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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,債権者(造園家の吉村元男さん)が,大阪市北区に所在する複合施設である「新梅田シティ」内の庭園を設計した著作者であると主張して,著作者人格権(同一性保持権)に基づき,同庭園内に「希望の壁」と称する工作物を設置しようとする債務者(積水ハウス株式会社)に対し,その設置工事の続行の禁止を求める仮の地位を定める仮処分を申し立てた事案です。

 報道でも少し話題になりました。要するに,「新梅田シティ」内の庭園を,安藤忠雄さん発案のものでリニューアルしようとした所,著作者人格権(著作権ではありません。契約上の問題があったのでしょうかね。)で,しかも民事保全で,ちょっと待った~とされたわけですね。

 これに対して,大阪地裁民事21部(谷さんの合議体です。)は,本件の申立を却下しました(本案訴訟でいう請求棄却です。)。

 色々珍しいのですが,やはり,何と言っても,庭園の著作物性?これが争われたのは初めてくらいじゃないでしょうか。

2 問題点
 ということで,問題点は,まずは,庭園の著作物性です。
 法律上は,定義がきちんとあります。著作権法2条1項1号です。
一  著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」

 さらに,著作物の例示としては,著作権法10条1項があります。そして,庭園が該当しそうな4号5号がこんな感じです。
 四  絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物
 五  建築の著作物」

 こう書くと,まあ造園も,思想又は感情を創作的に表現したものと言えそうだから,何はともあれ,著作物ってことでいいんじゃな~い~と思いますよね。

 ただ,この上の例示が単なる例示ならばいいのですが,実は単なる例示じゃない場合があるのですね。そう,法的効果が違う場合があるのです。

 特に,本件の場合,著作者人格権,特にリニューアルということで,同一性保持権の侵害だ!と主張しているわけですね。まずは,同一性保持権の20条1項です。
「著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする。」
 つまり,意に反する変更したら,それは同一性保持権の侵害にあたりそうなわけです。民事保全法に基づく,仮地位仮処分までしてるってことは,プンプン,つまりは意に反するのは当然ってわけです。で,ところが,この同一性保持権には例外があります。同条2項2号です。
「前項の規定は、次の各号のいずれかに該当する改変については、適用しない。
 二 建築物の増築、改築、修繕又は模様替えによる改変」

 わかりますかね。つまり,造園が著作物だとしても,建築の著作物だったら,リニューアルによる改変はOKなわけです。他方,美術の著作物だったら,リニューアルによる改築でもNGなのです。
 面白いでしょ。ま,要するに,美術と建築では,実用性がかなり違う!というところなのだと思います。建築物って,実際人がそこに住んだり,仕事をしたり,その他いろんな使い方をするので,何かあるたびに,分からず屋の著作者から,やめろとか何だかんだ言われるのはうっとおしいたりゃありゃしません。うちの田舎ではしゃあしいやっちゃのう,という感じになると思います。

 他方,美術の著作物だと,まあそんなに実用目的で使われることはないかなあという所です。ただ,カレンダーとかには複製が使われたりしますので,それを切ったり落書きしたら,どうなるんだ?!と考えると夜も眠れなくなってしまいます。

 ですので,造園が何かの著作物に当たるとしても,じゃあそのまま権利行使を認めてもよいか?特に,本件のような実用的なものの場合,どうすりゃいいんだ(勿論,著作物性あり→美術の著作物→担保を多く積ませて仮処分決定でもいいとは思いますけどね。)という所もあるわけです。

 で,判旨というか決定要旨かな,行ってみましょ。

3 決定要旨
「前記1で述べたところによれば,本件庭園は,新梅田シティ全体を一つの都市ととらえ,野生の自然の積極的な再現,あるいは水の循環といった施設全体の環境面の構想(コンセプト)を設定した上で,上記構想を,旧花野,中自然の森,南端の渦巻き噴水,東側道路沿いのカナル,花渦といった具体的施設の配置とそのデザインにより現実化したものであって,設計者の思想,感情が表現されたものといえるから,その著作物性を認めるのが相当である。 」

