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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,相手方(大渕先生)が,「相手方は,編集著作物たる著作権判例百選[第4版](本件著作物)の共同著作者の一人であるところ,抗告人(有斐閣)が発行しようとしている著作権判例百選[第5版](本件雑誌)は本件著作物を翻案したものであるから,本件著作物の著作権を侵害する。」などと主張して,本件著作物の翻案権並びに二次的著作物の利用に関する原著作物の著作者の権利を介して有する複製権,譲渡権及び貸与権,又は著作者人格権(氏名表示権及び同一性保持権)に基づく差止請求権(本件差止請求権)を被保全権利として,抗告人による本件雑誌の複製・頒布等を差し止める旨の仮処分命令を求める申立て(本件仮処分申立て)をし,これに対し,東京地方裁判所は,平成27年10月26日,この申立てを認める仮処分決定(本件仮処分決定)をしたため,これを不服とした抗告人が保全異議を申し立てたが,原決定は,平成28年4月7日,本件仮処分決定を認可したことから,本件は,この原決定を不服とした抗告人が,原決定及び本件仮処分決定の取消し並びに本件仮処分申立ての却下を求めた事案です。

 去年から今年にかけての,知財界隈で最もスキャンダラスな事件である,例の著作権判例百選第5版事件のです。
 漸く,知財高裁の保全抗告の決定の全文がアップされたわけです。

 結論を言いますと,知財高裁3部の鶴岡さんの合議体は,「相手方による本件仮処分申立ては理由を欠き却下されるべきものであるから,これを認めた本件仮処分決定及びこれを認可した原決定をいずれも取り消し,本件仮処分申立てを却下する」としたわけです。

 つまり,逆転で著作権侵害を認めなかったということです。

2 問題点
 問題点としては,色々ありました。

 原決定である,保全異議のときは,
(1) 債権者が編集著作物たる本件著作物の著作者の一人であるか。(争点1)
(2) 本件雑誌の表現から本件著作物の表現上の本質的特徴を直接感得することができるか(本件雑誌が本件著作物を翻案した二次的著作物に当たり,本件著作物の同一性保持権を侵害するものとなり得るか。)。(争点2)
(3) 本件著作物は別紙「『著作権判例百選』(第4版)搭載判例リスト(案)」のとおりの原案(以下「本件原案」という。)を原著作物とする二次的著作物にすぎず,本件著作物において新たに付加された創作的表現が本件雑誌において再製されてはいないということができるか。(争点3)
(4) 著作権法19条3項の趣旨に照らし,本件雑誌のはしがきの表示をもって,同条1項後段の原著作物の著作者名の表示がされたとして,氏名表示権の侵害がないといえるか。(争点4)
(5) 本件雑誌における本件著作物の改変が債権者の本件著作物に係る同一性保持権を侵害するか(債権者の「意に反して」改変したもの(著作権法20条1項)といえるか。また,「やむを得ないと認められる改変」(同条2項4号)に当たるか。)。(争点5)
(6) 債権者が債務者に対し,本件雑誌の出版に関して,黙示的に,本件著作物の利用を許諾し,著作者人格権を行使しない旨同意したか。(争点6)
(7) 債権者が他の共同著作者との間で本件雑誌の出版に関する合意を拒むことについて,正当な理由(著作権法65条3項)がなく,信義に反する(同法64条2項)ということができ,かつ,そのことが本件差止請求に対する抗弁となるか。(争点7)
(8) 債権者の債務者に対する本件差止請求権の行使が権利の濫用に当たるか。(争点8)
(9) 本件雑誌の出版前にその複製・頒布等を差し止めることが,「事前抑制の法理」の要件を満たさないとして許容されないことになるか。(争点9)
(10) 本件仮処分申立てについて保全の必要性があるか。(争点10)

 このくらいあったのですね。で,原決定(東京地裁民事29部,嶋末さんの合議体でしたね。)は,基本,債権者つまりは大渕先生の言い分を大凡認め,仮処分を認可したわけです。

