも,お金と引き換えに譲り渡すのは何か?ということです。

 ユーザーや出版社は,著作権そのものを買った,としたいわけです。そりゃそうです。大工に家を建ててもらって金まで払ったところで,これを俺の家だからな,俺が住むぜ~なんて大工に言われないわけです。頼んだものの権利は全部こっちのものじゃないと,どうしてそれに金払うかよ,ということになります。

 他方,ベンダーや作者は,いやいや使わせてやる権利のみ売っただけ,全部の権利だったら,そんな端金で済むわけないだろ,それに,こっちが複製したら,著作権法違反になるっていうのかい,一昨日きやがれ,ということになります。

 ですので,契約書が重要になるのですが,ただ,契約時に想定しなかったことが起こったりすると厄介です。その事例が,HEAT WAVE事件だったりします。これはご存知のとおり,契約時に思いもかけない支分権がそのうちに流行り始めたため,その権利の扱いを巡って紛争になったものです。

 他方,今回は,少なくとも詳細な契約書はないようです。そのため,原稿一枚当り幾ら払うという条件での合意があっただけで,増刷時の条件づめなどはやっていなかったようです。

 ところが,被告の方が,増刷してしまった。他方,原告の漫画家はいやいや,増刷まで認めていないよ,その分のお代はいただかないといかんでしょ,となったわけですね。

3 判旨
「そこで検討するに,前記(2)ア及びイの認定事実によれば,被告は,B執筆の書籍「Bの都市伝説」シリーズを原作とする漫画版として,複数の漫画家が作画した漫画各話を掲載したコンビニコミックである本件各コミックの出版を企画し,被告主張の本件各合意のそれぞれの合意の時期に,本件コミック1については作画原稿1枚当たり1万円の原稿料を,本件コミック2ないし6については作画原稿1枚当たり1万3000円の原稿料を支払うとの条件で,原告に対し,本件各作画の制作を順次依頼し,原告は,その都度これを了承したものであり,被告の上記各依頼の趣旨は,原告に対し,原告が本件各作画の制作を行うとともに,被告が本件各コミックに本件各作画を掲載して出版及び販売することについての利用許諾を求めるものであるから,原告が被告の上記各依頼を了承することにより,原告と被告との間で,本件各合意が成立したものと認められる。
 そして,前記(2)アないしウの認定事実及び弁論の全趣旨を総合すれば,①本件各コミックと同種のコンビニコミックは,雑誌扱いの不定期の刊行物として,主にコンビニエンスストアで発売後約2週間程度販売された後,売れ残ったものが返品されるのが通常であり,初版の発売時にはあらかじめ増刷することは予定されていないが,これは事実上の取扱いであり,初版が返品された後であっても,需要があれば,増刷して発行することもあり得るものであり,コンビニコミックであるからといって,流通期間が性質上当然に限定されているとまではいえないこと,②被告は,上記各依頼に際し,原告に対し,上記原稿料以外の条件の提示をしていないのみならず,原告と被告との間で,原稿料以外の条件や本件各コミックの発行予定部数,流通期間等について話題となることはなかったことが認められる。
 上記①及び②の事情に照らすならば,本件各合意に基づく原告の利用許諾の効力は,本件各コミックの初版分に限定されるものではなく,その増刷分についても及ぶものと認めるのが相当である。」

4 検討
 判決は,返品もありうるが,他方売れ行きによって増刷もありうること,そういうようなことについて,原告は無頓着だった等の判断から,今回の利用許諾については,増刷分まで及び,複製権の侵害には当たらないとしたのですね。

 ただ,これは事実認定の問題ですので,違う裁判官では,違う結論もあり得るところです。個人的には,この結論で良いとは思いますけどね。

 ともかくも,契約書を巻けば,すべてのトラブルが防げるというわけではありませんが,少なくとも今回のトラブルは避けられたのではないかと思います。HEAT WAVE事件は契約時には思いもよらないことが問題になったのに比べて,漫画の増刷をどうするかなんて,そりゃ思い当たるのが普通ですからね。と,若干我仕事の宣伝もやっておきます。

 ところで,今日は成人の日並の大雪の予報ですが,少なくとも城南地区には何の積雪もありませんでした。朝方はチェーンを巻いた宅配便のトラックを見ましたが,骨折り損のくたびれ儲けってやつですかね。

 ま,気象予報士なんちゅうのが商売になっているくらいですから,天気予報ができるものだと勘違いしている人は多いと思いますが,そんなの無理ですよ。

 例えば,精密なサイコロを一回振って,その出た目を予想できますかね~。できないでしょ。いや,どの目も1/6の確率だと言われるかもしれませんが,予想しろと言っているのですよ。誰が確率のことを聞きましたか。
 つまり,ここで,現に振るサイコロの目,単純なそのことすら,人には予想できないのです。予見できるのは,大体1/6の確率でどの目も出るようだ,という程度です。その程度も重要なことには違いありませんが,そのことと,予想できるということには雲泥の差があるわけです。

 逆に言えば,このようなことに,詐欺師の漬け込む隙があると言えなくもありませんね,オホホ。
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