「本件工作物の設置態様は,前提となる事実(5)記載のとおりであり,カナル西側の通路上に,カナルにほぼ接する形で,かつ花渦を跨ぐように設置される。
    上記設置場所である通路は,カナルから花渦に至る水の循環を鑑賞し,あるいは散策,休息等をする人が訪れる範囲であるから,庭園及び庭園関連施設と密接に関連するものということができ,著作物としての本件庭園の範囲内にあるというべきである。
    本件工作物の設置態様は,カナル及び花渦に直接物理的な変更を加えるものではないが,本件工作物が設置されることにより,カナルと新里山とが空間的に遮断される形になり,開放されていた花渦の上方が塞がれることになるのであるから,中自然の森からカナルを通った水が花渦で吸い込まれ,そこから旧花野(新里山)へ循環するという本件庭園の基本構想は,本件工作物の設置場所付近では感得しにくい状態となる。また,本件工作物は,高さ9メートル以上,長さ78メートルの巨大な構造物であり,これを設置することによって,カナル,花渦付近を利用する者のみならず,新里山付近を利用する者にとっても,本件庭園の景観,印象,美的感覚等に相当の変化が生じるものと思われる。
    そうすると,本件工作物の設置は,本件庭園に対する改変に該当するものというべきである。これが改変に当たらない,あるいは軽微であって同一性保持権の侵害となる改変には当たらないとする債務者の主張は,上記説示に照らし,採用できない。 」

「 既に述べたとおり,本件庭園は,自然の再現,あるいは水の循環といったコンセプトを取り入れることで,美的要素を有していると認められる。
    しかしながら,本件庭園は,来客がその中に立ち入って散策や休憩に利用することが予定されており,その設置の本来の目的は,都心にそのような一角を設けることで,複合商業施設である新梅田シティの美観,魅力度あるいは好感度を高め,最終的には集客につなげる点にあると解されるから,美術としての鑑賞のみを目的とするものではなく,むしろ,実際に利用するものとしての側面が強いということができる。
    また,本件庭園は,債務者ほかが所有する本件土地上に存在するものであるが,本件庭園が著作物であることを理由に,その所有者が,将来にわたって,本件土地を本件庭園以外の用途に使用することができないとすれば,土地所有権は重大な制約を受けることになるし,本件庭園は,複合商業施設である新梅田シティの一部をなすものとして,梅田スカイビル等の建物と一体的に運用されているが,老朽化,市場の動向,経済情勢等の変化に応じ,その改修等を行うことは当然予定されているというべきであり,この場合に本件庭園を改変することができないとすれば,本件土地所有権の行使,あるいは新梅田シティの事業の遂行に対する重大な制約となる。
    以上のとおり,本件庭園を著作物と認める場合には,本件土地所有者の権利行使の自由との調整が必要となるが,土地の定着物であるという面,また著作物性が認められる場合があると同時に実用目的での利用が予定される面があるという点で,問題の所在は,建築物における著作者の権利と建築物所有者の利用権を調整する場合に類似するということができるから,その点を定める著作権法20条2項2号の規定を,本件の場合に類推適用することは,合理的と解される。・・・・・
 本件への適用を考えるに,著作権法20条は,1項において,著作者が,その著作物について,意に反して変更,切除その他の改変を受けず,同一性を保持することができる旨を定めた上で,2項2号において,建築物の増築,改築,修繕又は模様替えによる改変については,前項の規定を適用しない旨を定めている。
    著作権法は,建築物について同一性保持権が成立する場合であっても,その所有者の経済的利用権との調整の見地から,建築物の増築,改築,修繕又は模様替えによる改変について,特段の条件を付することなく,同一性保持権の侵害とはならない旨を定めているのであり,これが本件庭園の著作者と本件土地所有者の関係に類推されると解する以上,本件工作物の設置によって,本件庭園を改変する行為は,債権者の同一性保持権を侵害するものではないといわざるをえない。 」

4 検討
 造園は,何らかの著作物には該当し,建築の著作物とは言えないけども,ま似ているところもあるから,著作権法20条2項2号を類推適用できるとしたわけですね。

 ただ,この決定は,造園を建築じゃないとしましたが,建築自体の定義は著作権法にはありません。ですので,私としては,造園も建築の一種だ~としても別にいいんないかと思うのですね。恐らく,建築には,構造物という要素が必要なのでしょうが,そんなの規範的に考えりゃあ何とでもなるんじゃないかなあという気がするのです。

 つーか,何でそんな所に拘るかというと,やっぱ類推適用って気持ち悪いのですよ。明文にないものを使うのは,はっきり言って,法律家としては敗北ですわ。
 民法1条3項の権利濫用とか,今回のような類推適用とか,きっちりした規定の適用ができなかったなんて,裏口入学みたいなもんですよ。
 ですので,そんな類推適用でお茶を濁すなら,造園は建築の著作物に該当する→著作権法20条2項2号の直接適用で終わり!の方が座りがいいんじゃないですかね。

 ま,兎も角も,大分が誇る世界の土建派弁護士としては,結構使えそうな先例ができたなあって所です。あ,でもこれ本案訴訟じゃなかったなあ。じゃあ本案が出るまで今しばらく大人しく待ちますかね。
 

 

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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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