 で,その中で,第5版の編集過程というか,学者同士の確執というのか,そういうのが見え隠れして,私のようなゲスな人間には実に趣深いものになったわけです。

 いやあ,蛇蝎のごとく嫌われるなんて,可哀想~♡,他方,A教授は年末で解散するとか何とか言っているどっかのアイドルグループの事務所のお偉いさんのようですなあ~♡なーんて無責任に思ったものです。

 で,話を元に戻しますが,今回の保全抗告で判断したのは,上の争点1のみです。そりゃそうですね,ここで切られたのですから。

3 判旨
「(ア) 第4版の編者選定にあたり,抗告人担当者のEは,基本的には,体調面からして相手方は編者とするにふさわしくないという考えを持っていたことがうかがわれる(前記(1)エ(ア)b,(イ)b)。他方,Eからこの点について相談を受けたA教授も,そのようなEの考えに理解を示しつつ,東大教授という相手方の地位や判例百選の性格その他の事情を考慮すると安易に相手方を編者から外すわけにもいかず,相手方の意向を確認したところ編者を引き受けることに強い意欲を示したこともあって,やむなく,相手方を名目的ながらも第4版の編者とすることとし,同時に,相手方に対しては,原案作成に当たり口出ししないように強く注意を与えたというのである(前記(1)エ(ア)b,c,(イ)b)。しかも,これを受けた相手方も,A教授から原案作成の権限を取り上げられたものと理解したのであり(前記(1)エ(ア)c),A教授の上記意図はおおむね正しく相手方に伝わったということができる。
 また,このようなA教授の意図はEに対しても伝えられた(前記(1)エ(イ)b)。
 さらに,B教授も,第4版の編者を持ちかけられた当初はこうした経緯を把握していなかったため,相手方を中心とした編集作業を想定していたところ,経緯の詳細を聞かされたことで,自らが中心的役割を果たすことを了解したことがうかがわれる(前記(1)エ(イ)a)。
 そうすると,第4版の編者選定段階において,少なくとも抗告人,A教授,B教授及び相手方との間では,相手方は「編者」の一人となるものの,原案作成に関する権限を実質上有しないか,又は著しく制限されていることにつき,共通認識が形成されていたものといってよい。このことは,相手方が上記A教授からの注意につき承服し難い思いを抱いていたことを考慮しても異ならない。
 そして,いまだ編者選定を進めているにすぎないこの段階において,その性質上本件著作物の編集著作物としての創作性のうち質量ともに中核的な部分を占めることになると思われる原案作成に関する権限を実質上なしとされ,又は著しく制限されることは,本件著作物の編集著作物としての創作性形成に対する関与を少なくとも著しく制限されることを事実上意味するものといってよい。
(イ) 実際,第4版の編集過程においては,まず,A教授とEとが,B教授及び編集協力者であるD教授が原案作成に当たること,大きな編集方針を決定するための編者会合は開催せず,B教授及びD教授が作成した原案に基づいて初回の編者会合から具体的な検討に入ることとすること,こうした方針を実現するための編者間での話の進め方などを相諮って取り決めた上(前記(1)エ(イ)b),後にB教授及びD教授の了解をも得つつ,これらを実現した(前記(1)エ(イ)c~e)。
 また,B教授及びD教授は,内容につき逐次A教授の確認を得,また,執筆者候補の選定につきA教授並びに同教授を介して相手方及びC教授の意見をも聞きつつも,おおむね相互のやり取りを重ねることを通じて主体的に原案作成作業を進めたものといってよい(前記(1)エ(イ)f)。
 なお,この段階での相手方の関与は,執筆者候補として商標・意匠・不正競争防止法判例百選,特許判例百選の執筆者が参考になり得る旨のかなり概括的な意見を述べたにとどまる(前記(1)エ(イ)e,f)。
(ウ) こうして,B教授及びD教授が主体となって本件原案がまとめられたが,その後の修正の程度及び内容に鑑みると,本件著作物の素材である判例及びその解説(執筆者)の選択及び配列の大部分が本件原案のままに維持されたものといってよく,本件著作物との関係において本件原案それ自体の完成度がそもそもかなり高かったものと評価し得る。
(エ) B教授及びD教授が作成し,A教授の確認を経た上で,本件原案が相手方及びC教授に送付されたところ,C教授はこれにつき10項目の意見を述べ,B教授はこのうち2項目を採用して本件原案を修正した(前記(1)エ(ウ)a)。C教授の意見には,簡単な理由の付されているものと理由の付されていないものとがあるが,B教授がこれをもとに修正を行うに先立ち,C教授とB教授,さらには相手方及びA教授との間で意見交換や議論が行われたことをうかがわせる事情は見当たらないことに鑑みると,上記修正はB教授単独の判断により行われたものとうかがわれる。しかも,上記修正後も,C教授がその修正を了承する旨回答するのみで,相手方及びA教授がこの点につき特に言及をしたことをうかがわせる疎明資料はない。
 他方,相手方は,B教授に対し,電話及びメールで本件原案における執筆者候補につき特定の実務家1名の削除及び3名の追加を提案し,これを受けたB教授は,まず,1名の削除及び2名(a判事及びc弁護士)の追加(及び執筆対象となる判例の割当て)という形で本件原案を修正し,本件著作物編者らに示したが,b弁護士の方がc弁護士よりも優先順位が高い旨の相手方の意見を受け,結局,相手方の意見を全て受け入れた修正を行った(前記(1)エ(ウ)b)。この間のやり取りの具体的内容にはやや判然としないところはあるものの,相手方及びB教授の各陳述書や関係するメールの内容等に鑑みると,両者の間で,提案の理由等に関する実質的な議論ないし意見交換が十分に行われたとは考え難い。また,この相手方の提案につきA教授及びC教授は特に言及しなかったことがうかがわれる。そうすると,相手方の意見を踏まえた本件原案の修正についても,修正の要否及び内容の判断はあくまでB教授主導で行われたものと見るのが適当である。
 また,特定の実務家1名の削除及び3名の追加という執筆者候補に関する相手方の提案は,その後現に行われた執筆者候補の変更等を考慮すれば,創作性を認める余地がないほどありふれたものとまではいい難いが,追加すべきとされた3名の地位,経歴等に加え,相手方の提案が反映されるに至る経緯をも考慮すると,斬新な提案というべきほど創作性の高いものとはいい難く,むしろ,著作権法分野に関する相応の学識経験を有する者であれば比較的容易に想起し得る選択肢に含まれていた人選といってよいから,その提案に仮に創作性を認め得るとしても,その程度は必ずしも高いものとは思われない。
(オ) こうして本件原案修正案が作成されたことを受け,本件編者会合の日程調整が進められるとともに,本件一覧表素案原案,本件一覧表素案,本件一覧表素案修正案が順次作成されたが,相手方は,日程調整を除きこのプロセスに何ら関与していない。
(カ) 相手方も出席して開催された本件編者会合においては,事前に本件著作物編者らに送付された本件一覧表素案修正案に基づき検討が行われるとともに,事前にD教授からEに対してされた指摘(前記(1)エ(エ))に基づき編集部から北朝鮮事件知財高裁判決の追加が提案され,執筆者候補1名と併せその追加が決定され,その後,本件著作物編者ら全員の一致により,第4版に収録されるべき判例(113件)の選択,配列及びその執筆者候補(113名)の割当てが,項目立ても含めて決定された(前記(1)エ(オ))。本件編者会合における出席者間の具体的なやり取りの詳細は判然としないが,出席者らの各陳述書の内容に鑑みれば,議論の紛糾等はないまま比較的短時間で終了したことがうかがわれる。そうすると,本件編者会合における相手方の具体的な関与は,上記判決の追加並びに第4版に収録されるべき判例及び執筆者候補の選択,配列等に賛同したという限度にとどまるといってよい。
 前記のとおり,他人の行った素材の選択,配列を消極的に容認することは,いずれも直接創作に携わる行為とはいい難いところ,本件編者会合において,相手方は,既存の提案(本件一覧表素案修正案)や第三者の提案に賛同したにとどまるのであるから,このような相手方の関与をもって創作性のあるものと見ることは困難である。もっとも,本件編者会合での決定が基本的には本件著作物における素材の選択及び配列に関する最終的なものと位置付けられていたと見られることに加え,相手方がその学識経験に基づき熟慮の上で賛同した場合を想定すれば,なおこのような関与に創作性を認め得る場合もあるとは思われるが,その場合であっても,相手方の関与はあくまで受動的な関与にとどまることや本件原案の完成度の高さ等を考慮すれば,その程度は必ずしも高くないと思われる
(キ) 本件編者会合後に各執筆者候補に対する執筆依頼が行われ,これに対する執筆者候補の反応を受けて共同執筆の申入れの了承,執筆者候補の変更等が行われたが(前記(1)エ(カ)a~e),こうした各執筆者候補の要望等に関するEからの相談に対し,相手方の対応は,b弁護士からの共同執筆の申入れに関するものを除き,応答しないか,他の本件著作物編者らないしEの提案に賛成という結論のみを回答するにとどまるものであった。b弁護士からの共同執筆の申入れに関しては,相手方は,これを是とする理由をいくつか挙げた上で,共同執筆を認めてよい旨意見を述べたが,この時点で,他の執筆者については既に共同執筆を認めた例が1件あり,また,相手方に先立ち,B教授が既に了承し,C教授も基本的にB教授の判断を尊重する旨の意見を述べていた。
 ここでの相手方の関与についても,その経過やb弁護士からの申入れに賛同する理由として示された内容を踏まえると,本件編者会合における相手方の関与に関する評価(上記(カ))と同様の評価が妥当するというべきである。
(ク) 本件編者会合後に上級審の判決が出された事件や執筆者から疑問点等の指摘のあった判例に関し,収録すべき判例の変更も本件編者会合後にいくつか行われたが(前記(1)エ(カ)f~h),これに対する相手方の対応は,Eが,他の本件著作物編者と相談の上,変更を決定した旨報告をしたのに対し,その対応を了承する旨の意見を述べるにとどまるものであった。なお,本件編者会合後にロクラクⅡ事件控訴審判決
が出されたことを受けての対応につきEから本件著作物編者らにされた相談に対しては,相手方は,簡単な理由を付して意見を述べたが,結論的には先に述べられたC教授の意見に賛成するというものであった。
 ここでの相手方の関与についても,その経過やC教授の意見に賛成する理由として示された内容を踏まえると,本件編者会合における相手方の関与に関する評価(上記(カ))と同様の評価が妥当するというべきである。
(ケ) また,本件編者会合後,ある判例の項目名及びその配置が問題となったところ,Eは,最終的には相手方の示唆に基づきこれに対応したが,その示唆とは,当該項目の属する章のタイトルにつき「『差止め』を『差止め等』に変更して逃げておいた方がいい」という趣旨のものであった(前記(1)エ(カ)i)。ここでの相手方の関与については,そもそも本件著作物の編集著作者としての創作性を認め得る程度のものではないというべきである。
エ このように,少なくとも本件著作物の編集に当たり中心的役割を果たしたB教授,その編集過程で内容面につき意見を述べるにとどまらず,作業の進め方等についても編集開始当初からE及びB教授にしばしば助言等を与えることを通じて重要な役割を果たしたというべきA教授及び抗告人担当者であるEとの間では,相手方につき,本件著作物の編集方針及び内容を決定する実質的権限を与えず,又は著しく制限することを相互に了解していた上,相手方も,抗告人から「編者」への就任を求められ,これを受諾したものの,実質的には抗告人等のそのような意図を正しく理解し,少なくとも表向きはこれに異議を唱えなかったことから,この点については,相手方と,本件著作物の編集過程に関与した主要な関係者との間に共通認識が形成されていたものといえる。しかも,相手方が本件原案の作成作業には具体的に関与せず,本件原案の提示を受けた後もおおむね受動的な関与にとどまり,また,具体的な意見等を述べて関与した場面でも,その内容は,仮に創作性を認め得るとしても必ずしも高いとはいえない程度のものであったことに鑑みると,相手方としても,上記共通認識を踏まえ,自らの関与を謙抑的な関与にとどめる考えであったことがうかがわれる。
 これらの事情を総合的に考慮すると,本件著作物の編集過程において,相手方は,その「編者」の一人とされてはいたものの,実質的にはむしろアイデアの提供や助言を期待されるにとどまるいわばアドバイザーの地位に置かれ,相手方自身もこれに沿った関与を行ったにとどまるものと理解するのが,本件著作物の編集過程全体の実態に適すると思われる。
(4) そうである以上,法14条による推定にもかかわらず,相手方をもって本件著作物の著作者ということはできない。」

4 検討
 原決定では,著作者性のところでは,こんな判断がされていました。

前記1(4)で認定した事実によると,①債権者は,執筆者について,特定の実務家1名を削除するとともに新たに別の特定の実務家3名を選択することを独自に発案してその旨の意見を述べ,これがそのまま採用されて,本件著作物に具現されていること,②本件著作物については,当初から債権者ら4名を編者として『著作権判例百選[第4版]』を創作するとの共同の意思の下に編集作業が進められ,編集協力者として関わったD教授の原案作成作業も,編者の納得を得られるものとするように行われ,本件原案については,債権者による修正があり得るという前提でその意見が聴取,確認されたこと,③このような経緯の下で,債権者は,編者としての立場に基づき,本件原案やその修正案の内容について検討した上,最終的に,本件編者会合に出席し,他の編者と共に,判例113件の選択・配列と執筆者113名の割当てを項目立ても含めて決定,確定する行為をし,その後の修正についても,メールで具体的な意見を述べ,編者が意見を出し合って判例及び執筆者を修正決定,再確定していくやりとりに参画したことを指摘することができる。そして,執筆者の執筆する解説は,本件著作物の素材をなしているところ,その執筆者の選定については,とりわけ実務家を含めると選択の幅が小さくないこと,債権者が推挙した当該3名の人選について,誰が選択しても同じ人選になるようなものとはいえないことに照らせば,債権者による上記①の素材の選択には創作性があるというべきである。その上,上記③の確定行為の対象となった判例,執筆者及び両者の組合せの選択並びにこれらの配列には,もとより創作性のあるものが多く含まれているところ,債権者が編者としての確定行為によりこれに関与したとみられるのである。そうすると,上記①ないし③を総合しただけでも(その余の債権者主張事実の有無について認定・判断するまでもなく),他の共同著作者の範囲はともかくとして,債権者が本件著作物の編集著作者の一人であるとの評価を導き得るところ,本件において,前記イの推定を覆す事情が疎明されているということはできない。
 したがって,債権者は,編集著作物たる本件著作物の著作者の一人であるというべきである。
エ これに対し,債務者は,前記ウ①に関し,(ア) 執筆者を推挙しただけでその執筆者に判例を割り当てていない段階では,編集著作物の素材である解説の特定をしていないから,素材の原料の提案にすぎず,素材の選択には当たらない,(イ) 債権者の推挙した上記3名は,東京地裁知財部の部総括判事,元知財高裁判事の弁護士及び著作権分野で高い実績を有し第3版においても執筆者になっていた弁護士であるから,極めて「ありふれた」人選であって,創作性は全くない,(ウ) 仮に3名の候補者を選択したのみで創作的な表現として著作権が生じるとすると,以後,同一の3名を選択することが複製に当たり著作権侵害となってしまう旨,前記ウ②に関し,(エ) 共同創作の「意思」があっても,何ら著作者性を基礎付ける事情とはならない旨,前記ウ③に関し,(オ) 著作権法においては,自ら物理的に創作的表現を表出していない者は,著作者たり得ないところ,著作者の認定においては,あくまでそのような客観的な創作的表現行為の有無のみが問題となるのであり,「立場」や「肩書」は何の意味も持たないし,「最終的な確定権限を有する者」というような行為者の権限を考慮することも許されない(当該権限を要件とするような解釈に基づいて著作者の認定をすることは,同法2条1項2号,1号に反する。),(カ) 本件編者会合における決定に参加したことは,他人が世に現出した表現について最終的に公表すべき表現であることを事後的に承認したにすぎず,本件著作物の作成に創作的関与をしたとの評価にはつながらない,(キ) 本件編者会合後の修正については,債権者は他者のした提案を一部事後承認したにすぎず,上記(カ)と同様に,本件著作物の作成に創作的関与をしたとの評価にはつながらない,(ク) 債権者の前記ウ③の行為を債権者が本件著作物の編集著作者の一人であることの根拠とすることは,「それまで表現されたものとして存在しなかったものを初めてつくり出す行為」をしていない者を著作者とすることであるから,同法2条1項2号,1号の文理に反するし,著作物が創作され公表されるまでの間に関与する多数の者(学術論文の査読者から果てはマスコット・キャラクターを採択する会議に至るまでありとあらゆる「確定者」)にいたずらに著作者の外延が拡大されてしまいかねない,(ケ) 債権者の本件編者会合における承認及びその後の一部承認を創作的関与に含めて考えることは,智恵子抄事件最高裁判決に反する旨をそれぞれ主張した上,(コ) 本件著作物の編集に関し,債権者は,極めて限定的な関与しかしていないから,債権者が本件著作物の編集著作者の一人であるとの評価は導き得ない,(サ) 債権者の関与していない部分は,債権者の関与した箇所と分離して利用することができるから,同項12号の共同著作物の要件(分離利用不可能性の要件)を満たさないなどと主張する。
 しかしながら,上記(ア)の点については,本件著作物において,執筆者の執筆する解説が本件著作物の素材をなしていることは前記ウで説示したとおりであるところ,本件著作物においてそのような解説を執筆する者を,いずれの判例を割り当てるかとは独立に選定することは可能であり,その場合,執筆者を推挙した段階で,「当該執筆者がいずれかの判例について執筆する解説」が観念されるから,これが素材の選択におよそ当たらないということはできない。また,いずれにせよ,判例と執筆者の組合せが特定されていなかったからといって,本件著作物における「執筆者の執筆する解説」という素材の選択に関して債権者が寄与したことが否定されるものではない。
 上記(イ)の点については,本件著作物における解説の執筆者として,学者を選ぶか実務家を選ぶか,実務家にしても裁判官にするか弁護士にするかについて,選択の幅は大きく,裁判官や裁判官OBについても知財高裁・地裁知財部経験者の人数は決して少なくないこと,現に第4版に関するそれまでの執筆者の案(本件原案のほか,A教授が列挙した候補者の案なども含む。)では当該3名が含まれていなかったこと(前記1(4)ウないしカ),第3版や本件雑誌にもa判事とb弁護士は入っていないこと(別紙「著作権判例百選判例変遷表」,甲2の3),B教授は,当初,b弁護士を執筆者として追加することに消極の意見を表明していたこと(前記1(4)ク)などに照らすと,当該3名について,誰が選択しても同じ人選になるようなものとはいえず,「ありふれた」人選などということもできない。
 上記(ウ)の点については,ここでの執筆者3名というのは,本件著作物の執筆者となった113名の中の一部であるところ,前記ウの判断は,当該3名を選択したのみで直ちに創作的な表現として独立の編集著作権が生じるとするものではなく,あくまでも本件著作物全体の表現(素材の選択及び配列)について創作性が認められる場合に,これを構成する一部の創作への関与(換言すれば,債権者が関与した部分が上記創作性を有する表現を形成する一部をなしているか)を問題とするものであるし,また,債権者の当該行為時点について見ても,執筆者110名から1名を削除し3名を加えて112名とする場合の当該3名の選択が問題となっているのである。さらに,前記ウの判断は,必ずしも同①の行為のみで編集著作者となり得ると判断しているわけではなく,同①ないし③を総合して編集著作者となり得ると判断しているのであって,債権者が,同③の行為をしているほかに,自ら同①の行為もしていることを,全体として評価すべきところである。
 上記(エ)の点については,前記ウ②の事情は,同③の債権者の行為の前提となるものであるから,同①ないし③があいまって全体として債権者の編集著作者性を基礎付ける事情になるということができる。
 上記(オ)の点については,本件のように共同編集著作物の著作者の認定が問題となる事案においては,編集著作物の完成に向けられた表現(素材の選択・配列)の創作に係る複数の者の一連の行為(一瞬の物理的な行為のみではない。)を全体として観察し,そのような一連の編集過程への実質的な関与の有無やその位置付け等を総合的に検討して,一定の規範的な評価をすることは,避けられないものと解される。そして,それ自体としては同じように見える行為についても,どのような状況(コンテクスト)において,どのような立場(一貫して編集の主体とされ,内容について決定権や責任を有する者としての行為なのか,アドバイスを求められた外部の第三者としての行為なのか,事務的な補助者としての行為なのか等々)でそれを行ったのかということにより,その行為の社会的な意味合いや位置付けは異なり得るのであって,そのことが事実認定及び法的評価にも影響するのは当然というべきである。上記のような意味での行為者の立場を全く捨象して単純に裸の作為(「物理的な」創作的表現表出行為)のみを取り出すことは,実態にそぐわない編集著作者の認定をすることにつながりかねず,相当ではない。既に認定,説示したところからすれば,本件著作物の編集過程において,債権者が,素材の選択及び配列に関する実質的な権限を有しそれに基づき実質的な関与をしたことは明らかであって,単に名義を貸しただけとか,単に名目的な「肩書」のみを有して形だけ関わったといったケースとは明らかに異なる。なお,編集著作物の素材の選択・配列の確定に関し行為者がどのような権限を有していたかという点も,編集著作者の認定に当たって一つの事情となり得るものであって,これを考慮すること(もとよりこれを「要件」とするものではない。)が許されないということはない。
 上記(カ)ないし(ク)の点については,当該編集著作物の編集過程において,当該者自身が当該創作的表現を「物理的にこの世に現出させる」独自の提案作成行為をしなかった場合においても,当初から当該者を含めた複数の者を編者として当該編集著作物を創作するとの共同の意思の下に共同作業をしている他の者が先行して「物理的にこの世に現出させる」提案をした部分について,当該者が,それを修正することもできたのに検討の上修正せずに,当該部分をそのとおり採用する決定に加わったという行為は,創作への関与として一概に無視することはできない。前記1(4)で認定した事実経過に照らすと,債権者は,本件著作物の編集過程に客観的・外形的に関与しているのみならず,素材の選択及び配列について実質的な中身を思考しこれに基づき上記行為をしているとみられるものであって,前記ウ③の債権者の行為は,著作物の形成ないし創作性の形成への「客観的な事実行為としての実質的な関与」に当たるということができる。本件著作物の「創作」については,本件著作物の完成に向けた一連の編集過程が開始される前には「それまで表現されたものとして存在しなかったもの」を,同編集過程が完了し本件著作物が完成した時点で「初めてつくり出す行為」であり,その「創作」の主体が債権者を含めた複数の者となるとみられるのであって,これが著作権法2条1項2号,1号の文理に反するということにはならない。また,既に認定,説示したところに従って,債権者の同③の行為を債権者が本件著作物の編集著作者の一人であることの根拠としたとしても,著作物が創作され公表されるまでの間に関与する多数の者にいたずらに著作者の外延が拡大することにはならない(単に名前を貸して形式的に権威付けをしただけの者や,債務者が例に挙げる「学術論文の査読者」等,もともと創作する側の主体とは異なる立場から関与したり,表現内容の形成・変更の直接の決定権を有していない者などは,共同著作者の一人とは認められない。)。「認定」ということの性質上,個々の事案に合致した認定をして「共同編集著作者」の範囲を適切に画するほかはないし,かえって,常に「最も早く物理的に表出した者が誰か」のみに着目するということでは,本件のような事案で実態にそぐわない結論を導いてしまいかねない。
 上記(ケ)の点については,智恵子抄事件最高裁判決は,当該個別事案における認定を示した事例判例であって,本件における債権者のような者を編集著作者と認めてはならないとの判断を何ら含意しているものではないから,前記ウ③に係る判断が同最高裁判決に「反する」ということはない。
 上記(コ)の点については,前記ウ①の行為と,同②を前提とした同③の行為を総合した場合に,債権者の関与が「極めて限定的」で編集著作者の一人との評価を導き得ないものであるということはできない。
 上記(サ)の点については,前記ウ③の債権者の行為は,本件著作物全体に係っているし,同①の債権者による素材の選択も,前示のとおり,他の素材の選択及び組合せとあいまって全体の編集著作物を構成しているものであるから,債権者の関与部分のみを分離して個別に利用することはできない。本件著作物は,著作権法2条1項12号の「二人以上の者が共同して創作した著作物であって,その各人の寄与を分離して個別的に利用することができないもの」に当たるというべきである。
 以上によると,債務者の上記各主張によって,債権者が本件著作物の編集著作者であるとの推定を覆すことはできない。


 長いですが,重要ですので。

 要するに,俎上の事実自体は原決定ともそんなに変わり無いわけです。まあそりゃ出し惜しみなんぞしませんから,当たり前ですがね。

 そうすると,何が違うかというと,そういう現れた事実に対する裁判所の評価です。

 保全異議の嶋末さんの合議体では,そうだよね~そのくらいやってりゃこりゃ編者でいいですわなあっていうのに対し,保全抗告の鶴岡さんの合議体では,え,その程度,そんなことしかやっていないの!それは追随というかスルーというか流れに沿うというか,そんな感じだよね,ガツンと言ったりとか,オリジナルのものをドバンと通すとか,そんなことしていないよね,だよね~♪という違いです。

 いやあ本当裁判所の評価というか裁判官の胸先三寸で決まってしまうこの感じ,弁護士ならば毎回毎回,自分の主張と裁判官の評価との相克を感じているのではないでしょうか(私もそうですけどね。)。
 司法の世界にも,早い所,人の支配を脱して,AIの導入をして欲しいもんですなあ。

 さて,さて,これによって著作権判例百選第5版は,来月12月13日に無事刊行できるようになりました(結局D教授って誰なんだろうっと。)。次の,第6版には今回の事件は載るのでしょうかねえ。ああ,大学の先生方の本件に対する評釈が早い所出ませんかにゃ~。

 ところで,特許の方の判例百選も著作権と同様の編者です(第4版がね。)。
 次回の第5版,今回と同様の面白い経過を辿るのでしょうか。さすがにそれは無いかな。要注目ですな(因みに,私は,大学の先生方に嫌われているらしいですから,執筆者に選ばれることはマジで無いと思います。何故って?そりゃ私が本当の事を言い過ぎるからですよね。つまらん本や論文をつまらんと言っちゃうもんでね~。ムハハハ。)。

5 追伸
 変な判決(本当は判決じゃないけどね。)の紹介はいいとして,先週の金曜のセミナーの件です。

 おかげ様で,無事終わりました。出席者の皆様お疲れ様でした。私も4時間喋りっぱなしでかなり疲れましたが,聞いているだけって結構疲れますからね。

 業者主催のセミナーでしたので,セミナー終わりでのアンケートも見せてもらいました。
 ほんで,そんなに悪い評価じゃなかったですね。むしろ良い方かなあって所です。

 これまでのセミナーは特許の基本というか,入門編みたいなものばかりで,そうじゃない応用ばかりをやったのは,実は,今回が初めてでした。

  なので,アンケートがそこそこ良かったので,一安心です。そんなに低い額の料金ではなかったので,払った分くらいの元が取れたのでしたら本当私も良かったなあと思うのですが,どうなのでしょうねえ。

 そのうちにセミナーもやるかもしれませんので,興味を持った方はまたそのときにでも。ただ,来年にかけては宿題があるので,それが先ですねえ。
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